ゼルダの伝説 蒼炎の勇導石   作:ちょっと通ります

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第3章 シーカーの涙、ゲルドの怒り
第18話 事件発生


 ビューラの合図と共に訓練場のあらゆる場所で模擬戦が始まる。

 

 リンク達もこれで何度目だろう、互いに相手を知り尽くした多彩な攻撃手段をぶつけ合う。

対策なしなどあり得ない。

 

だからこそ相手の意図をかいくぐる心理戦。

相手の強みを打ち消す防御や回避術。

以前の戦いで通じなかった攻勢からの改善による他方向からの斬撃。

その全てが眼前にいる相手を超える為準備してきたものだ。

 

(―何かがおかしい?なんだろうこの感覚…)

 

始めに違和感を覚えたのはリンクだった。

調子が悪い訳ではない、むしろかなり良好だ。

 

2人の戦いはルージュの方がかなり勝ち越している。

華麗な舞いでウルボザを連想させる鮮やかな剣技と往なすことに長けた盾捌きで、少しずつリンクから主導権を奪うことが出来たからだ。

 

(リンク、おぬしこの短期間で何をした!?)

 

 しかし今回の模擬戦では全くの逆であった。

盾で防げると思った剣が突如軌道を変えたり、隙が出来たと思って剣を突き出してみれば、化かされたかのように空を切り次第に追い詰められてゆく。

 

(もしかしてルージュ様、調子が悪い?)

 

 勿論リンクには成長があった。

調子が良かったというのもある、しかしそれ以上に決定的なほどルージュの動きにキレがなかった。

予想を外されたときの立て直しが遅かった。

 

(こうも簡単に主導権を取られるとは思わなかった…そろそろ来るか?おぬしの得意技が)

 

ルージュの読み通りリンクは盾の反動を利用し、回転斬りの構えを取る。

これを防げば今度はこっちが反撃する番だ。

大技というのは威力があるがその分だけ隙を生じたり、体力を使うものが多い。

 

(この技、威力や速さは文句ないんだけど読まれやすいんだよね。だけど―)

 

 来る、ルージュは構える。

左側は盾があるし、右側には剣を構えている。どちらであれ防げないはずが無い。

これを何とかすれば反撃の狼煙をあげられる!

 

…彼女は見落とした、弾いた剣の軌道が横ではなく楕円を描いている事を。

眼前のリンクが類稀な運動能力で前転をしている事を。

そして彼の剣が自身の頭上に来ている事も―!

 

(スナザラシやリムーバさんからバランス感覚、身体の使い方を学んできた時閃いたんだ!この技術なら横からだけじゃなくて縦からだって回転斬りを持っていけるんじゃないかって!)

 

 縦回転斬り―従来の回転切りでは神速の速さで横回転し斬り付けていた。

だがこれではあらかじめルージュの様に盾や剣を使って両脇を固められたらそれだけで止まってしまう。

来ることさえわかっていたら、ただ隙の大きい回転技に成り下がってしまう。

そこで防御方法を掻い潜るべく編み出し、身に着けた新技であった。

 

「くっ…参った…」

 

自身の眼前で剣が止まる、もしこれが実戦だったら確実に自分は死んでいた。

―悔しい。今回の訓練、何一ついいところが無かった。

得意な筈の主導権を取る事さえできず、ものの見事に振り回されてばかり。

 

 先程の攻撃だって思い返してみれば、予兆はあった。

盾で防ごうとすれば突然軌道を変えられた時、あの時に回転斬りの変化を予想できたはずだ。

だができなかった、思いつかなかった。

ここまで情けない負け方は初めてだ・・・力が抜けていく様―

 

「ルージュ様!?」

 

音がした。

周りの者が声を張り上げ、武器を打ち付けるそれよりはるかに小さい。

そんな中でも不思議な程通り、はっきりと聞こえた。

 

 何事かと振り向き、気付いた者達は凍り付いた。

信じられない事態に目の前のリンクすら動きを止めてしまった。

 

「ルージュ様!」

 

 そんな中、唯一迅速に対応したのは、長年ルージュを支えてきたビューラだった。

元々兵士の訓練において倒れる者が出るのは珍しくない。

こういう時どのような処置をすればよいのかも経験上しっかりと把握しているのだ。

 

だがそれが族長となれば話は変わって来る。

 

「チーク!この後の訓練はお前に託す!後は頼んだぞ!」

 

「は、はい!ルージュ様をお願いします!」

 

ビューラは素早く担架を準備しルージュを部屋へと運んでいく。

 

(…極度の疲労と睡眠不足。それに加えてあの完敗のショックがとどめになったか…。)

 

 ビューラは心配していた。

ここの所ルージュが精力的に職務も鍛錬もをこなした上で更に長時間に渡る調べ物もしていたからである。

それは常に傍で支えているビューラから見ても明らかなオーバーワークだった。

本来ならばビューラが止めるべき状況であったし、この訓練の後は何が何でも休息をとって貰うつもりだった。

 

その為に午後からのスケジュールは自身が代わりにできるものに調整をしておいたのだ。

しかしそれは無情なまでに遅かった。

 

(私があの時に何が何でも止めるべきだった…)

 

彼女達の欠点、それは互いに責任感が強すぎて限界を超えてでも職務に殉じてしまう事だった。

しかし、その事で倒れてしまっていては本末転倒である。

その性格が今なおビューラを苛んでいた。

 

(できる事ならルージュ様の御側にいたい、だがその為に統治者としての職務に穴を空けてしまえばルージュ様は自身を許さない。私は当初から予定していた打ち合わせをしなければ。)

 

しかし、その性格は今置かれている状況としなければならない事、そしてルージュの望みを叶える解決策も提示してくれた。

 

「カットル!ルージュ様の介抱を頼む!マトリーはもしもの時すぐに私に伝えに来て欲しい!私は大広間でルージュ様の代わりをする!」

 

族長の寝室の警護係であるカットルとマトリーに指示を与える。

 

「ハイ!直ちにルージュ様の介抱の準備に取り掛かります!」

 

「承知しました、ビューラ様!ここは我々にお任せください!」

 

カットルがルージュの寝室に薬や水を準備しルージュをベッドに寝かせ、マトリーが非常事態の連絡役を受け入れる。

 

「サークサーク!それでは頼んだぞ!」

 

――

 

 夜

 

 リンクの家

 

「族長様が倒れた!?大丈夫なのかよ!?」

 

 フェイパがあまりの事に声を荒げる。

ゲルド族の先代族長であるルージュの母も若くして崩御されている。

その時の街の様子を知っているだけに、ルージュ様には跡取りがいないという面もある為、過敏になっているのだ。

 

「うん…、僕と模擬戦をした後に突然倒れちゃって…」

 

どうなってしまうのか、俯きながらリンクはそう零す。

訓練中に倒れたというのが非常にまずい、その相手がリンクなのだ。

疑われるのは確実と言っていい。

 

「大丈夫よ、リンク。ルージュ様は強い御方だもの、それに模擬戦とは言ってもちゃんと直前で止めたんでしょ?」

 

 スルバが優しく抱きしめながらそう話す。

リンクの話を聞いて行くと攻撃を当てたりはしていないようだ、リンクのせいではないと私達は信じられる。

 

「それはそうなんだけど、やっぱり僕不安で…」

 

「あんまり自分を追いつめちゃ駄目だぞリンク。なーに、族長様はとっても強いからな、すぐに元気になるさ!」

 

 あえて明るくリンクに、自分に言い聞かせるフェイパ。

大丈夫だ、族長様は強い。

 

 もし万が一ルージュの身に何かあった場合、リンクだってただでは済まない。

あの事件から1週間しか経っていないのだ。

弟まで失う事になったらスルバもきっと耐えられない…

 

「サークサーク…スルバ姉ちゃん、フェイパ姉ちゃん…」

 

こうして会話をしている3人の元へ来客が現れた。

 

「サヴァサーヴァ、夜分にすみません」

 

 訪れたのは族長の寝室にて警護の係をしているマトリーだった。

急いできたのだろう、だいぶ息が上がっている。

それでも淀みなく話すことが出来るぐらいには体力がある、警護役だけあり優秀な兵士だ。

 

「遅くまでお疲れ様です。こんな時間にどうされましたか?」

 

スルバが努めて冷静に対応する。

お願い、無事であって―リンクを連れて行かないで

 

「ビューラ様からの伝言です。頼みたい事があるので大至急族長様の寝室に来るようにとの事です」

 

長の警護役だけあって、丁寧に説明するマトリー。

スルバの願いもむなしく、ビューラからの呼び出しのようだ。

 

「兵士さん!リンクは悪い事なんてしてないです!だから―」

 

 フェイパはマトリーに縋った。

ルージュが倒れたのはリンクのせいだと糾弾されかねない。

 

 大切な弟をを連れていかれては、天に登り、神となった父様と母様に顔向けできない。

両親がいなくなって間もないのだ、立ち直ったとは言っても全く平気という訳では無い。

リンクにもしもの事があったらスルバだって、きっと立ち直れない。

 

「大丈夫ですよ、リンクが何かした訳じゃないのはわかってます。だから頼みたい事とビューラ様はおっしゃったのです」

 

「あ、すみません。アタイ早合点してしまって…」

 

「構いませんよ、状況が状況なのでそう思う気持ちもわかります。それでリンク、私からもお願いします。宮殿へ来てください」

 

 フェイパが心配するような内容ではないと優しく答えるマトリー。

その上でリンクへ宮殿へ来てほしいと再度お願いする。

どうやらリンクのせいではないが、問題が起きたらしい。

 

「…わかりました。ごめんねスルバ姉ちゃん、フェイパ姉ちゃん。またしばらく出かけるかもしれない」

 

態々リンクに頼むこと、考えたくはないが外へ出る事になるだろう。

 

「―外でも食べられるような手軽なものを準備しておくわ。もし出かけるとしてもちゃんと取りに来なさい」

 

「スルバ、アタイも手伝うよ。スルバ程は上手くできねーけどそれでも1人よりは色々作れるはずだ」

 

2人とも自分達に出来る事はリンクの準備を整えることだと行動に移す。

せめて旅先で助けになれるようにと願いを込めて―

 

「―サークサーク」

 

そう言ってリンクはマトリーと共に宮殿へと駆けだしていった。

 

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