第2話 元気いっぱいゲルドヴォーイ
そして7年後―
「フェイパ姉ちゃーん!スルバ姉ちゃーん!今日の訓練疲れたー!」
腕白な子供に成長した赤ん坊はそう言って姉達の所へ駆け寄って来る。
持って産まれた好奇心と行動力で周りを振り回したりするのが彼の日常だ。
「おおっ、リンク!ちゃんと見てたぞー!年上のヴァーイ(女)相手によく勝ったなー!ティクルからイチゴ貰ったから食べよーぜ!」
それを太陽の様な笑顔で迎える姉、フェイパは彼を抱き上げて頭を撫でる。
後ろで纏めたリンクと同じ赤髪がチャームポイントだ。
「それ、あんたが食べたいだけでしょ…。ほらリンク、手当してあげるからじっとしてて」
もう1人の優し気な姉、スルバがフェイパの言葉に呆れつつも慣れた手つきで抱えられたリンクに手当を施してゆく。
日差しの強いゲルド砂漠においてなお白い素肌が魅力的である。
姉のフェイパが時に盛りたて、もう一人の姉のスルバが嗜める。
そんな関係だった。
「リンクちゃんもいるのね、今日はいいイチゴがいーっぱいあるから沢山食べてね!」
彼女達の友人で、一緒に応援していた少女ティクルが彼にフルーツを持ってくる。
ティクルはフルーツを作ることが好きな女の子だ。
その腕前は砂漠の中でイチゴを作れるという事からわかる様に大したものだ。
何でも畑を作っている時にゴミが流れてきてしまい、うっかり流してしまった人がお詫びとして渡してくれたイチゴをいたく気に入ったらしい。
砂漠にあるゲルドの街で果物は水分を取ることが出来る為重宝されている。
ちなみにリンクちゃんというのは彼が女装をして暮らしているためだ。
ゲルドに男は生まれない、そういう種族であるが故に普通のお店ではまず男性用の服など存在しないし両親が彼がヴォーイ(男)であると伏せているからだ。
「かぁー!うめえ!やっぱティクルの作るイチゴはうめーな!訓練の後はこれに限るねぇ!」
我先にイチゴを手にして豪快にかじりつくフェイパ。
新鮮なフルーツを堪能し頬が緩む。
「あー!フェイパ姉ちゃんずるい!ボクの分まで全部食べちゃう!」
あっという間に無くなっていくイチゴを前にリンクが悲鳴を上げる。
せっかくの御馳走だ、全部食べられては堪らない。
「フフッ、まだまだあるから焦らなくてもいいのよ?それにしても強いねー、リンクちゃんは。近い歳で勝てる子はいないんでしょ?」
心配しなくても大丈夫とティクルが宥め、彼を誉める。
大人にも勝てる強さを持つリンクだ、同年代で相手を探す方が難しい。
「うーん、でもルージュ様にはまだ勝ててないし。ビューラ師範には全く歯が立たないよ?」
まだまだ先は長いよ?と言わんばかりに次の目標を定めるリンク。
どうやらここで満足するつもりはないらしい。
「そこで族長様とゲルド最強しか出てこない時点で十分異常よ…」
スルバが少々呆れながらもう十分すぎるぐらい強いと訂正する。
族長であるルージュは自分がしっかりしなければならないと考え、就任してからの5年間でしっかりと鍛えた。
ゲルドの過酷な環境では長である自分も相応に強くあるべき、それを周りも望んでいることを自覚しているからだ。
彼女は族長としての風格をしっかりと身に着けた。
その優雅で流れるような剣と盾捌きはかつての英傑ウルボザを彷彿とさせる。
ビューラは未だにゲルドで最強の名を欲しいままにしている、その鋭い槍捌きは健在だ。
生真面目な彼女だからこそ鍛錬は怠らない、しかしあまりにも強すぎて他のゲルドの戦士が自分を超えてくれないことを嘆いている。
「ここにおったか、ティクル」
そうやって噂をしていると族長であるルージュが御付きのビューラを引き連れやってきた。
どうやらティクルに用があるらしい。
「ルージュ様!ビューラ様も!サヴァサーヴァ!(こんばんは)本日はどうされましたか?」
2人に対し礼儀正しく、それでいて元気に返事をし用件を尋ねるティクル。
どうやら彼女にも内容はわからないらしい。
「何、特別大した用というほどではない。わらわのパトリシアちゃんの為にイチゴを分けては貰えぬかとお願いをしようと思っただけじゃ」
これに対して、ルージュはプライベートである為そこまでかしこまった要件では無い事を告げる。
パトリシアちゃん それはルージュのペット、砂漠を泳ぐスナザラシの名前だ。
細かいようだが「ちゃん」までが名前である、だから周り者からはパトリシアちゃん様と呼ばれる。
先代の族長であるルージュの母からの最初で最後のプレゼントでもある。
だからこそルージュはパトリシアちゃんを溺愛しており、その入れ込みようは凄まじい。
頭には特注の品であるリボンを飾りつけ、ルージュのスカートには彼女を模した特注の物となっている。
このスナザラシは特別で大きな音に弱いスナザラシなのに音にも強く、さらにお告げをすることが出来るのだ。
砂漠を泳ぐことも得意で、1万年を越える程深い歴史と人気を誇るスナザラシの中でも最高の錬度を誇っている。
「そうでしたか、今年のイチゴは豊作で沢山とれたのでどうぞ持って行ってください!」
ルージュの要件を聞き取り、彼女は一時奥へと駆けてゆく。
しばらくすると、ティクルは畑の方から両手にあふれんばかりのイチゴを持ってきてルージュに手渡した。
「すまぬな、ティクルのイチゴは美味しいから宮殿のみんなでいただくとしようかの。これだけの量を頂いたのだ、ルピー(貨幣)も十分渡そう」
そういうとビューラがティクルに袋を渡した。
袋の大きさからしてかなりのルピーが入っていると思われる。
砂漠において寒冷地へブラ地方の名産は貴重なのだ。
「リンク、今日の訓練は見事だったぞ。また一段と腕を上げたな。大人の兵士にも勝てるとは…7歳の子供に後れを取る兵士はみっちり鍛えねばならぬな」
ビューラはリンクの戦いに称賛を贈る。
その反面で、負けた兵士には特訓を課すつもりのようだ。
基本的に兵士達は街の警護や宮殿を守っている。
子供に負ける様では不安に思うのも無理はない。
「うん!ビューラ様や族長様にもいつか勝てるようになりたいんだ!」
リンクとしては彼女達は目標であり、憧れでもあるのだ。
真っ直ぐ見つめる瞳にはやる気によって輝いている。
「フフッ、まだまだ負けてやるわけにはいかんの。少なくとも力だけを大切にしている様ではな」
それに対しルージュはリンクにはまだ足りない所がある分、負けはしないと落ち着いた口調で言ってのけた。
「えー!?族長様どういうこと?」
足りない所があるから勝てない。
それに納得できないリンクは答えが気になるし、どうすれば克服できるのかをルージュに尋ねる。
「それを考えることも大切じゃ。教えられたものよりも見つけたものの方が見失わずに済むからの」
しかし、ルージュは答えてはくれなかった。
見失わずに済むという事からリンクを思っての事でもあるのだろう。
「そうそう、大切なものを見つけるためにこの後はしっかりお勉強よー。フェイパも一緒にね」
ここでスルバが遊びはここまでと言わんばかりに2人に勉強の催促をする。
どちらかというと、じっとしていられない2人には堪ったものでは無い。
「ゲッ!なんでアタイまで…。勉強なんかより踊りあかそーぜ!」
「そーだ!そーだ!」
当然嫌いなものを進められて前向きな反応などある筈もなく、フェイパもリンクも抗議の声を上げる。
彼女は踊る事が好きで、まだ遊び足り無いようだ。
「ダーメ!あんた達いっつも抜け出すから母様カンカンよ!御飯抜きでも知らないわよ」
そんな返事をスルバは母であるメルエナを話題に引きずり出し、是非もなく勉強させるつもりのようだ。
日が落ちており、辺りは暗い。
こんな時間まで遊んでいたのだ。
ここでさぼろうものなら最悪、御飯抜きにされることすらありうる。
「さてと、そろそろ失礼するかの。ティクルよ、感謝するぞ。サヴォーク!(さようなら)」
「族長様!ビューラ様!サヴォーク!ティクル、今日はありがとな!サヴォーク!」
「またね、族長様、ビューラ様。それにフェイパ達もサヴォーク」
ルージュの言葉を皮切りに各々が帰るべき家に向かう。
ティクルは母親が営むフルーツ屋に、ルージュ達は宮殿に、リンク達はメルエナの待つ家に。
ゲルドの宮殿
宮殿からは悲鳴が聞こえる、とは言ってもお仕置きとかではなく訓練が行われているだけであるが。
いくら破格の強さを持つとはいえ、小さな子供に負ける長の警護兵など真面目なルージュが見逃すはずがなく直々に鍛えることにしているのだ。
「…」
宮殿のはずれでルージュはパトリシアちゃんにイチゴを渡す。
これはパトリシアちゃんにとって特別な食べ物で重要なお告げを聴くことが出来る特別なものだ。
「キュン!キューン!」
勿論スナザラシである彼女に人間の言葉は喋れない。しかし、通訳できるゲルド族も存在する。
勿論長年ずっと一緒だったルージュもその一人だ。
「…やはりあのヴォーイの行く末はわからぬか。あの厄災の再来にならなければよいのだが…。あやつを狙うものがいるという噂も聞く、いっそう一族を守らねばならぬな」
ルージュは期待と不安、そして責任感の混ざった表情でお告げに耳を傾ける。
基本的に女性しか産まれないゲルド族において彼は異質と言えるからだ。
ゲルド族には御伽話が存在する、遠い過去の時代の男のゲルド王の話だ。
かつてはゲルド族にも極稀に男が誕生していた。
それでも100年に一度産まれるかという頻度ではあったが、ここしばらくは存在を確認できていないようだ。
ゲルドの王は強かった、それと同じくらい強烈な野心を秘めていた。
当時のハイラルの中へ入り込み敵地のど真ん中で国王を襲撃し、世界の宝トライフォースを強奪。
数年で世界を魔界へと変貌させてしまったのだ。
その後は勇者と賢者達によって封印されはしたが幾度となく復活しついには厄災と言われるようになってしまった。
ハイラルの歴史は厄災との争いとすら言われるほどに多くの血が流れた。
ゲルドにとってその王が厄災になったことを他の民族が忘れても、その名前すら風化しても決して許されることではない。
災厄を再び世にはなつことだけは絶対に阻止しなければならない。