ゼルダの伝説 蒼炎の勇導石   作:ちょっと通ります

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閲覧ありがとうございます。

御蔭様で20話に到達しました、これからもお付き合いのほどよろしくお願いします。

試験的に章を分けてみました、読みやすくなれば幸いです。



第20話 タイムイズマネー

 それはゲルドキャニオンの岩陰から次々と姿を現す。

前から、横から、後ろから。

取り囲むように辺りを動き始めた。

 

 カラカラコヨーテ

 

 ゲルド地方に生息する肉食の野生生物だ。

魔物ではないが、それでも危険な生き物である。

過酷なゲルド砂漠でさえ生き延びることのできる生命力、獲物の命まで奪いとれる獰猛な牙。包囲網を構築できる知能と死角を突く集団の連携。

決して魔物ではないからと油断していい相手ではないのだ。

 

「まずは包囲網を崩すよ、アタイは右寄りに進んでいく。アンタは後ろからの攻撃を盾で捌いておくれ。その後はそのロッドの出番だよ」

 

 元々荒事には慣れているのだろう。

囲まれている時でもやるべき事をしっかり認識できている。

 

「わかりました。背中は任せて下さい」

 

「若いのに頼もしいね!5秒後に始めるよ…2…1…」

 

時間と共に彼女は駆けだす。それを待っていたかのようにコヨーテ達も逃がさない様進行方向に集まり、背後からは俊敏な動きで襲いかかる。

 

「させないよ!」

 

 コヨーテは素早い、薬を飲んで移動力を上げている2人にも肉薄する勢いだ。イグレッタの背中を捉えた牙による攻撃はリンクが盾で捌き、弾き飛ばした。

コヨーテの身軽な身体が宙を舞う。

 

「今だ!左側に杖を振ってくれ!」

 

 言うが早いかリンクは数は少ないがコヨーテのいる方向にファイアロッドを振り回す。

合わせるかのようにイグレッタも右側にファイアロッドを振り回し左側へ方向転換する。

 

「道が出来たよ!今のうちに突っ切るんだ!」

 

左右を火の球がバウンドし、炎上する。

カラカラコヨーテは2人を追いかけようとするが、炎が行く手を阻み脚を止める。

 

その間に全力で駆け抜けるリンク達であった。

 

――

 

「ふぅー、何とか逃げ切れましたね。あれを撃退するとなるとかなり骨が折れそうです」

 

リンクにとって初めての野生生物との戦闘であり、逃走だった。

持っていたロッドの効果と、イグレッタが荒事にも慣れていた為手際よくあしらえたと言っていい。

 

しかし、これが慣れていない人を護衛しながら打ち倒すとなると相当に骨が折れそうな相手だなとも思った。

 

「目的はカカリコ村まで行く事で、あいつらを倒す事じゃないからね。…それにしても中々やるじゃないか。即席の連携にしちゃ上出来だ」

 

リンクが強いという事は、あのビューラが指名した事から窺える。

相手の意図を読み、連携が取れるという点も助かるというものだ。

 

「サークサーク、ビューラ様に集団を相手にする方法を指導されましたから」

 

「そんなもんかねえ、まあいい。馬宿が見えて来たからあそこで休憩を取るよ」

 

辺りが暗くなる頃にはリンク達はゲルドキャニオンの馬宿まで進むことが出来た。

慣れという面もあるだろうが、それ以上にスナザラシや薬による移動力の底上げが頼もしい。

 

「ここまで来れば安心だ。お腹も空いただろうしご飯にしよう」

 

 そう言って、各々が準備していた食べ物を広げる。

イグレッタの出した料理…いや謎の物体は異臭を放っており、食欲が失くなりそうな色をしていた。

額から冷や汗が流れ落ちる。

 

(イグレッタさん…料理、下手だったんだ…)

 

自分は嫌いな食べ物も少ないし、大抵のものは美味しく頂けるがそれでも目の前にあるそれはできる事なら口にしたくはないと思うリンクだった。

 

(僕も姉ちゃん達の料理を食べよう。食べておかないといざというときに動けない。)

 

 その横で包みを広げたリンク。食欲を刺激する豊かな風味のおにぎりが顔をのぞかせる。

キノコおにぎり、夜遅くに砂漠を渡ることを案じたのだろう。

ポカポカダケの混ぜ込みご飯で作ってあるようだ、形の整ったものと少しだけ歪なものがある。

 

「お、何だかうまそうじゃないか!アンタこれ買ってきたのかい?」

 

 リンクの包みを覗き込んだイグレッタ。

互いに用意していた食事は違う、食べるもの1つで話の種にもなるという事だ。

 

「いえ、これは姉達が作ってくれた料理です。おんなじ料理でも個性が出ていて不思議ですよね」

 

「姉達がいるのか!せっかくだしちょっとずつ料理を交換しないかい?」

 

これはマズイ…いくら何でも黒ずんだ炭みたいなものと石みたいな料理は食べきれる自信はない…。

 

「気を使って大量に作ってくれたみたいです。私はいいのでイグレッタさんどうぞ」

 

そう言って、イグレッタの前に差し出すリンク。

姉達がいっぱい作ってくれて良かった。

 

「いいのかい?サークサーク、それじゃいただきます!」

 

そう言って、イグレッタはおにぎりにかぶりつく。

おにぎりを持っている手が止まった。

 

(…美味しい。掛け値なしに美味しい。これの後にアレを食べるのか…?)

 

 文句なく美味しかった、だからこそ己の料理の下手さをこれでもかと突きつけられてしまった。

自覚はあった、旅をしている時はどうしてもまともな食事はできないものだと言い聞かせて来た。

だがそれも今、無情な程に粉々に打ち砕かれてしまった。

 

「あ、あの…口に合いませんでしたか?」

 

「い、いや美味しいぞ。旅先でこんなうまいものを食べられると思わなかったからな!ちょっと驚いているんだ!」

 

思い出したかのようにおにぎりを口に運ぶイグレッタ。

次々と口に運んでいるその表情は何とも言えない悲しみを纏っていた。

 

始めは不思議に思っていたリンクだったが、彼女が自分の料理に手を付けてない所を見てしまい心の中で謝罪をした。

 

(この後にあの料理を食べるのは厳しいよね…イグレッタさん、ごめんなさい…)

 

 包みを開けて食べているうち、リンクは別のものが入っているのに気が付いた。

何だろうと開いてみると、そこにはフェイパに渡した美白クリームとヤシの花を使った髪飾りが入っていた。

無事に帰って来なさいと書かれた手紙を添えて。

 

「イグレッタさん、ゲルド族の女の子がいると色々と面倒です。ちょっとだけ変装するので待っていてもらえますか?」

 

「ん?ああそういう事にしとくのかい。そういうのは得意だからアタイがやってやるよ。貸してみな」

 

 そう言って慣れた手つきでリンクにメイクを施していくイグレッタ。

ラメラも上手であったが、元の顔から変えるという面では彼女の方が上手であった。

髪飾りが赤土に咲いた向日葵のように輝いている。

 

「これでよしっと、とりあえずゲルド族には見えないよ。それにしてもアンタ似合うねえ…」

 

「それ、喜んでいいのか悲しんでいいのか反応に困るんですけど」

 

 とりあえずな感じの似合うという表現に複雑な反応をするリンク。

理解は出来ても許容は難しいものだ。

 

「褒めているんだよ、ここまで素材がいいと御洒落のしがいがあるよ」

 

「そう…ですか」

 

 納得できていないリンクをどこ吹く風で置いて行き、馬宿で宿泊の手続きをするイグレッタ。どうやらここで泊まるつもりらしい。

 

「あれ?野宿するんじゃないんですか?ここら辺なら安全ですよ?」

 

「いいかいリンク。今回の求められているのは速さと正確さだ。野宿では先程までの負荷を回復するのは難しいし、疲れも取れない。時間を買っていると考えるんだ。そういう訳で、2名夕方まで宿泊でお願いします」

 

 イグレッタが言うように、野宿は宿泊施設に泊まるのとは訳が違う。

あくまで睡眠を取るための措置ぐらいに考えた方がいいだろう。

 

 彼女の方針では野宿を減らし、宿泊で疲労を取ってゆくつもりの様だ。

馬宿のオーナー、ピアフェに宿泊する旨を伝える。

 

「かしこまりました。ごゆっくりお休みください」

 

 ピアフェが40ルピー支払いリンクにも馬宿のテントに入るよう促す。

2人ともかなり無理矢理進んで来た為、疲れたのだろう。

沈み込むように眠りについた。

 

――

 

「サヴァサーヴァ、やっと疲れも取れたよ」

 

「あ~、イグレッタさん…サヴァサーヴァ…」

 

 昼頃から宿泊する事で疲れを癒した2人。

辺りは日が暮れようとしている。

 

大人のイグレッタとは対照的にリンクはかなり眠そうだ。

休憩としては長くても、睡眠時間としてはかなり少ないから仕方ないが。

 

「さて、これからの移動について説明をするわ。とは言っても実物を見たほうが早いかもしれないわね」

 

そう言って、受付にいるピアフェに何やら話をつけている。

しばらくすると彼は奥から何やら連れ出してきた。

それは茶色の毛並みを持つ4足歩行の生き物、馬であった。

 

「馬ですか!乗って移動ができるらしいですね」

 

 リンクが少しだけ興奮気味に話しかける、リンクも馬を持っているとはいえ乗りこなせるような体躯では無い。

いつかは馬に乗ってみたいと思っていたがこれほど早く訪れるとは。

 

「おや?案外驚かないね?ゲルド族で馬に乗るのはかなり珍しいはずなのに」

 

 イグレッタは移動手段の要として、馬を使うつもりだったようだ。

とっておきのつもりであったので予想以上に反応がうすいリンクに首をかしげるのだった。

 

「ああ、ついこの間、ここらで野生の馬を見たことがあるってだけです」

 

 疑問の答えになる様、とりあえずこの近くであった事を話すリンク。

このゲルドキャニオンの近くで見かける事はあり得ないという訳では無い。

 

「へえ、この辺りに馬がいるだなんて珍しい事もあるんだねえ。カカリコ村へはこいつを使う。アンタは小さいから後ろに乗せることが出来るしね」

 

 彼女は馬に跨りリンクに乗るように促す。

リンクが後ろから乗ろうとした時―

 

「止まれ!馬は後ろから乗ると蹴られるよ!」

 

 とっさの判断で思わず口調が厳しくなるイグレッタ。

馬は真後ろから近づくと蹴り上げられることがある為とても危険なのだ。

 

「す、すみません。乗り方がわからなくて」

 

 忠告の内容が自分を心配しての事だとわかり、謝るリンク。

こんな事で怪我をしていては先が思いやられる。

 

「まあ初めてだから仕方ないか、蹴り脚はとても強いから気を付けて。馬だけじゃない、大きい生き物なら大体乗れるわ。乗り方とかは詳しい人に聞いた方がいいけどね」

 

 リンクが見たことある野生生物は、馬宿にいる馬や驢馬、来る途中で襲ってきたカラカラコヨーテぐらいだろう。

だが、あの大きさでは大人ではまず乗れないだろう。

他にも乗れる生き物がいるのかも知れない。

 

「そういうものなんですね…。それでは失礼します」

 

 そう言って横から騎乗しようとするリンク。

しかし身長が追い付いていない為、成体の馬に乗るのは難しかった。

何度か挑戦する事で、覚束ないながらも乗ることが出来た。

 

ちょっと面白かったのかイグレッタは笑っている。

 

「よし、乗ったね。ここからはアタイがカカリコ村まで移動する。振り落とされない様、しっかりつかまってるんだよ!」

 

 手綱を握りイグレッタが合図を出す、それを合図に嘶きと共に馬は駆け出す。

 

 ゲルドキャニオンは両脇が岩で遮られている為、この場所は風の通り道だ。

リンクは後ろに乗っている分平気だが、イグレッタは一身にそれを受け、切り裂いてゆく。

強靭な足腰が生み出す迅速な動きはスナザラシにも匹敵しながらも地面を蹴りつける衝撃をリンクに与える。

 

 少しの間、彼は目を瞑り研ぎ澄ました感覚で風を振動を馬の温もりを堪能する。

瞼の裏に光景が浮かぶ、新緑を携えた広大な草原だ。

馬に跨り疾駆する。より速く、より力強く。

いつかドラグと一緒に走り抜けたいものだ。

 

「リンク!」

 

イグレッタに声をかけられハッと意識を戻すリンク。

 

「あ、すみませんちょっと考え事をしていまして。こう、いつか自分も馬に乗ってみたいなぁって」

 

「…へえ。」

 

 リンクの返答にイグレッタは不敵な笑みを浮かべる。

あまり好ましい表現ではないが、想像以上にしっくりくるし、もしそう言われたとしても彼女は笑って受け入れるだろう。

 

(ゲルド族で馬に乗る者は少ない、この子はこんなにも小さい頃からスナザラシを曲がりなりにも乗りこなす。…楽しみだね。表に出してはいなくとも好奇心と行動力を持っている。)

 

「カカリコ村までは遠い、馬を使っても2日程かかるだろう。途中で馬宿で休みもするけれど基本的には移動を続けるよ」

 

「基本的には…ですか?」

 

 イグレッタの話す内容にリンクには引っかかった。

基本的という言葉には例外として移動を止める場合を含むからだ。

 

「ああそうさ。ここから先にも街道を利用する人間もいる。でも街道だからといって全てが安全とは言えない。魔物に襲われている人にだって出くわす時もあるのさ。そういう時はアンタの出番だよ」

 

 ルージュ様との約束だからねと小声で言ったのをリンクは聞き逃さなかった。

 

「なるほど、それは納得です」

 

「いい返事だ。―さて、前を見な。簡単には通してくれないみたいだ」

 

 そう言われ視線を先に向ける。そこには骸をかたどった岩の空洞に木で組まれた櫓が複数作られている。

その至る所に赤みがかった肌の醜悪な大きい鼻を持った子鬼の魔物、ボコブリンがいた。

 

「ここまでしっかりとした拠点を作れるんですね…。侮れない」

 

 リンクは魔物による奇襲は受けたことがあるが、今回のような集団かつ拠点まで構築する存在は初めて出会った。

 

「―今回は時間を優先する。突っ切るよ!」

 

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