ゼルダの伝説 蒼炎の勇導石   作:ちょっと通ります

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第21話 鬼達の脅威

 言うが早いかイグレッタは馬の腹を蹴り、急き立てる。

更なる速さで駆け抜けるつもりだ。

 

 櫓にいたボコブリンが気づいたのだろう。角笛を吹き、仲間に合図を送る。

 

それに気が付いたボコブリン達が櫓から弓を引き絞り照準を合わせて来た。

洞窟からは棍棒を携えたボコブリンがこちらへ向かって飛び出して来る。

 

イグレッタは巧みに綱を引き、放たれた矢を潜り抜けていく。

見事なものだ、飛んで来る矢の軌道を見て躱せるよう誘導してゆく様は見事なものだ。

 

そんな時、このままでは逃げられると踏んだのかボコブリンが通させまいと進路に立ち塞がって来た!

 

「どうします!?立ち止まったら狙い撃ちですよ!?」

 

 まずい状況だ、この場所は魔物の領域であり狩場でもある。

数で負けている上に、彼らは弓による遠距離攻撃が可能だ。

ボコブリン達の狙いは案外正確で外れることを期待するのは難しそうだ。

 

「それはね、こうするのさ!」

 

 そう言って、イグレッタは再び腹を蹴り馬の速度を上げ、ボコブリンを跳ね飛ばした。

襲歩と呼ばれ地面を蹴りつけ疾走する動きだ。

イグレッタ達に加えて馬の重量まである状態だ、哀れボコブリンはその速さも重なり遥か彼方へ吹き飛び転がっていった。

 

そのあまりの威力に足止めのボコブリン達がひるみ、その隙に抜けようとした時である。

 

  グラッ

 

 リンクの耳がかすかな音を拾い取った。

それはとても小さかったが明らかに位置がおかしく、それでいて異質であった。

とっさに上を向くと崖の上から岩が顔を覗かせ、リンク達に向かって落ちて来た!

 

「イグレッタさん!崖から岩が落ちて来ます!」

 

「何!?」

 

この展開は予想外だったのだろう、慌てて上を確認し落下場所を予測する。

 

 急いで手綱を握り当たらない様、進路を変更し、馬を制御する。

ゲルドキャニオンの高さから岩がぶつかればひとたまりもない。

イグレッタから遅れること数秒、足止めのボコブリン達も気が付いたのだろう。

上を向き避けようと散開する。

 

ドズゥゥウウウン!!!

 

 巨大な岩がボコブリン達を巻き込み砕け散る。

これにはたまらず、逃げ延びたボコブリン達が逃げ帰ってゆく。

その隙を逃さずリンク達はゲルドキャニオンを駆け抜けていった。

 

――

 

「…」

 

「何とか、抜けられましたね…。簡易的な砦に加えて連携もできるのもそうですが、あんな手まで使ってくるなんて思いませんでした」

 

 リンクは初めて魔物の連携や設備の建築を見てより一層警戒を強めていた。

そして、決定的なのがあれ程の高度から落石だ。

タイミングや位置を考えると偶然とはいえず、極めて高い殺意と言えるだろう。

 

「…違うな」

 

「えっ!?」

 

 しかし、イグレッタは別の危険を捉えていた。

 

「ああは見えても、あいつらは仲間意識が強い。仲間を巻き込みかねない落石などあり得ない。それも自分達の居住場所の近くなんて不自然だ」

 

「…それってつまり…」

 

リンクの脳裏に不安がよぎる、ボコブリン達のものでは無いとなると―

 

「別勢力の何者かがアタイ達を狙ったと考えるべきだろうね。おそらくルージュ様に呪いをかけたやつらだろう」

 

 冷静に淡々と話すその言葉じりに苛立ちが滲む。

呪いの事を考えると同じ人族が殺しにかかっているのだろう。

 

「信じられません、こんなことまでしてくるなんて…」

 

 わかりたくもないといった様子で顔をそむけるリンク、彼にとってかなりショッキングな光景であった。

あれ程の大きさの岩が落ちてくるのだ、直撃したらまず助からないだろう。

それをわかった上で実行されて納得など行く訳がない。

 

 こうして彼女達は心中の不安を抱えたままゲルドキャニオンを駆け抜けていったのだった。

ゲルドキャニオンを抜けた先には黄泉の川と呼ばれる幅の広がった川に着き、そこに浮かぶ島々に橋が架かったデグドの吊り橋にたどり着いた。

 

「凄い凄い!水がいっぱい流れている!生えてる植物も見たことないよ!」

 

 見たこともない青々とした植物に、先程までの乾いた大地が嘘のような潤沢な水源。

砂や土に覆われた荒野や砂漠とは一線を画すような陸の孤島たちが彼らを出迎えた。

 

「ああ、この水が流れている場所は川っていうのさ。ここまで来ると気候が違うからな。植物も違うから色が緑色だろ?」

 

 ゲルドの街の様な人工的に調整されたものでは無い、自然に流れる水というのは不思議なものだ。

滑り落ちてゆく水はどこまで進んでゆくのだろう。

 

「はい、見るもの聞くものどれもこれも新鮮ですよ!」

 

峠を越した先に、平和な風が吹き抜けていく。

厳しいゲルド砂漠や逃げ道の少ないゲルドキャニオンと比べれば、リンクの考えは強ち間違ってはいない。

 

だがしかし、彼女は少しの間沈黙をする。

 

「…リンク、覚えておきな。ここから先は比較的整備された安全な道だ。だからこそより一層危険なのさ。矛盾するような言い草だけど肝に銘じな」

 

 いまいちピンと来なかったのだろう、リンクは首を傾げた後に頷いた。

…既に日が落ち、デグドの吊り橋の一番大きな島にたどり着いた時である。

植物が生い茂り、立派な樹木だってある。そんな島の真ん中に巨大な影が見えた。

 

「イグレッタさん、何か真ん中に見えます。あれは?」

 

リンクが遥か先を指さす。

それに気が付いたイグレッタが説明をする。

 

「ああ、あれはヒノックスという魔物だよ。巨体に違わぬ怪力の持ち主だけど普段は寝ているし、こちらから危害を加えなければ問題はないよ」

 

 ヒノックス…一つ目の巨体を持つ鬼の魔物。

巨体に違わぬタフネスと剛腕が驚異の怪物である。

強さも折り紙付きで、王家騎士になる為の最終試験として採用されていたほどだ。

 

「へぇ…?っ」

 

しばしの間、リンクは思案した。

…先程のボコブリン戦での落石、暗くて把握しにくい環境で巨体のヒノックス。

導かれる彼なりの答え、それは―

 

「…イグレッタさん。私の予想通りなら、安心はできないかと」

 

 そう言っている内にも馬の速足で近づいてゆく。

次第にはっきりしてくる黒い影は動きを確認できるまでになった。

 

 そこでイグレッタも気が付いた。

ヒノックスは元々眠っていることが多く、いびきによる動きが確認できる。

しかし、明らかにいびきとその呼吸から発生するものでは無かった。

馬の移動による振動とは別の地響きが鳴り響いている。

 

「何だって…?すでに起きている…だと!?」

 

あり得ない、ヒノックスは刺激したり近場を走ったりでもしない限り起き上がることは無い。

それがどうだ、近づきもしない内からその1つ目を見開き凝視するではないか。

本来は、馬による移動で起きたとしても襲ってくる間に通り抜ける算段だったのだ。

 

 ヒノックスは敵と見做したのだろう、こちらに対し、巨腕を振り上げる。

こちらとしてはたまたま通りかかっただけなのだが、そんな道理は通用しない。

冷汗が流れる、ヒノックスは動きこそ緩慢で躱すことが難しい訳では無い。

 

 だがその巨体から繰り出される怪力は非常に厄介だ。

万が一当たってしまった場合の影響力が大きすぎるのだ。

 

「ハアッ!」

 

 イグレッタは急き立てる。

馬は本来臆病な生き物だ、なるべく脅威となるヒノックスの傍にいる時間を減らし、ストレスに晒さない様にしなければならない。

あまりにも長く精神に負荷をかけていると、制動不能に陥る事だってありうるのだ。

 

 速度を上げたおかげで、ヒノックスの拳による一撃は空を切り、地面にぶつかる。

地面に出来上がったクレーターがその脅威を雄弁に物語っており、事態の深刻さを正確に伝えてくる。

 

(だが今の一撃を躱せたのは大きい!アイツの動きじゃ馬には追いつけない!)

 

 そのままデグドの吊り橋からの脱出を図る。

だがヒノックスの怪力は時としてとんでもない手段で追撃を可能とする。

 

バキバキバキ

 

「えっ!?」

 

振り返るリンクが目を凝らす。今起きている出来事が信じられないのだ。

いつの間にかヒノックスが武器を持っている、かなり大きいものだ。

こんなものがあれば気が付かない筈が無い。

 

(嘘…だろ…)

 

 どうやって武器を調達したか、その手がかりは先程の千切れる様な物音。

島に存在していた樹木、切り株の如き上部の存在しない根。

そう、力任せに千切り取った樹木で即席の槍にしたのだ。

 

(頼む!間に合ってくれ!)

 

 リンクがファイアロッドを、ヒノックスが樹木を振り上げる。

この場面リンクに求められるのは精度と早さ、ヒノックスに求められるのは同じく精度と膨大な重量を届かせる筋力だ。

命がかかった極限状態が、神経を研ぎ澄まし睨み合っているかの様な錯覚をリンクに齎す。

 

 リンクが先にロッドを振り抜く。

鈍重なヒノックス相手では当然の様に早さにおいて彼に軍配が上がった。

 

ここから先だ、単に魔物より少し早ければいい訳では無い。

最初に動けたといっても攻撃が届く前に相手が正確に狙うことが出来ていたら本末転倒だ。

飛んでいく火の球が狙いから外れていたらしっかり狙いをつけてぶつけられるだろう。

 

(こっちは馬の制御と疾駆だけで精一杯だ、頼む…!)

 

 彼女の耳にヒノックスの悲鳴が届いた。

ヒノックスはその巨体に違わぬタフネスを持っている。

そんな怪物を相手取るには頼りない火の球であったが、ただ一点。目玉に対してだけは効力を発揮する。

 

 あまりの熱に両手で目を覆い、携えていた木の幹を落とし尻もちをつく。

こうしている間にも馬は進み、吊り橋を渡り切ったのだった。

 

――

 

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