無くなり次第、更新のペースが落ちますが、ご容赦ください。
カカリコ村
山に挟まれた道を通り、橋を横切り森を抜け2人はようやくカカリコ村へたどり着いた
カカリコ村は周りを山に覆われ、森を抜けた先に存在する。
まさに秘境といってもいい場所である。
小鳥のさえずりが響き、和やかで温暖な気候が緊張をほぐす、ゆったりとした時が流れるようだ。
世界最大の交易場であり活気溢れるゲルドの街とは違う生活をしていることを実感するリンクであった。
「やっと着いたね、アタイは馬を置いて置ける場所を聞いてくるよ」
ようやく一息つける、イグレッタの呟きが囀りの間に混ざりこむ。
それはどちらかというと馬を労わる意味合いが強いのかも知れない。
「はい、私はどうすればいいでしょう?」
リンクが馬の所にいる意味合いは薄い、その間できる事は無いかと尋ねる。
「うーん…、内容が内容だからね。この村の責任者へ繋いでもらえないか聞いておいておくれ」
しばしの思案の後、彼女はこの村の長に話が出来ないか
リンクは頷いて、他の建物より二回りほど大きい建物へ足を運んだ。
対外的な言葉使いはビューラに叩き込まれている、護衛対象に礼を失するのはゲルド兵としての沽券にかかわるからだ。
実を言うとこの訓練が彼にとって一番大変であったらしい。
「「む?なに奴!?ここは長であるインパ様の御屋敷!何者だ!?」」
おそらく代表者の警護役なのであろう、リンクはルージュに付き従うビューラを見てきているのでこの対応にはある程度慣れている。
勿論それだけでは幼い彼には厳しいので、言うべき事をまとめた書類を読み上げる様に伝えられている。
「はい、私はゲルド族の長、ルージュ様の代理として来ました。リンクという者です。重大かつ緊急な内容なのでこの場で申し上げることが出来ませんが、取り計らっては頂けないでしょうか?」
そう言いながら、ビューラから預かった備品の1つとして。代理である証明書を渡した。
始めは知らない顔であり、さらに子供という事もあった為、長の警護役という立場上むやみに人を通せない為すぐにどうぞとはならなかった。
しかし、ルージュの側近であるビューラ直々の証明書となればその信用は格段に跳ね上がる。
「…確かに、正式なゲルド族の使者のようですな。先程は無礼な態度を取ってしまい申し訳ありませんでした。緊急とも言われましたし私がインパ様に尋ねてまいります。ドゥラン、この場は頼む」
警護役の1人がもう1人にそう伝え屋敷の奥へと足を向ける。
白髭をたくわえたドゥランと呼ばれた方が引き続き警護をする様だ。
「ああ、こちらは任せておけ」
「あ、後でもう1人の人も来るので面会は2人でお願いできますか?」
後でイグレッタがやって来る旨を伝える。
呪いを解除するための手掛かりを求めて来たのだ、リンクだけでは心許無い。
「勿論です、そもそも証明書には2人の物でしたからね。ボガード、インパ様にそう伝えてくれ」
「それでは行って来る」
そう言ってボガードと呼ばれた老人は屋敷の奥へ進んでいった。
しばらく待っている間にイグレッタとも合流し、その少し後になってボガードから中へ入る許可が下りたと連絡が届いた。
屋敷の中はやはり一般的な家と比べてかなり広い。
元々、カカリコ村は狭い盆地に作られた村なので普通の家はかなり小さく作られているから、より一層顕著になっている。
奥には複数の座布団の上に正座する老婆と隅に正座している若い女性がいた。
正面に座っているのがこの村の長なのであろう。
「おお、遥か彼方の砂漠の国ゲルドからよくぞおいでになった。我は族長のインパじゃ、こちらは孫娘のパーヤという。パーヤ、挨拶をせんか」
「は、初めまして。孫娘のパーヤと申します。よ、よろしくお願いします」
貫禄と威厳を感じる老練な族長のインパ、そしてどことなく緊張しているのか人見知りの激しいのがひしひしと伝わって来るパーヤ。
「それでどのような要件じゃ?緊急とも聞いておるが…」
「それについては私が説明いたします。まずはこれに見覚えが無いでしょうか?」
そう言って、イグレッタは紙を広げる。
そこにはルージュに現れた瞳の模様が赤色で書かれていた。
インパの目が見開き、食いつくように前のめりになる。
「これは我々の長ルージュ様が倒れた際、現れた呪いを模したものです。シーカー族の紋章に非常に似ています。どうにかして治せないかと思いこちらまで足を運んだわけです」
「…なるほどな。確かに緊急かつ内密な話じゃな。絵だけでは正確には把握できんがかなり高度な呪いじゃろう。よってどのような法則で組み立ててあるかの解剖から始めた方が良かろう」
インパは見ただけでわかる程とても強力な呪いであると判断していた。
意外に思うかもしれないが、呪いというものは複雑に編み込んだ法則にしたがって機能する。
形や色、使われている素材や時間といった条件が混じり合って初めて機能するのだ。
「まず、我が被っている編み笠を良く見て欲しい。描かれた模様にそっくりじゃろう」
インパが言うように間違い探しかと錯覚してしまうぐらいにあまりにも酷似している。
あえて違いを指摘するのなら、中央から伸びた線が上では無く下に伸びていることぐらいか。
「これはな元々シーカー族の紋章である。じゃが我らの紋章にも変遷がある。かつては瞳から伸びた線は無かった。何故だかわかるか?」
そうやって淡々と述べるインパの表情は複雑で間違っても晴れやかなものでは無かった。
「…かつて忠誠を誓ったハイリア人に優れた技術を危惧され、追放されたから」
その一言にリンクは言葉に出来ない衝撃を受けた。
信じがたい事だった、よりにもよって忠義を尽くした相手からの裏切りだったのだから。
傍に控えているパーヤも視線を外し、俯いている。
「その通りじゃ。厄災という巨悪を前にし、手を取り合い力を合わせ見事封印した我らに残った結果がそれであった。この一件以来、シーカー族は2つに割れた。1つは我らの様に技術を捨て、静かに暮らす者達。もう1つがハイラルの仕打ちを恨み、復讐をする為厄災の手先になった者達じゃ」
(話がそれているぞ…!)
イグレッタは内心イライラしていた。
彼女の目的は敬愛するルージュを助ける事に尽きる。
呪いの性質上、どういう経緯で作られたものかを知る必要はあるがそれを差し引いても必要以上に説明している。
どうやらインパには豊富な知識があるようだが、その分話が長くなるきらいがあるようだ。
普段なら笑って流せるのだが、ルージュの命が懸かっている以上これは見過ごせない。
更に所々に参考になる話が散りばめられている為、なお質が悪い。
簡略化した結果わからなくなりましたでは済まないからだ。
「2人ともこれを見て欲しい」
そう言ってインパが渡してきたものは木彫りの人形だった。
目の部分には水を一筋垂らしたような跡が付いている。
「これはな、この地に伝わる郷土人形のこけしというものじゃ。片方の目からは涙が流れておるじゃろう?だからこれは泣きこけしというものでな。この涙には悲しみと厄除けの意味が込められているのじゃ」
ここまで来て、イグレッタの反応も変わった。
彼女が求めていた呪いの解呪に関する重要な手掛かりであったからだ。
「我らはかつての悲劇による自戒を込めて一族の紋章にこのような線を入れたのじゃ。孫娘のパーヤの模様もそれと同じでの。彼らの紋章はこれを逆さまにしておるな、ここに込められた性質は怒りと厄寄せと考えるべきじゃろう」
呪いに精通しているイグレッタや自分の種族の話であるパーヤは必死になって聞いた話を書き写している。
リンクは聞いてはいるが、流石に呪いに関する知識は門外漢であるし、そこまで素早く記録できるほど文字に慣れていない。
「考えられる解呪の道筋は厄寄せされてくる厄を別の何かに移すか、厄除けを加えることで引き付ける力と拮抗する様にする事が挙げられるじゃろう。時間との勝負な部分はあるが、両方の手段を用意できるのならば尚良いな」
大まかにではあるが解呪の手立てに見通しがついた。
詳しく精査してみる必要はあるだろうが、インパがその問題に触れていない所から2つの方法を使ったとしても問題は無さそうだ。
インパの話を聞いている時に、扉が叩かれる。
「インパ様、ドゥランでございます。お客人の為に、緑茶を用意いたしました。入ってもよろしいでしょうか?」
リンク達にとっては長時間の移動もあったのでこの心配りはありがたかった。
インパもずっと話していたので喉が渇いたのだろう。
ドゥランの入室を許可をする。
「ここカカリコ村原産の茶葉で作ったお茶でございます。優しい香りと味わいをお楽しみください。リンク様もお楽しみ頂ける様、少し冷ましてあります」
リンクは我先にと陶器でできた容器、湯呑みを手に取り茶を啜る。
成程、確かに自分のような子供でも飲みやすい温度に調整されている。
彼らは薄い味が好みであるのか、もうちょっと味わいが欲しいかなと思った。
「ドゥラン」
「はっ」
「今日はもう遅い、お客人達を泊めてあげなさい」
「かしこまりました」
「我がこの絵からわかるのはここまでじゃ、明日までには厄除けのまじないを準備しておく、そなた達は厄を別の物に移す手段について調べる方が良かろう」
「サークサーク!インパ様!感謝いたします!」
リンク達にとってインパから手に入るものは想像以上であった。
解呪についての方向性と手段がわかれば御の字だと思っていたのだが、それに加えて解呪手段の1つを明日までには準備できるというのだ。
無論、万が一の事があってはいけないので他の手段も調べる必要があるが収穫は大きいといえる。
インパの勧めもあり、2人はドゥランの家に宿泊する事にした。
家の前では娘と思われる子供2人がお辞儀をし、出迎える。
「さあさあ、遠路はるばるお疲れでしょう。我が家だと思ってゆっくりとお休みください。ココナ、プリコ挨拶なさい」
「はい、父様。ココナと申します。よろしくお願いします」
「同じく妹のプリコと申します!よろしくお願いします!」
姉のココナは姉達よりも若干年上といった感じか、落ち着いた所作が板についている。
妹のプリコは姉達と同じぐらいだろうか、若干元気が有り余っている感じがフェイパにも似ている印象を受けた。
「インパ様からの依頼だ。ココナ、プリコ、お客様に料理を作って御持て成しをしてあげなさい」
「「はい!父様!」」
2人は外にある調理場へ移動し、夕餉の準備を行う。
四半刻程の時が流れると、料理が出来たのだろう仲良く並べてゆく。
どれもこれも美味しそうなだけでなく、盛り付けまでしっかりとしている。
普段から料理を嗜んでいるのだろう。
自分よりも遥かに高い女子力を見せつけられイグレッタは内心打ちのめされる。
熱々のご飯にゴーゴー野菜のクリームスープ、カチコチ肉詰めカボチャ、甘露煮魚が今日の夕餉である。
「凄い!とっても美味しそうです!これがカカリコ村の郷土料理なんですね!」
「はい、こちらのニンジンとカボチャはカカリコ村の特産品なんですよ。お口に合うとよろしいのですが」
リンクの質問にココナがそれぞれスープとカボチャを示しながら説明する。
どれもこれも見たことのない料理だ、今から楽しみである。
「アタイもリンクも好き嫌いは無いから問題ないさ。何から何までありがとう…かな?異国の言葉じゃ伝わりにくいからね」
「姉様の料理は絶品なんですよ!そう言えばお姉さん達の言葉でありがとうってどういう言葉を使うんですか?」
「ああ、アタイ達の言葉だとサークサークだね。ここからずっと西に進んでいくと砂漠がある。そこから来たんだよ」
見たこともない異国からのイグレッタ達に妹のプリコは興味津々だった。
御首には出さないがリンクもカカリコ村の人達に興味津々である。
リンク達は箸に手を付ける、最初は中々使いこなせなかったがそんなことは些細な事と言わんばかりの見事な夕餉であった。
甘露煮魚はハイラルバスで作った煮付けで川魚特有の骨の多さを蜂蜜を加えてじっくりと調理する事で骨まで美味しく頂くことが出来る。
甘辛い味付けにご飯が進み、ゴーゴー野菜のクリームスープの柔らかな味わいが長旅で疲れた体をじんわりと癒してくれる。
長旅で不足しがちな野菜がたっぷりと入っており、自分達に対する心配りがとても嬉しかった。
肉詰めカボチャのケモノ肉とカボチャ特有の甘みがしっかりと調和し不思議と温もりを与えてくれるのだ。
アローマや馬宿の様な店で出される技量の集大成とはまた違った極致、スルバが作るような家庭的な食事がここにあった。