翌朝、カカリコ村
「うーん、良く寝た!あれ?体が軽い!」
昨日あれだけ動いたというのに、リンクには不思議な程に疲労や怪我の影響が少なかった。
ボガード達の手当てが、薬が良かったからなのだろうか。
これなら問題なくゲルドの街へ戻ることが出来そうだ。
(そうだ、イグレッタさんと合流しないと)
寝床にはイグレッタはいなかった。
まさかと思うが、宴会場で寝ているのだろうか?
傷だらけの身体で酒を飲み、その上で外で眠るのは勘弁願いたい。
こんな事をしていては動かねばならぬ時に支障が出かねないのだから。
「リンク様、おはようございます。」
起きてきたリンクに挨拶をする、ココナ。
早いものだ、自分よりも後に寝たというのにすでに起きているとは。
「サヴォッタ、ココナさん。早いですね」
「慣れてしまえばそれほどでもないですよ。お身体の方は大丈夫でしょうか?」
「おかげさまでもうすっかり大丈夫ですよ。それにしても凄いですね、かなり疲労が溜まっていたし、傷だって浅くなかった筈なんですが…薬が良かったのでしょうか?」
リンクの返答にココナは考える。
確かに薬を塗ったり、包帯を巻いたりはしていた。
それにしても回復が早すぎる。
「リンク様、恐らく薬の力ではないと思われます。いくらなんでも昨日の今日で傷が塞がる筈がありません。信じがたい話かもしれませんが、この村の端には妖精様の住まれる泉があります。妖精様が傷を癒した、そうとしか考えられません」
「見たことない生き物がいるなぁと思ったら、あれは妖精だったんですね!」
「すみません、私は見たことが無いので正確にお答えする事は出来ません」
「あっ、リンク様おはようございます!私を助けて頂きありがとうございました!」
リンク達が話している内に、妹のプリコが現れお礼を述べる。
「プリコさん、大丈夫ですか?」
リンクとしてもプリコの事は心配であった。
傷などの外傷は勿論の事、殺人すら厭わない集団に連れ去られたのだ。
心理的なショックだって十分に考えられる。
「御蔭様ですっかり元気になりました!リンク様ってとっても強いんですね!」
そんな気配を微塵も感じさせないプリコ、良かったこれならば大事には至らないだろう。
「御無事みたいで安心しました。私はこれからインパ様の所へ向かうつもりです。一宿一飯、サークサーク」
「え!?もう行っちゃうんですか!?残念ですけど、また遊びに来てくださいね!」
「ええ、今度は遊びに来ますね」
「リンク様、これをどうぞ」
そう言って、ココナは小包を手渡す。
中にはおにぎりといった携帯食料と何枚もの書きもの、そしてカカリコ村の女性が付けている簪が入っていた。
「ココナさん、これは?」
「リンク様が帰る旅の途中でも食べられるものと、カカリコ村の郷土料理のレシピです。何とか形になるように書き上げました」
リンクは驚きの顔を見せる。
おそらく彼女が夜の間これを書き上げていたのだろう。
子供のリンクでもわかるように丁寧に推敲されている。
これだけの量を書こうと思うとかなり大変だったはずだ。
「その簪はお守りです、道中は危険も多いと聞きます。どうかご無事で」
「サークサーク、とてもうれしいお守りです。…似合いますかね?」
早速取り付けるリンク、ヤシの花飾りと合わさり傍から見れば女の子にしか見えないだろう。
それを正直に伝えれば彼は複雑な気持ちにはなるだろうが。
「ええ、とても似合っています。また…逢いに来てくれますか?」
「勿論です、次こそはゆっくりしていきたいと思います」
リンクは姉妹にそう返し、家を後にする。
―
「イグレッタさん…あのままここで寝てたのか…」
もしやと思い、宴会場跡を覗くリンク。
案の定、仰向けになって豪快ないびきをかきながら眠っているイグレッタがいた。
その姿は女子力のかけらもない、人によっては呆れるだろう。
「…ん…?あーリンクか…サヴォッタ…」
そう言いながら、額に手を当て顔を振る。
寝ぼけた頭を動かしたいのか、二日酔いが響いているのか、それとも両方なのかはわからない。
「もう朝ですよ、解呪手段が出来ているかも知れません。インパ様の所へ参りましょう」
「その通りだな…よしっ!早速行くぞ!」
リンクの言葉が効いたのか、頬を叩いて気合を入れる。
先程までの寝ぼけた表情はどこへやら、すぐにでもインパの元へと行くつもりの様だ。
インパの屋敷
「待っておったぞ、2人とも。例の品は出来ておる。持っていくといい」
屋敷の中では既に準備を終えたインパとパーヤがいた。
夜なべをして作っていたのだろう。
その目力が更に増しており、気の小さい子が見たら泣き出してしまいそうだ。
インパの言葉と共にパーヤが解呪に必要な道具を持ってくる。
「使い方を説明する。呪われた者を中心にして、この赤い粉で陣を描く。形は我々シーカー族の模様を作る。その上でこの腕輪を被術者が身に着けた状態でこれに書かれた内容を歌うのじゃ」
インパの説明を真剣に聞く3人。
リンク達は勿論の事、パーヤも真剣に聞いている。
いつの日か族長を継ぐ時の為に、失伝させてはならない。
そんな意志が見え隠れしていた。
「だが心せよ、我が知っている物から改良されたような形跡がある。万全を期することじゃ」
イーガ団がシーカー族から離れて長い。
その間に把握しきれない分野も出てくるのも仕方のない事だ。
慎重すぎて何もしないのは問題だが、出来る手は打つべきだろう。
「勿論です、色々とお世話になりました。サークサーク」
イグレッタに続くようにリンクもお礼を言い、街へ帰る為の準備する。
パーヤもリンク達の手伝いをする事で順調に準備が整ってゆく。
「これで、お別れなのですね」
「ええ、短い間でしたがとてもお世話になりました」
「こっちとしても欲しかったものが手に入ったし、美味い飯と酒が飲めたんだ。とてもありがたかったよ」
「またお越しください、村一同貴方達をお待ちしております」
「ええ、この村ともお別れですね、のどかな雰囲気や花の香りが結構好きだったのですが」
リンクも残念そうだ、もう少し余裕のある時であったのならもっと楽しめたのに。
砂漠にあるゲルドの街には、花は貴重だしそれが鮮やかに彩りまで持っているとなれば尚更だ。
「持っていきますか?」
「「え?」」
それ故に、パーヤの返事は意外であった。
「少々お待ち下さい」
パーヤは2階にある自室に向かい、すぐに帰って来る。
彼女が持ってきたのは小瓶に入った液体であった。
「これは、カカリコ村に咲いている花から抽出した香水です。これを少量付ければ花の香りを楽しむことが出来ます。乾燥しているゲルドの街ではより引き立つのではないかと」
そう言って、断ってから手本のようにリンク達につけるパーヤ。
ほのかに甘い花の香りが広がってゆく。
「凄い…素敵ですね。近くで咲き誇っているみたいです」
「…なあパーヤさん。次に来る機会があったら、この品を輸入したいんだけどいいかな?」
リンクはその柔らかな香りに感嘆の声をあげ、イグレッタはそれに加え確かな利益を見積もる。
カカリコ村はその立地からゲルド族が足を踏み入れる事は滅多にない。
これは輸入する費用や負担も大きいが、競合相手の少ないともいえる。
加えて香水はパーヤが言うように乾燥帯でこそさらに引き立つ。
需要の面でも、ゲルド族にとって美に対する執念と使い捨てという側面もある為、かなり高いとみてもいいだろう。
「輸入…ですか?原料が貴重なのでそれ程は多くは準備できないかと」
最も需要はあっても供給力はそれほどある訳では無かったが。
「それでも構わないよ、細かいことは次の機会にしよう。世話になったよ」
「お世話になりました」
「お元気で」
パーヤに見送られ村を後にするリンク達
名残惜しくはあるが、求めたものも手に入りその足取りは軽かった。
3日後 ゲルドの街
イーガ団を撃退したからだろうか、特に問題もなくゲルドの街まで帰って来ることが出来た。
リンクが護衛の仕事に慣れて来たという事もあるのかも知れない。
途中、ココナがくれたおにぎりの包みを開く。
カカリコ村原産の山菜を使ったおにぎりは、しっかりと味付けされたハイラル米と新鮮な山菜の深みのある苦みがあり口元へ運ぶ手が止まらなかった。
砂漠最寄りのゲルドキャニオンの馬宿では、店主に手数料を払うことで話を付けた。
その内容は砂漠手前まで馬で移動し、残してきた馬連れ帰って貰うというものだ。
これによって、馬宿から砂漠までの移動を馬で行える為時間を短縮することが出来るのだ。
薬によって移動力を上げることもできるが、流石に人の身では馬の脚には敵わない。
砂漠では2人を待っていたのであろう、宮殿の隊長であるチークと兵士バレッタがスナザラシを引き連れた状態で待っていた。
危険で過酷な砂漠でずっと待機していたのだろう、頭が下がるばかりだ。
こうして行きよりもスムーズに街まで戻ってきたという訳だ。
「報告いたします、ビューラ様!リンク達が帰ってきました!解呪に必要なものを準備できたとのことです!」
真っ先にビューラが待つ執務室へ報告するチーク。
待ち侘びたと書いてあるかのような表情で迎えるビューラがそこにいた。
「イグレッタ、リンク。よく見つけてくれた。早速で悪いが、ルージュ様の御部屋へ行くぞ」