ゼルダの伝説 蒼炎の勇導石   作:ちょっと通ります

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第3話 転機

 翌朝

 

「姉ちゃん…サヴォッタ(おはよう)…」

 

「ああリンク…サヴォッタ…お互い災難だったな…」

 

 リンクとフェイパが机に突っ伏し弱音を吐く。

2人の様子から昨夜何があったのか容易に想像できる。

 

「ホントに災難なのはアタシなんだけど…」

 

2人みたいに姿勢を崩していないが、疲労困憊といった様子のスルバ。

どうやら納得いかないご様子。

 

3人ともあの後大変だった。

リンクとフェイパが勉強などやることそっちのけで遊んでいた為、母様の雷が落ちたのだ。

何とか御飯抜きは免れたものの残っていた勉強をきっちりとこなすよう厳命されたのだ。

 

流石に7歳のリンクは長いこと勉強をするわけではないが、フェイパはスルバと共にみっちりと勉強をする羽目に…ちゃんと勉強を済ませていたスルバにとっては完全にとばっちりである。

 

「サヴォッタ!あんた達、顔洗って来な!早くしないとヒンヤリ煮込み果実なくなっちまうよ!」

 

メルエナの指示によって一斉に動き出す。

この家では食事は早い者勝ちなので急がないと自分の取り分が無くなってしまう。

 

リンクも幼いながらも中々の健啖家でよく食べる。

フェイパも活動的なためか食事には積極的だし、おとなしいスルバだってヒンヤリメロンを使った煮込み果実は大好きなのでここは譲らない。

 

「さてと、あんた達に言っておくよ。アタシは今日から旦那と外へ行かなくちゃならない。二人でリンクの面倒を見ていておくれ」

 

メルエナが夫と共に仕事に出かける予定を3人に伝える。

その為、家を空ける間は他の大人が面倒を見るケースが多い。

 

ゲルドの街では色々なものがそろっている。

しかしそれは外から色々な資源や物資を運んでいるからだ。砂漠の真ん中にあるこの街で小麦や鉱石が簡単に採れるわけがない。

 

「はい!母様!お気をつけて!」

 

任されたフェイパとスルバが元気に応える。

両親に心配をかける訳にはいかない、弟の面倒はきっちり見るという責任が透けて見える。

 

「母様、また色々なお話を聞かせてね」

 

リンクもそれが何となくわかるから帰ってきた時まで我慢をする。

そして、様々な場所を見て来た彼女らに話をせがむのだ。

 

「サークサークみんな。あんた達もしっかりとするんだよ。1月ほどで帰ってくると思うからそれまでの辛抱だ。食べ物は宿屋のアローマさんに頼んであるから大丈夫だよ」

 

留守の間の子供達は旧友のアローマに頼んである、彼女がいるならばきっと大丈夫だ。

そう言って、メルエナは夫とともに旅に出た。

我が子と一時的とはいえ離れるのは寂しかったが、ゲルドでは成人するまでは外に出てはいけないという決まりがあるし、何よりも魔物がまだまだ存在するので危険がかなり大きい。

 

とてもではないが外へ連れ出すことは許せることではない。

 

「さてと、今日は演奏会に向けて久しぶりに演奏をしよっか?」

 

 普段ならフェイパかリンクが我先にと色々と決めるのだがこの日は珍しくスルバが提案をしてきた。

心なしか彼女の機嫌がいい。

 

 スルバは楽器の演奏が趣味で時々遊びに来るリト族の女の子たちと演奏会に参加している。

リト族の子たちは主に歌うことが多いので、楽器の演奏はゲルドの子が担当している。

 

本当ならリト族にも演奏の名人がいるのだが、残念ながらそれはリト族の男であった為、参加できないのだ。

ちなみに彼はリト族の女の子の父親で最初にそのことを知ったとき盛大に凹んだらしい。

膝をつき、両手羽?を地面につけながらうなだれる彼をなだめるのは大変だったとか。

 

「ええー…演奏も嫌いじゃねーけど。スルバのは本気すぎてなぁー…曲に合わせて踊ってていいか?ヴァーイらしいのはアタイには合わねーぜ」

 

(嘘だ)

 

(嘘ね)

 

それに対し、フェイパはあまり乗り気では無いようだ。

スルバの演奏にちょっとついていけないのだ、だからこそスルバの演奏を聴きながら踊りたいようだ。

 

確かに彼女は演奏よりも踊るのが好きだ。性格的なものなのか情熱的に動くのが好きらしい。

しかし、リンクは嘘だとも思った。

ああいう性格をしているがその実乙女であったりする。

 

 宝石店 Star Memoriesのルビーの見事な頭飾りを興味のないふりしてチラチラ見ているのも目撃されている。

その時の彼女の瞳は輝いていたし、頬も朱に染まっていた。

 

更には防具屋のゲルドの衣服もリンク達に見つからないようこっそりと試着をし、くるりと回って太陽のような満面の笑みを振り撒いていたりもする。

…本当に隠す気があるのだろうか。

 

「ふーん、それじゃあ今度のリト族との演奏会はあたしたちの演奏をバックコーラスにしてあんたのソロ演舞で決定かしらね」

 

それをスルバは演奏会を引き合いに出してフェイパの脱線を戻す。

毎度毎度、問題児2人を引き留めているのですっかりと板についてしまった。

 

「そ、それはちょっと勘弁願いたいな…。お手柔らかに頼むぜ」

 

「フェイパ姉ちゃん、ボクも頑張るから姉ちゃんも頑張ろ?」

 

これには流石のフェイパも参ったのか、ほどほどにしてくれと頼みながら演奏の準備にかかる。

 

リンクにも励まされるとあっては折れざるを得ない。

 

「みんなが楽しむ演奏だから、本気といえども厳しくはしないわ。後でマックスドリアン剥いてあげるからちょっとだけ頑張りましょう?」

 

どうやらその辺りの気遣いは元よりするつもりだったらしく、頑張ったご褒美にマックスドリアンを御馳走するつもりのようだ。

何だかんだ2人に甘い所もある。

 

「ふぅー、リンクにまで言われちゃしょーがねーな。スルバ、マックスドリアン忘れんなよ」

 

姉達2人はリンクに優しかった、そしてリンクも姉達が大好きだった。

遠くからはるばる来てくれる来てくれるリト族たちの為にも恥ずかしいところは見せれないと練習にも熱がこもる。

 

 意図してかはわからないが両親が外へ離れている寂しさを紛らわす意図もあったのかもしれない。

いくら強くともリンクは7歳、一切寂しさを感じないかと言えば嘘になる。

姉達も弟の手前平気にふるまってはいるが不安がない訳ではない。

 

いくら以前よりはましになったとはいえ、街の外は魔物が蔓延っており危険だらけでもある。

その分報酬も大きいというメリットもある。しかし、そんな場所に長い間送り出すというのは心地良いものではない。

 

ティクル達のような友達や時折面倒を見てくれる、族長やアローマのような大人達に支えて貰っているから大丈夫なのだ。

 

長い時間が経ち、日が暮れる。

リンク達は練習も切り上げてアローマの運営する宿屋に帰って行った。

 

 

 宿屋 Hotel Oasis

 

「あらー、スルバちゃん、フェイパちゃん、リンクちゃん。ヴァーサーク(いらっしゃい)」

 

 Hotel Oasisの入り口で出迎える彼女はオルイル、宿屋の客引きをするのが仕事だ。

ゲルドの街では外からの観光客も多い。ヴァーイのみではあるが。

余談ではあるがゴロンの場合、性別はよくわかっていないが入れるらしい。

 

「オルイルさん、本日からフェイパ達と一緒に宿屋でお世話になります」

 

大人との対話は主にスルバが行っている。

丁寧な応対が一番上手いからというのが理由だ。

 

「うんうん、アローマさんからお話は聞いてるよ。まずはアローマさんに挨拶しておいで」

 

「「「オルイルさんサークサーク」」」

 

「リンクちゃんもしっかり挨拶できるようになったのね、感心感心。あなたの噂は聞いてるわ。後でゆっくり聞かせてね?」

 

うん!とリンクが答え、3人は奥へと進んでいく。

今夜は賑やかになりそうだ。

 

その先で迎えてくれたやや恰幅のいいゲルドのヴァーイが店主であるアローマだ。

 

「3人ともヴァーサーク。今日から一か月よろしくね、寂しいかもしれないけれど気をしっかり保つんだよ」

 

そう言うが早いか、慣れた手つきで宿屋の奥から暖かい料理を運んでくる。

アローマの所は宿屋である為、食事に関しても一般家庭で作るものよりも技量が高い。

 

今日の晩御飯はピリ辛キノコリゾットとマックス貝のチャウダーである。

 

 リゾットの濃厚なバターとミルクのうまみの中から主張するわずかな辛味は寒さの厳しい砂漠の夜にはありがたい。

チャウダーのこの辺りでは、あまり堪能できない海の幸特有の出汁と栄養を含んだスープはアローマの料理の腕もあり確かな味の中に新鮮さを保証してくれる。

 

食材屋のエスピさんのハイラル米とタバンタ小麦と岩塩。

キノコ屋のアージュさんのポカポカダケ。

そして彼女達の父母が入荷してくる、フレッシュミルクやヤギのバターやマックスサザエ

 

誰一人かけても作ることのできない一品なのだ

 

「美味しい!おばちゃんお代わり!」

 

あっという間に料理を平らげ、お代わりを要求するリンク。

普段が大人顔負けの訓練を行っている為、たくさん食べないと身体が持たないのだ。

 

「あ!ズリィぞ!アタイが先だ!」

 

負けじとフェイパも完食する。

大きな声では言えないがメルエナの料理よりも美味しいので食が進むのだ。

彼女の名誉の為に言うのなら、宿屋というその道で食べているプロが相手ではそもそも比べるのが間違いと言える。

 

「アンタ達ちょっとは遠慮しなさい!!すみません本当に美味しいです」

 

いくら母が頼んだとは言っても食べさせてもらっている身なのだ、少しは遠慮をしろと2人を嗜めるスルバ。

 

「これから大きくなるあんた達が遠慮なんてするんじゃないよ!たんとお食べ。オルイルだって遠慮なく食べてるだろ?」

 

だが、アローマはそんなに気にしていないようだ。

それよりも成長期の子供達が、ちゃんと食べられない事などあってはならないと考えているようにも思える。

 

「すみません、店長。アタイまで頂いちゃって。アタイもこんな風にお料理できるようにならないとなぁー」

 

 ゲルドの街ではヴォーイは産まれない。

その為基本的には街の外へ出てヴォーイハントするのがゲルド族の風習だ。

理想のヴォーイを射止めるための女子力を磨くことを彼女らは忘れない。

何といっても族長の宮殿内で女子力を磨く為の講習が毎日行われているぐらいだ。

 

普段のゲルド族の子供は身内を除き異性と触れ合う機会が無い。

その為付き合い方がわからず、ヴォーイを落とす(物理)をしようとするものまでいるぐらいだ。

 

「はぁー、美味しかった。聞いたわよリンクちゃん。もうほとんどの大人の兵士にも勝っちゃうんだってね。ゲルドの街始まって以来の天才戦士だってさ!」

 

店の前で話した通り、オルイルがリンクの戦いについての話を振る。

 

「うん!後はルージュ様とビューラ様に勝てるようになりたいんだけど…ルージュ様の盾捌きに上手くいなされちゃうし。ビューラ様は攻撃しようにも隙が無い上に攻撃が激しすぎて手も足も出ないんだ」

 

殆どの相手には勝てるが、ルージュとビューラにはそれぞれしっかりと対策をされてしまい今のままでは勝てそうもない事がわかる。

 

「ルージュ様は族長という立場上強く無ければならないし、ビューラ様は長い間ずっと御付きとしてゲルドで頂点の強さを保ち続けているからね。別格にならざるを得ないのさ」

 

立場や経験、積み重ねによって強くなった旨をリンクに話すアローマ。

アローマは武道は齧ってはいないが、それでも幼いリンクでは見えてこない視点を提示する事は出来る。

 

「それでもさー、リンクの強さも大したもんだろ。いくら何でも7歳でこの強さは中々いねーだろ」

 

フェイパが何気なく言うように彼の強さは年の割に抜けている。

元より運動神経はいい部類ではあるが、この成長速度は異常だ。

 

「だから噂になってるんでしょ。ま、リンクの活躍は聞いていて嬉しいけれどね。いくらゲルドの街とは言っても静かにしないとだめだから今日は早めに寝ましょう。アローマさんのお客さんに迷惑はかけられないわ」

 

 ゲルドの街は賑やかで不夜城とも言われる。

とはいえ宿屋のこの場所で寝る事すらできないのであれば本末転倒だ。

特に観光客を相手にし、砂漠の真ん中にある為しっかりと体を休める必要のある者が多いのだ。

砂漠を歩き慣れていない者が疲労を残したまま渡り切れるほど甘くはない。

 

騒がしいリンクやフェイパでも流石にアローマの宿屋で外から来る客がいる時に、騒ぎ立てるような真似はしない。

そんなことをすれば普段お世話になっているアローマさんの顔に泥を塗るようなものだし、母様の雷が直撃するのは目に見えている。

その威力は凄まじく、かつての族長にあやかり「ウルボザの怒り」とフェイパやリンクはひそかに呼んでいる程だ。

 

「サークサーク、気を使ってくれて。今日はもうサヴォール(お休み)」

 

「「「サークサーク!サヴォール!」」」

 

夜は更け、朝が来る。

しばらくの間アローマの宿でお世話になりながら。各々が演奏会の練習や訓練、一部が嫌々ながら勉強に明け暮れていた。

そしてある日の事―

 

「くぁー!疲れたなぁ!やっぱ勉強なんて嫌いだぜ。ま、今日ぐらいは頑張るかぁー!」

 

 珍しくあのフェイパが勉強にやる気を出している。

今日は彼女達の両親が旅先から帰ってくる予定なのだ。

いくら慣れているとはいえこればかりは待ち遠しいものだ。

こんな日ぐらい頑張っている姿を見せたいのだ。

 

「今日は絶好調ね!いい音が響いてるわ」

 

普段落ち着いてるスルバでも高揚を抑えられない。

両親が帰って来るのが待ち遠しい様だ。

 

「姉ちゃん達、僕の訓練も終わったよ!そろそろ料理の準備をしよう!」

 

帰ってくる2人を歓迎しようとフェイパとリンクの3人で料理を作り労う準備もばっちりだ。

味付けはアローマにみて貰っているので問題ない。

3人はまだかまだかと両親の帰りを待っていた。

 

――

 

 すっかりと日が暮れ、一気に冷え込んできた。

おかしい、いつもならとっくに二人揃って帰ってきてる時間だ。

この日の為に用意した料理もすっかりと冷え切ってしまった。

 

時間が過ぎるにつれ、それ以上に姉達の様子がおかしくなってゆく。

客商売である為、相手の気持ちに聡い大人のアローマやオルイルのみならず、まだ小さいリンクにもそれだけはわかった。

 

きっと予定が伸びたんだよ、帰ってきたら3人とも起こしてあげるから明日にしなとアローマに促されHotel Oasisへと戻る3人。

結局、その日のうちにメルエナ達が戻ることは無かった―

 

帰ってくるはずのメルエナ達が戻ってこない。

どこから聞きつけたか、族長のルージュが何人かの兵士を集めて捜索を行ってくれた。

彼女曰く必要な物資が届かないのはゲルド族にとっても看過は出来ぬし、何より仲間の為に動かずして何が族長だとのことだ。

 

何日にも渡って広大なゲルド砂漠を越え、ハイラルの捜索が行われた。

外から帰って来たゲルド族にもメルエナ達を見ていないか聞いてみた。

 

多くの仲間による捜査の結果、彼女達の荷物を入れたバッグだけが見つかった。

馬と呼ぶには大きすぎる蹄の痕、巨大な剣で引きちぎられたカバンに赤黒く変色した大きなシミを残して…

 

ルージュの口から街の中で待つしかできない3人に「メルエナ夫妻は天に登り神になった」と告げられた。

ゲルドでこの言葉の持つ意味、それは――。

 

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