ゼルダの伝説 蒼炎の勇導石   作:ちょっと通ります

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第30話 涙の雨と怒りの雷

 族長の寝室

 

 ルージュの寝室に着いた一行。

室内では、ベッドの上で彼女がうなされている、まだ意識が戻らないようだ。

心なしか刻まれた紋章が濃くなっている気がする。

 

「イグレッタ、リンク、解呪の準備に入ってくれ。必要なものはあるか?」

 

「必要なものは全て揃ってます、ただ楽器を弾ける者と踊りが得意な者がいるとより成功率が上がるとも聞いております」

 

 ビューラは考える。道具ならすぐにでも用意できるが、得意な者といわれても基準が曖昧で選ぶのが難しい。

 

 そう考えている内に、街の方から美しい音色が聞こえて来た。

ゲルドの宮殿は砂漠の中にある石造りの建物だ。

 

 暑い場所でもあるので、風通しの良い造りとなっている。

その為、外からの音色が届いたのだ。

ちなみに寝室を出ればすぐに街を一望できる造りとなっている。

 

「あれは…姉ちゃん達だ!」

 

 リンクが外を眺めていると、スルバの演奏に合わせて、フェイパが踊っている。

2人ともとても活き活きとしている。

 

「…仕方がない。2人をここへ、探しに行く時間が惜しい」

 

 ルージュを助けるためにも、時間にはあまり余裕はない。

本来ならば子供にこんな事をさせたくはないが、贅沢を言える状況ではないのだ。

 

 

「リンク!帰って来たんだな!」

 

「なんだかよくわからないまま連れて来られたのだけど…何か御用でしょうか?」

 

 フェイパはともかくとしてスルバは警戒した。

演奏していたらいきなり宮殿に連れて来られたのだ、どんな状況なのか知る必要がある。

 

「端的に説明する。リンクが持ってきた紙に書かれている曲に合わせて踊ってくれ、振り付けも書いてある」

 

 ビューラは彼女達がするべき事のみを伝えた。

下手に事の次第を詳しく話して、悪意ある者に目を付けられる訳にはいかないからだ。

 

「…何だかよくわからねえけどこれを踊ればいいんだな?」

 

「…わざわざ指定するという事はそれなりの理由がありそうね…フェイパ、踊りの方は任せたわ」

 

 流石にこの反応をされればフェイパも感づく、スルバも同様だろう。

頷いた後、2人は紙を読み込んでゆく。

 

 その間にリンク達が着々と部屋にまじないの準備を整えていった。

仕方の無い事とはいえ、族長の寝室に塗料を使って絵柄を書いてゆくのにはビューラは顔を顰めたが。

人形を傍に置き、最後にルージュに腕輪をはめることで仕掛けは全て終えることが出来た。

 

「…良し、これで準備は整った。演奏と舞踊の方は大丈夫かい?」

 

「アタイは大丈夫だ、スルバは行けるか?」

 

「…何とかね、完璧に仕上げる猶予はなさそうだし」

 

(彼女達の協力無しでもお助けできるのなら、それに越したことは無い。だがもしもの事があってはならない以上、手を抜くことはあってはならない。アタイの見立てではルージュ様の命に係るものだしな)

 

「―頼んだよ、始めておくれ」

 

 その言葉にスルバが頷き、前奏を始める。

それに合わせフェイパが舞い、イグレッタは歌を歌う。

 

わが歌が いざなう 数千の雨粒は

私のナミダ

大地に とどろく カミナリは

私の怒りなり

 

 儀式、まさにそう呼ぶのに相応しい、不穏な空気が辺りを支配した。

外は雨雲がどこから来たのか覆い始め、大量の雨を降らせ雷光と共に辺りに衝撃をもたらす。

砂漠の街にはまずありえない光景だ。

 

 そしてそれ以上に不気味な事に、まだ昼だというのに部屋は暗く、全身を虫がへばり付く様な気味の悪い感触だ。

 

「―う…あ…ア…!」

 

 実際に呪いを受けているルージュは一際影響が強いように見える。

その額には脂汗が滲み、身体の痙攣が止まらない。

 

 部屋に描かれた陣は赤黒く点滅を繰り返し、周りには円を描くように見たこともない文字が青い炎と共に浮かび上がる。

 

 それと共に段々と空気中からルージュに流れていく黒い靄が現れて来た、陣に阻まれ次第に流れる量が少なくなっているのがわかる。

 

 それを防ぐかのように儀式をしている3人に纏わりつく。

少し、歌声が掠れ演奏も踊りも精細を欠いたものになった気がする。

 

(なんだこれ…?体が重くて肌がひりつく…)

 

(音が沈んでゆく…、音を響かせたくないという事かしら?)

 

 更に傍に置かれた人形に異変が起きた。

少なくなった靄を集め、赤みを帯びた点滅を繰り返しどんどん膨らんでゆくのである。

反対にルージュに刻まれた模様は、栄養を奪われるように縮んでは元に戻る挙動を繰り返す。

 

 その様は生き物の鼓動のようであった。

 

(ルージュ様…)

 

 ビューラはここにいる誰よりもルージュとの付き合いが長く、そして深い。

にもかかわらず、この場で彼女の為に出来ることが何もないのが辛かった。

 

 幼くして母を亡くしているルージュにとってビューラは育ての母といってもいい。

ビューラにとってもルージュはただ尽くすべき族長というだけでなく、娘の様に案じる相手といえる。

 

(…何だか、悲しくなるなぁ…)

 

 帰って来てリンクはイーガ団の呪いを見た時、今の重苦しい空気にこんな感情を抱いた。

彼はカカリコ村で彼らの動機を知った。

 

 共に戦い、信じた者に唯一裏切られ、追放されたシーカー族。

この辛さはわからなくはない、怒るのもわかる。

 

 だからといって全くの無関係なゲルドにまで危害を加える程全てを憎しみ、恨むようになってしまった事が悲しかった。

 

 段々と模様は小さくなり、黒く弱くなってゆく。

それに反比例するが如くルージュは更に苦しみだす。

 

「グ…ガァア!!ギャ…ァアア…!」

 

呼吸は浅く、それでいて早い。負担の大きさを表すかのように脈が怒張する。

 最後の断末魔といわんばかりに、解呪する3人とルージュは炎の中に放り込まれたかのような苦しみと痛みに晒される。

 

 それでも更に続けてゆくと、ルージュから模様が外れ耐えきれなくなったか人形が砕け散り、外れ転がった腕輪が金属特有の高い音を部屋に響かせる。

 

 やっと終わった…、ルージュの顔は汗ばんでいても先程と比べ緊張が解けたものになっていた。

 

「…終わったか。体力は使い果たしているだろうからもう少しは安静にしないとな」

 

「ルージュ様は御無事なのか…?」

 

「…おそらく問題ないでしょう。ただ、複雑に絡み合った呪いと感じました。本来ならどちらか1つだけで済むはずだったのですが、両方の手段を使わなければ助ける事は不可能でした。強さも勿論ですが、かなりリスクの高い手段を使っているのでしょう」

 

「リスク…?」

 

「人を呪わば穴二つという言葉もございます。これ程悪意に満ち溢れた呪いであれば、解除された時必ず相手に反っていきます。強さも相当ですから…恐らくしばらく動けないかと…」

 

 それ以上は伏せなければならない。

動けないどころではない筈だ、最悪の場合は―

 

 相手がどうなるかは実際に見る訳では無いが、それでも大凡見当がつく。

こんな事を小さなヴァーイ達に背負わせるわけにはいかない、それが彼女なりの気配りだった。

 

「うぅ…ここは…?」

 

「「ルージュ様!!!」」

 

ルージュが倒れ、意識を失っていたのは呪いによるものだ。

その根源が断たれたためか、ルージュが意識を取り戻す。

 

「そうか、わらわは倒れたか…。すまぬなビューラ、イグレッタ。随分と苦労を掛けた様じゃ。リンク、あれはそなたが悪い訳では無い。わらわが体調管理を怠っただけの事」

 

 彼女の手を握るビューラとイグレッタの手が震える。

良かった、族長を助ける事が出来たのだ。

 

 先程までの状況を見るに極めて殺意の高い呪いであったのは間違いない。

手を尽くせなければ、遅かれ早かれ命まで奪いとっていただろう。

 

「フェイパにもスルバにも心配かけたな、勿論カットルやマトリーにも感謝している。サークサーク」

 

 ベッドから足を地に着ける、当然視線は床に向けられる。

そこには陣が描かれ辺りを覆う荒天は物々しさを雄弁に語る。

 

「感謝のしるしに宴会でも…といいたいところだが、それを準備するのがそなた達では却って負担になってしまうな…。後日、みなに褒美を授けよう。欲しいものを決めておいてくれ。ビューラ、わらわの代役ご苦労であった。すぐにとりかかろう」

 

「ルージュ様!お倒れになられたのです!本日は絶対安静です!」

 

 皆が何を言っていると咎めるような視線で、特にビューラがルージュに言い切る。

こうなってしまっては彼女は決して譲らないし、周りも状況だけに確実に止めに入るだろう。

 

「むぅ…仕方あるまい。明日から政務に復帰するとしよう。改めて言おう、サークサーク。そしてサヴォーク(さようなら)」

 

 ルージュの言葉にそれぞれが元の場所へ帰ってゆく。

心なしか彼女達の表情は少し晴れたものになっていた。

 

 

 同時刻 某所

 

「ふむ…失敗したのね」

 

 怯える部下からの報告に顔を顰める。

まさか団員を退けるとは思ってもみなかった。

 

「まあいい、あれは優先順位はそれほど高くはないし。威力偵察と考えれば最低限の役目はできたようね。下がっていいわ」

 

 そう言って、部下を下がらせる。

部屋にいるのは自分だけだ。

次の一手を思案している時、その者の身体が赤黒い闇に包まれる。

 

「っぐぁ!…ぬううう!」

 

 呪い返し、ルージュにかけた呪いが打ち払われたことにより体を蝕む。

その者の身体にも紋章が現れる。

だがここからが先程と違った。

 

「グゥォォオオオ!!ガァァアアア!!!」

 

 獣の如き凄まじい咆哮が響いたかと思うと、紋章が外から潰されるように急速に萎んでゆく。

解呪という丁寧なものでは無く力で踏み越え、打ち砕くような感じだ。

 

「…驚いたわ。あれ程強力な呪いすら解いたのね。あの方が目を付けるだけのことはあるわ」

 

――

 




節目の一つである
30話に到達しました、いつもご愛読くださりありがとうございます。

今回のルージュの呪い
解除法として嵐の歌をアレンジしてみました。
ムジュラの仮面では実際に呪いを解除出来ます。

カカリコ村から嵐の歌とイーガ団分裂の際、彫り込まれた涙の雨。
かつてのゲルドの族長ウルボザから怒りの雷を組み込ませていただきました。

これからもよろしくお願いします。
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