ゼルダの伝説 蒼炎の勇導石   作:ちょっと通ります

31 / 80
第4章 ゲルド族最強を目指して
第31話 焦りの強さ


 1年後 ゲルドの街 宮殿

 

「そこまで!リンクの勝ちだ!」

 

「本当に強くなったのう。見事なものじゃ」

 

「サークサーク!」

 

 カカリコ村までの遠征を乗り越えてから1年が過ぎた。

特にリンクにとっては更なる躍進を遂げるに十分な歳月であった。

 

 まず、身体の成長により基本的な能力が伸びた。

身体能力に関しては7歳と8歳では雲泥の差がある。

 

 カカリコ村でのイーガ団員との死闘は、更なる上の領域へと彼を押し上げた。

訓練も大切だが、実戦は更に腕を磨くまたとない機会であり、緊張感が違う。

それが命すらかかる状況ならなおの事である。

 

 かつては押されていたルージュにも勝ち星が増えていき、勝ち越せるようになってきた。

次の目標はビューラを倒す事である、それは武道に置いてゲルド族の頂点に立つことも意味する。

持つ意味も相応に大きいものだろう。

 

現に、勝てはしないものの幾らか肉薄できるようにはなって来た。

強ち無謀な目標ではない。

 

「ビューラ様!次の相手をお願いしてもよろしいでしょうか!?」

 

 だがしかしリンクの内心は穏やかでは無く、それが何故なのかもわからなかった。

 

「…済まないがこれから打ち合わせが入っている。相手をすることが出来ん」

 

「…わかりました!次の機会にお願いします!」

 

 そう言って訓練に戻るリンク。

今度は一人で複数人を相手にする様だ。

魔物達との戦闘においては1対1になることの方が珍しい、そしてその危険性も段違いだ。

故にこの戦闘の必要性を彼は理解していた。

 

(―私も覚悟を決めねばなるまい)

 

 

 宮殿側 路地裏

 

「ハァハァ…、リムーバさん、サヴァサーヴァ!今日も特訓お願いします!」

 

 訓練が終わると直ぐにリムーバの所へ駆け込み、更なる修練を積む。

それがリンクの習慣になっていた。

強くなりたいから、そして大切な人達を守りたいから。

 

「おやリンクじゃないか、サヴァサーヴァ。まずは一休みしな。そんな状態では怪我するだけだよ」

 

 返事は聞いていないと言わんばかりに、リムーバは日よけのある隣に座るように促す。

若干不満の表情を浮かべたが、体力が回復していない状態ではまともに訓練が出来ない事も知っている為、その指示に従う。

 

(荒れておるのう…。強くなりたいのはわかる、それもすぐに、だな…)

 

 亀の甲より年の劫というべきか、彼女にはリンクが未だわかっていない精神状態をある程度把握していた。

 

(理由は恐らく衰えじゃろう)

 

 彼女はかつてゲルド族の兵士だった。

年齢故の引退をしているだけに兵士達の事なら今でも大抵わかるのだ。

 

 リンクは確かに成長している、しかしビューラはどうだろう。

如何に才能が有り鍛錬を積んだとしても、加齢による衰えまでは誤魔化せない。

 

 ビューラは先代の族長の頃から御付きの重責と街の政務の一端を担っている。

それでもゲルド族最強であること自体、相当に過酷であったはずだ。

兵士達はそれがどれ程凄い事かを知っているからこそ、絶大な信頼と尊敬を集めている。

 

(できる事なら、すぐにでも強くしてあげたい。しかし、そんな都合のよいものなど無い。あったならとっくに教えている)

 

 恐らく無自覚の内にビューラの衰えを察知しているのだろう。

なまじ実力と才がある故にそこだけを見抜くことが出来た。

 

(その一方で己の本心を理解できておらぬ。どうしたものかのう…)

 

 恐らく自分が何もせずともリンクは数年のうちにビューラを超える。

だがそれでは意味が無い。

その間にビューラのピークは完全に過ぎてしまうだろう。

彼女が弱くなったから勝てた、それが事実のものになってしまうからだ。

 

 衰退した最強に勝っても意味がない。誰もが認める強いビューラに勝ちたいのだ。

だから焦る、それに気が付いていない。

その機会が永遠に失われてしまう事を本能で漠然としか理解していないのだ。

 

「今日の訓練は瞑想じゃ」

 

 彼女は決断した。

本当の意味でゲルドの失われた武術を突き止めると。

 

「リムーバさん!?しかし―」

 

「リンク、残念じゃがすぐに強くなる方法など私は知らぬよ。じゃが私の追い求める武術の中に新たな発見があるかもしれん」

 

食い下がるリンクに、被せる様にリムーバは答えた。

 

「できる限り危険が及ばない様、慎重に教えてきたつもりじゃ。お主が望むのならば、これからは過酷な方法も視野に入れて探してみよう。それに加えておぬし自身が気づかないといけない事もある。己を見つめよ」

 

「はい!」

 

 リムーバの正直な答えにリンクは納得した。

彼女の下で修業してわかったが、その指導は的確だ。

長年兵士として戦ってきたからか、どうすればより効果的に鍛えることが出来るかわかるのだ。

 

 加えてこちらの心境を正確に見抜いて来る。

下手な誤魔化しは通用しないし、今の不安定な状態では碌な事にならないのも理解していた。

 

(―不思議だ。今までも瞑想はした事があるのに、違和感しか覚えない…)

 

 同じ内容でも視点や捉え方によって実感は変わって来る。

言葉ではわかったつもりでも、それを改めて知ることになったリンクであった。

 

 

 リンクの家

 

「ただいまー!今日も疲れたー!」

 

 家に帰ると途端に砕けた口調に戻るリンク。

基本的には護衛の依頼相手であったり、訓練をしてくれるビューラやリムーバの様な師と話すことが多い分、本来の姿を出せる貴重な時間でもあるのだ。

 

「お帰り、リンク。まずは体を洗っておいで」

 

「お帰りリンク!アタイが洗ってやろうか!?遠慮するなって」

 

「えー、それって姉ちゃんが洗いたいだけじゃないの?」

 

「うむ、そうとも言う。という訳で洗ってくるわ。スルバ、飯の方は頼む」

 

 返事は聞いてないと言わんばかりにリンクの手を引っ張り奥へ行く。

それからしばらく経ち、2人が帰って来る。

その間にスルバが慣れた手つきで食卓に料理を並べていった。

 

「あー、お腹空いたー!あっ、これカチコチ肉詰めカボチャだ!久々に食べてみたかったんだ!」

 

 スルバはリンクが持ち帰ったレシピを再現をする事に力を入れている。

彼女自身どちらかというと家庭料理の方が作るのが得意なようだ。

各々が好みの味になるようにあーでもないこーでもないと会話に花を咲かせている。

 

 身体を動かした後のリンクには、汗で流れた塩分を補給する意味もあり岩塩を少しだけ隠し味で忍ばせてある。

中に詰められたケモノ肉の味を引き立てると同時にカボチャ特有の甘みを思う存分堪能できた。

ハイラル米を食べるペースもどんどん上がってゆく。

時折、ポカポカダケで作ったキノコの串焼きを豪快に頬張っている。

 

「ふぅー、御馳走様でした!美味しかった」

 

「お粗末様でした、カカリコ村の料理もいいものね。この落ち着く味は私も好きよ?」

 

「アタイも珍しい味付けで結構楽しんでいるぜ。しっかしレパートリー増えたなー」

 

「フェイパも料理してみたら?なかなか楽しいわよ?」

 

「うーん、スルバの料理と比べるとどうもマズイんだよなぁー…。そろそろ舞踏会の準備をしなくちゃいけないしさ」

 

 料理上手なスルバと比較してしまう為、美味しく感じないのだろう。

あまり乗り気では無い様だ。

 

「まったく…、呆れた。そう言えばリンク、最近嫌な事でもあった?」

 

「え?突然何?スルバ姉ちゃん」

 

「あ、スルバも思ったか!上手くは言えないけど焦り?みたいなの感じるぞ?」

 

 姉達にそこまで言われると流石にリンクも考えざるを得ない。

彼自身もこの不安定な気持ちを何とかしたいと思い、迷いながらも口を開く。

 

「…何だかよくわかんないけど、すぐに強くなりたいんだ…。強くなりたいと思ったことは今迄もあったけど、上手くいかない時ここまで不快に思う事が無かったのに…」

 

 そう弱音を吐く彼の姿は、泣きそうな子供のようだった。

音楽や舞踊に打ち込む彼女達だって上手くいかなくてイライラしたり、不安定になる時はある。

だからその気持ちはわかるし、何とかしてあげたいとも思う。

 

「そうね…、強くなる方法に関してはわからないけれど、すぐにって所にヒントがありそうだわ。そこから考えてみましょう」

 

「うーん、アタイがすぐ上手くなりたいって思う時は発表する時とかだな。待ってくれない状況だとどうしても不安になりやすいんだよ」

 

 流石だ、隠しているつもりでも姉2人にはお見通しだったらしい。

それでいて彼女達の言葉はストンと心に落ちる。

確かに、焦ってはいたし不安でもあった。

後はそれが何なのかだ、先程の言葉から時間に関係がありそうな気がする。

 

「スルバ姉ちゃん、フェイパ姉ちゃん。サークサーク。何だか少しだけ不安が晴れて来たよ。もう寝るね?ちょっと気持ちを落ち着けたいんだ、サヴォール」

 

 色々と張り詰めていたのだろう。

気持ちを落ち着け整理するため、早めに就寝する。

 

「ええ、サヴォール。リンク」

 

「サヴォール、リンク」

 

「…寝ちゃった。さてこっちもやる事やらないとね。あの曲を完成させないと」

 

「マジでやるのかよ?いくらまだ時間あると言っても演奏会の為に新曲作るのか?カッシーワさんの力も借りずに?」

 

「だからこそよ、去年リンクは参加できなかった。せめて私にできる事をしてあげなきゃ」

 

「わかったよ、アタイにも手伝えることがあったら言ってくれ。リンクもだけどスルバだって心配なんだからな」

 

「サークサーク、あなたもね。舞踊の練習とか手伝えることがあったら遠慮しないでね。それじゃあ、サヴォール」

 

「サヴォール」

 

 

 宮殿

 

「ルージュ様、夜分にすみません。チーク、呼び出して済まなかったな」

 

「よい。武に生き、ずっと支えてくれた他ならぬそなたの頼みじゃ。大体の事はわかっておるよ」

 

「そんな恐れ多いです、ビューラ様。それで本日はどのようなご要件でしょうか?」

 

「大きく分けて2つある、1つは私の修行に付き合って欲しい。もう1つは―

 

 

「―なるほどな、改めて言われてみると感慨深いものよのう…。チーク、お主は出来るのか?」

 

「…すぐに返答は出来かねます。ルージュ様達と比べれば大したことではないかもしれませんが、それでも即決できるほど小さい内容でもありません。周りが納得するのかという面も含めて慎重にいかなければならないからです」

 

「ビューラよ、本当に良いのか?リンクの事を気にかけておるのはわかっておるぞ」

 

「だからこそです。近いうちに私の実力は誤魔化せない程に衰えてゆくでしょう。いえ、ルージュ様もご存じの様にもう衰えがかなり来ています。私との戦いで勝負になっているのは私はもう全力を出せないから…そんな印象しか与えられない様では戦士として失格です」

 

ビューラの握る槍に力が入る。

思い返せばあっという間であった、だがそれだけ充実した時間とも言い変えられる。

 

「兵士達にそんな歪な成長をさせてはならない、心に蟠りを残すことなど言語道断です。私は近いうちにリンクと御前試合を行うつもりです、自分の全てをこの一戦に懸けたいのです」

 

「…それでしたら時間が惜しいです。早速訓練に入りましょう!胸を借りるつもりで御相手致します!」

 

「サークサーク。本気で来るのだ、これは私だけでなくお前への特訓でもある!」

 

 夜の宮殿に音が響く、激しい特訓が兵士をより強くするのだ。

強すぎた御付きはいずれ残される者の為に、その背中に憧れた隊長はビューラの意志を継ぐために―

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。