ゼルダの伝説 蒼炎の勇導石   作:ちょっと通ります

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第33話 姉の逆鱗

 ゲルドの街 路地裏

 

「おや、今日は早いね。訓練の時間じゃないのかい?」

 

 リムーバはのんびりとした口調で話しかけるが、目が笑っていない。

訓練を抜け出すなど兵士としてもっての外だと考えているからだ。

 

「…リムーバさん。来週、ビューラ様と御前試合をすることになりました。それまでの間自由にして良いと了承も得ています」

 

「…なるほど、時間が惜しいな。仕方がない、では行こうかねえ…―修練場へ」

 

 一瞬であったが、彼女の視線が鷹の様に鋭く光った様に見えた。

修練場 初めて聞く。

このゲルドの街にそんな場所があったとは…

 

「こっちだよ、武器ならそこにいくらでもあるからその都度補充していくんだね」

 

 彼女に連れられて裏路地のさらに奥へ進むと、地下へと続く階段が現れた。

降りてゆくと薄暗く、開けた空間が広がっている。

 

 中央のせりあがった場所には人が立てる程度の円が描かれており、隅の方にはゲルドの武器がこれでもかという程積み置かれている。

 

「最後にもう一度だけ聞く、非常に危険な特訓だよ。確実に怪我をする…それでもやるかい?できる事ならこれはやめて欲しいのだけどね」

 

 

「勿論です、お願いします!」

 

「そうか…では説明する。…そこの中心に立て」

 

そう促されてリンクは円の中心に立つ。

 

「簡単だ、飛んでくる木をすべて剣で跳ね返せ。それだけだよ」

 

 そういうと同時に、一斉に丸太が飛んでくる。

上から、下から、右から、左から…それだけだが…

 

(数が多すぎる!)

 

 リンクはその剣捌きでいくつも弾き飛ばす。

元々リンクの剣速はかなり早い―が、それでもあらゆるところから何重にもなって飛んでくる丸太は捌ききれない。

 

 あらゆる所からリンクに襲いかかった。

一回当たるともうそこから次々と丸太が彼を打ちのめす。

腹に、背に、足に、顔に打撲が増え、至る所から血が流れる。

 

(私もこの修練を潜り抜けられなかった…やはりそんな簡単に身に付くものでは無いか)

 

 無謀なのは承知の上だ、恐らくはこの試練に対する回答を身に付けた上で挑むものな筈だ。

失われてしまった武術になってしまった以上、求められるハードルは相応に上がっている。

 

(本当にこれでいいのだろうか?いくら本人が望んだとは言ってもリスクが大きすぎる)

 

何はともあれ今日はこれ以上この修練を続けるのは無理だ。

丸太を止めて、リンクを運ぶ。

 

「リンク…本当に続けるか?今ならまだ引き返せる…。これは文字通り命懸けの修練だ。下手をしなくても大怪我をするのは目に見えておる」

 

 リンクは強い、力も意志も。

しかしながら童だ。

仮に自分で決めていたとしても、他にも選択肢があると伝えねばならない。

それが大人としての責任だ。

 

「決まっています。私は退きません」

 

ためらいもなく、リンクは答える。

 

「ビューラ様と御前試合を約束しました。ビューラ様の事です、それこそ一切の妥協なくこれに臨むでしょう」

 

 それについてはリムーバもそう思う、ビューラが戦の場において妥協などするはずが無い。

戦士としての面構えで彼は続ける。

 

「加えてこの不安定な精神です。正確には捉えきれませんでしたが、恐らくこの機会を逃せばずっと不安に苛まれる…そんな気がするんです」

 

 そちらについてもその通りだろう。

リンクの不安はビューラの衰えから来るものだ。

いくら強くなろうとも過去に戻って戦う事が出来る訳では無いのだ。

 

「全てを捧げると仰りました…。私はこれまでも、恐らくこれからも沢山の人にお世話になるでしょう。それでも武術における初めての師は間違いなくビューラ様です。ならば私も全てをもってあたりたいのです」

 

 師匠が師匠なら、弟子も弟子だ。

こういうところはそっくりに映る。だがそれが心地よくも思えた。

 

(ビューラ、お互いに大した弟子を持ったな…。私は嬉しく思うよ…)

 

「わかったよ、でも今日の修練はこれで終わりだ。また明日、体力が回復次第取りかかろう」

 

 彼女の言う通りだ、スナザラシラリーの疲労に傷だらけの身体。

こんな状態で且つ手探りで古武術の復活など出来ると思うのか。

更なる力を得ることが出来るだろうか。

ならば少しでも身体を休ませ、せめて体調くらいは整えさせるべきだろう。

 

 私にできる事…弟子の強すぎる意気込みに応えるためにも、自分は冷静であらねばならない。

熱くなり過ぎず、しかし抑えすぎてもいけない。

この線引きが大切なのだ。

 

「せめて家族の方には話を通さねばなるまい。これは大人として最低限のけじめだ。リンク、それでもいいかい?」

 

リムーバの言葉に頷くリンク。

いくら特訓だからといっていきなり怪我だらけで帰って来られては納得する訳が無い。

 

 

 リンクの家

 

「おっ、リンクお帰り…ってどうしたんだ!?傷だらけじゃねえか!?」

 

 出迎えるフェイパが血相を変えてリンクに駆け寄る。

顔にも腹にも足にも痣があり、至る所に手当の跡があっては当然の反応だろう。

 

「どうしたのフェイパ?大声をあげて…リンク!」

 

 フェイパの声に反応し近づいてきたスルバも駆けてくる。

朝送り出した弟が傷だらけになって帰って来たのだ。

反応が無い方が可笑しい。

 

「すまないね、お嬢ちゃん達。私はリムーバ。何があったか説明させてはくれないかい?」

 

「…まずはリンクを安静に。その後にお願いできますか?」

 

「勿論だ、応急手当はしっかりしたけど安静にしておいた方がいいからね」

 

 こういう時には冷静に対応できるスルバが話を聞き、フェイパはリンクをベッドに寝かしつける。

しばらくしてフェイパが戻って来た頃、リムーバがリンクに何があったか説明を始めた。

 

「まず、来週にリンクとビューラが御前試合をするそうだ。これはリンク自身がビューラから聞いたからまず間違いないだろう」

 

 御前試合―それが事実としたら紛れもなく名誉な事である。

加えておぼろげではあるが、何があったか理解もできた。

その特訓で怪我だらけになってなったという事だろう。

 

「この試合に全力を注ぎたいんだろうね。わざわざ私の所まで来て、特訓を付けて欲しいと言いに来たのさ…」

 

「それじゃ、アンタが無茶な訓練をさせてリンクを怪我させたのか!!?」

 

 我慢できなかった。

母様も父様も失った彼女にとってスルバとリンクは大切な家族だ。

絶対に失いたくない、あんな思いはもうたくさんだ。

背負わせたくもない、スルバにもリンクにも。

 

「…否定はしないさ。確かにあの修練は非常に過酷なものであったし、無謀なものでもあった」

 

「―!なら!!!」

 

「フェイパ」

 

 スルバが止める、これは駄目だ。

私ですら腸が煮えくり返る内容だ。

私以上に激情的なフェイパが抑えきれる訳がない。

 

「―リンクは通常の訓練以外に練習もしていました。その相手があなたですね?」

 

 だからこそ私は理性的にならねばならない。

今言った事は事実だろうが、それは一部であろう。

腑に落ちない所がある。

 

「ああその通りだよ。私にも伝えられる、できる事があると思ってね」

 

 リンクがゲルドの兵士達以外にも教えを受けている事は知っていた。

宮殿以外で1年も訓練を続けていれば身内がわからない筈が無いからだ。

 

でもそれが怪しい人かどうかは私ではわからない。

だからこそそれとなく、信頼できる隊長のチークさんに尋ねたことがあった。

 

「リムーバさん?ああ、その人なら大丈夫だよ。元々ゲルドの兵士だった人でね、私もお世話になった人さ。その知識と指導は私が保証するよ」

 

 チークさんは隊長として多くの兵を束ねている。

それだけに兵士達の事についてはかなり詳しい、そんな人が一目置く人だ。

リムーバさんの人となりはわからないけれど、ずっと見て来た彼女が断言するのなら、悪い人ではないのだろう。

 

「ここの所、リンクの様子は少しおかしかったです。何というか焦っている…そんな気がしました。それと関係があるんですよね?」

 

「焦り…その通りだよ。リンクは焦っていた、でもその原因はビューラだ。だからこそリンクには思うようにコントロールできないのさ」

 

 焦っているのはわかっていた、でもそこまで見通せはしなかった。

それはリンク自身にコントロールできる根幹では無かったという事。

 

「ビューラは戦士としては既にかなりの高齢だ。どうしたって衰えは避けられない…それを察知してしまったんだろうね。いつかビューラを超える時が来たとしても、それは彼女が衰えたからと結論付けてしまうし、リンクの心は晴れないだろう。そんな解消できない心残りに焦っている」

 

 

 彼女の言葉に熱がこもる、自分の事のように。

 

「だからこそ、すぐにでも強くなりたいのだろうね。制止を振り切って…危険を承知で激し過ぎるほどの修練に望みを懸けたのだから。相手が弱くなったからではなく、自分が強くなったからと信じられるように」

 

「…あなたの言いたいことは分かりました。リンクと真剣に話し合いをする必要がありそうです。それでもリンクが続けるというのなら、お願いがあります。これでもかというぐらい安全に注意して、修練出来る様にして下さい」

 

「スルバ!?」

 

 スルバからの思いがけない一言にフェイパは悲鳴のような声で返す。

 

「リンクの意志を信じましょう。あの子はやると決めたら絶対に折れないし曲げないわ」

 

「…~!!!アタイは絶対に認めないからな!リンクが傷つくことなんて許せるもんか!」

 

 そう言ってフェイパは奥へ引っ込んでしまった。

本当は分かっている。

傷ついて欲しくもないし、心に影を落として欲しくもない。

 

フェイパにだって心残りになって欲しくないから修練を続けて欲しいという考えが。

スルバにだってリンクが傷ついて欲しくないから修練を辞めて欲しいという考えが。

 

「すみません、フェイパが失礼をしました。ほとぼりが冷めた頃に話をしてみます」

 

「いや、こちらこそ軽率だった。すまなかったね」

 

そう言って頭を下げ、お詫びの品としてマックスドリアンを3つ渡す。

受け取ったスルバの表情は何とも複雑なものだった。

 

「…1つよろしいでしょうか?何故リンクにそんな無茶な修練の存在を明かしたのですか?」

 

 スルバの言う通りだ、そもそも存在を知らなければ彼はここまでの怪我をすることは無かったのだから。

それに対し、リムーバは神妙な面持ちで答える。

 

「理由は2つだ、1つは私の特訓すらリンクは納得できない程に荒れていたのさ。もう1つそれは私自身の体験さ。私もかつては兵士でね、今回の事みたいなことがあったのさ…あの時の事を今でも引きずっている…」

 

 弱弱しい…、そう思わせるぐらいにリムーバの表情は暗かった。

もしリンクが同じ道を歩んでしまったら―それ以上は考えたくもなかったのだろう。

 

「私自身はともかく相手に蟠りを残したことだけは許せなかった…。彼女は全力で応えてくれたのに全てを捧げることが出来なかったのさ…失礼にも程がある」

 

そう言って、彼女は外を眺める。

夜空には星が瞬かず、雲に覆われている。

 

「ビューラは強い、先代の族長の頃から、若すぎるぐらいの時からずっと御付きとしてゲルド戦士の頂点に君臨している。その傍らで、兵士達の指導と訓練、若すぎたルージュ様の為に、政務までこなしている」

 

加えて要衝である宮殿の警備までこなしている。

この条件で倒れずにいられるのが不思議なくらいだ。

 

「それがどれ程困難で、凄い事なのかゲルドの兵士で知らない者は1人もいない…。それはリンクも例外ではないのさ、彼女を師と仰ぎ尊敬している。その彼女との御前試合だ。絶対に妥協は許したくない…あの子の中でそれだけの価値があるという事なんだろうね」

 

「―リムーバさん、リンクはまだ子供です。年を考えれば…いえもしかしたら私よりもよほど大人かも知れません。それでも子供なんです、あれだけの傷やリムーバさんが仰るような心の影なんて背負うべきではないんです」

 

「その通りだね、だからこそ私たち大人が代われるところぐらいは背負おうじゃないか。もう1人のお姉さんにも悪いことをしたね、すまなかったと伝えてはくれないかい?」

 

そう言って頭を下げ、長いこと失礼したねと去っていった。

 

スルバが一息ついた後、リンクのいる寝室に様子を見に行く。

そこでは寝息を立てるリンクを撫でるフェイパの姿があった。

 

「…寝ちゃった?」

 

「…スルバか、さっきはすまなかったな。これだけはどうしても耐えれなかったよ…」

 

 ずっとリンクの傍にいたからか、ある程度落ち着きを取り戻したのだろう。

激しい気性とは別の優しい顔を浮かべている。

 

「いいのよ、こういうことはアタシに任せておきなさい。―ずっとリンクの傍にいてあげるあなたも間違っているとは思わないわ。リムーバさんもすまなかったと言っていた」

 

「なあスルバ、どっちが正しいんだろうな…。間違った事を言ってるとは思えない。それでもこれが正しいとも思えないんだ…」

 

「それは私も同じよ、どちらか選ぶという事はどちらかを選ばない事だもの。絶対といえるような選択肢はないわ」

 

 そう言って、お気に入りの竪琴を静かに奏でる。

気持ちの落ち着く綺麗な音色だ。

彼女はどんなに忙しくても必ず演奏する事を怠らない。

カッシーワから譲り受けた、それに恥じない演奏家になるという明確な目標を見つけたからだ。

 

「明日、リンクに聞いてみましょう。私達がどれだけ考えて動いたって、そこにリンクの意志が一切ないのは問題だわ」

 

「…そうだな、どっちを選ぶにせよ。私達にできる事はそれぞれの選択の善し悪しをしっかりと伝えるぐらいか。サークサーク、スルバ。そしてサヴォール」

 

「それぐらいかしらね。それじゃあ、サヴォール」

 

 

――

 

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