ゼルダの伝説 蒼炎の勇導石   作:ちょっと通ります

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第35話 フェイパの慟哭

 リンクの家

 

「ただいまー!」

 

「お帰り、リンク。今日は…大丈夫そうね。その顔だといい事あったのかしら?」

 

「うん!あの後だけどね、リムーバさんが危険が無いようにって専用の設備を夜通しで作ってくれたんだ!」

 

 良かった、ちゃんと私との約束を守ってくれたんだ…。

リンクの選択を尊重するとは言っても、心配は拭えないのだから。

 

「夜通しで整えるなんて凄いわね、ちゃんと使わないと駄目よ?せっかくの設備が泣いちゃうわ」

 

「勿論だよスルバ姉ちゃん。あれ?フェイパ姉ちゃんは?」

 

 普段ならば真っ先にリンクに話しかけるフェイパがいない。

それこそスルバ以上にコミュニケーションを取ろうと出迎えてくれるのに…

 

「―ああフェイパならまだ練習しているわ。もうすぐ舞踏会が始まるからね、完璧にしておきたいのよ」

 

「え!?まだ練習してるの!?」

 

「何だかんだ、好きな事には妥協しない所がそっくりよね。そろそろご飯にしたいから呼んできてもらえるかしら?」

 

 演奏会の練習をした場所にいるからとスルバに促され、広場へと向かうリンク。

 

「ハァ…ハァ…ま、まだだ…!もう一回!」

 

 そこには肩で息をし、汗で湯気が立つ程舞踊に打ち込む彼女の姿があった。

脚の痙攣は止まらず、時折せき込む。

明らかなオーバーワークだ。

 

「フェイパ姉ちゃん!」

 

「お、リンクか。帰って来たんだな…、お帰り」

 

 にこやかに笑って迎える彼女だが、膝は笑っているしふらついている。

それでも先程始めようとしていた、踊りを始めようとする。

 

「お帰りじゃないよ!こんな時間まで練習していたの!?体壊しちゃうよ!」

 

 リンクが止める様に割って近づく。

フェイパの接触して怪我させない様踊りを止める癖を知っているのだ。

 

「心配すんなって…、つい熱が入っちまってな。そろそろ切り上げるつもりだったから―」

 

 そうとう自身を追い込んでいたのだろう、バランスを崩し倒れそうになる。

 

「姉ちゃんのバカッ!」

 

 言うより早くフェイパに抱き着くリンク。

滅多に見せない彼の怒った表情が見える。

 

「僕に無茶するなっていう姉ちゃんがどうしてこんな無理してるのさ!おかしいじゃん!」

 

「…アタイにだってな、意地があるんだよ。リンクが稼いで、スルバが家事をする…。じゃあ、アタイは何なんだ…?踊ることぐらいしかできないのにさ…」

 

 意地、否これはコンプレックスだろう。

 

 スルバは料理や掃除といった家事が得意だ。

カッシーワという師の下、演奏家にして作曲家としての道を歩み始めている。

リンクに至っては今更言うまでもないだろう。

 

「今度の舞踏会はチャンスなんだ。ここで認められればアタイも踊り子になれるかも知れない。だからこそ妥協はしたくないんだ」

 

「だったら!こんな無茶しないでよ!こんなに消耗した状態でしっかりとした練習になる訳ないでしょ!」

 

 そう言って、フェイパを引っ張るリンク。

思いのほか強い力にバランスを崩すフェイパがいた。

 

 先程の踊りも疲労困憊といった様子が簡単に窺え、とても魅せられるような代物では無かった。

 

「姉ちゃんより小さい僕が引っ張るだけで崩れるんだよ!?妥協しないなら余計に休まないと駄目だ!」

 

「どうすれば良かったんだよアタイは…。スルバもリンクも支えてくれている。アタイはお前があんな無茶している時ですら何一つできやしない…」

 

 ずっと一緒だった、お互いに助け合うことが出来ると思ってた。

だが今はどうだ、どれだけ助けたくとも自分だけ蚊帳の外。

 

 どれだけ頑張っても探しても、家の内の事でも、外の事でもどこにも助けられる場所が無かった。

父様と母様に顔向けなんてできやしない。

 

「たまたま巡り合わせが良かっただけだ!フェイパ姉ちゃんの踊りだって負けないぐらい立派なものだって知ってるもん!」

 

 確かにリンクが外の治安悪化によってゲルドの兵士として特例で採用されたのも、スルバがナン達の父であるカッシーワの弟子になった事も、周りの状況から来る側面があるのは事実だろう。

 

 だからと言ってリンクの剣技やスルバの演奏に並べるほど踊りが出来るかと聞かれると、はっきりと言い返せない自分がいた。

 

「実はね、言うのはちょっと恥ずかしいけどフェイパ姉ちゃんがいたから頑張れている所もあるんだ。勿論スルバ姉ちゃんもね。兵士としての訓練は辛い時だってあるし、早起きしなきゃいけないのも大変さ。でもね、あの日決めたんだ。姉ちゃん達が悲しい思いをして欲しくない。」

 

 あの日、父様も母様も帰って来なかった。

私達ですら傷つき疲れ果てていた中でリンクは覚悟を決めた。

 

「僕の事を重荷に感じる必要なんてないんだよ。僕だって姉ちゃん達が待っているってわかっているから頑張れるんだ。それにね、フェイパ姉ちゃんに身体洗って貰ったり、頭撫でて貰うのだって好きなんだよ?」

 

 まったくこいつは…、本当に不思議で、強くて、最高のヴォーイだ。

アタイよりもよっぽど無茶して乗り越えても、自分の事なんて二の次で気を遣いやがる。

 

「…リンク」

 

「なに?フェイパ姉ちゃん」

 

「少しだけ甘えさせてくれ…、一度だけでいいからさ―」

 

 そう言ってリンクを抱きしめる。

 

 辛かった、でも言えなかった。

ただ自分が勝手に追い込んで苦しんでるだけ。

スルバもリンクも何一つ悪くないのに、そんな風に考えてしまう自分に嫌気がさす。

踊りにも支障が出てきて余計に惨めになる。

 

「―うん、いっつも僕が甘えてるからね。お安い御用だよ」

 

「サークサーク」

 

温かい…こうするのはいつぶりだろう…。

こいつの背中こんなに大きかったんだな…。

 

 父様も母様もいなくなって、周りの人から助けて貰って今は何とかなっている。

張りつめていた、折れない様必死だった。

言葉に出さないのは意地かもしれない、それでも今は弟の気遣いがとても嬉しかった―

 

 

 フェイパ姉ちゃんが震えてる、声を押し殺して。

それは初めて見る表情で、抑え込んでいたものの大きさをそして長さを教えてくれる。

 

 この1年間ずっと耐えて来たんだろう、苦しんで来たんだろう。

でもそれを言い出せずにいる程、姉ちゃんは優しくて、けれども苛まれてきたんだね。

もっと早く気付いてあげれば良かった…ごめんね

僕も余裕が無くて見失っていたのが、それで怪我だらけになっちゃったのが、決定的に追い詰める事になったのか…。

 

本当に、我儘ばかりで…せめて姉ちゃん達だけでも安心させられる様にならないとな。

 

「…リンク、もう大丈夫だ。心配かけてすまなかった」

 

 それなりに長い時間、抱き合っていた2人。

帰らないと、スルバも待っているのだから。

 

「フェイパ姉ちゃん、またこうやって…今度は僕が甘えてもいい?」

 

「いいぜ、そん時は思いっきり来いよ!飯にするぞ、スルバを待たせてるからな」

 

「うん!」

 

 スルバと2人で親の代わりをしなければと思ってた。

多分それは間違ってはいないんだろうけど、その前にアタイ達は姉弟なんだよな。

そこも忘れちゃいけなかったんだ。

 

 

 リンクの家

 

「お帰り、2人とも遅いわよ。ご飯冷めちゃうじゃない」

 

「す、すまねえスルバ。アタイがリンクを引き留めてただけなんだ。リンクは悪くねえ」

 

「なんだかいい匂いがするよ、これはピラフかな?」

 

「正解、せっかく奮発して上質なトリ肉を使ったんだから。美味しく食べないと駄目よ」

 

 上チキンピラフはこのゲルド地方の郷土料理だ。

植生が乏しく、過酷なゲルド地方で暮らす野生生物は上質な筋肉を持っている。

 

 その分だけ味や肉質もかなりのものとなっているのだ。

ただし獲物を狩る事が出来るのならの話だが。

半端な者が狩りに行けばたちまち彼らや魔物達の餌になってしまうだろう。

 

「手を洗って来なさい、温めておいたから美味しく頂けるはずよ」

 

 言うが早いか我先にと、準備をしに行く2人。

昨日とは打って変わって和気藹々とした雰囲気にようやく胸を撫で下ろす。

 

(フェイパももう大丈夫そうね…。心配させるんだから…)

 

 考えている間に帰って来る2人。

直ぐに頂きますと声が聞こえて来た。

 

「チキンピラフうめえ!馴染みの味は落ち着くなぁ」

 

「スルバ姉ちゃんお代わりお願い!」

 

「あ!ずりいぞ!アタイが先だ!」

 

「まだまだあるから、張り合わない!行儀悪いわよ!」

 

 よっぽどお腹が空いていたのだろう、どんどんかき込んでいく2人。

付け合わせに添えて置いた塩焼き山菜も見る見るうちになくなっていく。

 

 ヴォーイのリンクはともかくとして、フェイパは大丈夫なのだろうか。

確かダイエットしないとと嘆いていたのに。

 

 

「ふぅー、御馳走さんっと」

 

「御馳走様でした!」

 

「お粗末様でしたと。凄い食欲ね、それだけ練習に打ち込んでいるのかしら?」

 

「うん!まだまだ先は見えてこないけれど、裏を返せば伸びしろの大きさともとれるからね!どうなっていくか楽しみなんだ!」

 

「アタイの場合もうすぐ本番だからな、態々言うよりは見て貰った方が早いだろ」

 

「えー!?僕だってすぐなのに秘密なんてずっこい!」

 

「あれはね、本番を楽しみにしていろって意味よ。照れくさいのね」

 

「何を言ってやがる!?なんでそうなるんだよ!?」

 

「なるほど!姉ちゃんの晴れ姿、楽しみにしてるからね!あ!もうこんな時間、早く寝なくちゃ!」

 

「リンク」

 

「どうしたの?フェイパ姉ちゃん」

 

「サヴォール。あと、サークサーク」

 

「うん!サヴォール!」

 

「サヴォール」

 

 寝室へと向かうリンク。

明日も早い、修練の為にも体を休めなければ。

 

「フェイパ、もう大丈夫?」

 

「ああ、心配かけたな。もう大丈夫だ」

 

「気にする必要はないわ、私達は家族よ。あなたに助けられている事も沢山あるのよ」

 

「そうなのかなって思ってたさ。実際に家を支えてるのは2人だからな」

 

「あら、そんな一部だけで私達を判断して欲しくはないわね。そんな事は他の人にだって言わせないわ。それにね、アタシの場合だってカッシーワさんの度量が広かっただけだもの。顔も見せない相手を弟子にするなんて普通ならあり得ないわ」

 

「まったくお前らには敵わねえな。降参だ降参」

 

「正直に言うとね。アタシだって不安はあるし、どうしたらいいかわからなくなる時もあるの。でもね、私の場合アローマさん達大人に相談できる機会が多かった。カッシーワさんに手紙で相談したことも一度や二度じゃない」

 

 殆ど家事を一手に引き受けていた彼女もいきなりメルエナの様に出来た訳では無い。

料理だって洗濯だって思うようにできなくて、母の代わりなど無理だと思う時だってあった。

 

 しかしスルバの場合、買い出しなどのタイミングで大人と話をすることがあった。

ゲルド族は同族での結束が強い、厳しい砂漠の環境ではそうでもしなければ生き残ることが出来なかったからだ。

 

 スルバ達の家族の事はメルエナ夫妻の捜索でも知られている。

だからこそ出来る範囲で手を貸したり、悩みを聞く者が多かったのだ。

 

 カッシーワにしても、誠実な性格と娘達の友達という事もあり真摯に応えてくれたのが幸いであった。

 

「カッシーワさんね、『音楽の道を選ぶのならば苦難に立ち向かう強さも必要ですが、仲間と助け合うことが重要なのです』って教えてくれたのよ。その分だけ、リンクやフェイパよりも助けて貰えてたから平気だったのよ?」

 

「家事なんかの負担ばかりかけていたと思ってたけど、それが救いにもなってたんだな。助け合いや視点の違いって重要なんだな。思い知ったよ」

 

「それもそうね、私達も寝ましょう。サヴォール」

 

「だな、サヴォール。それとスルバ、サークサーク」

 

「ふふっ、今夜はよく眠れそうね」

 

「ああ、久しぶりに安らいで眠れそうだ」

 

フェイパの心の空に星が瞬いた気がした。

 

――

 

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