ゼルダの伝説 蒼炎の勇導石   作:ちょっと通ります

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第36話 古武術の復活

 3日後

 

「ハァ!デリャアァア!!」

 

(正面の次は左後ろ、それを弾いたら背中側の上段から来る!)

 

 数多の丸太を跳ね飛ばす、随分と手慣れて来たものだ。

様々な方向から飛んでくるにもかかわらず、僅かでも観察できればいつ、どこに襲いかかって来るかわかるようになってきた。

 

 空間把握能力や瞬時に優先順位を決断力がハッキリと身に着いた実感がある。

 

「うむ、見事だ。そろそろ本番と同じ数にしてみようかね。ちょっと待ってな」

 

 そう言って、吊るす数をさらに増やす。

順番に向かって来る時でも相当な数だが、すべて見えている吊るした状態だとその異常な量がはっきりと浮かび上がる。

 

(凄い数になっちゃったなぁ…。ここまで来るとちょっと自信ないよ…)

 

「一応は全部綿を詰めて置いたけど、それでもぶつかれば多少は痛みもあるだろう。厳しい時は直ぐに円の中から抜け出すんだよ」

 

 リンクが頷くのを確認してから、彼女は丸太を元の位置へと戻す。

中心へ戻ったリンクに向かって準備完了の合図を送る。

リンクもそれに手を振って応え、再び修練を開始する。

 

(数が多い、多すぎる!軌道もバラバラで回転斬りでも捌ききれない!)

 

 何本かは跳ね返したがそれでもすり抜けてきた丸太に打ち据えられる。

一度ぶつかれば後はもう袋叩きだ。

手遅れになる前に、リムーバがリンクを抱きかかえて輪の中心から抜け出した。

 

「やはり難しいか…。始めた頃と比べると随分と良くはなってるんだけどねえ」

 

 やはり無理なのか、リムーバは悩む。そもそも先程の動きだって決して悪いものでは無かった。

 

 リンクの持ち味である手数の多さや剣を振る速さは、既に信じがたい領域にある。

それこそ並みの兵士では相手にならないだろう。

 

 古武術を扱った先人たちが達人であったかもしれないとはいえ、これを遥かに超える事などありうるのだろうか。

 

(…ん?これって…)

 

 リンクが何かを見つけた。

何ということは無い、丸太を括りつけていたロープだ。

恐らくリンクの回転斬りの速さに耐えられなかったのだろう。

 

(おかしくないか?あの日、リムーバさんは全ての丸太を打ち返せと言った。新しいロープでも切れてしまう速さであの修練場のロープが耐えられるとも思えない…)

 

 言い変えると現状数が多くて捌けないのに、剣の速度が速すぎるという事。

これはどういうことなのだ、遅ければ限られた時間でできる事など限られるというのに―

 

「あ!」

 

 そうだ、まだできる方法が1つあった。

実に単調な答えではあるが、試してみる価値は大いにある。

 

「どうしたんだい?何かが見えてきたのかい!?」

 

 まさか見つけたのか。

自身がどれだけかかっても見つける事の出来なかった古武術の答えを。

自然と言葉にも熱が入る。

 

「リムーバさん、もう一度お願いします。私の答えが正しければきっとできます!」

 

「わ、わかった!」

 

 リムーバが修練の準備を進める。

千切れたロープもしっかりとした新品に取り換えていく。

一斉に襲いかかる丸太をリンクは先程よりやや緩慢に弾き出してゆく。

 

 どういうことだ、先程の速さですら迎撃に間に合わないというのに更に遅くするだと?

リムーバの疑問通り、背後からの丸太に追いつけない。

リンクはまだこちらを向いたままだ。

 

(つまり速さを抑えながら、手数を増やす。修練場にあった不自然な程の武器の数。導き出せる答えは―!!)

 

 突如背後の丸太が弾け飛ぶ。

あり得ない、リンクはこちらを向いたままだし剣だってまだ前に残っている。

一体何をやったのだ、答えが目の前にあるというのにまだ見えない。

 

 リンクの姿勢が変わりゆっくりと正体を現す。

死角になっていた左手、そこにもゲルドのナイフが握られていた。

 

 これが…失われた古武術の正体―

古代ゲルドの武術は2刀流派だったのか…

 

 その正しさを証明するかのように、右で左で次々と弾き出すリンク。

それは長い時間をかけて積み上げて来た、利き腕以外の鍛錬の成果。

やっと見つけた…私の追い求めた答え―

 

「やったあ!リムーバさん、上手くいきましたよ!」

 

 リンクが彼女の下へはしゃぎながら駆ける。

興奮しているのだろう、若干敬語が崩れている。

 

「どうしたの?リムーバさん」

 

「いや、何でもない。目にゴミでも入ったのさ…」

 

年甲斐もなく感動してしまったな、生きている間に拝めて良かった。

でもこの子にはまだ先がある。

ならば師としてやるべき事を示さねば。

 

「良く乗り越えたね、見事なものだ。だけどリンクが越えたいのはここじゃない筈だ。身に付けた技術を確かなものにする為、両方の剣を使った訓練を続けよう。両方を使った実戦は今までとは勝手が違うだろうからね」

 

 そうだ、今自分が越えたいのはビューラ様だ。

ここを間違えちゃいけない。

いくら新たな戦い方を見つけたといっても、付け焼刃なんかで敵う相手じゃないんだ。

 

「その通りですね、すぐ戦う相手を探してきます」

 

「その手間はいらないね、アタシが相手をしようじゃないか。現役じゃないからそんなに長い間戦う事は出来ないけど枯れ木も山の賑わいってやつさね」

 

「ええっ!?大丈夫なんですか?」

 

 彼だって心配もするだろう。

いくら兵士として長年の経験があるとはいえ、引退してからが長すぎる。

御前試合に臨むリンクの相手となれば現役の兵士ですらかなり限られるのだから尚更だ。

 

「だから言っただろう?長い間戦えないとね。ビューラには当日まで秘密にしたいだろう?」

 

 ゲルド2刀流は出来る限り伏せて置くべきだろう。

御前試合の前に気付かれでもしたら、情報の優位性が忽ち消えてしまう。

手の内がわかっている俄仕込みの武術でどうにかできる相手ではないのだ。

 

 試合の前から戦いは既に始まっているのだから。

 

「わかりました!よろしくお願いします!」

 

 返事より先に準備を終えるリムーバ。

その手にはゲルドの槍が握られている。

考えるまでもなく槍の名手であるビューラとの戦いを意識しての物であろう。

頭が下がるばかりだ。

 

「来るがいいリンク。痩せても枯れてもアタシだって元はゲルドの兵士さ」

 

「…では参ります!」

 

しゃがみ込み、全力で接近を試みるリンク。

それに対し、リムーバはゲルドの槍を細かく突き出してきた。

 

「うわっと!」

 

「リンク、その武術は攻撃の手数なら比類なきものだろう。だけど槍使いが相手の時は接近するのがさらに困難になるよ」

 

 その通りだ、普段使っているリンクの武器はゲルドのナイフとゲルドの盾を使ったものだ。

子供の身長に加え、槍と剣では武器そのものの長さが違う。

このリーチの差はかなり大きい、そもそも相手の攻撃範囲に入る必要が無く攻撃できるのだから。

 

 盾が使えない分だけ槍を捌くのは難しくなるのは間違いないだろう。

 

「ゲルドのナイフの様に刃が厚いものなら防御にも使えるだろうが…。それにしたって盾程じゃない。ナイフに盾の役割まで求めれば無理が生じるのも当然だ。あくまで緊急の物と思うんだね」

 

「私はリムーバさんの槍を潜り抜け攻撃できるか。リムーバさんは私が近づかない様自分の間合いで戦わせるか。駆け引きという事ですね」

 

「アイデアによってはそれ以外の部分も出てくるが、基本はそれでいいだろうね。互いに強みと弱みぐらいは理解しながら戦うものさ。相手の対策を如何にして潜り抜けるかが肝だ」

 

 そう言ってリムーバは再び大振りにならない様、突き出してくる。

想像性のある攻撃ではないが、堅実且つ取られたくない選択だ。

 

 対してリンクは細かい動きで躱しつつ軌道を見極める。

幸い複雑な攻撃では無かった為、攻撃パターンは簡単に掴めた。

利き腕側のナイフで大きく槍を流しきる。

 

 本来の形なら自分の攻撃手段でもあるナイフも相手から離れてしまい有効な選択とは言い切れないだろう。

 

しかし、今の彼には空いている方にもナイフがある。

好機到来とばかりに一気に距離を詰めるリンク。

 

「来ると思ってたさ!」

 

 胴に衝撃が走る、予想もしていなかった反撃に堪らずリンクは地面に転がる。

蹴撃―大きく弾いて出来た隙を突かれたのだ。

隙を作りだしたと思っていたらそれはリムーバの仕掛けた罠だったのだ。

 

「間合いに入れたからと言って油断するんじゃないよ!相手に誘導されている時もある!」

 

(さすがの年季だな…2刀流も見ていたとは言ってもこれだけ上手く対応できるなんて)

 

 それは自分の事をしっかりと見てくれたからこそ出来る対応。

ありがたいことだ、まだまだこの武術には改善の余地が沢山ある。

 

「まだまだこれからです!」

 

「その意気だ、だけど焦るんじゃないよ。2刀流は今までの武術とは一味違う。しっかりと使いこなすには実践に加え一つ一つの動きを確認が必須さ。さっきの動きは明らかにおかしな所があったからねえ」

 

 実戦に加え確認に明け暮れる2人。

リムーバが明らかな無茶や体力の温存を考慮したのかも知れない。

 

「リムーバさん」

 

「何だいリンク?聞きたい事があるのかな?」

 

「この古武術ってなんていう名前なんですか?」

 

「うーん、名前も残っていなかったからねえ。これを復活させたのはリンクだ、名前を付けてみたらどうだい?」

 

「私がですか?うーん、《リンクとリムーバさんの見つけた古武術》でどうですかね?」

 

「…」

 

 絶句、微妙な間が辺りを支配した。

まだ若いという事もあり語彙が少ないのが災いしたと思いたいリムーバだった。

どうやら感性も他のゲルド族とはちょっと違うみたいだ。

 

「…それは流石にやめよう。それだと名前じゃなくて武術を見つけた人の紹介じゃないか」

 

「えー、それならリムーバさんが決めて下さいよ。もっとカッコイイ名前がだという事ないです」

 

「そうだねえ…」

 

 今ではもう使われなくなった武術とは言え、れっきとしたゲルドの武術だ。

2刀流であるという事も外したくはない。

 

「―《ゲルディアナ・ドゥイ・シミター》って言うのはどうだい?」

 

「あ!ちょっとカッコイイ!どんな意味なんですか?」

 

「これはね、ゲルドの2つの剣という意味さ。ゲルドの先人達への敬意とゲルド特有の剣にあやかってみたんだよ」

 

「なるほど!確かにその方が相応しいかもしれないですね!そうしましょう」

 

「気に入ったようで何よりだよ。今日はこれまでにしよう、そろそろ帰らないとお姉さん達が心配するからね」

 

「サークサーク、いい訓練でした!それでは失礼します!」

 

 

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