ゼルダの伝説 蒼炎の勇導石   作:ちょっと通ります

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第4話 リンクの決意

 姉2人がへたり込み、泣いている。

フェイパの太陽のような笑顔は見る影もない、スルバの清水のような優しい瞳が光を失い濁ってしまっている。

 

(どうしちゃったの?なんで母様達は帰ってこないの?違う、嫌だ、姉ちゃん達のこんなに悲しくて辛そうな表情なんて誰も望んでいない。)

 

リンクにはどうすればいいかわからなかった、何とかして姉達の笑顔を取り戻したかった。

大人であるアローマやオルイルですらどう慰めればいいのかわからない。

リンクにそれを求める事など不可能といえる。

 

幼い彼にははっきりと状況を把握することはできなかった、とはいえこんなことはあっていいはずが無いという感覚はある。

 

 アローマとオルイルが宿の中へ姉達を優しく寄り添いながらつれてゆき、ルージュが捜索に協力してくれた仲間達に礼を述べ、捜査の打ち切りとより安全なルートの作成、旅の警護の強化を命令した。

 

 

 夜も更け、泣き疲れて眠ってしまった2人をベッドへと運ぶアローマとオルイル。

その表情は暗い、特に旧知の仲であるアローマにとってショックは大きいだろう。

 

友を失った悲しみは大きい、だがそれすらもこの子達のものとは比較にはならない。

ある程度人生経験を積んで慣れているという精神的な差も勿論ある、まだこの子達は子供だ。

この子達がこれから先どうやって生活していけばよいのか。

そう言った物質的な問題すら突きつけられるだろう。

 

姉達やアローマ、オルイルの表情を眺め続けていたリンク。

沈黙を貫いたまま彼は、宮殿へと足を運んだ。

 

 宮殿

 

「おや、リンクよ。今回の事は残念だったな…大した力になれず無念だ」

 

 リンクは玉座に座るルージュの下へ足を運んだ。

ルージュも今回の事件を心から悲しんでいる様だ。

 

「…ルージュ様。以前言っていた事を覚えていますか?」

 

あれだけ元気いっぱいだった童が、口調を整え一つ一つの言葉を確認する様に述べてゆく。

あれ程の事があったのだから無理もないが…。

 

「何もこんな時に来なくとも良いのにのう。―「少なくとも力だけを大切にしている様ではな」であろう?」

 

 勿論、覚えている。

ゲルドのヴォーイであるリンクは運命に翻弄されるのかも知れない。

いや、すでにされていると言ってもいいだろう

それでも、大切なものを見失って欲しくない。

ゲルド族の長として、仲間の幸福を思うのは当然の事だ。

 

「あれから考えてみました。それでもよくはわかりませんでした、でも―

姉達のあの姿を見て僕は少しだけわかった気がしました。それが正しいかを確かめたいのです」

 

そう言ってリンクは訓練場を指し示し、歩いてゆく。

その足取りと背中はこれが子供のものだろうか、歴戦の勇者のそれにしか見えない。

幼さしか残らない背丈に不釣り合いな筈の剣と盾が不思議な程しっくりと来ている。

 

「…なるほど、おぬしらしいと言えばおぬしらしい。…では見極めさせてもらうぞ。そなたの答えを」

 

ルージュも訓練場へ赴き愛用の剣と盾を持ちだし、そして構える。

静まり返った訓練場で2人が向かい合い、一礼をする。

 

「―では、参ります」

 

 先に動いたのはリンクだった。

その小柄な背から繰り出される攻撃は慣れないうちは見極めづらく、それでいて素早い。

息もつかせぬ連続攻撃がリンクの武器だった。

 

「どうした?そなたの答えはこの程度か?」

 

ルージュはこれを剣で受け止め、盾で流し、身体のこなしで躱してゆく。

小さいリンクの力では大人のルージュが力で負ける訳がない。

加えて訓練を積んできた年季が違う。

それでもルージュは違和感を覚えた。

 

(…攻撃に力と勢いが感じられないものがある。この幼さで連続攻撃に牽制とフェイントを混ぜられるのか?)

 

確かに訓練の中で牽制やフェイントを目的にしたものも存在する。

しかし、自分がこのくらいの時にできていたか、ここまでの領域に達していたかといえば否であった。

 

「今度はこちらがゆくぞ!」

 

今までの防戦から一転ルージュは反撃に出た。

 

剣による鋭い斬撃、盾による直接攻撃、防いできた盾を流してできた隙に蹴撃を放つ。

それを今度はリンクが剣で流し、盾で止め、蹴りをバク転で躱す。

 

ルージュの一連の攻撃も一流の技であったがそれを見切ってゆく。

 

 御付きのビューラは納得はしないだろうが、ルージュはもう立派なゲルドの戦士でもある。

余程の手練れが相手でない限りビューラがいなくとも自分の身を守ることぐらいたやすくできるほどに成長している。

 

(確かに攻撃の種類も増え、防御も上達しておる。だがそれはそなたの答えではないのだろう?)

 

緊迫し、拮抗した攻防だったが遂に戦況が動く。

ルージュが今までのリンクとは違うパターンにも慣れて来たのだ。

 

いくら攻撃のバリエーションが増えたとはいえまだまだ持っている攻撃手段はルージュの方が多い。

防御についても言うまでもないだろう。

加えて7歳のリンクと18近いルージュでは体力が違いすぎる。

 

次第にリンクは押され始める、少ないタイミングでしか攻撃が出来ずその攻撃もゲルド特有の丸みを帯びた盾で受け流されてしまう。

その少ないタイミングすらもルージュに支配された単調なものになっていた。

 

 しかし、それこそがリンクが狙いだった、単調なタイミングというのは相手にとってもそして自分にとっても見極めやすい。

遂に反撃のチャンスがやって来る、それはルージュが盾で完璧といっていい流し方をした時だ。

 

(!?なんじゃこれは!)

 

気づいたのは盾と剣がぶつかった時からだった。

確かに盾で防ぎながら流した。そこに剣の手ごたえが無かったのだ。

まるでこちらが防いでくるのを予想しているかのように。

 

(なんとなくかもしれない、背負ってるものもまだまだかもしれない。それでもせめて周りの人ぐらい大切にしたい!悲しい顔なんて見たくはない!)

 

盾の側面から覗くリンクの姿は戦いにおいて晒してはいけない背中が見える。

剣を軌道上に持っていこうとするが、遠心力を加えたその速さはルージュのそれを越えていた!

 

盾とぶつかった時の勢いを利用し、高速な逆回転で回り込んだ剣を突きつける―!!

 

リンクの剣が族長のルージュの臍の手前で止まった。

 

相手の反動を利用し回転しながら斬り付ける。

これが後に彼にとっても代名詞となる技 「回転斬り」の初めてである。

 

「フフッ、―参った。見せてもらったぞ、そなたの答え。族長に恥じない様訓練を積んだつもりじゃが、まさかこんなにも早くに追い抜かされるとはのう」

 

こんなに小さい童に負けたというのに不思議な程心は晴れやかだった。

彼の決意、そして答えを見届けることが出来たからだろう。

 

「…ルージュ様の助言があったからです。それに族長として色々とやらねばならない事のあるルージュ様のホンの一部に追いついただけにすぎません」

 

本当にあのリンクなのかと言いたくなるような言葉で彼は謙遜する。

兵士達と訓練をする内に目上の人への言葉遣いも覚えていたのかも知れない。

 

「謙遜なんぞしよって。まだ童なのじゃから無理に背伸びをするな。…と族長の立場からは言うが実際わらわも族長になったばかりの頃はそういう心境もあった」

 

ルージュ自身、背伸びをしていた時期があったので彼へその時の気持ちを少し零す。

 

「ルージュ様でもですか!?」

 

信じられないといった様子で返事をするリンク。

表情からも驚きが見て取れる。

 

「その通りだ、わらわは幼い頃に族長に就任した。民の生活に直結する役職でもある。皆はまだ幼い自分を気遣ってくれたがそれで済まないこともある。それが辛い事もあった。―これは秘密だぞ?他の者もいないから打ち明けたのじゃ」

 

そう言って、宮殿から外を眺めるルージュの瞳は少し寂しげだった。

奇縁とでもいうべきだろうか、彼女がこの話をした相手は2人だけである。

 

 1人は今この話を聞いている、リンクだ。

そしてもう1人の相手、それは彼と同じ名前を持つハイリアのヴォーイ。

神器 雷鳴の兜を取り戻しルージュとともにナボリスを止め、かつてメルエナを救ってくれたゲルドの街の英雄―

 

「わらわにはこの街を守る責務がある。明日また宮殿へ来るのじゃ。正式な形で伝えねばならぬことがあるのでな」

 

正式な形―それが示すものが何であるかはわからなかったが、状況が状況だ。

大切な事だという事はわかる。

 

「本日は色々と無理を聞いて頂きありがとうございます。それではサヴォール」

 

そう言って、一礼をしてから姉達の場所へ帰るリンク。

 

「…行ったか。色々と常識はずれな童じゃな。ビューラには悪いがまた訓練に付き合ってもらわねばな」

 

心持ちは晴れやかでも負けは負け。

そしてこれが実戦であった場合…自身は討たれ、ゲルド王家は崩壊する。

自分の代でゲルド族が滅亡など許されるはずが無い。

 

「かしこまりました。ルージュ様」

 

いつの間にか背後に控えていたビューラがルージュの指示に従い、スケジュールを調整する。

これも御付きの仕事の1つだ。

 

「ビューラ、情けない姿を見せてしまったな。族長失格と言えるな」

 

ルージュの振る舞いや結果は相談役としてなら問題なかっただろう。

しかし、族長としては振る舞いはともかくとして結果は悪いと言える。

 

「いえ、ルージュ様はもう立派な族長です。立ち振る舞いもその強さも。それは先代の族長様も見てきた私が断言します」

 

ビューラは先代であるルージュの母にも仕えていた。

だからこそルージュがもう1人前の族長である事も実感できるし理解もしている。

 

「生真面目かつ実直なそなたからそこまで言ってもらえるのもありがたいことじゃな。あの技はそなたが教えたのか?」

 

ルージュが気になったのは先程のリンクの技。

あのような動きは初めて見るし、事実ものすごい速さと威力を兼ね揃えていた。

そもそも比べるのが間違いではあるが、力不足なリンクが遠心力や相手の力を利用し補うのはある意味で理に適っている。

 

「いえ…あれは私が教えたものではありません。戦いにおいて相手に背を向ける動きはあり得ません。危険はあっても見返りなどないからです」

 

 しかし、あれはビューラが教えたものでは無いという。

彼女が言うように戦いの場において態々背を見せるのは危険が多すぎる。

兵士への指導も行っているビューラが教える動きではないのも納得がいく。

 

「となると自分で編み出したという訳か…見事というべきかそれとも…。さてと、明日からの仕事も訓練も沢山ある。準備をしてから眠るとするかの」

 

子供の発想は時にとんでもない事を編み出す。

そこまでならばたまにある事であると言い切れるが、実際にゲルドの街でもビューラに次ぐ自分が防げない領域となるとそうは無いだろう。

 

「お休みなさいませ、ルージュ様」

 

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