翌朝
「うーん、良く寝たなぁー」
いつもよりやや遅めの起床になってしまった。
ロマンにのめり込むのも結構だが、生活に支障が出ては問題だなぁと思うリンクであった。
既にカリーユの姿は無い、恐らく小屋へ調査に向かったのだろう。
その熱意と体力には感服するばかりだ。
「サヴォッタ、ドラグ!今日も一日お願いな!」
出発前にリンゴを食べさせ、ハテノ砦から先に進むリンク。
ここから先は整備された道で足を取られたりすることも無く快調に進んでいった。
――
―
すっかりと辺りは暗くなり、これ以上は移動が不可能かと思われた時にわずかだが明かりが見えた。
それを目指し、歩を進めてゆくと次第に強く、明るくなってゆく。
くっきりと窓から漏れる明かりだと確認できる頃には、パーヤから伝えられたハテノ村であるという事が解った。
「だ… 誰だっ!? こんな時間に 怪しすぎるぞ!」
「あ、夜分にすみません。私はリンクというものです。カカリコ村の長、パーヤ様からこちらのプルア様に会いに行って欲しいと言われまして」
「ん?もしかしてハイリア人か?ハイリア人に悪いやつはそういねえ、疑ってすまなかった。そうなのか…あの人の所とは可哀想に…。俺はタデというんだ。もう遅いし朝に向かった方がいいだろうな。だいたいのモンなら よろず屋でそろうだろうし 宿屋なら奥にあるからよ」
ハイリア人と認識し謝罪するタデ。
実際に変装していてハイリア人ではないリンクは申し訳ない気持ちになった。
そう考えている内に、宿屋を指さすタデ。
宿名は「トンプー亭」というらしい。
それ以上に気になる言葉が出てきたが、そちらに関しては口を固く閉ざしてしまいより不安を煽る。
「お気遣いいただきありがとうございます。トンプー亭に宿泊したいと思います」
「それがいいお嬢ちゃん。夜分は物騒だからな、馬に乗っているとはいえあまり出歩かないほうがいいぞ」
――
―
宿屋トンプー亭
彼に紹介された宿へと足を運ぶリンク。
夜でも燭台に明かりがともっている為、探すのには苦労はしなかった。
そんなことよりも燭台の炎が青く燃え盛っていた事が彼を驚かせる。
自分の知らない世界の広さを改めて実感するリンクであった。
「ハテノ村の宿 トンプー亭へようこそ。本日はどのような御用件でしょうか?」
看板娘である、ツキミが笑顔で応接する。
素朴ながらも美人の部類に入るだろう容姿、見た目の年齢はオルイルぐらいであろうか。
実は彼女はガンバリバッタの事件以降、男性恐怖症になっている。
器量良しな彼女は言い寄られる事が多く、それをあしらう為にガンバリバッタに囲まれて暮らすのが夢と言ってしまったのだ。
勿論、ツキミにそんな趣味は無い、大抵の女性は虫は嫌いであろう。
恋は盲目とはよく言った物で、マンサクという男がプレゼントとして100匹にも上るそれを渡したのだ。
まさに地獄絵図、トラウマにもなるだろう。
悲鳴を上げてバッタの入った箱を投げ捨ててしまったツキミ。
更なる厄災の始まりだ。
ただ嫌なだけならまだ良かった。
よりにもよってハテノ村でバッタである。
ハテノ村は米作りも盛んなのだ。
田んぼにバッタの軍勢―考えうる最悪の組み合わせと言っていい。
比較的虫に耐性のある者でもこの村でバッタは忌み嫌われると捉えて構わないだろう。
稲という稲を徹底的に食い散らかしてしまうからだ。
戦いは数、それは人と虫の間でも成り立つ。
個々の強さは村人の方が強いかも知れない。
だがバッタの圧倒的な数にはあまりにも無力だろう。
増える、増える、増える。
あれ程小さな昆虫を一匹残らず殲滅しきれるだろうか?それも稲を守りながらだ。
稲まで全滅させてしまっては元も子もない。
ハイラル米を喰らい尽くすまでバッタの侵攻は終わらない。
自分達の生命線である食料に甚大な被害が出てしまった。
流石にこれ程問題が大きくなってしまっては笑って許せる範囲を優に超えている。
言い寄る男性をあしらう為の言葉がとんでもない災いを運んできた。
この一件以降、ツキミはバッタと男性が怖くなってしまったのだ。
その為、女装していたのはリンクにとっても彼女にとっても幸運だったかもしれない。
「朝までの宿泊をお願いします」
「ありがとうございます。ふつうのベッドなら20ルピー、ふかふかのベッドなら40ルピーになります」
「ふつうのベッドでお願いします」
ふかふかのベッドは以前カラカラバザールで利用した。
ならばここは普通のベッドも利用して違いを堪能してみるのもありだろう。
それに貨幣は旅の命綱にもなりうる。
特に必要とされない時は出費を抑えるのも大切だと学んだリンクであった。
翌朝
「おはようございます。昨夜は良くお眠りになられましたか?」
ツキミの挨拶で目を覚ますリンク。
疲れもしっかりとれて準備万端だ。
「おはようございます、今日はいい天気ですね」
日が昇り明るくなったからよくわかる。
どことなく落ち着く穏やかな感じはカカリコ村によく似ている。
違いがあるとすれば、大規模な田んぼや酪農がおこなわれている所か。
大厄災の後、各種族が生き残る事に必死であった。
そんな中でもこの村は厄災の被害が少なく、食いつないでいくだけの余力があったのだ。
故に、幾らかは彼らに食料を渡せるだけの設備を作り上げたのではないかと考えられる。
そうでなくとも、生命線である食料を軽んじる事はあり得ないだろう。
「お世話になりました、またの機会によろしくお願いします」
「ありがとうございます。またのお越しを」
トンプー亭を後にしたリンク。
目指すはハテノ村の奥に存在するという、ハテノ古代研究所である。
ハテノ村は少し傾斜のある場所に作られており、奥という事は上を目指していけば良い。
ドラグに跨り頂上を目指し進んでいく。
少しずつ目的地に近づき、研究所の姿が露わになる。
(…うわぁ…。凄い場所だ…)
研究所と書いたがその姿は異質であった。
先程ハテノ村は農業が盛んな事は触れたと思う。
この研究所は農業を行うのに必要なサイロを無理やり改造し、釜土を作り、望遠鏡を置いたりやりたい放題。
極めつけは雨漏りなど知った事ではないと言わんばかりに、岩のような何かが天井を突き壊すように貫かれている点だ。
その姿は頭に突貫のつく研究所といったものだろう。
入り口の前に付いたリンク。
鬼が出るか蛇が出るか、思いっきり深呼吸した後、勢いよく扉を開いた。
ハテノ古代研究所
扉の先では、シーカー族特有の白い髪の少女と老人が書物を読んでいた。
難しそうな専門的な事が書かれている書類に専門書。
間違いなく古代遺物を研究する場所なのだろう。
書類や書物が床に散乱している所と丁寧に整頓されている場所がある。
2人の性格の違いというべきだろう。
リンクは散乱している所に立っている少女に話しかけた。
大体姉達と同じくらいの年頃だろうか、プリコ辺りとも近いように思える。
「失礼します。私はカカリコ村の長、パーヤ様から頼まれてこちらへ足を運んだリンクです。あなたがハテノ古代研究所の所長、プルア様でしょうか」
インパの姉に当たるプルアと考えて話をするリンク。
どちらもあまり該当しそうにはないが、余程の変人である事はなんとなくわかる。
それこそ自分の変装程度で満足する相手ではあるまい…そうあたりを付けて話してみたのだ。
「チェッキ―!凄い凄い!良く分かったね!アタシがハテノ古代研究所の所長プルアでーす!どう?驚いた?驚いた?チェキチェキ♪」
跳びあがり両頬を指で付くプルア。
これが…あのインパ様の姉…。
妹とは似ても似つかない性格だ。
どうしてもこんなに違うのだろう。
「えーと、女性と聞いていたのでなんとなくです…」
「堅い堅ーい!あなたはまだまだ若いんだからもっとリラックス、リラックス♪」
「チェ、チェッキ―!」
思いっきり叫んでみるリンク。
振り返ってみれば護衛の仕事に着いてからこんな風にはしゃぐことなんて殆どなかった。
偶には悪くはないだろう。
「ふむふむ、こちらのリンクは中々ノリが良い…メモメモ。よろしくね、リンク2号!」
「2、2号?」
「そ!アタシの知ってる。リンクは貴方で2人目!だからわかる様に違う名前にしないと!おんなじだとわかんないでしょ?」
リンクと言えば目の前の彼女だけではない。
厄災ガノンを倒し、ゼルダ様を救った英傑のリーダー。
退魔の剣を持つ剣士、リンクもいるのだ。
だが普通は2号と言われれば誰だってあまりいい顔はしないだろう。
「所長、流石にそれはあまりにも礼を失するものですよ…」
しかし、それはどうかと思ったのか助手が助け船を出す。
人に製造品のようなあだ名をつけられるのはあまりに不憫だ。
「むぅー、シモンのケチ。ま、いいや。リンク君、君は100年前の厄災についてどれだけ知ってる?」
「それほど詳しい訳では…、リンク様とゼルダ様が諸事情により、100年後に打ち倒したとしか」
「そっかそっか、簡単に説明するね。アタシ達はゼルダ様達と共に厄災ガノンを封印する為色々と動いていたの。アタシの場合は古代兵器達を使いこなせる様調整する事が役目」
古代兵器、色々と話には出てきたが詳しくは知らない。
どんなことがあったのか興味津々のリンクであった。
「古代兵器は大きく分けて2つに分けられるの。1つは英傑達の乗りこなす大型兵器、神獣。アナタ達ゲルド族で言うところの神獣ヴァ・ナボリスがそれに当たる。もう1つは小型兵器の軍団、通称ガーディアン。ここまでくる間にあった砦のあたりにその残骸がいっぱいあったと思うの、アレのことヨ」
「あ、もしかしてコレとかで出来てるんですかね?」
そうゴソゴソとポーチの中から拾ってきた部品を出す。
「おー!それそれ、それは古代のネジ。古代技術で作られた貴重なシロモノなの!おっといけないいけない、話が逸れてる…私達は厄災復活に備え準備を整えて来たワ。英傑達が使いこなせる様神獣を調整し、ハイラルを守りガノンを数で制圧するガーディアンを大量に配置して…。万全を期したと思ってた、少なくともあの日までは…」
そう言って意外にも俯くプルア。
思い出したくもない、予想外の事があったという事か。
「あの日の事は1日たりとも忘れたことは無い。神獣が、ガーディアンが私達を襲い始めたの。厄災にガノンに奪われるなんて―」
プルアの小さな手が拳を固く握り、震えている。
自分達の努力も希望も最悪の形で裏切られる結末であった。
民を国を仲間達の命すら散らしてしまったのだから。
「あの古代遺物達の調整はね。ハイラルの王女、ゼルダ姫も精力的に協力していたワ。私でもとても辛かったけれど、恐らく、それ比ではない程苦しめる結果になってしまった―」
よりにもよって厄災の大殺戮の片棒を担ぐ形になってしまったのだ。
その罪の意識は想像を絶するはずだ、それを姫様にも背負わせてしまった事を相当悔いている。
「ハイラルの姫には代々特別な役目があった。それは封印の力によってガノンを押さえつけるというもの。でも姫様はそれに目覚めることが出来なかった。先代の姫である母親が早逝してしまい、身に付ける為の方法が解らなくなってしまったからね」
ハイラル王家にとって最大の不幸は、封印の力が失伝してしまった事。
先代のゼルダ姫からだけでなく、宝物庫にしまわれていた封印の力の身に付け方を記した書物が失われてしまったのだから。