ゼルダの伝説 蒼炎の勇導石   作:ちょっと通ります

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第49話 刈り取る瞳

「お嬢ちゃん、来るんじゃない!その若さで命を粗末にするな!」

 

 思わず逃げる様叫び声を上げる。

これは本音だ、助かるのならそれに越した事は無いし助かりたい。

だが、未来を生きるべき幾ばくも無い少女の命を散らしてまではそう思いたくはない。

 

 どんどん距離は縮まってゆく、子鬼共も少女に向かって弓を引き絞っている。

それよりも先に少女が板を翳した。

メキメキと音を立てて、氷柱がせり上がり、馬車に追いすがる魔物達の行く手を遮った。

 

 馬が慌てて急停止するとともに、慣性に従い黒い子鬼が放り出される。

少女はすれ違いざまに、馬から飛び降りナイフを両手に子鬼に猛撃を加えた。

…どうやら見かけによらず腕に覚えがあるらしい。

流石に流鏑馬までは身に付けてはいないようだが…

 

 少女を敵と認識したのかもう一体の子鬼が槍を片手に馬上から襲いかかる。

そうはさせるか、足を引っ張るだけなど真っ平御免。

馬の側面に馬車で突っ込む。

質量ならばこちらが上、だが馬には悪い事をした、すまない。

馬共々吹き飛び地面に転がった子鬼、少女はそれを逃さず一気に距離を詰める。

が―

 

 …このタモ沼の一帯は厄災において激戦を繰り広げた場所だ。

魔物が、兵士が、そして

ガーディアンが

 

(動くのか!?)

 

 目の前でいきなり起動したガーディアン。

戦場において敵が増える事は珍しい事ではない、しかしそれがガーディアンともなれば戦況に与える影響は決して小さくもないだろう。

 

 その無機質な眼が怪しく光り、照準を合わせて来る。

この辺りは見晴らしの良い湿地帯、咄嗟に左腕に意識を向けてしまう。

 

(盾を出していない!)

 

 ゲルド古武術は2刀流、攻撃では無類の強さを発揮するが防御では流石に後れを取る。

そもそも存在すらしていなかったガーディアンのレーザーなど想定されていない。

 

 発光が強くなったと思った瞬間、爆音と共にボコブリン諸共、己の身体が宙を舞う。

咄嗟に後ろへと距離を取った為、直撃はしなかったが尋常じゃない激痛が全身を襲った。

肉が焼ける不快な臭いが立ち込め、水の豊富な湿地帯ですら火の手が上がる。

 

(さ、避けきれない!)

 

 無慈悲な程、淡々と次の攻撃に移るガーディアン。

盾を取り出す頃には既に準備を終えていた。

やられる―

 

「ドラグ!」

 

 目の前で放たれたガーディアンのレーザーを、戻って来たドラグがその身をもって庇った。

耳は悲鳴のような嘶きを刻み付ける様、頭に送り付ける。

プルア様の話だとガーディアンは元々厄災ガノンへの対策として設計された兵器らしい。

小型のものとは言え、直撃した場合致命傷は免れない。

 

 次の照準を淡々と合わせて来るガーディアン。

だがタイミングは掴めた。

この技はルージュ様の得意技、そしてドラグが与えてくれたまたとない機会。

絶対に、決める

 

 発光に合わせて構えた盾を力の限り振るう、3度目の強力乍らも単調なレーザーを完璧に捕らえた。

盾と眼を繋いだかのようにレーザーが反ってゆく。

こちらを覗く機械の眼を正確に打ち抜き眩い光が機体から溢れだし、爆発と共に消え去った。

 

「そんな…ドラグ…!…ドラグ…!」

 

 動かない足の代わりに、手を使って這いつくばりながらドラグへと近づいてみせる。

全身が痛い、至る所に火傷や擦り傷が出来ているようだ。

 

 ガーディアンのレーザーが直撃したのだ、自分の傷も深かったがそれすら比較にならない程、ドラグの傷は深かった。

 

 脚は折れ曲がり、顔の前に投げ出されている。

その脚すらも骨が露出し、肉が飛び出てしまっているのが確認するまでも無く見て取れる。

夥しい流血が湿地帯の水を赤黒く染めてゆく。

呼吸も素人のリンクですらわかるほど弱くなってゆくのがわかった。

 

―手遅れだ

 

 リンクも腕も足も尋常ではない大怪我だ。

一刻も早く治療しなければ後遺症だってあり得る。

だが、ドラグの傷はもう絶対に助からない。

 

「…」

 

 ドラグが自身の脚、それも怪我した箇所に口を突っ込み、千切りとった。

その肉をリンクの怪我の酷い腕に脚に優しく押さえてゆく。

 

「…ドラグ…ドラグ…マイ…ヤ…」

 

 かつて、ビューラ様から聞いた事がある。

―馬の肉は、怪我に対する効果的な張り薬になると

 

 彼は少しでもリンクを助ける為、残り少ない命を更に削り切って託したのだ。

今まで預かっていた命を返すかのように

 

 言いたい事がまだまだあったのだが、リンクにも限界が訪れ、目の前が真っ暗に沈んでいった。

 

――

 

 双子馬宿

 

「…う…うーん…ここは…?」

 

 リンクは目を覚ました。

馬宿特有の天井のあるベッドのようだ。

 

「お客様!大丈夫ですか!?危険な事に巻き込んでしまい申し訳ありません!こちらは双子馬宿でございます!」

 

 店主であるタッサレンが、血相を変えてリンクに対し答える。

馬宿側の問題に巻き込まれて、これだけの大怪我を負ったのだ、この反応も当然と言える。

 

 黒色のボコブリンはボコブリンの上位種だ。

その凶暴性や知性、強さは数段上がっている。

更にはあのガーディアンだ。いくら劣化によって足が無くなっているとはいえ、立ち向かおうと思うのならば命を捨てる覚悟が必要な程危険な機械生物。

 

 正規の軍人ですら単独で挑む事は戸惑うだろう、間違ってもこんな小さな少女が立ち向かっていい相手ではない。

 

「あぐっ、ド…ドラグは…?ドラグはどこですか?無事なのですか!?」

 

 痛む身体を起こしながら、ドラグの安否を確認する。

この痛みは現実だ、けれどもあの時の事を認めたくはなかった。

悪い夢だと思いたかった。

 

「…残念ながら…。本当に申し訳、ありませんでした…」

 

「そんな…こんな…こんなのって…」

 

 重い口調で答えるタッサレン。

ここで取り繕ったところで、遅かれ早かれ発覚してしまう事だ、根本的な解決にはならない。

自分達だって馬宿で働き、触れ合ってきたのだ。

相棒を失う辛さも痛いぐらいに伝わって来る。

 

 純粋な善意であれ程の危険な相手に立ち向かった彼女達、そんな人達に齎された結果がこれだなんてあまりにも救われないではないか。

 

「ちょっといいかい?」

 

 タッサレンの後ろから、あの時の襲撃から何とか助かったソエが現れた。

 

「お嬢ちゃんの御蔭で助かったよ…ありがとう。そしてすまなかった…。お嬢ちゃん、私と共に来ては貰えないだろうか?」

 

 あまりにも突飛な内容に目を白黒させるリンク。

だが、何の意味も無くこのような話を持ち掛けるはずも無いので続きを待つ。

 

「私の暮らしている馬宿は、アラフラ平原にある高原の馬宿と言ってね…。馬の神様の住まわれる湖に最も近い場所なのさ。確証の無い曖昧なものですまないけれど、もしかしたら…」

 

「ドラグが…帰って来る…?」

 

「絶対とは言い切れない、だけど可能性はあると思う。今回の事は完全にこちら側の落ち度だ。食事や移動は全部こちらで負担するから賭けてはみないかい?」

 

 そう言えば、ここの馬宿にたどり着いた時にもそのような話を聞いた。

まったくのデマという訳でも無いのかも知れない、ならばとるべき選択は1つ。

 

「わかりました。よろしくお願いします」

 

「ありがとう、恩を返せる機会を与えてくれて…。お嬢ちゃんは馬車の中でゆっくりと休んでいればいいからね。タッサレン、早速で申し訳ないけれど馬車に荷物を積んでおくれ。彼女の傷がある程度回復した頃、出発したい」

 

 ソエからの頼み、そして仲間を助けてくれた少女の頼みだ。

馬宿にいる職員総出で馬車の準備に取り掛かり、あっという間に出発できるよう整えた。

 

「馬宿までは馬車を使う、揺れる分痛みを伴うかも知れない。今はゆっくりと休むことが肝要だよ」

 

 その通りだ、ここから別の馬宿に移動するとしてもかなりの距離があるだろう。

乗っているだけでも、相当揺れる事は容易に想像できる。

 

 それで怪我が悪化する事は好ましいものでは無い。

ドラグの行為を無駄にしない為にも…、逸る気持ちを何とか抑えながら休むことに専念するリンクであった。

 

――

 

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