翌日
アローマ達とリンク達が朝食を摂っている。
フェイパとスルバは昨日は迷惑をかけた、もう大丈夫と言ってはいたが、誰の目から見てもそうは見えなかった。
2人の食事は全く進んでいなかった事からも明らかにショックは抜けていない。
フェイパの顔に笑顔はなかったし、スルバもどこか気が抜けており上の空であった。
何より夜にリンクが帰ってきた時、寝ている2人の涙が頬を伝っていたのがとても辛かった。
「…アローマさん、僕ルージュ様に宮殿へ来るよう呼ばれてるんです。その間、フェイパ姉ちゃんとスルバ姉ちゃんをお願いします」
本来なら自分が傍にいてあげたいが、ルージュを待たせるわけにもいかない。
正式な形と言っていた為、沢山の人が今も準備を進めているはずだ。
「わかっているよ。2人の事はアタシ達に任せておきな。状況が状況だ、辛くなったらいつでも来るんだよ」
ドンと胸を叩いてアローマはそれに応える。
勿論オルイルも頷き、2人を支えようと色々と尽力してくれる。
今一度礼をするとリンクは宮殿へと駆けて行った。
宮殿
宮殿では何かの式でもあるのか左右に兵士達が並び、そして優美な垂れ幕が掛かっていた。
「来たかリンクよ。待っておったぞ」
玉座にてルージュがリンクを出迎える。
おかしい、こういったものは何かの就任式や伝統行事の時に行われるもの。
そう言ったものなら、普段からこの場所で訓練しているリンクにだって自然と伝わるだろう。
「ルージュ様、これはいった…いえ、これから何か行われるのでしょうか?いつもと様子が異なりますが…」
昨夜の話していたのがこれの事なのだろう。
その内容が自分に関係するのまでは理解出来るがそこからはわからない。
まずは探りを入れてみる事にした。
「その前におぬしに聞いておきたい。おぬし達はこれからどうしてゆくつもりじゃ?おぬしも姉達もまだ童じゃ」
そうなのだ、リンク達はまだ子供。
しかしいつまでもアローマ達の所で世話になる訳にもいかないし、3人とも生活していけるだけの収入の当てがある訳でもない。
「それは…ボ…私にはできる事は武術ぐらいです。成人するまでは訓練場の指導見習いとして働こうかと思っております」
そう言われて初めてリンクはしばし考える。
確かに今の段階では食いつないで行ける手段がない。
そして自分が出来そうなことを考えると、武術ぐらいのものだ。
その指導を手伝うぐらいしか彼には思い浮かばなかった。
「なるほど、確かに成人するまでにできる事といったらそれぐらいかのう…。じゃがそれは杞憂かもしれんぞ?」
「とおっしゃりますと?」
リンクの答えが無難なものであると納得した上で、杞憂であるかも知れないというルージュ。
そして彼の返事を待たずしてルージュが右手を上げ、兵士達に旗を揚げさせる。
「族長として命令する!ゲルド族のリンクを正式に兵士として採用し、並びにゲルド族として成人の権利を保障する!」
リンクは耳を疑った、確かにゲルドの兵士として正式に採用されれば下手な大人より安定した収入は望める。しかしいくら何でもこんなに幼い自分を成人として扱うというのはいかがなものか。
「リンク、先日の捜査時にも言ったが安全なルートの作成と旅の警護が急務である。街の外には魔物も多い、腕の立つ護衛の者が必要だからな」
族長としての立場で言ってくれているが実際はリンク達に対する配慮でもあるのだろう。
並外れた強さ以外はまだまだ子供の域を出ないし、流石にリンクを働かせる所は普通は存在しない。
彼女なりの落としどころと言える。
「腕が立つとはいえ、わらわもビューラも旅の護衛として着いて行く訳にはいかん。しかし、命の危険もある仕事じゃ。中途半端な実力の者では困るのでな。ちゃんとルピーも出す、どうか引き受けてはくれんか?」
腕だけで言えば、ルージュやビューラも適任であろう。
しかし、ルージュはこの街の責任者、ビューラもそんな彼女の御付きである。
気軽に街を空けていい立場ではないのだ。
「…少しだけ時間を頂けないでしょうか?姉達にとっても大切なお話なので」
彼にしては珍しく、即答するのを避けた。
あれ程の事があった昨日の今日では残されてしまう姉達の事がよぎったからだ。
「わかっておる、しかしなるべく早めに返事をもらえると助かる…「「リンク!!」」」
ルージュが決断を下すのならば早めに頼むと言っている最中、リンクを呼ぶ声が響く。
その声に思わず振り向くリンク、そこには心残りでもあった姉達がいた。
「さっきの話は聞かせてもらったぜ!私達の事は遠慮するな!リンクに心配されるほどアタイ達は弱くない!」
「族長様、急に入り込んできて申し訳ありません。リンク、貴方の事は私達が母様に頼まれたわ。色々と心配かけてしまったけれど、もう大丈夫。貴方の思った通りに行動しなさい」
声の主はリンクの姉であるフェイパとスルバだった。
急いでかけて来たのだろう、2人とも息が上がっている。
リンクの事を頼まれた2人が彼の枷になってしまう事が許せなかった。
彼女達の様に状況をしっかりと把握出来なかったが故に、メルエナ達を失った実感のなかったリンク。
だがそれでも母達が帰って来ない衝撃は大きかった。
それはもう自分達のような思いをしてしまう人は出したくないと考えるほどに。
彼の決断は…決まった。
「フェイパ姉ちゃん…スルバ姉ちゃん…わかった!族長様!ボク…いえ、私はそのお仕事をお受けします!」
こうしてリンクは若くしてゲルドの兵士となった。
ゲルドの風習には未成年のゲルドのヴァーイはヴォーイと交流を持ってはならぬという風習がある。
リンクはヴァーイとして振る舞っている以上、この風習によって外へ出ることは事実上禁止されている。
本当はヴォーイであると言えば、この風習によって外へ出る事を禁止されることは無いだろうが、ゲルドのヴォーイというだけで色々な所で混乱が起こるだろう。
しかし、例外もある。
例えば未成年でも特定の要件を満たせば成人としての権利を持つという方法だ。
兵士として軍人となった場合や族長という職業柄異性と会う機会を避けられない者などがそれに当たる。
事実としてルージュがナボリスを見に外へ行った時も彼女はまだ10にも満たない童であった。
砂漠にあるゲルドには様々な場所からの物資が必要不可欠だ。
外からの物資の輸入には行商人や地方に住んでいる者からの購入に頼ったりする必要がある。
メルエナ達の事は懸念されていた道中の危険を再確認させるには十分すぎる案件だった。
ただでさえ過酷な砂漠の中にある街だ。
外から出稼ぎに帰ってくるゲルド族、活気ある街に観光に来る客、街に必要な物を定期的に運んでくれる街の住民、その全てにとって看過は出来ない。
そこでルージュはゲルドの兵士を警護でつけ、加えて街への安全な道の作成に力を入れるようだ。
「決まりじゃな、しかし気を付ける事じゃ。訓練と実践は違う、しかも相手は人だけではなく魔物や野生生物もおる、心得よ。ビューラ、リンクに最初の仕事を教えてやれ」
ルージュは訓練と外での実践との違いを指摘し、彼に忠告をする。
街の外は危険も多い、ましてや広大且つ過酷なゲルド砂漠へと出るのだ。
慎重すぎるぐらいで丁度いい。
「かしこまりました。リンク、こちらに来い」
リンクはビューラに言われ奥へと着いて行く。
これから、護衛の仕事とその為の訓練が始まるのだ。
「今回の仕事を説明する、宝石を扱うラメラをゲルドキャニオンにある馬宿まで護衛しろ」
ゲルド族のラメラは主にオルディン地方でとれる鉱石を仕入れる仕事をしている。
Star Memories の宝飾品には宝石は必須と言える。
確かな加工技術と秘められた宝石に宿る力を引き出す店主のアイシャは有名人であり、彼女の作る装飾品はゲルド族にとって大切な収入源でもある。
「大丈夫なんですか?こんなに小さいヴァーイが護衛だなんて…」
ラメラの心配ももっともだ、まだまだ幼いリンクは護衛というには頼りないように見える。
傍から見ればラメラの方が護衛にしか見えない。
危険の多い道中で足を引っ張られてはたまったものではない。
「大丈夫です。リンクは見た目は小さくても、その強さは並みの兵士では相手になりません」
そこでビューラが強さのお墨付きを与える、長年ゲルドの街を守って来た彼女の信用はとても高い。
ラメラは基本的にゲルドの街にたまに戻る程度ではあるのでリンクについては詳しくはない。
だからこそ、ビューラの言葉が無ければ納得はしないであろう。
「ビューラ様がそうおっしゃるのならば、わかりました。よろしくねリンクちゃん」
仮にも命を預ける相手だ、優しい笑みで手を差し出すラメラ。
それを笑顔でリンクは握り返した。
「出発は3日後の朝だ。今日は帰ってもいいが明日からは特訓が待っているからな、覚悟をしておけ」
ビューラが護衛の日時を伝える。
それまでの間、外へ出る為の特訓の予定を伝えリンクがラメラを守れる様に鍛えなければならない。
「サークサーク、ビューラさん。ラメラさん、よろしくお願いします」
「ふふっ、不思議な感じね。それじゃあサヴォーク」
そう言って街の方へ歩いていくラメラ。
おそらく持ち込んだ宝石を売りに宝石店へ行くのだろう。
リンクも姉達とともにアローマの宿屋に帰ることにした。