ゼルダの伝説 蒼炎の勇導石   作:ちょっと通ります

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第50話 馬の神マーロン

 10日後 マーロン湖

 

 リンクの回復を待ち、馬車を発進させて数日が経った。

レーザーによる負傷と火傷、吹き飛ばされた後、地面に叩き付けられた傷は浅くはない。

 

 本来ならばもっとゆっくりと休んで傷の治療に専念すべきなのだが、リンクが逸る気持ちを抑えられなかった為移動する際に痛まない程度で直ぐに発つ事となった。

御蔭で、未だ張り薬をしたまま、包帯をしている。

 

「長い道のりだったろう?ここが馬の神様の住まう湖、マーロン湖だよ」

 

 ソエがこの場所が、馬の聖地である事をリンクに伝える。

他の職員も馬の神が祀られる湖に興味津々だ。

なるほど、湖の中心にこじんまりとした盆地が広がっており、何とも言えない雰囲気が漂っている。

 

 神様が住んでいるというのも強ち間違いではないのかも知れない。

リンクが中心の花が開かれたような場所に足を踏み入れた時である。

 

「!?」

 

 突如として、水が紫に染まり泡立つ。

その不自然な現象に思わず剣を抜き構えるリンク。

 

「どうしたんだい、お嬢ちゃん!?剣なんか抜いて!?」

 

 ソエがリンクの行動に驚きを隠せない様子だ。

彼女だけではない、他の職員も武器を抜いたリンクに困惑している。

 

 どうにも目の前の現象が、目に映っていないようだ。

そんな事などお構いなしに泡立った中心から巨大な存在が顔を覗かせた。

 

 顔の部分には馬を象った奇妙な面をつけ、その意匠は不気味の一言に尽きる。

リンクにとって近いイメージはルージュの時の様な呪いの類だろう。

胴に当たる部分もつぎはぎだらけの布を繋ぎ合わせた、幾何学的模様の代物だ。

なにより、そのものには手首から先が無い。

手だけが宙に浮いた悍ましい何かにすら思えた。

 

「わが名は マーロン この世界に住む 馬たちの神である」

 

 …どうやら本当に馬の神であるらしい。

マーロン湖という名も彼からきているのだろう。

 

「もし おぬしが大事にしていた馬を 不注意にも 死なせてしまったなら その死んだ馬を復活させてあげるとしよう… ただし… 面白がって 馬を殺めていた時には… 容赦せんからなぁ! …冗談である」

 

 …意外と茶目っ気のある神様なのかも知れない。

だが、馬を大切にしているのは本当の様な気もする。

 

「どれどれ… ヌヌ~馬を死なせてしまっているではないか!この場で亡き者にしてやろうか!? 冗談である… それで馬をよみがえらせたいのか?」

 

「お願いします!ドラグを助けて下さい!」

 

「ほぉー、それでは復活を…ん?」

 

 馬の神マーロンが、リンクの包帯を見つける。

そう、馬の肉を張り薬にした傷口を塞いでいる物だ。

 

「貴様!自分の傷を治すために馬を殺めたというのか!」

 

 マーロンの激昂と共に突如として、リンクの身体が地に縫い付けられる。

凄い力でびくともしない。

彼からしてみれば、リンクは自分の都合で馬を殺した極悪人だ。

許す筈が無いだろう。

 

 あまりの出来事にソエを筆頭に馬宿の職員はどうすればいいのかわからなかった。

彼女達からすれば何もない所で、いきなり押さえつけられる様に倒れたのだから無理もない。

 

「違う!!」

 

 リンクはマーロンを睨み付ける様な鋭い視線で力強く答えた。

 

「何?」

 

「確かに、ドラグが死んだのは僕の不注意だ!それは否定しない!でもこの治療はドラグが自分の命を削ってでも助けてくれた証なんだ!ドラグの名誉の為にも、さっきの言葉は取り消せ!」

 

 自分のせいでドラグが死んでしまったのは確かだ。

だが、先程の内容ではドラグの献身が何の意味も持たないものになってしまう気がして、流石に我慢ならなかった。

あまりにも彼が救われないではないか。

 

「ふむ…、今一度調べてみるとしよう…。―なるほど、確かにおぬしのいう事で間違っていないようだ…。すまなかった、謝罪しよう。おぬしが悪い訳では無いとこの馬が一番よく知っておる あいわかった! この馬を生き返らせるとしよう」

 

 そう言ってマーロンは両手を振り回し、パカパカという奇妙な音と共に乾いた声を上げる。

光が目の前に集まっていくと漆黒の馬が現れた。

 

「ドラグ!ホントに帰って来たんだね!会いたかった!会いたかったよ!」

 

 直ぐに立ち上がってドラグの下へ駆けよるリンク。

顔を舐められて喜んでいるその姿は珍しく年相応に見えた。

良く見てみると、見た事も無い手綱と鞍が付けられている。

 

「その馬を通してそなたがどんな人間であるかよくわかった。かつて、ゲルド砂漠を一晩走って突っ切る事になるのを承知で命を救ったようだな。ならば馬の神として礼を尽くすのが礼儀というものだ。それがあれば口笛を吹く事でどこにいても馬を送り届けてやることが出来る」

 

 さらりととんでもない事を言ってのける、馬を生き返らせたりすることといい、やはり神と崇められるだけのことはあるのだろう。

 

「勿論、その馬が生きていればの話ではある。まず無いだろうが、不測の事態によって送り届けられない時は…別の方法を用意してある。今度は死なさない様に 大切にするのだ! 馬は大切なパートナー その事を忘れないように ではさらばだ」

 

 そう言ったかと思うと、突然糸が切れたかのようにぷっつりと湖に落ちていった。

奇抜な装飾と言動はあるが、なかなか優しい神様なのかも知れない。

 

「良かったじゃないか!ちゃんと生き返る所を見ることが出来るなんて、思わなかったよ!」

 

 ソエがそうリンクに声をかけた。

ソエ達馬宿の職員はマーロンの姿を見る事が叶わなかったが。

その奇跡といっていい、現象は目撃している。

 

「しかし…なんとも立派な手綱と鞍ですな。このような品は馬宿でも見たことがありません」

 

 タッサレンが感嘆の声を上げる。

通常のものとは素材も装飾も全く違う、馬宿で見た時には無かったことを考えるに神が与えた代物なのかも知れない。

 

 そう仮定すると、目の前の鞍と手綱は紛れもない神器である。

お目にかかれるだけでも貴重な体験と言えた。

 

「ソエさん、タッサレンさん、馬宿の皆さん。ありがとうございました!こうしてドラグと再会できたのはみんなの御蔭です!」

 

「いやいや、元々こちらが巻き込んでしまった形だからね。すまなかったよ、旅の途中だったのだろう?中断させてしまって悪かった。私は高原の馬宿にいるからいつでも遊びに来るといい。とりあえず、今日の所は馬宿でゆっくりしようじゃないか」

 

 馬車と馬で帰っていくリンク達、行きの時と比べ歌を歌ったり、雑談をしたりなど随分明るい雰囲気であった。

 

 翌日 高原の馬宿

 

「それでは、お世話になりました。皆さんもお元気で!」

 

 ドラグに跨り、リンクが別れの挨拶をする。

昨日の夜は馬宿で打ち上げをしていた、残念ながら馬の神の姿はついぞお目にかかる事は叶わなかった。

 

 見たというリンクが、似顔絵を書いてはみたものの何とも言えない微妙な完成度だったため上手く伝わりはしなかったのである。

この間までこの馬宿にいた画家であるカンギスの如き腕前で、謎が深まるばかりであった。

 

 それでも馬が生き返る瞬間を己の眼で見ることが出来、馬宿でもじっくりと馬と見た事も無い鞍や手綱を調べる機会があったのは職員明利に尽きるというものだ。

悪意が無いとはいえ、くまなく調べられるドラグは迷惑そうではあったが

 

 ゲルドの街まで帰る事を説明すると、小麦パンをプレゼントされた。

至れり尽くせりである。

へブラ地方ではハイラル米よりもタバンタ小麦の方が手に入りやすい。

慣れ親しんだ味とは有り難いものだ、故郷を離れて改めてそう思う。

 

「それじゃあ、行こうか」

 

 掛け声と共にドラグが走り出す。

心なしか一層力強い走りになった気がしたリンクであった。

 

――

 

 同時刻 ゲルドの街

 

「…よっし!出来たわ!私の初めての曲!」

 

 スルバがやっと終わったと背筋を伸ばす。

随分と長い間、机に向かい執筆をしていたようだ。

 

「お!ついに完成したのか!おめでとう、スルバ!」

 

 わがことの様に喜んでいるフェイパ。

彼女が長い間、時間をかけて頑張っている事は誰よりも知っている。

 

「サークーサーク、フェイパ。色々と迷惑かけたわね」

 

 作曲も佳境に入った頃には、寝食を忘れかねない勢いで進めていた。

見かねたフェイパが拙いながらも食事を作ったりいい加減休めとストップをかけていたのだ。

 

「なーに、簡単な料理ぐらいならアタイにだってできるさ。…味までは保証できないけどな!」

 

「フフッ、それ自慢になんかならないわよ。それにね、作ってみてわかったけどちょっと夢が出来ちゃった」

 

「夢か?どんなやつなんだ?」

 

「それはね、いつか大人になった時、カッシーワさんと一緒に演奏したいって夢。ちょっと順番が逆になっちゃったけれど、やっぱり私にとっての師匠はカッシーワさんよ。ちゃんと向かい合って、認めて貰いたいじゃない」

 

「いい夢だな…、素敵じゃないか。なあなあ、せっかくだし今度の演奏会でさ。終った後でいいから壁越しで演奏してみないか?ほら、街の外まで音なら響くじゃないか。多分今年もカッシーワさん来るんだろ?」

 

「ふふっ、それもいいかもね…。リンク達の晴れ舞台を壊さない様こっそりと、だけど」

 

 今年は2人は演奏会には参加しない。

あの演奏会は子供の為の発表会でもあるのだ。

子供ではない、さりとて大人とも言い切れない2人は残念ながら参加条件を満たしていない。

 

「いいじゃないか、発表会の前にこっそりと…な」

 

「それを言うなら ミンナニハナイショダヨ でしょ?」

 

 2人してこういった話をするときだけは年相応に見えた。

しかしこの思いつきが運命の歯車を大きく狂い動かすことになるとは、この時誰にも想像できなかった。

 

――

 

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