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第53話 狂い始める時の歯車
ゲルドの街 演奏会前日
「その調子よリンク。ゆったりと、それでいて大きなイメージを持つ事がこの曲には大切だわ」
「仕事の合間に練習して良くここまで完成度を高めたなー。集中力が違うのか?」
いよいよ明日は演奏会だ。
去年は参加できなかったのだ。
今度という今度は思う存分、街の祭りを満喫してみせる。
スルバ姉ちゃんの気合の入りようは僕よりもさらに凄い、姉ちゃん達は参加する訳じゃないけど時間を割いて指導してくれるのはありがたい。
…もう少しだけ優しい指導にして欲しいけど。
「あれだけ練習したからね、もうバッチリだよ!オカリナ。すっごい綺麗な音色が出るから吹いていて楽しいしね!―そう言えば、最近姉ちゃん達僕がいない間どうしてるの?」
このオカリナは、ルージュ様が倒れたあの事件の褒美として頂いたものだ。
紫がかった青いオカリナはシンプルながらもどこか気品を感じさせる。
姉ちゃん達も何か貰っていたみたいだけど、内緒にされている。
2人とも不思議としっくりきたとしか教えてくれなかったしなぁ…。
「うーん、秘密にしておきたいけど―リンクにだけ秘密なのも気が引けるわね…。簡単に言うとね、街の外へ出る準備をしているのよ。アナタが教えてくれたように街の外は危険も多いわ。加えてヴォーイハントの旅に出るとなれば女子力とかを磨いておく必要があるからね、ヴァーイには沢山の準備が必要なのよ」
悲しいけれど、女装している分並みのヴォーイよりは女子力は高い気はする。
少なくともそこいらのヴォーイに負ける様な事はないだろう。
それでもこれ以上はわかりたいとも思わない。
「うーん、女子力とかはよくわからないなぁ…。姉ちゃん達も忙しいんだったら僕に付き合う必要はないからね」
「なーに気を遣ってんだリンク?去年参加できなかった分、埋め合わせぐらいさせておくれよ。今回の主役は間違いなくお前なんだからさ」
「そうかもしれないけど…、わかった姉ちゃん達に甘えるね。代わりになるかはわからないけれど、剣術とかなら教えられるよ。外へ行くなら色んな武器を使えた方がいいしね」
御前試合の後から、より声をかけられる頻度は上がったのは確かだ。
それだけ最強の持つ意味が強いという事なのだろう。
「サークサーク、それじゃ演奏会が終わった頃にお願いしようかしら」
「だな、今は目の前の演奏会に集中しようぜ」
「うん!」
この演奏会には特にスルバ姉ちゃんにとって大切な思い入れのあるイベントだ。
できる限りの事はやっておきたい。
時間が止まったかのような感覚を何度も繰り返しているような練習の最中であっても時間は過ぎてゆくもの。
いつの間にか辺りも真っ暗になって来た。
かなり熱を入れて練習に打ち込んでいたみたいだ。
身体も頭もクタクタだ、想像以上に体力を消耗するらしい。
今日もぐっすりと眠れるだろう。
ゲルドの街 路地裏
旅人「―さて、総長からの指令では明日までにすべてを整えよ…か」
この一年、この街に様々な姿で自分が仲間が入れ替わり立ち代わり侵入してきた。
どうやらゲルドの街の方も我々を警戒してるようだ、御蔭で破壊工作による攪乱や資源の調達を妨害する事は叶わない。
ならば足が付かない様、数を揃え街に溶け込むまでだ。
不審な動きは変装以外してこなかった分問題は無いだろう。
だが大人しくしているのもこれまでだ、総長がおっしゃるには明日は久方ぶりの魔が満ちる日になるらしい。
我らが厄災復活の為、炙り出しをしなくてはならない。
(将を射んとする者はまず馬を射よ…か。気は進まぬが仕方あるまい)
先代総長コーガ様が不在になった後、引き継いだ総長は確かに強く優秀だ。
だがその能力の使う方向や人の動かし方には疑問が残る、イーガ団全体を考えた行動とはとても思えない。
今回の指令などまさにそれだ、夜中とは言え演奏会当日にここまで極端な手段を取ってしまえば世界中の民族を敵に回しかねない。
この瞬間のゲルドの街は沢山の種族が観光に来ている、そんな状態で叩く事がどれ程の意味を持つかわからない筈がないのだが…。
そう言う意味ではコーガ様は強さという意味であまり優れてはいなかったが、愛嬌があったし、ちゃらんぽらんな所こそあれそこまで問題になる様な事はしていなかった。
頭を振って任務に集中する、雑念は思いもよらぬ災いを呼び込むのだから。
影は眼前の少女に狙いを定め、音も無く動き出す。
翌日 ゲルドの街
ついに演奏会当日だ。
今回は演奏会にも、祭りにだって参加できる。
チークさんが気を回してくれて今日一日は非番だ。
後でお土産を沢山持っていこう。
「リンク君?見ない間に大ちくなったね」
「モモさん!お久しぶりです」
「おっ、久しぶりだなモモ!元気だったか?」
彼女はリトの村に住んでいる姉達の友のモモさん、その独特の雰囲気と所々で「ち」を付ける愛嬌ある口癖からか隠れファンが多い。
今回の引率は彼女の父であるハーツさんなのかなぁ…?
「父ちんじゃなくてね、カッシーワちんに引率して貰ったの」
「ああ成程…って僕口に出しましたっけ!?」
「気になるって顔に書いちあったから」
「相変わらずね、リンクを見てそれが出来るのなんて私達ぐらいだと思ってたのに」
―相変わらずつかみどころのない不思議な人だなぁ…。
というか姉ちゃん達、僕の顔を見ただけでわかるの!?
隠し事は出来そうにないなぁ…。
そう言えばそうだった、ハーツさんは撃たれた時の傷で遠くまで飛ぶのは厳しいんだったっけ。
砂漠の砂嵐の中周りの警戒をしながら飛ぶのは大変だろうしなぁ。
「今日は待ちに待った演奏会、みんなたのちみにしてるから気合入れようね」
今回のリト族側の歌のリーダーはモモさんらしい。
姉ちゃん達とあまり年も変わらないだろうから、順当と言えば順当ではある。
所々不思議な言動が目立つ人ではあるのだけど。
「さぁさぁ、せっかくの祭りでもあるんだ!思う存分ゲルドの街を堪能していってくれ!」
フェイパ姉ちゃんが言うように、このイベントは交流会としての意味合いが強い。
活気があり、社交的なゲルド族の民が招待して他民族を持て成さないなどあり得ない。
「それもそうだね、フェイパ。それじゃあ、本番開始一時間前になるまでは自由時間にするから、それまではたのちんでおいで」
モモの号令が早いか我先にと出店へと散ってゆくリト族のみんな。
普段は素朴な村に住んでいるとスルバ姉ちゃんが教えてくれた、初めて見る街の興奮は僕もしっかりと味わってきたからよくわかる。
「よっし、それじゃアタイ達も回ろうぜ!」
「それもそうね、色々とお店があるから、気になった所を回りましょ?」
本当に久しぶりに屋台や出店を見て回った気がする。
商い用のものとしてなら見て回って来たけれど、こういうお祭りの物はまた一味違って見えるものだ。
「おっ、射的があるじゃねーか!今日こそはリベンジしてやろうぜ!」
「ちょっとフェイパ、ゲルドの的当ては本当に難しいわよ」
「うーん、パパの弓使ってもいいかなぁ…?」
「「それは駄目(よ)だ」」
ハーツさんは家業で弓の職人をしている。
伝統的な工法で大人の身の丈ほどもある強弓だって作ることが出来るのだそうだ。
そんなものを的当てに持ち込んで使う事は流石にやめておいた方がいいだろう、そもそもちゃんと引けるかどうかも怪しい。
「それじゃあ、誰が一番近くに当てられるか競争しようぜ」
「あ、それくらいならいいかもね。大人の兵士じゃあるまいし、的中させるのは現実的ではないわ」
「あちし、やりたい!」
そんなこんなで的当てをする事になった。
ゲルドの弓特有の硬い弦は弾き絞るだけでも一苦労だ。
「ムムム…硬い…」
「そう言えばリト族で弓を引くのはヴォーイだけの文化だったか…」
「初めてでゲルドの弓は厳しいわよ…取り回しが難しい事で有名だもの」
モモさんは引き絞る事すら叶わず、射ることが出来なかったみたいだ。
リト族のヴァーイは弓を引く機会は無いらしいからなぁ…。
一番近くに当てたのは僕で次にフェイパ姉ちゃん、スルバ姉ちゃんといった順番だった。
それでも僅かにズレて外してしまったのは反省しなければならない。
実戦ではそれが命取りになる。
「はぁ~、何だかんだ近くに飛ばせるだけすげえな!」
「引き絞れるようになったのは最近だからね、当てる事はまだまだ出来そうにないよ」
「引けないんじゃ、練習の仕様がないものね。まだまだ練習を積んでいかないといけないわ」
「まだまだ時間はある、おいちいものが食べたいでち」
「いいなそれ!そう言えばティクルどうした?」
「ティクルなら、ちょっと体調崩したから行けそうにないってベローアさんが言っていたわよ」
そっかぁ、せっかくみんなで楽しめると思っていたのに残念だ。
心配だけど、ティクル姉ちゃんなら自分よりも演奏会を優先して欲しいっていうだろうなぁ。
ちゃんとお土産を用意しておこう。
屋台でお菓子を買って、みんな思い思いに堪能する。
勿論、外で待っているカッシーワさんの昼食やお菓子などもバッチリだ。
リト族の子達はこれから歌う為のガンバリバチのハチミツアメも忘れない。
「ごめんなさいモモ、リンク。私達、先に失礼するわ。思ったよりも人が多いから場所も先にとっておかないといけないし」
「そればっかりは仕方ないでち、演奏会楽しみにしてね」
「フェイパ姉ちゃん、スルバ姉ちゃん。最高の演奏で最高の一日にしてみせるからね!」
「期待してるぜ、リンク!それじゃ、お先にサヴォーク(さようなら)!」
「リンク、アナタならきっと大丈夫よ。あなたの為に作ったサプライズ、楽しみにしているわ。サヴォーク」
2人とも僕たちに手を振って別れる。
きっとみんなにとって素晴らしい一日になる、そう信じて