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「なあ、気になることがあったんだろ?正直に教えてくれよ」
フェイパが言うように2人がカッシーワの所へ行くにしても、演奏会へ行くにしても少々時間がある。
せっかくのリンク達との時間を削ってまで別れる理由がどこにあるというのか。
「決まってるでしょ?ティクルのお見舞いよ」
「そりゃ、ティクルの事は心配だけどよ…。その為にリンク達から離れたと聞いたらアイツいい顔はしないだろうぜ」
「勿論そんなことは承知の上よ。―祭りの屋台の中にベローアさんの出店が無かった。この書き入れ時に参加を見送るとなると余程の事と考えるべきだわ」
この演奏会は沢山の種族が観光に訪れる一大イベントだ。
ただでさえ活気に満ち溢れているゲルドの街において、この好機を逃す商人がいるものか。
それどころではないとなると余程ティクルの調子が悪いと見える。
「確かに去年の今頃はルージュ様の事もあったしな。わかった、一緒に行こうぜ」
「サークサーク、作り置きしておいたゴーゴーニンジンのリゾットを持っていきましょう」
「お、いいなそれ。あれならそんなに負担にはならないだろ」
手早く温めなおした後、ティクルの家に持って行った2人。
容態はどうなんだろう、あまり重く無ければよいのだが。
「ごめんください、ベローアさん。ティクルのお見舞いに来ました」
フェイパの掛け声が家の中に響く。
…返事は帰って来ない。
「ベローアさん、薬を買いに行ったのかしら。ティクルは…」
ゲルド族の家は岩をくりぬいたような、簡素なものだ。
それ故に、シンプルな構造が多く、眠っている者がいればすぐにわかる。
「いない?」
ベローアがいないのはそれほど不思議には思えないが、ティクルに至っては流石におかしい。
「…スルバ。あれ家から持って来よう。使わないに越した事は無いが、念のためだ」
「そうね、杞憂ならいいのだけれど」
――
―
ゲルドの街 路地裏
「ふぅー、流石にこの時期はお客さんが多くなるね。早めに戻って、オルイルと交代しないと」
Hotel Oasisの店主である、アローマが食事を摂っていた。
客の前で食事を行う訳にはいかないし、かといって一日中飲まず食わずではハードな一日をこなしきれないだろう。
「御馳走さまっと。あれはベローア?」
ふと目を向けた先には、ベローアがいた。
珍しい…というよりあり得ない。
一番の稼ぎ時に、こんなところで見かけるだろうか。
「ベローア、どうしたんだい?こんなところでさ」
職業柄沢山の人を見て来たアローマだ。
ベローアの様子に気が付かない筈がない。
今の彼女は…八方塞がりで途方に暮れていたメルエナのそれとあまりにも酷似していた。
「アローマかい…。何でもないさ。気を遣ってくれてサークサーク…」
あえて違うところがあるとするなら、恐怖が混じっている様にアローマには思えた。
僅かにではあるが震えているのがわかる。
「アタシだって接客業を営んでいる身だよ?とてもそうは見えないね。…アタシで手に負えないのならそれこそ兵士さんに―」
「そ、それだけはやめておくれ!大丈夫だから!何も問題ないから!」
アローマの会話に被せる様にベローアは大丈夫と言い張る。
まるで自分に言い聞かせている様にすら見えて来る程の必死に語る。
「―そうかい、アタシの勘違いだったみたいだ。もし、何かあったら言っておくれ。力になれるかも知れないからさ」
「サークサーク…。それじゃこれで失礼するよ」
問題が無いとは程遠い表情のまま、ベローアは帰っていった。
それなりに時間が経っており、オルイルと交代する時間はもう間近だ。
アローマも急いでHotel Oasisへと帰っていった。
「アローマさん、お疲れ様です。そろそろ交代ですか?」
「ああ、オルイルお疲れ様、ちょっと休憩前にこの資料を宮殿に届けてくれないかい?納品する食料の見積もりさ。その代わり1時間余分に休憩取ってきな」
「お安い御用です、すぐにお届けしますね!」
この一番忙しい時期における休息がよほど嬉しかったのか、駆け足気味に移動するオルイル。
それは言い変えるとアローマにとっては長い長い仕事の始まりでもあった。
―
「まさかこんなにも早く使うかもしれないなんてね」
そう言うスルバの手には冷気を放つ杖が握られている。
氷の力を封じ込めたフリーズロッドだ。
「まだ使うと決まった訳じゃないだろ?それに試作品とは言え、アイシャさんのお墨付きだぜ?」
そう言う彼女の手には熱気を放つメテオロッドが握られている。
ルージュを助けた際の褒美として2人が選んだものだ。
リンクと違って武器の扱いには慣れていない彼女達、今から剣や槍の術を学んだとしてもゲルド族の頂点に立ったリンク並みの強さには届かないだろう。
そのリンクですら怪我だらけで帰って来るのだ、剣や槍では外へ出るには心許ない。
かといってゲルドの弓は非常に扱いが難しいのも事実だ。
「まあこれなら遠くからの攻撃もできるし、近づいて攻撃したり精密な扱いも必要ないから旅のお供にはいいかもね」
「だろ?それに何というか…妙にしっくり来たんだよ。多分、お前もそうだったんじゃないか?」
「それは否定しないわ。でも名前まで書く必要あった?」
「いいだろー?他の人だって持っているかも知れない。でもこれはアタイ達の特別な物なんだからさ。間違えても嫌だしな」
「まさか魔物が使う武器を、人が使いやすいように改造してくれなんて閃くとは思わなかったわよ…」
「だってよ、これってアタイ達がゴロン族の料理を食べてるようなものだろ?改良しないと絶対無理があるって」
スルバが半分呆れたようにため息を漏らす。
フェイパがアイシャに頼んだ事、それは2人が持つこのロッドの改良であった。
元々メテオロッドもフリーズロッドも上位のヴィズローブ達が持つ魔力の込められた武器だ。
彼らがこの杖を使った場合、魔物を呼び出したり、天候を変えたりすることが出来る。
要するに人が使う場合、その性能を活かしきることが出来ないのだ。
元々は魔物が使う武器だ、人が十全に使いこなせる保証はない。
そこでアイシャの宝飾技術の出番という訳である。
彼女は宝石に秘められた力を存分に引き出すことが出来るのだ。
例えばルビーは炎の力を強め、雪山であるへブラ山の様な凍える冷気から身を守ってくれる。
サファイアは氷の力を強め、ゲルド砂漠の様な干からびそうな熱気から身を守ってくれる。
そのような加護を人の身に付けるアクセサリーに込めるかの如く武器にも応用できないかと考えたのである。
フェイパのロッドには赤く燃え盛る宝石が、スルバのロッドには青く凍てつく宝石が埋め込まれている。
「勘違いならいいけれど、ティクルを探してみましょう」
「よし、そうなると裏路地から探してみるか?」
「ええ、イチゴ畑もそこにあるしその辺りにいる確率が高いわ」
2人は頷き路地裏へと駆けてゆく。
頼むから何事も無く勘違いであってくれと願いながら。
――
(どうしてこんな事に…)
ベローアは目の前が真っ暗になる思いだった。
娘であるティクルが昨日から帰って来ない。
心配になり探しに行こうとするタイミングで脅迫状が送られ、不安は絶望に変わる。
娘を返して欲しければ、1日大人しくしていろ
後日要求を送るまで兵士には伝えるな、守られなかった場合娘の命の保証は出来ない
娘のティクルが身に付けていたアクセサリーを添えられており、いたずらの類では無い事が示されている。
紛れもない犯行予告だった、演奏会の出店どころではない。
相手も要求もわからない現時点で彼女にできる事など何もなかった。
現時点でティクルの誘拐を知っているのは彼女の他に、姉であるエメリだけだ。
エメリは演奏会に合わせて、妹と姪の顔を見に来たのだがベローアの焦燥しきったその姿に何があったのか尋ねた。
限界だった彼女は事の委細を伝え、縋りついた。
とは言えエメリにできる事は、妹を励ますことぐらいである。
相手の要求がわかるまではできる事も殆ど無い。
昨日から過度の緊張に置かれている妹に料理を作る為に外している間、アローマに話かけられたという訳だ。
旅人「すみません、少しよろしいでしょうか?」
彼女に声がかかる。
姿からしてハイリア人の旅人だろうか。
…こんな人通りの少ない場所で珍しい。
「―ああすまないね。ちょっとボーッとしていたよ。どうしたんだい?」
旅人「いいえ、大した用ではないのですが。―これを渡すように頼まれておりまして」
「!見ても構わないかい!?」
ええどうぞというが早いか渡された紙に書かれた内容を読み込んでいくベローア。
元々悪くなっていた顔色からさらに血の気が引いてゆく。
(厄災の再来を告げるゲルド族の男を差し出せ!?要求が聞き入れられない場合、今夜このゲルドの街を攻め入る!?)
訳が分からない。
ただでさえ娘の一大事で気が動転してしまいそうなのに、厄災の再来?ゲルド族の男?果てには今夜この街を攻め入る?
あまりにも衝撃的な内容の連続に、一般人であるベローアに耐えられる訳も無かった。
旅人「読んで頂けましたか?それともう1つ要件がありまして―」
まだ他に何かあるのだろうか、それならこの紙に書いておけばいいものだろうに。
旅人「兵士達に索敵の動きがありました。―お命頂戴する!」
いつの間にか手に持っていた刃で斬りかかろうとして来たその時、炎と氷の球が旅人へと飛んでゆく。
それに気が付いたか、後方へと信じられない程の跳躍で躱す旅人。
炎の球と氷の球は目標を捉える事も無く、明後日の方向へと飛び跳ねていった。
「大丈夫ですか、ベローアさん!?」
「今のうちに早く逃げて下さい!」
フェイパとスルバの声に我に返ったベローア。
咄嗟に逃げようとした時である。
「それは困りますね。破られた以上、しっかりと見せしめにはなってもらいませんと」
どこからともなく声が響き、宮殿へと続く道を塞ぐように忍び装束を身にまとった大柄な者が道を塞ぐ。
ゆったりとしたそれでいて隙の無い構えで袋小路に追い詰めるは―片刃の長刀を手にする屈強な戦闘員、イーガ団の幹部であった。
旅人だけ会話の前に名前がついていますが
これは原作であるブレスオブザワイルドの変装イーガ団を表しております。
この作品ではモブであるキャラクターにも名前がついていますが、変装しているイーガ団には旅人と表記される為、より原作に近い形になるよう表現してみました。