ゼルダの伝説 蒼炎の勇導石   作:ちょっと通ります

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第55話 時の運命 さいごはアンコール

 同時刻 ゲルドの街 外壁

 

「ええと…待ち合わせしていたのはこの辺りでしたか。間違っていなければ良いのですが」

 

 モモ達の引率及び、初めてできた弟子たっての願いを叶えるためカッシーワは外壁の近くで待機していた。

あらかじめ決めておいた時間にお互い楽器を鳴らすことでセッションをするつもりである。

厚い城壁に阻まれようと、音を通じて交流できるのはいいものだ。

 

「おや、カッシーワさんではありませんか」

 

 ゲルドの街の入り口ならばともかく、少し離れた裏路地に近いだろうと思われる場所で声をかけられた事に多少驚きつつも振り返り答える。

 

「ああ、ドゥーランさんでしたか。ご無沙汰しております」

 

「いえいえ、そんなお構いなく。以前カカリコ村へいらっしゃったとき以来ですな」

 

 カッシーワは世界中の古い伝承を研究する為に訪れたことがあったのだ。

彼の師匠はシーカー族であった為、一族の本山ともいえるカカリコ村へ足を運ばないという選択肢はあり得ないと言っていい。

 

「その節はお世話になりました。それにしてもドゥーランさんはどうしてこちらに?」

 

「ええ娘達に演奏会を見に行きたいとせがまれましてな。娘達には色々と苦労をかけましたから」

 

「娘達ですか…私も似たようなものです。1人、世界各地を飛び回って家族を蔑ろにしていたのですから」

 

 彼らには家族への負い目という共通点がある。

カッシーワには本人達に許されているとは言え、神獣の暴走した時でも村へ帰ることが出来ず5人娘を妻に任せざるを得なかった事。

 

 ドゥーランにはイーガ団を抜ける際、妻を失い。

娘達に寂しい思いと生活の負担を強いてしまっている事である。

 

「やめましょうこの話は、お互いに悲しくなります。それでカッシーワさんはどうしてこちらに?演奏会ならば門の前が楽しめる筈ですが」

 

「実は私の弟子が演奏会前に一緒に演奏したいそうなのです。顔を合わせての指導は出来ませんが、それでも熱意のある教え子というのは嬉しいものですね」

 

「そうでしたか、よろしければご一緒してもよろしいですか?」

 

「勿論ですよ、そろそろ時間になる筈なのですが―」

 

 そう壁の方を振り返った時である。

城壁の奥から火の球と冷気の塊が飛び出し砂漠の空に弧を描く。

何年もの間、ハイラル中を飛び回ったカッシーワにはそれが何なのかすぐに思い浮かんだ。

 

 ウィズローブのファイア系のロッドとアイス系のロッドによる攻撃である。

しかし、問題なのはそれが持つ意味だ。

剣や槍と同じようにロッドに込められた魔力は殺傷力を十分過ぎるほどに備えている。

それが街の外まで飛び出すという事がすでに大問題と言っていい。

 

(スルバさんの手紙によると、演奏会や住んでいる人の邪魔になっては悪いから人通りの少ない場所を選んでいた。細かい事にも気を使える優しい人らしい―つまり人気のない場所にいるのは…)

 

 それは確信めいたものでは無い。

憶測と言ってしまえばそれまでだろう、しかし頭の中で思い描いている状況が警鐘を鳴らして止まない。

 

(街の中で攻撃だと!?この街へ来るのは初めてだが世界最大の交易場でこんな事が許されているはずが無い、まさか奴らが!?)

 

 ゲルドの街は、自身がかつて所属していた集団のアジトに最も近い集落だ。

そこまで思案した所で先程までの話が頭をよぎる。

抜ける時に自身が失った半身と言っても良い存在、奪い取ったのは―

 

 辿り着く道筋は違っていても2人の結論は背筋の凍るもので、非常に似通っていた。

 

「カッシーワさん!あなたは上空から街の襲撃場所を教えて下さい!私はゲルド族の門番に街の中で暴れている者がいると伝えて来ます!」

 

 かつての組織やカカリコ村で門番をしていた経験から、こういう時自身が何をするべきなのか直ぐに把握し指示が出せた。

 

「は、はい!急いでお願いします!」

 

 カッシーワが慌てて飛翔し上空から確認をする為辺りを見渡す。

彼らの動きは悪くは無かったが、条件の方はすこぶるよろしくない。

 

 1つ目はこの場所が砂漠であり、吹き荒れる砂塵によって視界がすこぶる悪かったという事。

2つ目にこの場所が交易場として最も大きく、それに比例するかの如く相当に街の広さも広大であったという事。

3つ目はロッドによって跳んでいく球は壁や床でバウンドする為、どの辺りから攻撃をしたのかが予測が経ちにくかった事。

そして4つ目が彼らが男性であり、街へ入る事が許されなかったという事と、それによって街の中の土地感が全くと言っていい程無かった事だった。

 

――

 

 ゲルドの街 演奏会会場

 

「リンク様!今度は約束通り遊びに来ましたよ!」

 

「プリコさん、ココナさんも!来てくれたんですね!サークサーク!」

 

「リンク君。こちらの方はどちらさまでち?」

 

「モモさんにも紹介しますね。こちらはカカリコ村のココナさんとプリコさんです。以前お世話になったことがあってその時にまた会えるか約束していたんです」

 

「なるほど、リンク君も隅に置けないでちね。ココナさん、プリコさん、よろしくでち」

 

 モモの一礼に対し2人も深々と頭を下げる。

 

「父様が送ってくれたんです。その姿…演奏会に参加なされるのですね。とっても良く似合っていますよ」

 

「サークサーク、改めてそう言われると照れくさいものですね。ココナさんもせっかくのゲルドの街です。みんな来てくれるなんて最高の一日です。思う存分楽しんでいってくださいね!」

 

 今日はいい日だ、彼はつくづくそう思う。

演奏会の主役として参加できるだけでなく、旅の先で出会った友人たちが異国まで遊びに来てくれた。

皆で祭りを堪能すれば楽しみもまた格別だ。

 

「―さて、そろそろ時間ですね。ココナさん、プリコさん。僕達の演奏、楽しんでいってくださいね」

 

「2人とも早めに応援席へ向かった方がいいでち。毎年すごい人気だからいい場所はすぐに埋まっちゃう」

 

「そうなんですね、ココナ姉様!早くいきましょう!」

 

「ちょっとプリコ手を引っ張らないで…リンク様。モモ様。頑張ってくださいね。応援しています」

 

 プリコに引っ張られる形でココナは観客席の方へと駆けていった。

それとほぼ同時かというぐらいにリト族の子達も帰って来る。

準備にかからなければ。

 

「…ていっ」

 

「うわぁ!?モモさん何するんですか!?」

 

「リンク君、固い。ちみの真面目な所は美点の1つだけど、演奏会の成功に意識が逸れてる。リンク君自身も楽しむことが大事」

 

 モモは相手の心理を察し、ふとした時にするっと入って来るような事を話す。

リンク自身も言われてから楽しむ事の大切さを自覚する。

 

「すみませんモモさん。ちょっといいところ見せたくなっちゃって」

 

「君と家族や友達が見たいのは良い所よりも、君の笑顔でち。そこを間違えちゃ駄目」

 

 そう言われてかリンクは両頬をペチンと軽くたたいて切り替える。

一呼吸おいてからフェイパを彷彿とさせるまぶしい笑顔で準備に取り掛かった。

 

 

 いよいよ演奏会が始まる時間だ。

金属特有の光沢に彩られた衣装を身にまとい、リンクはステージに上がる。

その後ろを取り囲むようにリト族の子供達がリトの民族衣装に身を包み並んでゆく。

 

 観客席は凄い人だ!

去年の演奏会が素晴らしかった事とリンクがゲルド族で頂点に立った為、話題性があったからかもしれない。

 

(うわー!すっごいひとだ!姉ちゃん達は…どこだろう?数が多すぎてわからないなぁ。ココナさん達はあの辺りか、だいぶ後ろの方になっちゃったみたいだ。もうちょっと早めに教えてあげるべきだったなぁ…)

 

 リンクがそう考えている内にも時間は過ぎてゆき、この演奏会の責任者であるルージュが壇上に立つ。

 

「遠路遥々ゲルドの街へよく来てくれた。勿論こちらで暮らしている者達の尽力にも感謝しかない。種族の垣根を超えた交流の場でもある演奏会を思う存分楽しんでいって欲しい」

 

 待ってましたと言わんばかりに歓声が上がる。

湧き上がる熱気、人々の高揚を床の振動を通して雄弁に伝えて来る。

こういう時、大半を占めるゲルド族の陽気な気質はありがたい。

 

(みててね、フェイパ姉ちゃん、スルバ姉ちゃん。聞こえるかはわからないけれどティクル姉ちゃんにも届くといいなぁ…。―本気で楽しむ)

 

 曲が流れる、ゲルド族特有の明るく活気のある人気の曲だ。

待ってました、これが聴きたかったんだと歓声がより一層大きくなる。

リンクのオカリナとリトの子達の歌声で活気のある演奏は難しいイメージがあるがそんなものは全く関係ないと言わんばかりに音色にも声にも張りがある。

 

 リト族に伝わる竜の島という曲も明るい曲調で更にボルテージを上げてゆく。

リンクの仕上がりも順調の様で次々と演奏をこなしていった。

 

「アンコール!アンコール!アンコール!」

 

 観客席から拍手と共にもう一曲とリクエストがかかる。

どうやら去年のもう一曲が非常に好評だったらしく、最後にどんな曲があるのかと期待がかかる。

 

 それにこたえる様、リンクは静かにオカリナを構える。

自分の為に新曲を作ってくれた姉からの贈り物を奏でる。

 

 先程までとは違い穏やかで厳かな曲であった。

それは雄大であるのに身近なもの不思議と時間を忘れるようなじんわりと染み渡る曲に皆聞き入っている。

反応は真逆ではあったが、それでもいい曲であるのは誰もが釘付けになった観客席の様子から明らかと言えるだろう。

 

―曲が終わった、それと共に皆からの盛大な拍手が沸き起こる。

ステージの主役はいいものだ、リンク達は一列に並び改めて一礼する。

無事終わった―リンクにとって愛しい姉からの特別な贈り物、嬉しくないはずが無い。

 

(やった!スルバ姉ちゃんの初めての曲。すっごい、ホントのプロみたいだ!かっこいいなぁ!サークサーク!)

 

 演奏会の成功による充実感、高揚感を胸に抱きながら締めくくる。

ステージから降りた後、リンクは姉達を探す。

しかし、人のごった返す街中で2人の姿を見つける事は難しかった。

 

「うーん、見つからないなぁ…ん?この匂いは…」

 

 リンクはこの匂いを知っている。

ココナ達の暮らしているカカリコ村の特産品である香水だ。

梅の花の香りはフェイパが好んでつけるこの街では非常に珍しい一品。

その香りにつられるようにリンクは歩みを進めてゆく。

 

(…なんで裏路地の方に進んでいるんだろう…?何かあったのかな…?)

 

 リンクの進む先、姉の物と思われる香りは進むたびに非常に強くなってゆく。

むしろこれ程強いものだったか疑問を感じるほどだ。

 

(人だかり?香水に混じるこの匂い―まさか…まさか!!!)

 

 頭に警鐘が鳴り響き、人だかりへと全力で走り抜く。

勘違いであって欲しい、間違っていてくれ!!そう己に言い聞かせながら輪の中に割って入る。

その先に待ち受けていたのは…

 

(嘘だ…、嘘だ、嘘だ!なんで!?どうして――!!!)

 

 血の海に沈んだリンク最後の家族、姉2人の姿であった―


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