ゼルダの伝説 蒼炎の勇導石   作:ちょっと通ります

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第56話 姉達の大きさ

「リンク…、フェイパが…スルバが…」

 

 リンクに縋りつきながら嗚咽を漏らし泣き続けるベローア。

その背中を姉であるエメリが慰める様に気休めとわかっていながらも優しくさすっている。

 

 助けられてしまった、娘の親友2人の命と引き換えに…ティクルに何と言えばいい

メルエナにだって合わせる顔が無い、それ以上に―呆然と佇んでいるリンクにどう詫びればいいのだ。

 

 彼女は本当に一人になってしまった、リンクを支え、守る身内はもう誰一人いない。

見せしめとして賊に命を奪われるという本当に救われない形で。

 

(フェイパ姉ちゃん、スルバ姉ちゃん―…)

 

 リンクが2人の亡骸に寄り添い膝を折る。

巨大な血だまりは身に付けていた衣装を赤黒く染めてゆき、その分だけずっしりと重くのしかかる。

 

(傷を負った訳じゃないのに立てない…こんなに力が入らないものだっけ…?)

 

 兵士として、時には魔物達相手に命のやり取りをしているリンクには気が狂ってしまいそうになるほどわかってしまう。

斬られた経験から裏打ちされた、命を落とすほどの出血を伴う斬撃がどれ程の痛みと苦しみを与えるのかが―

 

 リンクは心も強かった、母様達がいなくなったその日の内にルージュの下へ向かい未熟ながらも自分なりの覚悟と意志を見出した。

翌日には死と隣り合わせの砂漠の護衛を受け入れ乗り越えていった。

当時7歳の子供がこれ程強靭な精神を身に付けている事は見事というほかはない。

 

 ―彼が乗り越えたのは姉達を守りたかったからだ。

乗り越えたいとかそう言う心持ちなどどこにも持ち合わせていなかった幼い童の原動力が2人の姉であったことは疑いようもない。

だからこそ、その根本から崩れてしまった時、人はどうすればいいのかわからなくなる。

 

 彼は心が強かった。

それこそ、この惨劇を目の当たりにして気が狂わない程に、意識を奪われない程に…彼の強靭な心は彼自身を決して守りはしなかった。

すべて残酷な現実として凝視させ、正面から受け耐える事を強いたのだ。

 

 砂漠に咲いた特大の花の様なフェイパの顔が砂埃でくすんでおり、健康的でゲルド族特有の褐色の肌には否でも目に付くほどの大きな切り傷が残っている。

 

 流れる様なスルバの青髪は砂と血で見るも無残に乱れ、美しかった瞳が淀み濁ったまま虚空へと向けられたまま動かない。

 

―あの時、1年前両親がいなくなった時の姉達と決定的に違う。

 

 フェイパはくすんでしまったまま笑顔の輝きを取り戻すことは無い、切り傷の目立つ最期など戦士ではないヴァーイに対しあまりに無情ではないか。

 

 スルバだって主張はしないヴァーイではあったが身だしなみには気を遣っていた。ゲルド族には珍しい白い肌は鮮やかな青を一層引き立て竪琴を奏でる姿は女神の様であった。

そんな彼女を血と砂で彩りなど全く以て相応しいものでは無い、いつも周りに気を遣い優しく見つめてくれたその瞳がリンクを見てくれる事はもうあり得ない。

 

 2人は悲しみも苦しみも乗り越えて時に寄り添い、時に励ましてくれた。

もう、その機会すら決して訪れないのだから…

 

「―アタシのせいだ」

 

 その言葉にうつろな瞳で視線を動かすリンク。

視線の先でアローマが己の罪を悔いるかの如く告白する。

 

「ベローアの様子があまりにもおかしいと思ったから、兵士さん達に探りを入れて貰うようお願いしたんだ。多分、何者かに脅されていると思って…それがこんな結果を呼び寄せるなんて―」

 

 アローマにとってリンク達は旧友であるメルエナの残した忘れ形見だ。

子のいない彼女にとって彼女達は娘のような存在と言っていい。

 

 娘達の命を奪う切っ掛けになった自身の行動が許せないし、それ以上に残されたリンクの心を考えるだけで胸が張り裂けそうだった。

 

 違うとリンクは叫びたかった。

だがその一言が出なかった、夢でも見ているかと思う程に彼の身体は固まって何一つままならないのだ。

 

(パーヤ様やプルア様の忠告、なんて甘かったんだ…何が守ってだ、何が最強だ。演奏会にうつつを抜かして、本当に危ない時には何もできなくて、愚の骨頂じゃないか…!)

 

 イーガ団と同じシーカー族として危険性を訴えていた2人の言葉が彼の中で駆け巡る。

彼らは命を奪う事すら厭わない非情さを持っている、君はもっと強くならなきゃいけない自身を守る為、そして周りの人を守る為に。

 

「リンク、大変な時なのはわかっているが時間を頂けないだろうか?」

 

 ここで話の流れを変えたのはゲルドの街の族長であるルージュであった。

無論彼女とて辛いのだ、リンクを見つめる双眸には悲しみと責務が混ざり合う。

 

「…ルージュ様、このタイミングでも私に用があるという事はかなり逼迫した状況なのですね…?」

 

「ああ、アローマに無理を言って部屋の一室を借りさせてもらった。内密な話をせねばならぬ」

 

「アローマさん、ベローアさん、姉ちゃん達をよろしくお願いします」

 

「わかった、アタシ達に任せて行っておくれ」

 

「サークサーク、それでは失礼します」

 

 2人に対し頭を下げ、覚束ない足取りのまま用意された部屋へと向かったリンク。

痛々しい程に焦燥しきった姿は見るに堪えなかった。

 

 裏路地に沈痛な間が広がる、アローマとベローア、エメリではこの重い空気をどうする事も出来ないだろう。

 

「―失礼ですが、こちらにスルバさんがいらっしゃるでしょうか?」

 

 そんな空気を破る者がいた、それはアイシャによって道案内されたリトの吟遊詩人、カッシーワであった。

 

 数十分前 ゲルドの街 正門前

 

「―そうだったか、ドロップ。辛い役目を頼んでしまったな」

 

 門番仲間のドロップの報告をムリエータは渋い面持ちで受け止める。

この内容だけはいつになっても慣れてもいい気はしないものだ。

 

「どうなったのでしょうか!?私とて荒事には慣れています!私にも教えてくれませんか!?今あの場所には娘達がいます!他人事ではありません!」

 

 ドゥランが2人にどんな状況であったのか尋ねる。

その表情は鬼気迫るものだ。

理由などわかり切っている、恐らく潜り込んでいるであろう刺客が荒事を起こしたのだろう。

あの場所には娘達がいる、娘の恩人とその姉達がいると聞く。

穢れきった自分の命なんかとは比較にならない大切な宝物達だ、最悪の結末だけはあってはならない。

 

「…詳細は申し上げる事は出来ませんが、少なくともあなたの娘さん達は御無事です。私達としてもこれ以上お話しできる立場ではないとご理解ください」

 

「…あなた方の立場は理解しているつもりです。それならば担当の責任者を呼んで頂くか、私を街の中へと連れて行っては下さりませんか?」

 

 当然、普通はこんな要件が通るはずが無い。

だが大抵の事には例外が存在する。

無茶を通す為、ドゥランも覚悟を決める。

 

「―私は元々イーガ団の抜け忍のドゥランです。この騒動は奴らの物だと想定しております」

 

 彼女達の表情からドゥランは自身の憶測が正しい事を確信する。

この好機しかない、一気に畳みかける。

 

「私が提示できる交渉材料、それはアジト内部の詳細な地図と、街の警備で潜り込んだ奴らの鎮圧です。彼らの変装は私だからこそ見破ることが出来ます」

 

「―ドロップ、ルージュ様に報告を。万が一があっては許されない。ルージュ様が御認めになるのなら今回だけ通る事を許可しよう」

 

 ゲルド族もイーガ団のアジトの場所や構造はある程度は把握している。

それでも過酷なカルサー谷の気候と屈強なイーガ団員の前では詳細までは把握できていない。

それに加え、潜り込んだ団員を見極めるのは非常に困難だ。

同族のシーカー族ですら容易くとはいかないだろう、素早く確実に見分けることができるのはイーガ団関係者くらいだ。

 

彼の提案は非常に魅力的である、演奏会における殺人事件は明らかな非常事態だ喉から手が出る程の戦力となるだろう。

彼が本当にイーガ団から抜けているのならだ。

確認も取れずに招き入れるには状況が悪すぎる。

 

「ドゥランさん、スルバさん達は御無事でしょうか!?」

 

 カッシーワが正門の前に着地し尋ねる。

彼も焦っているのだろう、なにせ事件の起こった場所は弟子であるスルバが指定してきた人気のない裏路地だ。

 

「…貴方、スルバちゃんの御師匠さんね」

 

 門の奥、街の中から声がした。

向けられた視線の先には宝飾店の店主であるアイシャがいた。

 

「ええ、その通りですが…貴方は?」

 

「私はこの街で宝飾店の店主をしているアイシャよ。…残念だけどスルバちゃん達は…」

 

「そんな…」

 

 何という事だ、私は弟子の顔も知らない、声だって聴く事すら叶わない。

―弟子の最初で最後の望みすら叶えていない。

こんな不誠実な師がいるだろうか。

 

「お願いです。私も街の中へ連れて行って下さい!監視付きでも構いません!弟子の顔も知らないまま永遠の別れだなんてスルバさんが浮かばれない」

 

「…申し訳ないが、そればかりは許可できない。基本的にゲルドの街はヴォーイの出入りを認めていない」

 

「―ああ成程、カッシーワさん、ちょっとそこまでお願いできますか?」

 

 そう言ってアイシャは腕を絡める。

凄い力だ、ちょっとやそっとじゃ振り解けそうもない。

 

「それでは少々失礼します」

 

 

「あの、そろそろ離していただけるとありがたいのですが…」

 

「ねえ、カッシーワさん。あの街に入りたい?」

 

「勿論です、せめて私の教え子の顔を一目見たいのです。たった一年、それも文を通してしか私達の師弟関係は成り立っていなかった。それでもその気持ちに偽りはありません」

 

「その為には、大抵の事は出来ると?」

 

「ええ、その言葉に偽りはありません」

 

「わかったわ、その言葉が聴きたかった。私が力を貸しましょう。ゲルドの街にヴォーイが入る事を許される抜け穴教えてあげる」

 

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