明らかに不自然だなというところは色々と修正してみました。
ここら辺がおかしいなどがありましたらご協力をよろしくお願いします。
楽しんで頂けたら幸いです。
「あの、正門の所から離れているのですが大丈夫なのでしょうか?」
カッシーワの言うように2人は入口の方からどんどん離れてゆく。
人の気配すらほとんどない、本当にこんな方向に抜け穴などあるのだろうか。
「ねぇ、カッシーワさん。あの子達には両親がいない事は知っているかしら?」
「それは…存じております。スルバさんからの手紙に記されておりましたから」
「私達ゲルド族は、外から様々な品を仕入れ商いをする事が多いの。あの子達の親であるメルエナもその一人。父親と共に旅に出たまま2人は帰って来なかった…見送った彼女達の辛さは計り知れ物があったでしょう」
「それは…お気の毒でした…」
長年世界中を渡り歩いたカッシーワにとって外の過酷さは身に染みるほどに重いものだ。
それだけにここでこの話をする彼女の意図を推測する。
(―ここでこの話をすることの意味…私が求めるもの…成程)
「つまりゲルドの街には男性を見送ることが出来る場所があるという事ですね?」
「御名答、流石は高名な吟遊詩人ね。いくらゲルド族といえども父親と一切会う事が許されないなんてことはあり得ないわ。そんな不誠実な事、ルージュ様がお許しになるはずが無いしそんな一族相手と結婚しようなんて物好きはそうそういないでしょう」
「入る事の許される一部の区画がこちらにあるという事ですか…。しかし大丈夫なのでしょうか?話を聞いている限り、男性なら誰でもという訳では無く伴侶のみに与えられた特権のようですが」
カッシーワの推測は正しい。
見送ったり出来る入り口というものは男性でも入る事の出来るという都合のいいものでは無く、あくまで夫だけに許されたものと言える。
「だからずっとこうして腕を組んでいるんですよ。身分を証明したりしないといけない程ゲルド族は野暮じゃないわ。ヴォーイでは裏路地までしか入る事は出来ませんけどね」
アイシャの言い分を纏めると裏路地までなら夫の様に振る舞えば何とか入ることが出来そうだ。
その為に腕を組んで自分の夫となる存在とアピールしているらしい。
「…さてと、見えて来たわ。あちらの入り口が旦那だけが入ることが出来る抜け穴よ」
アイシャが指で示す方向をよく見てみると岩の陰にこっそり隠れる様に入り口が広がっていた。
成程、整備された道からずっと離れた上に、隠れている入り口となればそう簡単には見つからないだろう。
こちらの入り口にも門番がいる様で気軽に侵入を許す場所でもなさそうだ。
「ありがとうございます。色々と御迷惑をおかけしました」
「気にしないでください…。あなたにとってスルバちゃんが弟子であるように、アタシにとってもフェイパちゃんは大事な教え子でもあったんですから…」
ポタリポタリと零れては砂に溶け込んでゆく。
アイシャにとってあの子の真摯且つ情熱的、何よりも献身的な魅力は眩しいものだった。
付き合いの短いと言うカッシーワ達の物と比べてもなお少なく、それでいて師弟の様な明確なものではない。
それでもあの子は自分でも役に立てることを懸命に探し、提示してくれた。
素人の浅知恵と言ってしまえばそれまでかも知れない、だが考えを纏めた資料は疑りようもない程に入念に調べられたもので、可能性に満ち溢れたものでもある。
何よりも私の腕ならばできると信じた上で送ってくれたのだ。
期待に応えるべく精魂を込めて作り上げた試作品の2つのロッド、それがあの現場に転がっていた。
その事実が何があったのかを雄弁に語りかけて来る。
―私があんなものを作ったばかりに…
力及ばずに顧客の要望に応えることが出来なかった事だって勿論ある。
だが作ってしまった事を後悔する様な事だけは無かった。
それを気遣ってかカッシーワがハンカチを差し出す。
逞しい体躯とは裏腹に実に誠実で優しい紳士だ。
「サークサーク。そろそろ行かないとね。アナタを連れて行く事があたしに出来るせめてもの償いなのだから…」
―
「…という訳で、アイシャさんに連れてきてもらったのです」
カッシーワはアイシャに腕を組まれたままの姿で答える。
…そろそろ離してくれても良いのではないだろうか。
夫婦の様な振る舞いはここまで来れば必要ない筈だが…
「サヴァサーバ、カッシーワさん、この子達の為にこんな無茶をしていただきサークサークです。―こちらの青い髪の少女が貴方と文通をしていた、スルバちゃんです」
そう言って、アローマがカッシーワに語り掛ける。
これが2人にとって最初で最後の邂逅―
お互いに手を握り合い、動かなくなった2人に黙とうを捧げた後、カッシーワは自身の持つコンサーティーナーを取り出す。
アイシャもこの時ばかりは絡めた腕をほどいた。
「―スルバさん、フェイパさん。初めまして、私がカッシーワです。こんな形で会う事になるとは思いませんでしたし、共に演奏する約束は果たせなくなってしまいましたね…。今年の演奏会、ほんの僅かにだけしか聞こえませんでしたが、あれは貴方達が助け合って作った曲なのでしょう…よく、頑張りましたね。せめて私から一曲捧げさせてください」
それは彼女達だけの演奏会、それは本来響くはずの音色の半分だけが虚空に溶ける。
悲しみに暮れていた皆が黙祷を捧げる。
共に演奏するのにはまず使わないような重く悲しみに満ちた鎮魂歌。
ゲルドの街にも伝わる正式な悼む為の曲、異なる種族の文化にも造詣の深いカッシーワだからこそできる手向けであった。
「…アローマ、ちょっとだけベローアを頼めるかい?」
――
―
Hotel Oasis
「リンク、こんな時に本当に申し訳ないが力を貸して欲しい」
リンクの向かった一室ではルージュ、ビューラを始めとした歴戦の戦士たちが集まっていた。
「ルージュ様、ビューラ様やチーク隊長まで…一体何が始まるんです?」
「―イーガ団が攻めて来る」
「―えっ…」
「簡潔に説明すると我らの神器「雷鳴の兜」を手にする為に襲撃をするつもりらしい…」
随分と思い切った行動に出たものだ。
いくら神器とは言えこんな祭典の最中に襲撃して奪う算段であるのなら、それは多すぎる敵を作る事になるだろう。
只でさえ厄災ガノンを失い、後ろ盾のない彼らがそのような凶行を実行しようものなら滅ぼしてくださいと言っているようなものだ。
ルージュは彼らの要望の全てをリンクに伝えはしなかった。
彼らは過去に一度「雷鳴の兜」を盗むことに成功している。
神器だけならここまで事を大きくする必要は無かった筈だ。
恐らく本命はリンク自身の身柄であるとルージュは推測している。
しかしだからと言ってそこまで彼が背負い込む必要などどこにもない。
(…母様から僕の出生は聞かされている。神器だけの為に態々負担を大きくする必要なんてない)
だが彼は自身の出生についてメルエナから聞かされていた。
ゲルド族の中でハイリア人のヴォーイの様な名前を付けられれば気になるだろう。
街の危機に神器の喪失、助けられるものもいない中で彼女に手を差し伸べてくれた英傑の名を持つ女神の様な少女―これ程の話を忘れられるだろうか。
(―伏せて置いても気が付いてしまうか…今だけはおぬし自身の為に辿り着いて欲しくなかったのだが…)
「リンク、状況が許してくれないと思うかも知れないが、私とてお前の上官だ。私が代わりを努めるから、辛いのなら姉達の傍にいて欲しい。お願いします、ルージュ様。リンクがあの子達の所へ戻る事をお許しください」
まだ子供のリンクにこのようなタイミングで戦場に送るのは流石に我慢ならなかったのだろう。
これ程精神的に追い込まれている者に兵士や住民の命を預ける訳にもいかないというのもある。
チークがリンクに姉達の所へ行く事を提案する。
「ルージュ様、少し失礼するよ」
そんな折、この部屋の中に割って入る者がいた。
ベローアの姉であるエメリである。
「エメリか…重要な話なのだが後にしてもらえないだろうか?」
今は非常事態だ。
あまり時間を取る訳にもいかないのだが、飄々とした彼女はお構いなく話を続ける。
「詳しくはわからないけれど、奴らへの対応だろう?いいものがある」
そう言って、彼女が差し出したのは黄色く熟成された芳醇な果物、大量のツルギバナナであった。
ベローアの姉である、エメリもカラカラバザールで果物屋を営んでいる。
そして、イーガ団の何よりの好物がツルギバナナなのだ。
彼らはそれを見ると心を奪われ、持ち場から離れてしまう程である。
この果物の持つ魔性には決して贖えない。
「多分、気付かない内にアタシの店にも変装して買いに来てたんだろうね。でもそれも御仕舞。妹を泣かせ、姪を連れ去った奴らに売るバナナなんてない。姪の友達を手に掛けた、絶対許さない」
エメリの店にはツルギバナナが売られている、世界で唯一といっていい。
彼らからしたらアジトから最も近い店の1つであり、品、立地ともに最高と言えるのは疑いようもない。
確実に常連になっていただろう。
「あいつらにティクル姉ちゃんが捕まっている…?行かせてください、もう私はこんな思いをする人を出したくない」
エメリの言葉にリンクが反応した。
自分から姉達を奪い取るだけでは飽き足らず、ティクルにまで危険に晒す外道ども。
握るナイフからはミシミシと音が聞こえる。
「―わかったそれについては考えてある。リンク、ゲルド砂漠へ出てルージュ様をお守りしては貰えないか?」
チークの発案内容が予想外だったのか目を白黒させるリンク。
時間が惜しい為かチークはそのまま大まかな方針を説明してゆく。
「ゲルドの街で防衛も考えたが…いかんせん状況が悪すぎる。ゲルドの街にもそれなりにイーガ団の者が紛れ込んでいるとみていいだろう。演奏会当日という事もあり統制のとれた防衛を築くのは困難だ」
「しかし…それでは街の防衛が疎かになってしまいませんか?」
「うむ、確かに防衛力という意味では街の中を固めるよりは劣るだろう。今回の作戦の肝は相手に攻勢に映らせない事だ。戦い方には自分達の強みを活かすものもあれば相手の強みを打ち消すものもある。今回の場合は後者が該当するだろう、神器を身に付けたルージュ様とスナザラシで攪乱をして欲しいのだ。具体的には―」
チークの話を纏めると、ゲルドの街を攻め込んだとしても目的の代物は手に入らないと思わせる事だ。
神器などの略奪を目的とするという事は、裏を返せば物が無ければ攻め入る理由が無いという事でもある。
「雷鳴の兜」を身に付けたルージュがパトリシアちゃんに乗り、彼らを引き付けるらしい。
ルージュの腕をもってしても一人ではいずれ数で囲まれ逃げ切れなくなるだろう。
そこでスナザラシを動かすことが出来、腕もたつリンクに白羽の矢が立ったという訳だ。
(…この作戦のポイントはリンクと雷鳴の兜が分かれて逃げているという事、できる事ならリンクを危険に晒したくはない。だが街の民達を危険に晒すわけにもいかぬ)
「わかりました、ルージュ様に置いて行かれない様気を付けます。その間、街の中はどうするんですか?いくらなんでも無防備という訳では無いでしょう」
「それは私が責任をもって何とか致します」
そう言われた先にはシーカー族の門番、ドゥランがいた。
「ドゥランさん!?どうしてここに!?それにその格好は一体!?」
リンクの驚きも当然だろう。
ここはアローマの宿屋の一室、当然この場所に男性が入る事は許されていない。
シーカー族の男性の衣装の代わりにゲルド族のものを身にまとっている彼はあまりにも浮いて見えた。
「…リンク様、この度の事はまことに残念でした…。私が無理を言ってルージュ様に入れて頂いたのです。私とて元はイーガ団出身、変装していようとも私ならわかります。もう奴らに怯えている訳にはいきません」
彼の目には決意が見える。
目の前の少女はかつて自身のいた組織から命を懸けて娘を守ってくれた。
その恩人が姉達を失い危険に晒されている。
ここでリンクの為に立ち上がれなければ、それこそ娘達の傍にいる資格すらない。
「今回は街の民達と観光客の安全の為、特別に許可を出した。余計な問題になっては困るから女装してもらったのだ。私と共に街に残っている兵士と共に街に紛れているイーガ団を無力化する役目を担って欲しい」
ビューラが彼の役目を説明する。
この危機に彼の持つイーガ団としての経験と知識は絶対的に必要なのだ。
「かしこまりました。このドゥランにお任せください」
「リンク、そろそろ時間だ。わらわと共に出撃するぞ」
「―はい!」
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