総合評価250
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数時間後 ゲルド砂漠
(…そろそろ限界か、上手くやれているとはいえ多勢に無勢では遅かれ早かれ限界も来るのは仕方がない)
リンク達は頑張っているが、次第に戦況は悪化してゆく。
まず挙げられるのはリンク達やスナザラシの疲労だろう。
スナザラシの移動はかなり速い、右に左に咄嗟の切り返し。
敵からの攻撃がある以上、自分のペースで体力を温存する事が望めない。
それだけでなく、リンク達を引っ張って魔物だらけの砂海を泳いでゆくのだ、臆病な彼らにはこのストレスは相当に大きい。
「ルージュ様!矢が来ています!」
(やはり対策を講じて来たか。単純だが取られたくなかった方法だ)
「上空からの狙撃を徹底しろ!当たらなくともプレッシャーをかけ続けるのだ!」
リンクの声によってパトリシアちゃんに指示を出し紙一重で躱す。
彼らとて黙ってやられている訳では無い。
幹部の指揮による、団員お得意の上空からの弓による攻撃だ。
要するに爆風に巻き込まれるのなら、巻き込む物が無い空中から狙えばいいのだ。
スナザラシによる高速且つ独特な移動からの射撃は相当に難しいものである。
ルージュはともかく、矢を扱うようになって日が浅いリンクには荷が重すぎると言っていい。
「リンク、スナザラシが狙われてるぞ!」
その上彼らは二連弓による偏差射撃に重点を置いている。
名前の通り2連続で矢を放つ事の出来るこの弓は、それだけ避ける事が難しい。
スナザラシにも当たらない様に細心の注意を払うのなら尚更だ。
「リンク!そろそろ限界だ、アジトへゆくぞ!」
「はい!ルージュ様!」
(だが何はともあれ、時間は稼げた空も赤い。民の安全確保ぐらいは出来ただろうか?…―まて、赤い?)
ルージュは1つだけ失念していた。
いや、厳密には言うのならこれを見落とすなというのは酷であろう。
なにせ10年近く一度としてお目にかからなくなっているのだから。
赤黒く広がる空の元凶…、それは夜の太陽。
鮮血を被ったかの如く染まり切った満月であった。
ブラッディムーン
誰が呼んだかそれは魔物達にとって祝福の時間。
厄災ガノンの魔力が最も満ちている時間のようで、封印されてからは一度として訪れなかったルージュの思考の死角。
恐るべき事に瞬く間に世界各地の魔物が一斉に復活する。
それこそ先程倒したばかりの魔物達までもが退路を断つ様に現れた。
「ルージュ様!」
「無理をするな、この程度躱せぬはずが無い!お主は周りに気を付けろ!」
唐突に魔物達に囲まれるルージュ、慌ててリンクが助太刀に向かうがいかんせん離れすぎている。
逆にリンクが周りの注意を怠る事の無い様檄を飛ばす。
ルージュとパトリシアちゃんの連携は見事なもので狭い範囲でも巧みに操り、魔物達とイーガ団を躱してゆく。
「囲みを継続しろ!狭めて間を抜けられる愚だけは犯すな。空中から角度をつけて誤射には気を付けろ!」
イーガ団にとってはまたとない好機でありそれを逃さない様、じっくりと追いつめてゆく。
(じり貧になっているな、それにこの地響きは…モルドラジークか。紙一重にはなるが凌げれば包囲網を抜けられるかもしれん)
冷静に、更なる障害の来訪を予測し対策出来る。
それはルージュの経験を積み上げて来たことの証左でもあるし、一流の戦士でもある。
―イレギュラーな状況は、時として経験が仇になる事もある。
「くっ!?」
「ルージュ様!?」
紙一重躱す事の出来ると思われた巨体はルージュの身体を宙へ吹き飛ばす。
それは、モルドラジークでありモルドラジークでは無い存在。
彼らを砂漠の貴族と例えるのならそれを束ねる王、更なる年月によって鋼の如き表皮と更なる巨体へと成長したキングラジークであった。
「雷鳴の兜が飛んでいったぞ!確保に向かうんだ!」
モルドラジークであるのならばルージュは躱すことが出来ていたのだ、100年単位でしか確認されない不運な事故。
不幸中の幸いというべきか雷鳴の兜はリンクの方向へと飛んでゆき確保できたのだが、その落下地点にリンクは顔を青ざめる。
(冗談だろ…?なんで脱げたタイミングで、そこにシビレリザルフォスが放電するつもりなんだ!?)
雷鳴の兜の加護を失ったルージュにはそれをよける事も防ぐ事も出来ない。
リンクにしても兜を抑える事が精一杯で弓すら構えていない。
爆弾矢ではルージュごと吹き飛ばしてしまう。
極限状態が研ぎ澄ました集中力が導き出す答えが悉く消えてゆく。
手元に残るのは雷鳴の兜が一つ。
「―我が名はリンク!ゲルドの一族に名を連ねる者なり!ゲルドの始祖達よ、我らが一族の導き手を守る為、今一度力を与え給え!」
リンクの叫びに呼応する様に、ドーム状のバリアが彼女を守りシビレリザルフォスを押しのけた。
ルージュのそれと比べてもなお強い兜の力、それはゲルドのヴォーイに流れる王の資質なのか、それとも時が流れるに従い変わっていったゲルド族を守る存在だからか。
(まだだ!魔物達は退けることが出来たけど、あいつ等が離れていない!)
団員の殆どはリンクへと意識を映しているがそれでも全員では無い。
「兜はこっちだ、欲しければ取りに来い!」
そう言って、一目散に単身アジトのあるカルサ―谷へとスナザラシと共に駆けだす。
目的は自分と兜だ、ならばどちらも持っている限りルージュが彼らに狙われる理由は無い。
「リンク!」
「逃げられない様、退路を塞げ!アジトの仲間と挟み撃ちだ!」
ルージュの絞り出すような叫びを背に受け、振り返ることなく離れてゆくリンク。
イーガ団の戦士たちは彼の目論み通り、ルージュには目もくれず取り押さえる為に追いかけてゆく。
彼女だけを置いて、戦場は移っていった。
(こんな時に動けないとは…、頼むリンクよ、ティクルよ無事であってくれ…!)
モルドラ―ジークよりも更に巨体で重量のあるキングラジークに跳ね飛ばされたルージュはもう動けない。
一刻も早い治療が必要であるが、残酷な事にこの砂漠で出会える者など魔物ぐらいだ。
シビレリザルフォスに黒リザルフォス、エレキースなどに忽ち囲まれる。
(…いよいよわらわも神になる時か…。すまぬなビューラ、皆、リンク、…母様)
ヒュン
「ギャァアア!!!」
観念し、目を閉じた彼女に届いたのは近くを何かが通り抜けた感覚と、爆音と共に響く魔物達の叫び声。
恐る恐る閉じていた目を開いた先では3体の魔物達が一瞬にして吹き飛び消滅していた。
ルージュの瞳に映る存在は一体―
――
―
カルサ―谷 イーガ団アジト前
ゲルド砂漠の北へと伸びる、砂の零れ落ちるカルサ―谷、ここから先は砂漠ではないのでスナザラシを避難させ、リンクは駆けあがる。
ここはイーガ団が本拠地を構える谷。
全盛のハイラル王国ですら攻め落とす事の出来なかった、難攻不落の自然の要塞。
それでも進むしかない、後ろからは団員達が彼を追いかけて来る。
細くなった坂道を登り切り、少し開けた場所に出た時だ。
前方からも団員達が現れ弓を構える。
完全に挟まれた、更に敵の戦力を削るためか崖の上から岩まで落として来た。
(前からも防衛用の団員が来たという事はアジトまでそんなに遠くない筈、ここで止められる訳にはいかない!)
それでも次から次へと投げ落とされる岩の前に次第に戦力を削られてゆく。
ただ一つ誤算だったのは…岩が落とされ戦力を削られたのは団員達の方であった事だ。
「リンク!こいつらの足止めは私達に任せておけ!」
「チーク隊長!サークサーク!」
1時間前 カルサ―谷
(仲間が殆ど出払ってしまったな、杞憂だとは思うが万が一を言う事もある。今いる人数で精一杯守りは固めなければ)
カルサ―谷の防衛を任されている団員が己を役割を内心で反芻する。
新総長が仰る厄災の申し子は何としても手に入れなければならない。
もし今回を逃してしまえば、厄災の再来は何万年先になるのかわかったものでは無い。
「お前達、再度確認するぞ。あの子供だけの時は足止めだけだ。他の奴らには遠慮なく落としてやれ」
「はい!」
古典的ではあるが、岩を落とすにもタイミングと位置が重要になる。
誰彼構わずではないのなら尚更だ、文明が一度滅んだ影響もあり人力で落としているのである。
「そろそろ来るかもしれん、気を引き締めて―
「ギャッ!」
「グァアア!!」
「どうした!?何があった!?」
突然、待機していた団員達が負傷する。
蹲る者もいれば、痛みに耐えかねて谷底へと滑り落ちてゆくものもいた。
状況を確認するよりも先に、矢の大波を浴びせられる。
(あれは…ゲルド兵共か!あんなに遠くから…これでは気付けない筈だ)
彼女達の取った戦法、それは超遠距離からの集団射撃であった。
ゲルドの弓は射程の長さと命中精度が特徴である。
動いている相手ならともかく固まっている相手への奇襲ぐらいは訳が無いのだ。
「ルージュ様達が通る前に崖の上だけでも殲滅しろ!ありったけの矢を放て!」
(クソ…これではどうにもならん。)
一応イーガ団の弓も射程は長いが、そこまで遠くから狙う事などまずない。
変装や術によるワープを軸にして戦う為、態々使う必要が無かったためだ。
そもそも時間をかけて配置された部隊による一斉射撃では気が付いたところでもう遅かった。
彼らの敗因、それは内部に精通しているドゥランがゲルド側についていたという事であった。
―
仲間からの援護だと思われた落石が実は敵のものだった、予期せぬアクシデントに浮足立つイーガ団。
まさかの自分達のホームグラウンドでの出来事だ、こうなるのも仕方がない。
(チャンスだ!)
防衛網を崩れた隙間を小柄なリンクがすり抜けてゆく。
そうはさせまいと追撃を試みる団員を再びチーク達が岩で吹き飛ばす。
速さと強さを兼ねそろえたリンクの進撃は止まらない。
「チーク隊長!部隊の何名かをゲルド砂漠へ!ルージュ様の手当てをお願いします!」
「何だと!?バレッタ!ボブル!部隊を引き連れてゲルド砂漠へ向かえ!ルージュ様をお守りしろ!」
ルージュには跡取りがいない、彼女にもしもの事があればゲルド王家の終焉を意味する。
外に出ていた団員はあらかた片付いた事もあり、自分達の敬愛する族長の危機に慌ててゲルド砂漠へと向かって行った。
アジトの中へ入り込むリンク、ティクルを捕らえ奥で待ち構えるのはいったい何者なのか。