ゼルダの伝説 蒼炎の勇導石   作:ちょっと通ります

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遅くなりました、申し訳ありません

体調不良により、碌に掛ける状態ではありませんでした。
身体中の湿疹が治らない…


第61話 厄災が求める力

「ガァアアアア!!!」

 

 リンクが構え、フーマが猛獣のような雄たけびを上げる。

その声量はすさまじく、辺りの空気が震えているのが見て取れるほどだ。

ライネルへと変貌を遂げたフウマには人間としての常識は通用しない。

 

(やばい!)

 

 中央の穴を挟んでの対峙であったが、迷わずバク転を実行するリンク。

次の瞬間には彼の立っていた場所から豪炎が立ち上った。

 

「へぇ、よく躱したわね。それならこれはどうかしら?」

 

 言うが早いか今度は背負った弓を構え、一点照準を定める。

あっという間に引き絞ると共に矢が放たれる。

 

(速い!うわぁ!?こっちにも来るのか!?)

 

 正確に狙われた矢からリンクは横に飛び、射線から外れる。

だが着地しようとした場所には既に矢が迫っていた。

 

 ライネルの弓には特筆すべき特徴がある。

それは一度に3方向に矢を飛ばせるという事だ。

先程、一点照準を定めると書いた。

つまるところ残りの2本は彼に狙いを定めていた訳では無いのだ、躱すであろう地点に牽制も同時に熟し得る。

 

(つ、冷たい!?)

 

 咄嗟にゲルドの盾で矢を防ぐ、盾を通して引き絞られた力に驚愕する。

そして伝わる冷気にも。

人族の大人と比べてもなお強い力を持つライネル、子供であるリンクとの差は歴然と言えるだろう。

 

「あら?とっさの判断にしては良かったけれど、それだけかしら?電気の矢だったら貴方死んでいたわよ?」

 

 盾で防いだ一点を中心として辺り一帯に白い冷気が広がる。

ほんの数秒、視界が白に染まる。

視界が晴れる頃には眼前にライネルが剣を振りかぶっていた。

 

(ここだ!)

 

 リンクは持ち前の集中力で紙一重で躱し、更にそれを高めてゆく。

そして持ち替えた兵士の槍であらゆる箇所を刺してゆく。

 

(今の動き…もしかして…)

 

 戦闘に関しては門外漢なティクルでさえも気が付いてしまう。

忘れるはずが無い、ゲルドの街で行われたビューラ様との御前試合。

その時に見せた動きとあまりにも似ているのだから。

彼女と同じ動きを出来る同世代など存在しない、導き出される答えは一つのみ。

 

「よく躱したわね。流石はゲルド族の男、そこらの兵士とは訳が違うわ」

 

 相当な回数が当たったはずだが、そんな物などお構い無し、かすり傷程度にしか堪えていない。

 

 通常、身体が大きいほうが生命力に溢れ頑強な生物と言える。

ライネルは通常の魔物よりも大柄だがそれでもより大きい魔物は存在する。ヒノックスやモルドラジークなどがそうだ。

しかし、彼らと比べても更に強靭でタフネスなのがライネルでもあるのだ。

その強靭な肉体は敵を引き裂く力や馬の下半身によって速さまでも両立してしまう。

魔物最強の種族は伊達ではない。

 

 直ぐに後ろへと距離を取り、再び弓を構える。

今度は上空へと矢を放ち牽制に入るフウマ。

そのまま大きく息を吸い、その口から巨大な火球を飛ばして来る。

 

(うわああ!!)

 

 慌ててリンクは斜め前へと跳び、紙一重で避ける。

その場その場ではあるが、何とか凌げてはいるのだ。

先程まで立っていた場所は氷の矢が雨の様に注ぎ、火球が壁に炸裂する地獄絵図。

そのまま留まっていたら疑いようなく死んでいただろう。

 

「よそ見とは余裕ね」

 

 走り抜け乍ら剣を振り下ろして来る。

呆れるほどの手数の多さだ、その一つ一つの強さと殺意が高いのだから殊更質が悪い。

咄嗟に盾で受け止めたリンク。

 

(何て衝撃だ!こんなの当たったら耐えられないぞ!?―でも!)

 

 矢から伝えられるものとは比べ物にならない、衝撃の重さ。

金属でできた盾が薄い板の如く砕け散り、小柄な身体が吹きとび壁にぶつかる。

その衝撃にリンクは喀血する。

 

「決まったと思ったけど…、思いの外しぶといわね。―うぐっ!」

 

 予想外の反撃にフーマは思わず、体勢を崩す。

彼女の胴体と眉間に矢が刺さっていた。

吹き飛ばされる一瞬、上空から一瞬のスキをついて2連弓で反撃したのだ。

弓に関してはあまり精度の高くはないリンクであったが、通常の弓よりも直線且つ文字通り2連続で飛んでゆく矢の一発が急所である頭に刺さっている。

 

(このチャンスを逃すものか!)

 

 フウマが追撃の為に更に距離を詰めていた為、リンクも痛む身体に鞭を打ち、馬となった下半身へと騎乗する。

 

 その場所はライネルの数少ない死角であり、しがみ付きながらゲルドのナイフを何度も刺してゆく。

 

「グゥ!?ウガァアアアアア!!!」

 

 だがフウマもそのまま黙ってやられはしない。

強靭な脚力と上半身を撓らせ遥か彼方へと吹き飛ばす。

 

(もう一度良く狙って…!?)

 

 リンクがもう一度狙いをつけようと凝視した。

持ち前の集中力でスローに見えるフーマはその荒々しい剣を両手で地面に振り下ろしていた。

桁外れの腕力で叩き付けた衝撃と共に、無防備な空中へ爆炎が立ち上る。

 

「ッグ…!ゲホッ…ゲホッ…」

 

 リンクが咄嗟に声を押し殺しても傷の深さは誰の目にも明らかだ。

被害はそれだけでは無い、木で作られている2連弓は先程の炎で見るも無残に消炭となってしまった。

もう使えそうにない。

 

(…!ナイフが…!)

 

 更に何度も背中を刺していたゲルドのナイフも堅牢な筋肉の鎧に至る所にひびが入っており今にも折れてしまいそうだ。

他に使えそうな武器は―もう殆ど残っていない。

 

「ふぅ…この身体でもこれだけ手こずらせるなんて…。あの方から力を授けて貰わなければこっちが危なかった。でもそれももう御終いね」

 

(あの方…?やっぱり背後に誰かいるのか!)

 

 彼女自身、まさかライネルに変貌してまで子供に苦戦するなど夢にも思わなかった。

重傷を負わせたとは言え、決定的だったのが生命力故の武器の限界なのだから本人としても不服なのだろう。

だがその一方で彼に兵として欠けている所も見つけた。

 

「本当に不思議な子。でも残念だけどまだ足りないわ、貴方…人を斬り殺した事無いわね?」

 

 フーマの指摘通りリンクはゲルド族の頂点でありながら、兵士に待ち構える最後の関門、殺人だけは行った事が無かった。

どれだけ綺麗事を並べたところで剣術は殺戮術だ。

仲間を守る為に剣を振るうとしても、その相手が魔物とは限らない。

事実、イーガ団と事を構えているゲルド族の兵士達でも何人もの命を刈り取った者もいるだろう。

 

「さてと、ちょっと悲しいけれど時間もあまりないわ。何としてでも力を引きずり出してもらうわよ」

 

 喋る内容とは裏腹に、醜悪に口元をゆがめる。

リンクを甚振るつもりなのだろう素早く距離をとって弓を構え、矢を放つ。

前から上から彼を塗りつぶすように夥しい数の矢が降り注ぐ。

盾が砕けたリンクは前に、横に、後ろに跳び、矢と矢の合間を見極め紙一重で躱してゆく。

 

(―まずい、集中力が切れて来た)

 

 殆ど面となっている程の手数を見極めるには相当な集中力が要求される。

飛んでくる矢は素早く、一発でも当たれば致命傷ならば尚更だ。

フーマはというと最早狐でも狩るかといった面持で、移動すらせず弓を引き、まるで雑談でもするかの様語りかける。

 

「私達イーガ団は、壊滅の危機にあったわ。象徴たるガノン様は封印され、指導者であるコーガ様もお亡くなりになったのだから。この1年、本当に忙しかったのよ。半壊した組織を束ねる為に成り上がり、再建する事。赤い月の夜に貴方をここに連れてくる為の手回し」

 

「…」

 

 語り掛けても生き延びるのに必死なリンクは答えない、暖簾に腕押しのような状況にフーマはあまり面白くはない様だ。

 

「むぅ…。反応がうすくて面白くないわね。これはどうかしら?この力、強すぎて最初は上手く扱えなかったのよ。ついつい抑えがきかなくて暴走してしまった時もあったわ。だからこそ、試し斬りをして慣らしていったの。あの時の相手はゲルド族の夫婦だったかしらね」

 

 兜の下にある表情が驚愕に染まる。

1年前、ゲルド族の夫婦それが指し示す答えなどただ一つしかない。

更なるショックがリンクを襲う。

 

「手回しの際も姉妹を巻き込んじゃったけど…可哀想にね。貴方さえ産まれなければ平穏な生活を享受できたのに。流石は厄災の申し子」

 

(父様と母様がいなくなったのも、フェイパ姉ちゃんもスルバ姉ちゃんもいなくなったのは僕のせい…?)

 

 彼らが巻き込まれた理由が自分にあると言われ、体の震えが止まらないリンク。

僕が…姉ちゃん達から夢も、可能性も、幸せも、母様達も奪い取った…?

焼き付いた姉達の涙と事切れた姿が何度も駆け巡り、彼の心を粉々に念入りに打ち砕いてゆく。

 

「そんなの詭弁よ!さっきから好き放題言ってるけど、自分でしたことを棚に上げて!悪いのは貴方達じゃない!」

 

 あまりにも自分勝手な言い分にティクルが声を荒げる。

今、この人は何と言った?

ちょっとした手違いで巻き込んだ?

もし目の前の子供があの子だとしたら、姉妹ってまさか―

 

 

 フーマが言い終わる前に額が撃ち抜かれる。

食い込むほど強く握られたゲルドの弓、罅だらけのナイフを除けば最後の手段。

予想外の威力にフウマがうめき声をあげ体勢を崩す。

 

 引き絞った力が強すぎた為か、ゲルド砂漠での酷使が祟ってか、恐らく両方であろう。

弦が切れてしまいもう使えそうにない。

 

「…もう一息といったところね、貴方が越えていない最後の関門。私がお手本を見せてあげる」

 

「…!逃げて!私はいいから!」

 

 後ろにいるティクルに視線を移し、剣を振りあげ彼女へと駆けてゆく。

また失うのか?

 

「―ウゥォオオァアアアアアアアアア!!!!!」

 

 腹の奥底から響き、沸き出る様な野生の息吹。

弓を構える為、納刀していたゲルドのナイフを腰に溜め身体を大きく沈みこませる。

 

「ようやくその気になったわね。貴方の力をみせなさい」

 

 元々挑発だったのだろう。

すぐさま向きを変え、リンクを迎え撃つ。

 

「…え?」

 

 驚愕のあまりフーマは言葉を失う。

間の前に捉えていた獲物が消えたのだ。

 

 彼女とてイーガ団の一員である、それ故に速さには相当に慣れている。

馬よりも素早い動きでさえ使いこなせるし、目で捉える事だって当然の様に出来るぐらいには鍛錬を積んで来た。

その自分が見失ったのだ、あり得ない。

 

(どこに行った!?は…?)

 

 気が付いた時、リンクは中央の巨大な穴を一直線に跳び抜けていた。

ライネルとなった自分でさえできそうもない離れ業。

それでも何とか姿を捉え、その重厚な厚みを持つ剣を振り下ろす。

 

(僕はフェイパ姉ちゃんもスルバ姉ちゃんも誰一人家族を守れなかった…厄災の申し子というのも本当かも知れない…。だけどティクル姉ちゃんまで奪われて堪るか!力が欲しい。今ここで、守る為に必要な絶対的な力が!)

 

 着地と共に踏み込んだリンクはさらに加速しフウマが振るった剣は空を切った。

 

「ァアアアアア――!!!!!」

 

 ナイフを握る彼の甲から黄金に輝く三角形が現れ、ライネルと化した彼女の体躯を両断した。

 

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