「リンクちゃん!」
「――!」
ギラヒムの脅威が去った後、2人がリンクの安否の確認に駆け寄ってゆく。
苦悶に満ちた彼の幼い顔には、物凄い量の汗がにじんでおり身体にはルージュの時の様に不自然な模様が浮き出ている。
異なっているのは幾何学的な模様が点滅している事、体全体それこそ手に平に至るまでに広がっている点だ。
ティクルが確認の為に額に手を乗せ、凍り付く。
熱い、熱すぎるのだ、反射的に手を離してしまう程に。
先程抱きしめた時には極寒の砂漠を越え冷え切っていた事を他ならぬ彼女が知っている。
こんな短時間でこの変化はあり得ない。
「無事ですか!?」
「リンク!遅くなった!」
ここでようやくゼルダとチーク隊長率いる仲間達が広間へと集まる。
不意を突いたにもかかわらず、思いの外カルサ―谷での抵抗が激しかったのだ。
「これは…お前達!応急手当の後、急いでリンクを運び込むぞ!大急ぎで担架を作るんだ!」
チークの号令でゲルドの街へと運び込む準備を始める兵士達。
その間に、ゼルダが英傑リンクとティクルから事の次第を聴き取り、彼の様子を確認してゆく。
(―インパ達からの報告とも照らし合わせるとおそらくこの場で何とかするのは不可能…枯れ果てた私の封印の力ではとても対抗できない)
「ゲルドの街で調べる必要があります!どんなに些細な手掛かりでも絶対に見逃しません!」
――
―
ゲルドの街
朝日が昇る頃、スナザラシの担架に乗せ街まで帰って来たゼルダ一行。
大急ぎで運び込まれ、対症療法で彼を治療しながら呪いへの対策を模索する。
「もっと水を持ってこい!沸騰する程の高熱だ!直ぐにでも身体を冷やさないと危険だ!」
「シーカー族の呪いとは完全に別物だ…!こんな強力なものが存在するとは!私の手にはとても負えない…!」
「父様!リンク様を助けて下さい!何か…何かできる事は無いのですか!?」
ルージュの時に、解呪の力になれたドゥランですら手の施しようが無くお手上げ状態であった。
運び込まれたリンクの容体を一目見てアローマ達は絶句する。
誰の目から見ても明らかな病気とは異なる明確な悪意、医師の診断によると何故生きていられるのかわからないという程の高熱。
最愛の姉達を喪ったままルージュと共にイーガ団をゲルド砂漠で迎え撃ち、ライネルとの激戦による満身創痍な怪我といい、リンクが如何に過酷な状況にあったか悲しくなる程であった。
先に街の中へと進んでいったゼルダに追いつく為、英傑リンクも街の中で調べ物をする為、女装して潜り込もうそうした時である。
「ちょ、ちょっと待って!久しぶりだね」
そう引き留めたのはサンドブーツとスノーブーツを譲り渡した男性、ボテンサであった。
直ぐにでもこっちへ向かいたかったのだろう。
靴も履かずにテントから飛び出した彼は、熱砂の砂漠を素足のまま駆けつけ肩で息をしている。
「さっき運ばれた子!君の知り合いなの!?」
コクリと頷く英傑リンク、ボテンサは2人と交友があるのだ。
10年ほど前ではあったが彼に8人目の英雄について尋ねた時以来である。
「――」
「あの子を助けたい…か。…―わかった!お願いがあるんだ、8人の英雄の試練について調べて欲しい!僕も調べたいんだけど中には入れないから…!」
「――」
「ありがとう!先に行って待ってるね!」
そう言って頭を下げるボテンサ。
直ぐに北東の方向へと走ってゆく、7人の英雄像のある方角だ。
―
「リンク、追いつきましたか!え?8人の英雄について調べて欲しいって?」
「そう言う事なら考古学の研究をしているロテインの所で調べるといいだろう。裏通りにある石造りの家だ。あやつの家には書物が多いからすぐにわかるだろう。しかし…あの英雄像は7人だった筈だが…何?本当は8人目がいるじゃと?いつの間にか失伝してしまったのか…」
街の中でゼルダとルージュに頼む英傑リンク。
古代のゲルド族の風習については考古学者でもあるゼルダやゲルド族の長であるルージュの方が明るいだろう。
それでもルージュですら8人目の英雄像の存在を知らなかったようだが。
すぐにロテインの処へと向かう3人。
「サヴォッタ!ってルージュ様!?どうしてこちらまで!?」
突然の来訪に目を丸くするロテイン。
彼女からしたらいきなり族長にハイラルの姫、変装しているとは言え世界の英雄リンクと勢ぞろいである。
これで驚くなというのも酷であろう。
「ロテインよいきなりの訪問ですまんな。しかし今は時間が惜しい。8人の英雄について調べるのを手伝って欲しい。7人の英雄像には8人目もいたようなのだ」
「8人目もいたんですか!?是非やらせてください!よーし、これがわかれば考古学のスターよ!」
割とお調子者のロテインは専門に調べていた英雄像について、新たな事実に興奮気味の様だ。
直ぐに大量の書物を棚から取り出す。
彼女自身あまり有名な考古学者ではないが、曲がりなりにも長年研究してきただけあって資料の数も質もなかなかのものだ。
「ええと、これとこれと…それからこれも。取り合えずこの辺りから調べていきましょう。8人目もいたという事は相当に古い年代の事だと思われます。時間が惜しいとの事なので絞り込んで当たりましょう!」
ロテインが言うが早いか、すぐに調べ始めるゼルダ。
この手の分野において彼女は本当に強い。
慣れた手つきで書かれている内容を記し、纏めてゆく。
学問の専門的な分野である為、英傑リンクよりもルージュ達の方が手際が良い。
12時間後
「―見つけました!ここを見て下さい!」
ゼルダが指をさした場所には英雄達の試練について書かれていた。
どうやら台座に寝かされた者に試練を与え、見事乗り越えたゲルド族へ守りの力を与えるらしい。
かつて古代の呪いから解き放った事もあったという。
「どうやら当たりの様だな。それでどうやって試練を発動させるのじゃ?」
「もしかしたらこちらの情報が関係あるのかもしれないです」
「どれ…、対象の者を中心に安置した上で、8つに分けた言葉を宣言すればよいのか。それならばこちらの資料が役に立つだろうな」
ルージュが探し当てたのは英雄達が一つの大きな力を分割して統治していたという内容だ。
心・技・耐・知・飛・動・柔・影の8つに分けていたと書かれている。
「以前私が調べた内容では、影がありませんでした。だから空いていた残りの場所に勇を司る英雄像があったのではないでしょうか?」
「恐らくはそうなのでしょう。とにかく今は時間がありません。急いで英雄像へと向かいましょう!」
「うむ!しかし英雄像までは距離がある。あれ程の高熱ではあやつの体力が持たないだろう。この通りにはフロストのBarで氷を貰ってくるぞ」
――
―
ゲルド砂漠 西 英雄像跡
すっかりと日が沈み、冷気が支配する荒れ果てた表情が露わになる。
先に向かっていたボテンサが震えながら待っていた。
まさか本当にゲルドの街から走って移動するとは…
スナザラシで氷とリンクを運んだ一行は英雄像の資料に書かれていた通り、中央の台座に彼を安置する。
日が沈んで荒涼とした気候だったが、すでに氷も解けてなくなってしまっている。
彼の身体は限界だ。
慌てて来た為、英傑リンクは未だに女装したままの姿である。
「その様子…どうやら見つかったんだね!どういう内容か教えて欲しい!」
「――」
英傑のリンクが最後の8体目が勇を司る英雄像であり、不自然に空いた空洞の部分に本来は祀られていたのではないかという事を伝える。
「ありがとう!これで何とか儀式を行える!危ないからちょっと離れていて!」
「――」
「え?どうしてそんなに親身で詳しいのかって…?」
英傑リンクの指摘の通り、彼はゲルドの歴史に詳しすぎる。
そもそもハイリア人で男性であるボテンサが現地に住んでいる考古学者ですら忘れ去っている程の知識を持っていること自体普通はあり得ない。
英傑リンクがかつて頼まれた8人目の英雄像も英雄の剣もボテンサからの情報だ。
それらはカルサ―谷の更に北にあるゲルド高地の秘境にひっそりと存在していた。
不自然と言っていい程に精通している。
「―それはね、僕もずっとこの地を見守っていたからなんだ。後は…初恋の人にちょっといいところ見せたかったって事かな…?…心・技・耐・知・飛・動・柔・影8つの力を司るゲルドの女神達よ!末裔であるリンクが邪なる者によって災いを齎された。彼を呪いから解き放つため試練へと導き給え!」
ボテンサの雰囲気が変わった。
彼の良くも悪くも頑張り屋で下心丸出しの対応から一転、厳かながらもどこか神秘的な佇まいに変わっている。
フィン
彼の言葉に応えるかのように、音が鳴り大地が揺れる。
しばらくすると地響きと共に最後の一体の英雄像が剣を手にしながら姿を現してゆく。
あまりの出来事に英傑リンクは目を見開き声を上げた。
本来はゲルド高地の秘境に存在するはずの像がこのわずかな時間に突如として現れたのだ、あまりの出来事にゼルダやルージュも驚き、動揺している。
ゲルドの族の末裔よ
これより呪いを打ち消す為、汝に試練を与える
決して容易いものでは無い
努々油断することなかれ
スッ スッ スッ
英雄像達が剣を伸ばしリンクの頭上に八角形の輪を描く。
中心の空洞から覗く夜空に月が輝き、それと共に彼の身体は青い光の粒子となって上空へと溶けていった。