旅立ちまでにこれだけかかるとかどういうことなの…?
書きたい内容に腕が付いてこないジレンマ
◆
泣いた、覚えている限りで初めて泣いた。
悲しくてたまらない、苦しくてたまらない。
失う事がこんなに辛いなんて…
自分の力が、剣がどうしようもなく空しい…。
でも姉ちゃん達はもっと痛かったんだよね 苦しかったんだよね
厄災の申し子として狙われた一連の騒動
なんで姉ちゃん達が巻き込まれなきゃいけないんだ なんで僕はヴォーイとして産まれて来たんだ
2人から父様と母様を奪い取る為に… それだけじゃなく夢も未来も奪い取ってゆく為に…
眦から零れた大粒の珠がロッドにはめ込まれた宝石に落ち、月明かりをより一層引き立てる。
最期に2人が握っていたという燃えるような赤きロッド、凍てつく様な青きロッド。
名前まで彫ってあるこれは2人の宝物でもあるのだろう。
賑やかなゲルドの街の一角は静寂に包まれ少年を照らすだけ。
「あ…」
メテオロッドとフリーズロッドがぼんやりと辺りを照らした
小さな小さな灯り
傍にいる彼だけにしかわからないもの
ふしぎな感覚だ
暖かいのに涼しくて、包まれるような感覚
おそるおそる抱き留めようと手を伸ばす、その頼りない動きには僅かに幼さが残っていた
一度伸ばした手がいったん止まる、姉達の幸せを壊した自分には手を伸ばすその資格などないそんな気がしたからだ
赤と青の輝きが増したかと思われた時、止まった彼の手を引き寄せた
ふしぎな感覚だ、光に触れていると引き裂かれそうな苦しみが溶け出していく様だ
身体が軽くなっていく、傷が塞がり疲労が抜けてゆく。
(フェイパ姉ちゃん…スルバ姉ちゃん…こんな僕を支えてくれるの…?大事な時にいてあげられなくてゴメンね…それと…サークサーク…)
メテオロッド、フリーズロッドを手に入れた
姉達が遺した古来よりゲルド族に伝わる杖、何か秘められた力があるかもしれない
宝石以外に青い石で飾り付けられたそれには2人の名前が刻まれている
行かなければ、最期の後でさえ姉達は案じてくれていた。
アジトであったあの男、彼がおとなしくしているとは考えられない。
探さねば、もう誰一人としてこんな思いはさせたくない。
2つのロッドを手に持った時、シーカーストーンが青く点滅し、反応を示した。
(どうしたんだろう…。こんなこと初めてだ。この場所は…カッシーワさん達の村か?この場所に何かあるって事…?)
アイコンが示すはリトの村、一体この場所に何があるというのだろうか。
家に戻り準備を整えなければ…
◆ ゲルドの街 裏門
夜が明ける少し前、旅立つ準備を終えたリンクはひっそりと街を後にすることにした。
その背には二つのロッドと竪琴を携えている。
姉達の心、そして生きた証。
「やはり行くのか」
こんな時間の裏路地で声をかけられた。
驚いたリンクは声の方向へ顔を向ける。
「―ルージュ様、それにイグレッタさんも」
「まったくあんな事があった次の日にはもう出ていくなんてね。もうちょっとばかり自分を労わりなよ…っていっても聞きやしないかあんたは」
「本当に良いのか?別れの挨拶ぐらいしていった方が良いと思うぞ?そなたを案じるものはお主自身が思っている以上に多いだろう」
「いいのです、ルージュ様。―俺にはあの人達といる資格はない。家族を守る誓いすら果たせず、存在そのものが守るべき民を命の危機に晒し、散らしてしまった時点で以ての外です。ルージュ様、イグレッタさんも見送りしていただきサークサークです」
「そう急ぐなって、ただの見送りの為に忙しいルージュ様が来るわけないだろう?」
ルージュ達に背を向け旅立とうとするリンクの肩をイグレッタが掴み、引き留める。
「剣も折れ、盾も矢もつきたまま旅をするつもりか。止めはしないが、いたずらに命を散らす様な愚を犯すな。託された命の重さはそんなに軽いものでは無いぞ」
そう言ってルージュが渡すのは、ゲルドの弓の他、月光のナイフと太陽の盾であった。
これはゲルド戦士の隊長格に与えられる特別な拵えの物である。
ゲルドのナイフよりも強力で丈夫であり、ゲルドの盾よりも兼固だ。
「アタイからはこれさ、しっかりやんなよ」
そう言ってイグレッタから渡されたのはゲルド族特有の露出の多い服装に金属のアクセサリーを散りばめた熱砂の服一式だ。
非常に高価な代物ではある、がそれ以外はリンクが普段身に付けている服装とそうは変わらないだろう。
強いて挙げるのならば、多少丈夫な造りで暑さに強いと言ったところか。
「イグレッタさん…これって…」
「言っただろ?《そういう事にしておくのか》って」
この衣装の特徴…それはゲルド族の服装の中で男性用に作られた衣装だという事だ。
いくらそう言った拵えの服装があるとは言っても、ゲルドの子供用でもあるこの衣装は間違いなく特注である。
それはつまり彼がヴォーイであるという事がわかっていたという事、隠しているリンクの意思を尊重してきたという事でもあるのだ。
「お主がゲルド族のヴォーイである事を知っている者もいる…。それを隠すのはとても辛い事であっただろう、それぐらいは無理をしなくてもよい」
どちらにせよ、こんなに小さいゲルド族が一人で出ているだけで訳ありなのは明らかだしな。とルージュは付け加えた。
「おぬしの事だ、厄災の脅威に自ら突っ込んでゆくつもりなのだろう。修羅の道に誰も巻き込みたくないのはわかる。しかし心得よ、おぬしは帰るつもりはなくとも街の皆はいつでもお主を迎え入れるぞ。スナザラシを用意してある―達者でな」
「…―サークサーク」
リンクは2人に頭を下げた後、振り返る事も無く熱砂へと消えていった。
――
―
翌朝ゲルドの街の一角で人が騒ぐ、帰って来た筈のリンクがいないのだ。
中でもあの子の面倒を見て来たアローマとイーガ団の魔の手から助けてもらったティクルの取り乱すさまは凄まじいものがあった。
「アローマさん!見つかりましたか!?」
「いいや、まったくもって足取りも掴めないよ!早い所見つけないと身体も心も心配だよ!」
ゲルド砂漠でのイーガ団達との長時間の戦闘に加え、あのライネルと事を構える。
それがどれだけ無謀な事か。
どう考えても10にも満たない子供が立ち向かっていい相手では無い。
それに加えてルージュ様の時以上の呪いをその身に受けたと言うではないか。
「2人とも聞いてくれ」
「チーク様!リンクはいったいどこへ!?」
「―あの子は旅に出た、家族全ての命を奪い、ティクルも危機に晒した自分にはあの人達の傍にいるその資格すらない…だそうだ」
「っ!そんなのって……!」
「―っ!」
なんだそれは、何が資格だ。
そんな物の為に出て行く事なんて誰一人望んでいない。
リンクちゃんには落ち度なんてないではないか、どこに負い目を感じる必要があるというのだ。
許せない、イーガ団とその背後にいる奪い取ってゆく存在が。
今一番辛いのは間違いなくリンクちゃんだ。
傍にいる事も、支える事も癒す事すら叶わぬというのか。
―認めない、終わらせて堪るものか。
信じられないと言った面持のアローマさんを残して、居ても立っても居られない私はリンクの家に駆けて行った。
フェイパやスルバと遊ぶ為、この家には良く足を運んだものだ。
主達を失った家は閑散としており、寂しげで儚い空気が立ち込めている。
整頓された使い込まれた食器や、舞踊の為の華麗な衣装に底のすり減ったダンスシューズ、作曲の為に用意された楽器の数々に整頓して並べられた大量に書きこまれた楽譜の棚。
親友達の思い出が、彼女達の爪痕が、所狭しと並べられ思わず涙が溢れそうになる。
もう、あの二人にあう事は出来ないのだ、そう思うと胸が張り裂けそうだ。
それでも堪えられるのは自分よりも何十倍も辛い筈なのに、あの日自分の安否を気遣うあまり歯を食いしばって耐え忍んだリンクちゃんがいたからだ。
なんて強い子なんだろう、尊き優しさなのだろう。
―でもそのどちらも残酷な程、彼を一切合切守ってはくれなかった。
そしてこの家を訪れた時に覚えた違和感の正体がわかった…きれいに掃除されたこの家にはないのだ、あの子の存在が。
あの子が遊んでいた遊具や鍛錬の為に用意されていた武具の数々が
服一着すら無い、まるで自分を消し去るかの様に―
どうして…?
なんでリンクちゃんの物だけ存在しないの?
資格が無いってそういう事…リンクちゃんはまだ8歳よ
自分がいなければフェイパもスルバも幸せだったとでもいうの
そこまで駆り立てられなきゃいけないの…?
必死になってあの子の痕跡を探し回る。
辛うじて一つだけ、スルバの机の上に置かれていた青色のオカリナだけが見つかった。
リンクちゃんがルージュ様を助けた折、贈られた代物。
こればかりは処分するのが憚られたのだろう。
そんなところでばっかり気を回さないでよ、もっと自分を大事にしてよ、こんな別れなんて信じたくないよ
それならばと私は取るべき道を決める、私は母様とエメリおばさんの下へゆく。
「母様、エメリおばさん、お願いがあります」
私だってゲルドのヴァーイ、鞘にぐらいはなってみせる