ゼルダの伝説 蒼炎の勇導石   作:ちょっと通ります

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地味に難産でした、色々と冒険してる開けた感じと一人では改善しにくいリンクちゃんのメンタルとの両立が難しい…


第69話 薬を作る時は後の事も考えましょう

 時間とともに雲は去り、日が覗いてきた頃リンクは料理鍋を用意して調理にかかる。

調味料も無ければ料理上手という訳でも無い為、大量にある食材を保存食やこれから向かうへブラ地方に向けて防寒用の料理に変える目的の簡素なものだ。

 

 サトリ山で大量の材料は手に入れたのでこれをもとに作るだけだ。

 

「えーっと、寒い所らしいからポカポカの実をいっぱい入れておけばいいかな…?」

 

「オゥ!お客サ―ン!その使い方はオススメ出来ないよ!」

 

 手に一杯持ったポカポカの実をいざ鍋に投げ入れようとした時に先程の男に声をかけられる。

 

「えっとどういうことです…?」

 

「あっ!名乗ってなかった、テリーデース!どうもこうもへブラ地方の山はトテモ寒いヨ!だからポカポカの実だけじゃ耐えきれないって事デース!」

 

「えっ!?そうなんですか!?」

 

 ゲルド砂漠でも夜はとても寒くはなる。

特に西ゲルドは寒暖差が激しい上に凶悪な魔物も多い為、相当なもの好き以外はまずいかない。

殆どの者はゲルドの街までで観光や商いを目的に訪れるぐらいだろう。

 

「リトの村までなら問題は無いけれど、へブラ山にも登るのなら間違いなく凍えちゃうヨ!」

 

 2人のやり取りを聞いて馬宿の店員も近寄って来る。

いくら旅は自己責任の部分も大きいとはいえ、向かう先がどんな場所であるかを伝える事が仕事の一環でもあるからだ。

 

「へブラ地方に行くのかい?その人の言う通りポカポカの実だけじゃまず足りないねぇ。寒さ対策ならポカポカダケ辺りがお薦めだよ。一個だけでも混ぜてみると効き目が変わって来るから」

 

 他にも効果的な材料をあれこれと教えてくれたりもする。

リンクとしてもゲルド砂漠の走り抜いて倒れた苦い経験もあり、環境の過酷さというのは嫌という程味わっている。

命綱なのだからしっかりと把握しておかないといけないだろう。

 

 とりあえずは言われたようにポカポカダケを一つ混ぜて調理してゆく。

ポカポカハーブも加えて飽きが来ない様に工夫も忘れない。

ガッツダケやマックストリュフは1つだけで調理するのがいいらしい。

効果がとても高く、数多くしておく方がいいのだそうだ。

…あくまで旅における過酷な環境で生き抜くためのものだ、こればかりはそこまで美味しさを追求できない。

リトの村へ着いたらカカリコ村の時みたいに美味しい料理を堪能したい。

そう思うリンクであった。

 

「薬もいいけれどあれは作るのが難しいからねぇ…。そもそも寒さや暑さといった気候への対策だけなら料理の方が効き目が高いんだよ」

 

 あれは力や速さを向上させるために使うものさ。

と付け加えるのはバンテージと呼ばれる壮年の女性である馬宿の職員だ。

 

「薬とは言っても効果の高さと効いている時間を両立させたいのなら食材と虫と素材を組み合わせないといけないからどっちかに絞った方がいいだろうね」

 

 えっ?食材まで入れちゃうの…?

魔物素材と虫までは知ってはいたが食べ物まで入れ込むというのには驚きを隠せないリンクであった。

 

「簡単な薬ならテリー作り方見せてあげるヨ!ちょっと鍋借りるネ!」

 

「あ、あの…紫色のそれは何ですか?」

 

 切り取られたというのに今だに力強く不気味に脈打つソレは何なのか…大体想像はつくし薬の作り方を聞き知っているが思わずそう口にしてしまった。

 

「コレはボコブリンの肝デース!肝はいい薬を作るには殆ど必須ヨ!」

 

 そう言って馬宿の鍋を使って実演してみせる。

ゴーゴートカゲにボコブリンの肝をぶつ切りにして一緒に鍋で煮込む、魔物の肝を使ったためか不快な臭いをまき散らしながら醸造された薬特有のドロリと粘ついた青い液体を瓶に掬って詰め込んでゆく。

移動力を増強するゴーゴー薬の完成だ。

 

「ちょっとお客さん!他のお客様の迷惑になりますからちゃんと後始末もお願いしますよ!」

 

「ゴメンナサーイ!ちゃんと洗うから勘弁して欲しいデース!…アッ!水が無い!」

 

 確かにみんなが使う鍋でこんなものを作られちゃたまったものでは無い。

魔物素材は酸味や苦みが強すぎてその後作る料理が全部台無しになってしまう。

 

(ゴーゴー薬は飲んだことあるけれど、あの味が料理に混じるのはさすがに勘弁かな…)

 

 健啖家でもあるリンクならそれでも食べられるが、そんな彼でも背に腹は代えられぬ状況以外で態々作ったりはしない。

馬宿利用者でも同じ事だ、誰が薬味の料理を作りたいだろうか。

幸いこの辺りは湿地帯でもあり水が豊富なので汲みに行けばすぐに問題は解決するだろう。

―その間は利用が出来そうもないが

 

 

「―なんで俺が…」

 

 なぜかリンクが汲みに行く事になってしまった。

選ばれた理由が馬を持っていて直ぐに水を確保できるという至極まっとうな理由なのだから始末に負えない。

ここの馬宿はへブラ地方と中央ハイラルを繋ぐ重要な拠点であり、利用者も多い。

復興の真っ只中という事もあり殊更人の出入りが増えているので料理鍋が使えないのは割と深刻な問題だったりするのだ。

 

(ふぅ…この辺りでいいか…)

 

 さっさと水を汲んで帰ろうとするところドラグが鼻を擦り付けて来た。

…食事の催促だろうか。

 

「お、おい。どうしたんだドラグ、一体…」

 

 その後で彼は開けた台地の方を顔を動かしてみせた。

何かがあるというのだろうか。

 

「あっちを見てみろって?しょうがないなぁ、わかったわかった。―うっわぁ…、この辺りってこうなってたんだ…」

 

 当初、この辺りを訪れた時には急いでいたのと突然の雷雨によって視界を制限され見渡す余裕などは存在しなかった。

一息ついて見渡せるようになると眼前に広がるは広大にして湿潤な大地にそびえる傘を開いた巨大なキノコのようなものが見受けられるではないか。

 

 岩なのか木なのかわからないが自然にあのような形になるとは不思議なものだ。

上に登ってお昼寝でも出来たら気持ちが良さそう…、正直家が建てられそうな程に大きく広がっている物もある。

カッシーワさん達みたいに空が飛べたら簡単に登れるのになぁ、あの形では登るのも大変だ。

そう考えるリンクであった。

 

(そっかぁ、沈んでいた心を察知して気を遣ってくれたのか。まだまだだな、サークサーク)

 

 如何に素晴らしい景色でも見る者が興味を示さなければ、本当の意味で美しい景色として残りえない。

ドラグなりに元気をなくしてしまったリンクを気遣っていた。

そんな気がした。

 

「…これでよしっと。正直来るのは面倒だったけどこういった景色を眺められたことは良かったかも。ありがとなドラグ、焼きリンゴ作ってあげる」

 

 ドラグ、帰りも頼むなと一声かけると甲高い嘶きで応える。

案外お調子者なのか…?再びリンクは馬宿へと戻っていく。

帰り道も小雨に降られる、どうやらこの辺りは天候が崩れやすいみたいだ。

雲の量からして直ぐに止むだろう。

すると途端に岩や草の陰から緑色の羽を持つ蝶や黄土色のカエルなどが姿を現し水浴びをしているではないか。

 

「へぇ!雨になると出てくる生き物もいるんだなぁ!雨には雨の楽しみ方があるって事なのかな?ドラグ、風邪ひかない様に急いで帰るよ!」

 

 

「アリガトウゴザイマース!これで鍋の清掃ができるヨ!」

 

「それじゃお願いしますね。その間リンゴを焼いていますんで」

 

 調理する為に使われている火が残っている為保存がきくようにリンゴを次々と炙っていく。

サトリ山で拾ってきたリンゴの数はかなり多い。

豪快にまとめて火にかけているのだがそれでも時間がかかりそうだ。

リトの村へたどり着くまではこれで凌ぐしかない。

 

「ふぅ…」

 

「お客さんありがとうね、御蔭で助かったよ。本来なら君の仕事じゃないのに、その若さで大したもんだ」

 

「いえ、直ぐの事だったのでお気になさらず」

 

 無心でリンゴを焼き終わったリンクに従業員のバンテージが声をかける。

彼女にも子供がおり、今でこそ成人しているがそれはもう当時はやんちゃだったものだ。

馬宿の傍で駆けずり回って至る所でいたずら三昧、自分達身内相手なら笑って許されることもあるがお客様が相手の時ではそうもいかない。

 

 そんな経験もしているだけに彼の所作はものすごく違和感を覚える。

無理に大人になろうとしている―否、ならざるを得なかった少年。

そんな感じだ。

 

「そうそう、リトの村へ行きたいんだって?今はちょっと気を付けた方がいいかも知れないねぇ」

 

「何かあったんですか?」

 

「ついこの間ここで休んでいった人から聞いたんだけど、雷がとても激しくなる時があるらしいのさ。奇妙な事もあるもんだねぇ…」

 

 あの辺りは雷が少ないのにさとつぶやくバンテージ。

へブラ地方は寒冷で標高の高い所では常に雪が残るほどだが、落雷は少ない。

落雷が多いのは北東の果てにあるアッカレ地方と今いる西ハイラル辺りである。

 

「ビリビリダケもビリビリハーブもあるみたいだね、それを纏めて焼いておくといいかも知れないよ。普段ならこんな事は言わないんだけど、どうにも状況がおかしい。念のために準備はしておくべきだろう。金属を仕舞っているからと言って絶対に安全とは言い切れないだろうからね」

 

「ありがとうございます。せっかくですし調理していきますね」

 

「そうしていくといいよ。終わったらゆっくり休んでいくといいさ。さてそろそろ日も暮れるし馬たちに餌をやらないとねぇ」

 

 礼を述べと後に、耐電用に調理を進めてゆくリンク。

キノコを食べやすい大きさに切り込んでいき、香草で包み込むことでより食欲をそそるビリビリ包み焼きキノコの完成だ。

豊かな香りが辺りに広がる、出来立てが一番おいしいだけに直ぐにでも齧り付きたいがグッと堪える。

これは電気の脅威を和らげるための代物、ここぞという時の為にとっておきたい。

 

 理想を言うのならばあらゆる電撃を無効化できる神器「雷鳴の兜」を用意できるのが最善であるが、あれはゲルド族にとっての国宝。

街を出る前に返還している。

あれは国の一大事に…それこそルージュの所にあるべき代物だ。

 

「ふぅ…そろそろ寝るか…。明日は雨に降られなければいいけれど…」

 

 なんだかんだ言っても一日中サトリ山を捜索し、ずぶ濡れになりながら馬宿まで駆けて来たのだ。

疲労もあれば傷も痛む、明日か明後日にはリトの村へと辿り着きたい。

シーカーストーンに搭載されている天気予報によると早朝は晴れのようだ。

 

 ドラグに焼きリンゴを食べさせた後、リンクは焚火の前に腰を下ろし足を延ばす。

先程の礼と貸して頂けた毛布を纏い、手元から肩にかけて月光のナイフを携えて。

甘く香ばしい焼きリンゴを一つ齧り身体を休める彼の姿があった。

 


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