ゼルダの伝説 蒼炎の勇導石   作:ちょっと通ります

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お待たせしました。
総合評価300達成ありがとうございます!


元々ブレワイの続き話に無双要素も盛り込みたいと考えており投稿してから早一年、まさかの公式の2作品を合わせたようなコンセプトになって驚きが隠せません。

まだまだ先は長いですが完結させたい


第72話 竪琴が紡ぐ旋律

「なぜ…というのは無粋でしょうね。あれ程の事があったのですから」

 

「この竪琴は姉が譲り受けたものです。でも、俺は姉達を死なせてしまった…。これからの旅は過酷なものになるでしょう。それこそ音楽の練習が出来ない程に…姉にとっても、演奏家のカッシーワさんにとっても大切な思い出の詰まった宝物を埋もれさせる。そんな不義理な事は出来ません。どうかお納めください」

 

「確かに、一人独学での練習では限界があるでしょう。旅の傍らならば尚更です。幸い、娘達にも音楽の才能があります。音楽家として貴方の願いを受け入れない理由はありません」

 

 ですが、と一息おいて柔和な顔でリンクに話を続ける。

 

「私は吟遊詩人です。音楽家であると同時に世界各地を飛び回る旅人でもある…。その楽器の力を引き出せるのは娘達の方かも知れません。しかし、必要とするのはリンクさんだと信じています。一人旅は厳しく過酷なもの、身も心も擦り切れる様な絶望に晒されることも、一人寂しく眠れない夜もあるでしょう。そういう時にこそ支えとなる楽器は必要なのです」

 

「カッシーワさん…」

 

「今すぐにとは言いません、貴方の長い旅が終わるまで持っていてください。再びあった時に必要の無い物だったと言えるのなら、その時はちゃんと受け取りましょう。…5人娘の父親として本音を言いますと貴方にはこの場所でしばらく暮らして欲しい、それほど今の貴方は見るに堪えない」

 

「見るに堪えない、ですか?」

 

「ええ、ナン達も心配していましたよリンクさんの代わり様には。貴方の決意や覚悟は尊くも素晴らしいものです。ただそれが必ずしもいい結果を招くとは限りません。今の貴方に必要なのは心の静養ですそれは疑いようもありません」

 

「心配をかけてしまいすみません」

 

「気にする必要はありませんよ。妻の料理はどうでした?英気を養うには食事も大切です。見慣れないものも多いとは思いますが…」

 

「美味しかったです、さりげない心配りのされた料理ばかりで何より本当に家族を大切にされているんだなと感じました」

 

「それは何よりです。旅先では様々な料理を堪能する機会もありましたが、やはり食事が口に合わない時は思いの外堪えるものです。それと旅を続けている時にわかった事もあります。それは皆で食べるとより美味しく、温かい気持ちになれるという事です」

 

 カッシーワは大人だ、それもこれから先リンクが続けていくであろう旅人としての経験も豊富でその知識がある。

だからこそリンクが自然と耳を傾けたくなる内容も選び出すことが出来る。

 

(ああ、だから先程の料理は美味しかったのか…。ハミラさんの腕も確かなんだろうけど、それと共に言葉では表しにくい不思議な感覚もあった。じんわりと染みるようなアレはそういうものだったんだ…)

 

「…お恥ずかしい事に妻には色々と苦労をかけました。女性一人で娘達を育てるのは大変だったのは想像に難くありません。大人の私ですら出来ない事や欠点も多いのです、まだ若い貴方が何もかも全てやり通す必要などどこにもないのですよ」

 

「…あの事件は俺の秘められた力を狙っての出来事でした。おそらく今回の事件の大元にも関わっているのでしょう。今もなお被害を増やし続けているのならそんな贅沢は許されません」

 

「あくまで貫くというのですか…。ならばせめて旅人の先輩としてこの歌を贈ります。これはかつて王宮の遣いの者と証明するために使われた由緒あるもの。そしてあなたにも安らかな眠りを保証してくれるでしょう」

 

 そう言って彼が演奏するのはゆったりとした、上品な音色が心地いい歌。

リト族の女性顔負けの美声で歌い上げながら洗練された演奏をこなすその姿はスルバの憧れた稀代の音楽家そのもの。

かつて栄華を極めていたハイラル王家の歴史と格式のある一曲。

《ゼルダの子守歌》と呼ばれる今では知る者も少ない忘れ去られた名曲だった。

 

「―いい曲ですね、なんだかとても安らげる、そんな気がします」

 

 張りつめていた緊張が解れたのか、僅かに瞼が下りるリンク。

僅かでもいい、一瞬でもいい、せめてこの一時だけでも彼にも安寧を

そう願ったカッシーワの祈りであった。

 

「ここまでの長旅で疲れたのでしょう。この雷雨の中長時間移動すれば仕方の無い事です。今晩は私の家で泊まって下さい。明日にはやらねばならぬ事があるのでしょう?」

 

「すみません、お言葉に甘えてばかりで。そうさせて頂きます」

 

 再びカッシーワの家へと向かう2人。

家の中では無数のハンモックが吊るされており、その数もこの一連の話をしている間に一つ増えている。

どうやら最初からリンクを泊めるつもりだったようだ。

年頃の娘がいる中で不用心と思うかも知れないが、リンクもまだ8歳。

そもそもがリト族の家は一つの部屋として使われているので宿屋に泊まるでもない限りはどこでも同じように眠っていただろう。

 

「お帰り、リンクちゃん!ねえねえどんな場所に行ってきたの!?世界中の話を聞いてみたいなぁ!」

 

「ちょっとキール!リンクちゃんにはゆっくり休んで貰おうってさっき決めたじゃない!」

 

「ちぇー、グリグリも言うようになったなぁー。ごめんねリンクちゃん。また時間がある時にいーっぱい教えてね!」

 

「まったく…ごめんなさいね。遠路遥々疲れたでしょう。夜も遅いですしもう寝ましょう」

 

「お気遣いいただきサークサークです。それではサヴォール」

 

 ナンの一言を皮切りにハンモックに飛び乗り、各々が眠りにつく。

リンクのハンモックは他と比べかなり低い位置に吊られていた。

ゆらゆらと揺れる独特リズムは疲れている事もあり彼を瞬く間に眠りの世界へと誘って行った。

 

「―眠りましたか?」

 

「ハミラさん。ええ…ただ残念ながらとどまる事は出来ないみたいです」

 

「貴方の言葉で表すのなら大切な使命があると言ったところですか…。どうしてこんな小さな子が背負わないといけないのでしょうか」

 

「ここまで行くと最早宿命、呪いといった類の方が正しいのかもしれませんね。だからこそ背負える範囲だけでも私達も支えていきましょう」

 

 カッシーワとハミラ夫妻は子供の寝顔を確認するのが趣味の1つだったりする。

特にカッシーワは何年もの間、古の勇者の復活に備えあらゆる所を旅をし研究していた分の時間を取り戻す勢いだ。

娘達にも妻にも寂しい思いをさせただろう。

 

 特に彼がゲルドの街でアイシャに言い寄られてからはハミラは気が気でない様だ。

一流の音楽家であり紳士で物腰柔らかな彼はやはりモテる、特にアイシャは未だミコンである為懸ける執念が凄まじい。それこそ彼が既婚者である事に気付かない程に。

カッシーワとしてもちゃっかりとヴォーイを狙ってくるゲルド族の逞しさとアイシャの猛禽類にも似た視線には危機感を抱いていた。

 

「…ちゃん…」

 

 元々寝付きが良い方であったリンクは、サヴォールと言うなり直ぐに眠ってしまった。

食事もだが、初めてのハンモックでも安眠が出来るのは長旅に向いていたのかもしれない。

 

(―安全なリトの村で眠る時ですら、武器を手放せませんか…。戦士としての性なのか、あの日のトラウマなのか。これでは娘達が心配するのも当然です)

 

 メテオロッドとフリーズロッドを抱きかかえたまま眠る姿、この一時だけが彼の子供としていられる時間なのだろう。

それは彼女自身、安らぎの一時として享受出来る状態ではないというのに。

彼女は自分が姉達を殺してしまったと悔やみ続けている。

いや、そもそも産まれてすら来ない方が良かったとすら考えているフシがある。

 

「貴方…何とかなりませんか?家族をすべて失って直ぐに故郷を離れ、戦いに身を投じるなんて選んだ道とは言ってもこれではあまりにも哀れでなりません」

 

 ハミラの嘆願に何かできないか思案をするカッシーワ。

しかしながら彼にできる事は先程済ませている為、今できる事はあまり多くは無い。

 

(竪琴を携える彼女はどことなく師匠を思い起こします…。あの方についてずっと師事してきましたが、最期の時までずっと己を責め罪を悔いていました。未熟だった私からみても彼の一生は執念と贖罪に捧げていたのは明らかで、どうする事も出来なかった…。リンクさんには背負って欲しくない、誰にとってもあの十字架は重すぎる)

 

 種族も性別も違うというのに何故そう思うのだろう、そんな疑問はあれど今は少しでも安らかな眠りを…そう考えリト族伝統である羽毛の布団をかける事を提案する。

ゲルド族特有の装飾が施された胸当てはその通気性ゆえにとても冷えるからだ。

今のリトの村は長期的な雨の為非常に寒い、寒さに強いゲルド族とはいえ露出している肌が多い服装での移動は更に体温を奪い取ってゆく。

 

 リト族の寒さへの強さは全身に生える羽毛だろう、これは成長するにしたがって生え替わるためそれを集めたて作られた布団にも保温機能が備わっており、とても温かく安眠を保証してくれる。

 

「さて、私達ももう寝ましょう。明日の準備もしないといけません」

 

「ええ、お休みなさい。貴方…」

 

 豪雨と雷の音が響く中、夜は更けてゆく。

リンク達と厄災との戦いの時も刻一刻と近づいていた。

 

 ◆ 翌朝

 

「うーん、良く寝た。あ、カッシーワさん、サヴォッタ!」

 

「おはようございます、疲れは取れましたか?今はこの村でできる限り英気を養って下さい」

 

「何から何まですみません。サークサーク」

 

 空模様とは対称的にリンクの睡眠は良質のものだった。

いつの間にか柔らかい羽毛の布団が掛けられており、旅の途中、焚火の前で夜を明かした時とは疲労の抜け方が全然違う。

 

「あれ?朝も早いねリンクちゃん」

 

「コッツさん、サヴォッタ!」

 

「え?ああ、おはようって意味だったっけ?寝坊助だって聞いてたんだけどハンモックだと寝れなかったかな?」

 

「いいえ、とても気持ちよく眠れましたよ。寝坊は何とか克服したんです。訓練に遅刻は許されませんから!」

 

「そ、そうなの…」

 

 理由としては妥当なのかも知れないが、改めて齢一桁の子供が放っていいセリフでは無い。

本人は真面目な部類ではあるがどこか抜けているというかずれている。

ヴォーイが入る事を禁じている事からもわかる様にある意味で閉じられた街の中でも更に独特な環境で過ごした来た弊害でもあった。

 

「コッツ起きたの?朝食の準備があるから手伝ってちょうだい」

 

「ウゲッ…、もっとゆっくり寝ていた方が良かった…」

 

「ナンはもう手伝っているわよ。それかキール達をさっさと起こして頂戴、寝坊でお客様を待たせるなんてもっての外よ」

 

 ハミラがそう言うとのんびりとした歩調で寝床へと移動してゆく。

妹達を起こしに行く事を選択したようだ。

全員集まる頃には朝食が並んでいる、起きたばかりという事もあり手軽な料理ではあったがそれでもこの人数分を用意するとなるとその手間は中々のものだろう。

モチモチとした食感の小麦パンにケモノ肉のシチュー、フレッシュミルクを堪能する。

 

「ふぅ…御馳走様でした。そう言えば今日はナズリーの所へ行くんでしたね。階段を登って直ぐの所ですから迷う事は無いでしょう」

 

「はい、色々とお世話になりました!サークサーク!」

 

 一礼をして直ぐに階段を駆け上がるリンク。

彼が辿り着く先には一体何が待っているというのだろうか。

 




カッシーワの師匠ってどんな人だったんでしょうね。

表には出ていませんがなにげにキーパーソンなキャラだと考えて作ってます。

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