ゼルダの伝説 蒼炎の勇導石   作:ちょっと通ります

74 / 77
お待たせしました!

試行錯誤の多い展開ですが楽しんでいただけたら幸いです。


第74話 ゲルドのお告げとリトの弓

 同時刻 ゲルドの街 宮殿

 

「ビューラ、これでわらわの仕事は全て終わりだろうか」

 

「はいルージュ様 残りのものは私でも行えます」

 

 リンクが飛行訓練場でテバ達の試練に挑戦している頃、ルージュは宮殿で交流会、そして襲撃の件の後始末、他にも街の政策といった業務に追われていた。

それどころか本来ならば時間的猶予のある物まで片づけている。

 

「すまぬな。しばらくは街を空ける事になる。いつ帰れるかもわからん。だが現実として静観を決め込むわけにもいくまい。あの声が何だったのか確かめる必要がある」

 

「リンク達の件も加味すると幻聴―と切り捨てるには些か状況が不穏です、それにチークからの報告によると予言通りゲルドキャニオンの奥にて台座が出現したとの事。単なる偶然にしては出来過ぎているでしょう。―ルージュ様、やはり私も着いてゆき」

 

 ビューラを手で制し、ルージュはゆっくりと語り掛ける。

彼女の心配もわかるが各々の責務はまっとうしなければならない。

 

「ビューラ、気持ちはわかるがそれではこの街が回らなくなってしまう。イーガ団の襲撃から立ち直るにはまだまだ時間を要するし、そなたを頼りにする民も多いのじゃ。ゲルドの街にはお前がいるからこそわらわは向かうことが出来るという事を忘れないで欲しい」

 

「失礼致しました。街の事は私達にお任せください。パドルからパトリシアちゃん様の準備も出来ていると報告を受けております。どうかお気を付けて」

 

 天に登り神となった母に祈りを捧げた後、ビューラに見送られ彼女達は広大なゲルド砂漠へと繰り出す。

整備されたカラカラバザールを経由するのではなくより過酷で凶悪な魔物達の住処でもあるゲルド砂漠の東へと。

台座に何があるのかはわからないが現時点で厄災と戦い抜く力が足りない。

そうも感じ取れる。

自身には英傑リンクや祖先であるウルボザの様な突出した剣才は無い。

イーガ団襲撃の時などもう1人のリンクにすら助けられている有様だ。

 

 そんなウルボザ達ですら大厄災で一度は破れているのだ。足りないと思うことはあれど厄災ガノン相手に万全な備えなど不可能かもしれない。

 

(薄々感じてはおったがやはり実際に言葉にされると重みが違う。厄災の復活が近いだと?せめてあと2,3年猶予があれば…)

 

 当時のウルボザとは決定的に違う所としてルージュには跡継ぎがいない事が挙げられるだろう。

いくら年頃のゲルド族とは言っても街の責任者がヴォーイハントの為に何年も旅に出ていては確実に支障が出る。

ゲルド族にはヴォーイは基本的に生まれないため必然的に見合いのような形になるが身分の合う相手を探すだけでも一苦労なのだ。

堅物とまで評されるビューラが半端なヴォーイなど一蹴してしまうだろう。

 

ウルボザはヴァ・ナボリスの中でその命を落としたが王家の血は辛うじて残った。

だが同じく英傑であったリーバルは若くして選ばれた事もあり、その子孫は途絶えてしまっている。

 

 このゲルドの街は現存している中で最大の街だ、統治するには最も困難な場所でもある。

血統だけで治められる訳では無いがやはり確実に得られる正当性というものは代えの効かない要素でもあるのだ。

 

(だが朗報もある。アッカレ地方から来たヴォーイがゲルドキャニオンで懸命に働いてくれているとの事。わらわ一人だけで出来る事は本当に小さい事かもしれん。だが力を合わせれば厄災にだって負けたりはせぬ。一度は退けたのだ それが出来ぬとは決して思えぬ)

 

「あの砂塵は―モルドラジークか こんな近くにも生息しているとはのう。ゲルドの街へは一歩も踏み入れさせん。何より厄災に対する強さを求める者がこれしきの魔物に怯え逃げるものか。いくぞパトリシアちゃん!砂漠を統べる者はどちらなのか教えてやろうではないか!」

 

 若き族長ルージュ そして相棒のパトリシアちゃんは己の役目を果たすべく砂の海を進んでゆく。

 

 ◆ 飛行訓練場

 

「駄目だ駄目だ、照準が甘ければ次の動きまでも遅すぎる。陸の上からですらそんな様じゃとても連れていけやしない。距離があるとはいっても隣の的を壊すようじゃ論外だ」

 

「はい!」

 

 リンクは順調にテバの課題をこなし―てはいなかった。

足場から届く的を狙う段階でダメ出しを食らってしまう。

伝統的に弓を主として扱うリト族、その中でも頭一つ抜けて実力のあるテバの要求には届いていなかったのである。

 

「―どうやら今のお前にはその弓は合っていないようだ。こっちのものを使ってみるといい」

 

 ツバメの弓を手に入れた リト族で一般的に使われている弓 空中での射撃に適した工夫が弦にされており 普通の弓より 少し早く引き絞ることが出来る

 

「サークサーク。うわっ、軽い!これならちゃんと引き絞れそうだ!」

 

 今まで使っていたゲルドの弓とは違い木製のそれはその重さも弦も比較にならない程軽かった。子供の頃から引ける機会があるからこそ伝統として紡がれる下地が出来上がるのだ。

 

 始めこそ勝手の違いに苦戦したが目に見えて精度が上がってゆき、放った矢が300を超えた辺りでようやく狙った的に当てることが出来るようになった。

 

「引く事に意識を持ってかれてたのかい?それじゃあ的を狙う方がおざなりになって当然だよ」

 

 チューリが信じがたい状況に目を覆う、自分に合っていない弓しか持っていないなんてリトの戦士では考えられない。

それで戦場に出る事など魔物にとって《シラホシガモがハイラル草を背負って来る》様なものだ。

 

「もう少し段階を踏んで小さい子でも扱える様にした方がいいと思うがな…彼女達なりの考え方もあるんだろう。ゲルド族の戦士として訓練を始めるには早すぎるしな」

 

 ゲルドの街はあらゆる品が揃うがそれは交易が盛んであらゆる場所を旅したゲルド族が取り寄せているからだ、砂漠では矢を作る為の資源は満足に取れるものではない。

無駄打ちをしない様に大人になってからしっかりと訓練を積んでいくのだ。

ゲルド砂漠の魔物は強靭な肉体を持っていて強い弓で倒す事を念頭に作られているという理由もある。

 

「テバさん、俺にリト族の弓の扱い方を教えて下さい!」

 

 時が経てばリンクでもゲルドの弓を扱うことが出来るようになるだろう。

だがそれでは今のこの状況には間に合わないし、空中での扱い方には確実に合致しない。

そもそもがゲルド族が空を飛ぶことなど想定されていないのだ。

 

「お前にリトの弓を教えろだと? …―無理だ」

 

「父さん!ゴメンなリンク、悪気があって言ってる訳じゃない。リトの弓は相手の頭上から撃ち下ろす事で射程や威力を伸ばしているんだ。空を自由に飛べることを前提にしているからせっかく覚えても君じゃ実用出来ないよ」

 

 リトの弓はその性質上かなり弦が軽く子供ですら素早く射ることが出来る。

しかしその反面、飛ばされる矢の威力は控えめでもあるのだ。

 

「実用出来なくてもいいんです!今必要なのはリトの村を守る為に空中での弓の扱い、通常の弓の扱いよりは確実に役立つはずです!」

 

「そうか。いいだろう。その熱意が本物かどうか俺に見せてみろ」

 

 それを聞き届けたテバとチューリはつきっきりで指導を始める。

特にチューリは弟弟子が出来た事がよほど嬉しかったのかあれこれと今まで苦戦していた経験も交えて心なしか楽しげだ。背中に乗せて打ってもらうというのも早々経験できるものでも無い。

それに比例してか、黄昏時には最低限空中でも近い的なら正確に当てられるぐらいにはなってきた。

 

「いいよリンク、凄い成長じゃないか!俺もうかうかしてられないな!」

 

「サー…ありがとうございます、チューリさん。ところであそこに飾ってある弓は?2人の物と比べても明らかに大きさが違いますが…」

 

 リンクが指さす方向にはツバメの弓やハヤブサの弓とは一線を画す大柄な青い弓が飾られていた。

心なしか英傑リンクの着ていた服と同じ色に見えるスカーフが巻き付けられている。

ハテノ村の家の中で見たものとそっくりだ。

 

「アレかい?カッコイイだろ!ハーツさんに頼んでリーバル様のオオワシの弓を再現して貰ったんだ。取り回しが凄く難しくて弦も尋常じゃないぐらい固い…けどそれに見合う絶大な威力の矢が3本も放てる。俺もいつかアレを使いこなせるようになりたいんだ!」

 

 チューリが興奮気味に答える。テバは無言を貫いているが心なしか嬉しそうだ。

 

 リト族の伝統的な工法で作られた稀代の名弓、リト族の強みである機動力を削ぎ落としかねない程の大きさと重さだがリーバルはこれを自在に操り、空中では無敵といっていい強さを誇っていたという。

他のリト族とは一線を画す飛行能力と固い弦を素早く引ける筋力、3つの的を同時に狙える異次元の精密さ100年経っても変わらず彼はリト族の英雄なのだ。

 

 残念ながら今のリト族でこれを扱える者は皆無である、それだけ求められる能力が高い。

 

「今日の所はここまでだ、いつでも出撃できるようゆっくり休め」

 

――

 

「……」

 

 動物も魔物達ですら寝静まる深い夜リンクはただ一人弓を携え立っていた。

眼前には上昇気流が絶えず吹き荒び、夜光石から抽出された塗料によってぼんやりと青白く光る的。その灯りに負けじと背のロッドも輝いている。

 

(リトの弓も少しずつ慣れて来たけどまだまだだ。今回の話は戦力として受け入れられてのモノじゃない。子供達を巻き込みたくないというお情けで許されてるだけだ)

 

 現実としてただ弓が扱えるというだけならハッキリ言ってリンクである必要はない。

背中に乗せて撃ってもらうだけなら弓に慣れているテバ親子に任せるか、龍を見つける役目として飛ぶ事の出来るリト族の子供を連れてきた方がよほど頼りになるだろう。

 

 リトの村の危機に対する備えとして万全かと問われれば間違いなく否である。

そんな妥協が彼には許せなかった。交流会を迎えたあの日、再三の忠告を受けていたのにもかかわらず警戒を怠り死なせてしまった愚かで救いようのないかつての自分。

 

(ただリト族にできる事をマスターするだけじゃ全然足りない。彼等でも真似できないような絶対的な強みが欲しい)

 

 彼の強みといえば シーカーストーン、剣術、そしてあの集中力。

 

「ううっ、寒っ!全く敵わんわ、ウチを置いて一人で行くなんてなぁ。しかも馬まで使えるとか聞いとらんっちゅーに…」

 

 置いてかれたミツバは1人愚痴る、ただでさえ悪天候だというのにあれ程の距離を雪に足を取られながら走らされれば文句の1つも言いたくなる。

姉のイチヨウの様に寒いのが苦手という訳ではないがへブラ山の寒さが平気なハイリア人など存在しない。

こんな所で野宿なんてしたら間違いなく仏になってしまうだろう。

 

「おっあれが噂の飛行訓練場ってやつやな。え?なんであのお嬢ちゃんこんな夜更けに佇んどるん?」

 

 ようやく見えて来た建物に安堵するミツバ。同時に視界に入って来るリンクに首を傾げる 次の瞬間その答えが判明する。

 

「は!?ウソやろ!?」

 

 命綱もテバ達の助けも無く崖下へと飛び降りたのだ。

それは最早自殺と変わらない狂気的な暴挙。

咄嗟に手を伸ばし駆け出すが、ミツバが走ったところで間に合うはずもない。

 

(まだ遅い、もっとだ もっと速くないと力の弱い俺じゃ補えない!)

 

 上から狙えないのならば落下速度を利用したスピードのまま射貫けばいい。

着地など知った事か。

肌がひりつく様な極限状態でこそ己の集中力が研ぎ澄まされる。

見開かれた眼は止まったかのように標的を映し出し瞬く間に撃ち抜いた。

 

 5つの的を撃ち砕いた後、盛大な水しぶきを上げリンクの姿が消える。

 

「今の音は何だ!?敵襲か!?」

 

 あまりの音にテバ達も弓を片手に飛び上がり警戒する。

 

「父さん!今の音は訓練場の下みたいです!」

 

「プハァ―! いよっし、大成功だ!今の感覚を忘れない様もう一回!」

 

 リンクはほぼ同時に5つの的を射抜いた事で自分の成長を実感し歓喜を上げる。

先程の技を確実にものにする為、続ける気満々だ。

だが空が飛べるリト族を前提に設計されている為か崖下から登る梯子がついていない、しまったなぁと考えていると服を引っ張られる。

チューリが引っ張り上げてくれたようでテバ達の待つ小屋の中へ送り届けられるのであった。

 

「こ・の・アホンダラー!!!」

 

「うわぁミツバさん!どうしてここに!?」

 

「じゃかあしぃわ!どこの世界に命綱も無しに崖から飛び降りるアホがおんねん!心臓止まるかと思ったわ!アンタはリト族ちゃうんやぞ!」

 

 《ウルボザの怒り》を思わせる雷を盛大に落とされた後、ほらこっち着て服を乾かし!とミツバに焚火へと寄せられるリンク。思いの外身体も冷えていたのだろう、自然とくしゃみが出てしまう。

 

「激しい特訓をこなすやつだと思っていたが更に特訓を重ねていたとはな。あの壊れた的はお前がやったんだろう?何かしら思うところがあったんだろう…が、これっきりにしてくれ。助っ人に特訓で死なれちゃ笑い話にもならん」

 

「リンク!頼むからせめて父さんか俺が起きてる時にしてくれ!せめて兄弟子らしい事をさせてくれよ!」

 

「うっ…ごめんなさい…」

 

「話は変わるがミツバと言ったか、アンタはどうしてここに来た?」

 

「ウチは《ウワサのミツバちゃん》のネタ集めの為にこの飛行訓練場へ赴いたっちゅう訳や。別に冷やかしに来た訳やないで?この通り食材も持ってきたしな。腹が減っては戦は出来ん」

 

「これはビリビリダケか、この辺りでは珍しいキノコだな。有り難く頂こう」

 

 電気を使う龍が相手ならこのキノコが信頼できる。

ゾーラ族には薬だと効果が薄かったらしいが ちゅん天堂でも寒さ対策にポカポカダケが取り扱われている様にリト族でもキノコ料理なら効果を発揮できる。

 

「串焼きキノコを作りながら聞いて欲しい。紫って聞いて思い出した事があるんや。かつて厄災の手に落ちた中央ハイラルには至る所が粘膜状に覆われていてな。もう10年位前の事やからすっかり忘れてたわ」

 

「何か対策はあるんですか?」

 

「ある、全部とは断言できんけれど近くにけったいな目玉があってな。それを消滅させれば粘膜も消える」

 

 ミツバの情報を中心として対策を講じてゆくリンク達。

すると突然彼らの耳に山全体に鳴り響く様な唸り声が聞こえた。

 

「遂に来たか!北西の方に雷雲が見える、あの辺りに奴がいるかもしれん!」

 

 咄嗟にシーカーストーンの望遠機能で何かいないか確認する…―見えた!

どす黒い怨念の塊のような粘液を纏った三本の角を持つ龍がリトの村の方へと向かって来てる!

しかも魔物達の群れまで随伴しているではないか。

 

「テバさん、チューリさん、見つけました!リトの村に向かって来ています!魔物達もいるみたいです」

 

「何だって!?―駄目だ、魔物は見えても龍は俺には見えない…」

 

 シーカーストーンを覗く2人、だがどちらにも見えなかったようで悔しさを滲ませる。

 

「リンク、お前はチューリの背に乗って龍を止めてくれ。魔物達は俺が引き受ける。いくぞ!リトの村には指一本触れさせん!」

 




今回は色々と盛り込んだ分ちょっと長めになりました。
文字数的にはどっちがいいのかな?

少し気になります。

ルージュ様にも強くなって貰わないと…。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。