冬美さんの彼氏はヒーローです   作:ハッタリピエロ

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またまた書いてしまいました。


第1話

あの日からずっと一緒だった。親父の訓練から辛くて逃げてきた時に強く、優しく抱きしめてくれた時も、姉さんと一緒に親父の呪縛から俺を助けてくれた時も、姉さんと家出して家に匿ってくれた時も、血はつながってないが今でもあの人は俺にとっての兄と同じだった。

 

そんなあの日の光景が目の前に広がっている。わかっている。これは幼き日の思い出だ。

 

『もう……やだよお……』

 

木の根元で泣いているのは幼き日の俺。まだなにも知らなかった弱かった俺だ。

 

そんな俺に近づいていたのは少年時代のあの人だった。

 

『大丈夫か?』

 

ぶっらきぼうな感じで言われた言葉だったがあの時の俺にとってはなによりも心の暖まるものだった。

 

幼き日の俺は

 

『お兄ちゃんは……?』

 

『そうだな……ヒーロー志望の男の子……かな?』

 

『なんで疑問形……?』

 

『あははははは!よく言われるんだよ!そうだな……自分には一つだけの可能性しかないわけじゃないと思ったからかな!?』

 

『でもヒーローになりたいの……?』

 

『う~ん……そうかもしれないな!ってことは君もそうなのか?』

 

『やだ……お母さんを虐めるようなのにはなりたくない……』

 

『……どういうことかな……?』

 

先程の雰囲気から一変したあの人に俺は目を丸くした。が、俺は全てを話した。父のことも母さんが苦しんでいることも。

 

それを聞いたあの人は

 

『辛かったんだな』

 

『え……?』

 

『小さいころからお母さんのために……辛い感情を見せないようにしてきたんだな……でも……今はいいんだ。泣いたって。ここには俺しかいないんだから……』

 

『う……!うわああああん!!!』

 

あの時の俺は泣いた。涙が枯れるまで泣いた。たまっていた感情をぶつけるようにあの人に縋りついた。

 

とその時に

 

『焦凍!?』

 

『お姉ちゃん……?』

 

『焦凍!大丈夫!?っていうか八神くん!?焦凍になにしたの!?』

 

姉さんが戸惑いと怒りを見せてあの人に近づいたが

 

『待ってお姉ちゃん!』

 

そして一連の出来事を聞いた姉さんは

 

『ごめんなさい……』

 

『いやいいよ。気にしないで。』

 

『でも焦凍を虐めていたなんて勘違いしてたのに……!』

 

『間違いは誰にでもあるからさ。それに焦凍くんを心配してくれたんでしょ?いいお姉さんだと思うよ』

 

『いいえ、私は姉失格よ……焦凍が辛い目にあってるのに……なにもできなかった!ごめんなさい……!』

 

『お姉ちゃん……』

 

姉さんはまるで懺悔するかのように俺に謝ってくれた。それだけでもよかった。俺は一人じゃないんだとわかったからだ。

 

『……それでどうする?このまま家に帰る?』

 

『やだ!帰りたくない!もう嫌だ!』

 

『焦凍……』

 

『……だったら俺ん家に来ない?』

 

『えっ……?』

 

『俺が匿ってやるよ。そんな奴のところに君をやるわけにはいかない!』

 

『でも……』

 

『気にするな!これでも俺鍛えてるからよ!君の父さんが来たって追い返してやる!』

 

『お兄ちゃん……』

 

『お兄ちゃんって……俺は八神翔だ。翔って呼んでくれ』

 

『翔兄ちゃん……』

 

『ダメだ……こりゃ』

 

『ふふっ!八神くん、焦凍に懐かれたみたいね?』

 

『やめてくれよ……轟さん……』

 

『冬美って呼んでくれる?八神くん。焦凍も下の名前で呼んでくれてるんだから』

 

『わかったよ。冬美さん』

 

こうして俺たちはあの人……翔兄の家に匿ってもらった。翔兄の父さんも母さんも俺を快く引き受けてくれた。

 

ここで俺の夢は終わった。

 

・・・・

 

夢を見た。それはまだ己の過ちに気づけなかった時の思い出だった。

 

今でもあいつには感謝している。あいつが叫んでくれなければ俺は自分の愚かさに今でも酔いしれていただろう。

 

そんなあいつだからこそ俺は……

 

『む?君は誰だ?』

 

インターフォンが鳴ったのに普段は気にもとめず誰かに行かせようと思っていたのだったが冬美もまだ帰ってきてないのと何度も鳴り響く音に苛立ちを覚えたのか仕方なく出ることにした。

 

扉を開けて出てみるとそこにいたのはまだ世界を知らないあの時の彼だった。

 

事情を聞いたあの時の俺はきっと表面上だけ取り繕うとしたのだろう。

 

『焦凍がすまなかったな。ありがとう。では迎えにいくとする『いえ、あんたなんかに焦凍くんはやれません』なに……?』

 

その時の俺は酷く醜く歪んだ顔をしていたのだ。目には濁った光を浮かべていた。

 

『焦凍くんから事情は聞かせてもらいました。それで言いたいことがあってきただけです』

 

『ほう……なんだ、言ってみろ』

 

『あんたは……何を見てるんだよ!あんたは焦凍くんを焦凍くんの母さんを……自分の家族をなんだと思っているんだよ!それでもアンタはヒーローか!?』

 

『黙れ……!貴様のような餓鬼に何がわかる!』

 

『わからねえよ!エンデヴァーがヒーローになるためにどこまでの努力を要したのかも!その辛さも!その苦しみだってわからねえ!ただ一つだけわかることがある!今のアンタはエンデヴァーじゃねえ!』

 

『なんだと……!』

 

『少なくとも俺が知ってるエンデヴァーはアンタほど腐っちゃいなかった!悪に屈さずに人々を守る、そんなヒーローだった!今のアンタは自分の心の弱さに逃げたただの負け犬だ!』

 

『負け犬……』

 

『俺は絶対にアンタみたいにはならねえ!例えナンバーワンヒーローになれなくてもな!家族を泣かすようなやつはヒーローじゃねえ!』

 

そう言って彼は玄関の扉を閉めた。

 

その時の俺は呆然としていた。トボトボと家の廊下を歩いていた。

 

今でも覚えている。あの時の俺は若く挫折を知らなかった時の自分の言葉を思い出していた。

 

<俺は最高のヒーローになって!誰よりも強くなってやる!>

 

それがなんだ?この体たらくは?息子に自分の野望を押し付けて負けを認めた挙句ヴィランまがいのことをするまでに腐りはてた自分への重圧が俺を押し殺そうとしていた。

 

そしてそのままトレーニングルームまで戻った俺はひたすらにサンドバッグを殴りつけていた。そうでもしなくては自分を殺してしまいそうだったからだ。あの時の俺は、泣いて……泣いて……自分の心の弱さを壊すかの如くサンドバッグに拳を叩きつけていた。

 

手が壊れて血がでるまで……そんな俺に届いた声が

 

『何してるんですか!』

 

『!?……冷……』

 

『炎司さん!なにやってるんですか!血までだして……!やめてください!』

 

ようやく我に返った俺は手を止めると冷が手をとってくれた。その手は冷たかったがあの時の俺にとってなによりも暖かく感じた。

 

そして自分を見てくれる冷のことを蔑ろにしていた過去の自分がとても憎く感じ、ようやく自分の愚かさに気づいた。

 

そして応急処置をしてくれた冷に俺は全てを話した。

 

『炎司さん……』

 

『今更言うのもなんだが……俺は焦凍たちに……おまえに……償いきれないことを……してしまったんだ……』

 

俺がそう言って下を向いて落ち込んでいると

 

『大丈夫ですよ』

 

『冷……?』

 

冷が優しく俺の手をとってじっとこっちを見てくれていた。

 

『私はずーっと待っていましたよ。炎司さんが……私たちを見てくれるのを』

 

『どうしてだ……?俺は!おまえたちのことを考えていなかったのに……!』

 

『私も……貴方が怖かった。いつ自分が可笑しくなってしまうのかも不安でした。でも……それでも……あの時から貴方が……好きでした……』

 

『う……ううううううううぅっ!!!』

 

俺は泣いて……心から泣いて……冷に抱きついた……自分はこんなにも愛してくれていた人を見もしなかったことに後悔と自責の念を抱いた。

 

そしてあの後俺は……

 

だがその場面に入る前に俺の意識は現実へと戻った。

 

・・・・

 

「う……ふぁぁぁぁぁ……」

 

俺、八神翔は眠たい目をこすりながらも起きて身支度を整えていた。

 

とその時ノックが聞こえてきたので

 

「どうぞ」

 

と答えると俺の彼女が入ってきた。

 

「おはよう翔くん」

 

「おはよう冬美さん」

 

冬美さんとは小学時代はただの先輩と後輩同士だったがある出来事を機に距離が近くなって今では付き合っている。

 

正直俺はあの親バカの父親がなぜ認めてくれているのかが謎である。まああれでも昔よりマシになってくれたからいいだけどさ……

 

朝ご飯は冬美さん手作りの味噌汁に納豆だった。

 

「来週から冷え込むみたいだな」

 

「嬉しい。寒いのは好きだから」

 

「暑がりだもんね。冬美さん」

 

「ふふっ……」

 

たわいもない会話に俺は平和を感じていたが時間がなかったのでご飯をかきこむ。

 

「そうだ!翔くん、今度お母さんが実家に来てって言ってたよ!」

 

「え?いいの?」

 

「うん!久しぶりに会いたいってさ!」

 

「そうか……あの人も久しぶりか……それより冬美さん教職免許取るの頑張ってね」

 

「うん!」

 

そして朝食を片付けて俺が先に出ようとした時に

 

「翔くん今日も頑張ってね!」

 

「はい!ヒーローマイティジョーカー、今日も一日平和を守ってきます!」

 

こうして今日も俺のヒーロー物語は始まる。

 

 

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