誤字報告ニキも毎回本当に助かってるゾ。
ガバい文書でも成り立つのはニキ達の助力のお陰なんやなって……改めて思うので初投稿です。
どっぷりと陽も落ち、騒がしかった酒場も疎らになり始めた頃。今日は遅番の監督官はカウンター奥の机でうず高く積もった書類の山に囲まれながら仕事をしていた。髪のハリも失われ目にも隈をこさえ、濃いめのお茶で目を覚ましながら必死に書類を捌いているその姿は哀愁を漂わせていた。
春はギルドにとって繁忙期に相当する。ただでさえ冬の閑散期の反動で冒険者が増えて忙しいのにやれ新人登録だ、等級審査だ、と目が回るような毎日だ。あの子もよくあの営業スマイルを毎日維持していられるものだと常々思う。クエストの達成記録を帳簿にまとめ、冒険者シートと擦り合わせて確認し記録していく。厳正なる等級審査のためにはこういった地道な確認作業が必要なのだ。貢献度確認だけでも大変なのに信用調査やら人格考慮やらと考えるだけで頭が痛くなるので監督官は思考を一旦放棄し、目の前の書類に集中した。
ゴブリン退治ばかりしているあの子の想い人の記録をいつも通りまとめ、次に取りかかる。
ギルド職員の間でも話題になっている期待の狂じ……新人である。登録時には既にあのバケツ頭であり、未だ素顔を見せたことがないという異様な人物。ギルドの調査によるとさる商人の子息ではないかとの説が有力で、商人の家族で行方不明者がいないか確認中である。初の冒険では組んでいた一党が半壊。その直後から何かに駆り立てられるように下水に潜り続けており、お陰で町の下水路のある区画では一時巨大鼠や大黒蟲の姿が消えるといった事態が起きている。
それとなく様子を窺ったりしているが如何せんあのバケツ頭で表情どころか顔色すら確認できていないので断言できないが大きな異常はないようだ。食事もちゃんと摂っているし、身嗜みにも気を使っているようだ。実力も単独でクエストをこなせるあたり、白磁にしてはずいぶんと手慣れた様子。暴食鼠の討伐経験もある。しかも1日に4件近くの討伐系クエストを処理し、空いた時間で溝浚いもするという勤勉さで貢献度はうなぎ登り。達成率の高さから信頼度もそこそこ。
条件を並べてみると不審な点はなく優良な冒険者のようだが、やはりどこかおかしいように感じてしまうのも事実。故に鋼鉄等級並に貢献度は累積しているが未だに黒曜等級への昇級を見送られている状態だ。早いところ昇級してさっさと色んなクエストを達成してくれというのがギルドの本音だが、少しでも不審な点があるのならそうホイホイと昇級させるわけにもいかないのが現実。
今度の会合で話題にあげてみるかと判断した監督官は疾走戦士の書類を昇級審査対象の棚に放り込むとまたペンを走らせる作業に戻った。
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正直、甘く見ていた。都の学院で優秀な成績を収め、魔術を使えるようになっただけで高くなっていた鼻をへし折られた気分だった。一党に誘ってくれた剣士は無惨な死を迎え、心を壊された武闘家は故郷へと帰っていった。少し運が悪いだけで簡単にこうなる。冒険は甘くないのだ。そうして私は賢者の学院に逃げ帰るわけでもなく、惰性でこの辺境に留まりギルドで代筆の仕事をしながらみっともなく生き延びている。
これからどうしたものかと、憂鬱な気分になりながら酒場兼食堂のカウンターで朝食のパンをかじっていると、あの、と横合いから声をかけられた。
「貴女……」
「ど、どうも」
あの冒険で無事生き残った1人、女神官だった。お互い気まずい雰囲気でしばらく無言だったが、わたわたと何か言おうかと口を開き掛けては閉じるのを繰り返す女神官を見て、真面目に悩んでいる自分が馬鹿らしくなってきた。
「……馬鹿みたいに立ってないで座れば」
「あ……はい!そうさせてもらいます」
そう言って子犬みたいにすり寄ってきて隣に座る女神官。しっかりしているようで年相応の振る舞いも見せる彼女も、まだ昨日の衝撃から立ち直れていない様子。何を話したものかと2人でまごまごしている。なんとも焦れったい。
「む?貴公らか。おはよう」
通り過ぎるように掛けられたくぐもった声に目をやるとあの特徴的なバケツ兜の冒険者、疾走戦士の後ろ姿があった。あのクエストの直後から単独で冒険に挑み始める異様な姿は記憶に新しい。しかも下水路のものばかりを受けているという。こちらはまだ立ち直れておらず、薄暗くて狭い場所に行くと未だに身が竦むというのにあのバケツ兜は下水路に潜っている。恐ろしくはないのだろうか?
代筆の仕事をしていると聞くのだが下水路のクエストは誰も進んでやろうとしない。臭いは恐ろしくキツいし、出てくる怪物は気色が悪くおぞましいものばかりで、稀に巨大な怪物の親玉と遭遇することもあるという。疾走戦士はその悪環境に耐え、先日その親玉を倒したという。ここで燻っている私とは大違いだ。
その疾走戦士はというと、気を使ったのか何なのか知らないが、少し離れた場所に座り、バケツ兜を被ったまま顎下からものを突っ込むようにして器用に食事をしている。なんなんだその異様な食事方法は。しかもやたらと早い。
「食べてるわね……」
「どうやってるんでしょうか。あれ……」
あっという間に食事を平らげるとさっさとクエストボードの方に向かい、少し手前で微動だにしなくなる。まさかクエストが張り出されるのを待っているのだろうか。……まあ色々と変なやつだが、前に進めているのだということがわかる。いつまでもくよくよしていてはなんのために冒険者になったのかわからなくなる。
「私……まだよくわからないけど、あの人についていってみようと思うんです。疾走戦士さんみたいに前に進み続けようって」
ポツリと女神官が呟く。よりによってあのゴブリン退治しかしないという冒険者についていくと来たか。未だにあの歪んだ笑みと叫びでよく眠れない身からするとよくやろうと思うものだと感心した。
「前に進む……か」
私の場合はまずは新しい一党探しからかしら?
そう思ってふと視界を巡らせた魔術師の目に、肘鉄を食らってむせる冒険者なりたての戦士と、彼を尻に敷いている同じく冒険者なりたての天秤剣を携えた少女の2人組が映った。
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ギルドに向かう前に工房で購入した鎖帷子がまだ馴染まない。子供にしがみつかれているような重さで少々動きづらいが、工房の店主からは動いときゃその内慣れると投げ遣りに言われたのでとりあえず言う通りにしていた。地母神の神官としてこういった鎧を着ることに抵抗がないわけではないが、毒の短剣が刺さるか刺さらないかで生死を分けることもあると妙に実感のこもった様子でゴブリンスレイヤーさんも言っていたことだし、自衛など錫杖を不格好に振り回すくらいしかできないのだ。これくらいは準備しなければ。ゴブリンスレイヤーさんに言わせればまだ足りないなどと言って全身を防具で固められそうだ。
ギルドの扉を潜り、いつものようにゴブリンゴブリンと言っているゴブリンスレイヤーさんを探す。そしてその粗末で悪目立ちする鎧姿を見つけるのに時間はかからなかった。そしてその近くにいた同じく目立つバケツヘルムの冒険者の姿も。
「先日ぶりだな貴公」
「疾走戦士さん!?」
何故ここに彼が?という思いが一番に浮かび上がった。連日のように下水路に潜り、超過密な日程で単独でありながら通常のかけだしの一党の5倍は稼ぐと噂されている疾走戦士。トレードマークとなりつつあるバケツ頭ことグレートヘルムを被っているのは変わらないが装備が変化していた。
「今回はこいつも同行する」
「ギルドの昇級試験とやらでな。上位の冒険者の下で連携ができるのか示せと言われたのだ。私の知る上位の冒険者となるとゴブリンスレイヤー殿くらいしか思い当たらなくてな」
「ゴブリンを殺す人手はいくらあっても足りん」
「……ということらしいのだ」
「な、なるほど。わかりました。よろしくお願いします!」
「こちらこそ、女神官殿。ゴブリン退治は一度しか経験がない故、立ち回りの参考にさせていただこう」
「行くぞ」
今回向かうのは北にある枯れた
「ここで準備を整える。火矢を作れ」
矢に油紙を巻き付けて火矢を拵え、火口と火種の準備をする。事前の説明では新たに授かった奇跡で私が砦の入り口を塞ぐとのことだが、本当にあんな使い方をして大丈夫なのだろうか。地母神様も苦笑いしている気がする。
「なに、2人とも自分の役割に集中したまえよ。矢が飛んでこようが礫が飛んでこようがコイツで防いでやろうとも。それしか取り柄がないからな」
そう言って盾を構えて見せる疾走戦士。確かにあの盾なら矢や礫など容易く受け止めてしまうだろう。本来は馬上で振るわれる大槍や長剣を受け止めるために造られた品だ。心配はないだろう。
わざと見張りに見つかるように歩いていき、ゴブリンの大騒ぎする声が聞こえたら火矢に点火し地面に突き刺し、それをゴブリンスレイヤーさんが出来た端から次々と長弓で放っていく。火避けの加護の消えた乾いた木の砦はよく燃える。あっという間に火が回っていく。時々見張り台からゴブリンが矢を放ってくるが、そこへ盾を構えた疾走戦士が躍り出た。
「はあッ!」
「射つぞ」
「承知した!」
かつんと情けない音とともにゴブリンの矢が弾かれ、疾走戦士はすかさずしゃがむとその背後からゴブリンスレイヤーさんが火矢でゴブリンを射抜き、燃え上がったゴブリンが転げ回ることでさらに火が回る。疾走戦士が飛んで来る矢や礫を弾き、邪魔を全く受けていないゴブリンスレイヤーさんが疾走戦士の背後から悠々と矢を射かける。疾走戦士も下手をすると背後から矢が刺さるというのに、意にも介さず防御に集中している。何だかんだとゴブリンスレイヤーさんも疾走戦士も相手に合わせ、お互いに信用しているからこその動きだろう。
……私もあんな風に信用してもらえているのだろうか?前に出て戦う疾走戦士とは違い、後ろで奇跡を行使する私は役に立っているのだろうか。ゴブリンスレイヤーさんはあまりそういったことでは喋らないのでわからない。
「やれ」
「はい!《いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らを、どうか大地の御力でお守りください》『
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「という具合に女神官殿の見事な
「そうだ」
「その後は生き残りを探して焼け跡に踏み込んだり周辺を散策して生き残りを殺して回った。たしか私のほうで5体、ゴブリンスレイヤー殿が7体だったか」
「そうだ」
「ふむ、私の覚えている限りではもうないが、他に何か言うことは?」
「俺は特にない」
「私も特には」
「では報告は以上だ受付嬢殿」
「はい、詳細な報告ありがとうございました」
疾走戦士は冒険中のことを事細かに覚えている記憶力やそれを詳細に分かりやすく説明するなど話術に長けているようだった。本人が言うには家督は放り出して来たものの商人の家系の出とのことなので、なるほど商人らしいと思った。ただ報告中にだんだん受付嬢さんが笑顔なのに威圧感が増していったのはなんだったのだろうか。
「……次からはゴブリンスレイヤー殿の言葉で報告された方がよろしいやもしれんな。馬に蹴られたくはないのでな」
「……?」
「ああ、なに、たかだか白磁の私ばかりがべらべらと話しても信憑性に欠けると思ってな。やはり本人の言葉のほうが重みがあるように感じるだろうさ」
「……そうなのか?」
「そうでしょうね。私も何となくその方が良いと思います!」
「そうか……そうだな」
無言で立ち尽くすゴブリンスレイヤーさんもなにか思うところがあったのか、考え込んでいる様子。言葉足らずなところがあるのは何となく察していましたがここまでひどいとは……。ゴブリンをどう殺すか話すときにはあんなに饒舌なのに……。そんなことを考えていると奥から監督官さんが顔をひょっこりと出して書類片手に叫んだ。
「バケツ頭く、んんっ!……間違えた。疾走戦士さんとゴブリンスレイヤーさん!お時間よろしいですか?」
「ああ、そういえばそうだった。頼めるかゴブリンスレイヤー殿」
「構わん」
「では、私はこれで。お疲れ様でしたゴブリンスレイヤーさん」
「ああ」
出発前に言っていた昇級審査のことだろうと察しのついた女神官は今日のところは解散することにした。明日もまたきっとゴブリン退治だろう。早く休んで備えるとしよう。疾走戦士さんと組んでいるとなんだか妙に疲れる気がするし。
そしてその翌日。
「晴れて黒曜等級になったがまだまだ先達から学ぶことが多いと感じてな。これからも同行することになる。よろしく頼むぞ」
その日からゴブリンゴブリンとうるさい変なのと、やっぱり色々と頭がおかしいバケツ頭に挟まれ、健気に冒険に赴く女神官の姿が見られるようになった。
盾で味方守ってわかりやすい報告して……あれ?
おかしい、疾走戦士が今回まともじゃね?(当社比)
変なのと頭がおかしいのに挟まれた女神官ちゃん。
お前も変なのになるんだよぉ!
追記:続きがいつになるかは……んにゃぴ……よくわかんないです。