トリニティセブン~魔王候補と学園最強~   作:双剣使い

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 お久しぶりです、双剣使いです。なんとか月一投稿に間に合わせることができました……遅くなってしまって申し訳ございません。
 それと、今回は書こうと思っていたことを詰め込んだ結果、かなり長くなってしまいました。驚異の10000字越えです。それでも良ければ本編へどうぞ!


閉じ込められる魔導士たち

 

 転校生の春日アラタと出会い、互いに名前で呼ぶようになったその日、夜になるまで魔術研究をしていた俺は、風呂に入ろうと思い、廊下を歩いていた。

 研究に集中していたために、時間が過ぎるのを忘れており、大浴場が使える時間はあとわずかだった。少々速足で目的地に向かっていると、廊下の先の曲がり角で男女が騒いでいる声が聞こえてきた。あの曲がり角の先は大浴場だ。そこで男女が騒いでいるということは、男子が覗きでもしたのだろうか。

 そう思いながら近づいていくと、誰が騒いでいるのか分かるようになった。なんなら今日会話した奴らだ。ということは、大方あの無表情女が男子の風呂場に居たのだろう。

 

 曲がり角を曲がった俺が目にしたのは、大浴場の更衣室の入り口前で騒いでいる三人の男女。しかも全員顔見知りときた。

 一人はアラタ。一体何が何だか分かっていないような表情をしている。

 二人目はリリス先生。彼女は、顔を赤らめ、何かを言いながら半裸の少女に服を着せていた。

 そして、最後の一人が問題だ。リリス先生に服を着せてもらっている無表情女。名前を神無月アリン。何を考えているのかが全く分からないほどの無表情で天然、しかも恥じらいをどこかに置き去りにしてきたようで、リリス先生のように顔を赤らめて恥ずかしがる素振りも一切見せない。男子の浴場で何度か鉢合わせしているが、彼女はそう言った素振りを見せなかった。かく言う俺も、無表情で恥じらいを見せない女子には欲情しないので、特に気にしたことはない。風呂場で会った時はアリンは全裸、俺は腰にタオルを巻いただけなので、どれだけそそられないかが分かると言うものだ。

 

 

「あ、悠斗!」

 

 

 こちらに気づいたアラタが俺の名前を呼ぶ。

 

 

「どうかしたか?」

 

「今風呂場の中に俺が探してる女の子と同じ顔をしたやつがいたんだ。今は出てきてるけど」

 

「アリンのことか?」

 

「知ってるのか!?」

 

「お前が探してる女の子ってのは誰か知らねぇけど、そこの無表情女についてならそこそこ知ってるぞ。こいつもリリス先生やレヴィたちと同じトリニティセブンの一人だし、風呂場で何度か鉢合わせたこともある」

 

「悠斗さん何度も鉢合わせてたんですか!?」

 

「そうですね。時々俺が入るときにアリンが出て行ったりその逆もありましたけど……俺もアリンも全然気にしてなかったですよ」

 

「はあっ!?お前、正気かよ!?」

 

「いや、別にアリンに欲情するほど飢えてねぇよ。どころか、あの無表情、天然女をそういう目で見ることってできねぇと俺は思うんだよ。あれほどそそらない女も珍しいと思うが」

 

 

 アリンは、先ほども言った通り無表情で天然、しかも浴場で異性に裸体を見られても一切恥じらいを見せないし、悲鳴も上げない。普通の女子なら叫ぶか怒鳴るかの二択だが、彼女にそんな常識は通用しない。ただただ何もしないのだ。故に、俺はそんな女に欲情できないし、する男もいないと思っている。まぁ俺の場合、一人でゆっくりしたいのにリーゼが突撃してくるため、つまみ出さなければならなかったので、アリンを気にしている場合ではなかったのだが。

 

 

「俺もアイツも、互いをそういう相手として考えてないんだよ。だから、俺がアリンに欲情したことはねぇよ」

 

「もしかして、悠斗って枯れてんのか?それとも男の方が好きなのか?」

 

 

 アラタの奴、失礼過ぎないか?

 

 

「どっちも違ェよ。単純にそこまで飢えてないってだけだ。それに、前は俺が風呂に入ってると突撃してくる痴女が居たからな、そいつのせいで色々と大変だったんだよ」

 

「なんだよそれ!?羨ましすぎるだろ!」

 

「何を言っているんですか、アラタ!?それに、悠斗さんも、ふ、不純異性交遊はダメです!」

 

「リリス先生、早とちりしないでくださいよ。俺とアイツの間にそう言った関係はないですよ。確かに俺もアイツもお互いのことを意識していましたけど、本音を伝えたわけでもないですし、まだそういう関係じゃないです。だからアラタ、そんな友人の初体験を聞きたいって顔してもだめだぞ。何もないんだから」

 

「なーんだ、つまんね」

 

「つまらないじゃないですよ、アラタ。悠斗さんも学生なんですから、適切な関係に留めてくださいね」

 

 

 俺に言われても困る。アイツがリリス先生の注意を聞いたことなど片手で数えられるぐらいだしな。

 それに、今は————

 

 

「また男子側の浴場に居たのか、アリン」

 

「ええ。誰もいないから静かでいいと思って」

 

「そりゃ確かにこの学園は女子の数に比べて男子は少ないから男子側は静かだが……女子が入るのはどうかと思うぞ」

 

「私は気にしない」

 

「気にして下さい!今までも悠斗さんが居ましたし、これからはアラタもいるんです!もう少し恥じらいを持ってください!」

 

「!!ああ……きゃー……」

 

「タイミングが違いますっ!!」

 

「……難しいのね」

 

「何も難しくありませんっ!!」

 

 

 アリンとリリス先生のコントじみたやり取りを見ていたら、着替えたのだろう、Tシャツを着たアラタが隣にやってきてささやいた。

 

 

「なぁ……あのアリンって奴本当にトリニティセブンなのか?どう見てもただの天然にしか見えないんだが」

 

「まぁそう思うのも無理はねぇか。確かに普段のアイツは何考えてんのか全く分かんねぇ。けど、魔術においてはかなりの実力を持ってる。まぁ今のお前にそれを説明したところでほとんど理解できないだろうから、お前がもう少し魔術に精通してからなら教えてやるよ。アイツの聖儀術(カオシック・ルーン)は結構難解だからな」

 

「それを説明できる雰囲気を出してるお前もヤバくねぇか……?」

 

「それが俺の研究テーマなんだよ。詳しいこと説明するのはまた今度な」

 

「まあいいけどよ……それよりも、トリニティセブン…か…オレにとって重要な位置づけになる————そんな気がする」

 

「そこ黄昏ながら言うところか?」

 

「うるせぇな。いいだろ、別に」

 

 

 窓を開け、空を見上げながらそう呟くアラタに思わず突っ込んでしまった。

 

 

「キャアアア!ちゃんとズボンも履いてください!!」

 

「あ、忘れてた」

 

 

 先ほどは口をはさんでしまったが、アラタの言っていたことは間違っていないと思う。これは学園長が言っていたことだが、魔王というのは無数に存在する魔術を扱う、まさに魔を統べる人物を指す。実例が多いわけではないが、過去に魔王候補と呼ばれた魔導士たちは、いずれも複数の〝書庫(アーカイブ)〟を扱ったらしい。特に、魔王候補と親密な間柄の魔導士の〝書庫〟を利用していたようだ。

 その点を踏まえると、俺やアラタの周りにトリニティセブンのメンバーが集っているのは当然なのかもしれない。各分野の秘奥に触れた七人の魔導士。

 アラタを目の敵にするであろう〝傲慢(スペルビア)〟のミラ、学園から失踪した俺の相棒と、封印された少女。それぞれ〝怠惰(アケディア)〟と〝強欲(アヴァリティア)〟のトリニティセブン。そこに〝色欲(ルクスリア)〟のリリス先生と〝憤怒(イラ)〟のアリン、〝嫉妬(インウィディア)〟のレヴィと〝暴食(グラ)〟のアキオ。

 彼女たちが俺とアラタの周りに集った時、何が起こるのかは想像がつかない。学園長に聞けば何かわかるかもしれないが、あのクソ眼鏡のことだ。適当にはぐらかされるだろう。であるならば、この目で直接確かめるしかない。

 トラブルがいくつも舞い込んでくるのは想像に難くない。ならば、その悉くをねじ伏せるまでだ。

 

 そう決意した俺は、廊下で元気に騒ぐアラタたちを尻目に、男子更衣室の暖簾をくぐった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……で。何でオレの部屋にお前らが居るんだ……?」

 

 

 アラタが困ったような表情で問いかける。もし俺が彼と同じ立場なら、同じリアクションをしていただろう。

 何故彼がそんな表情をしているのか。理由は簡単だ。授業を受けて帰ってきたら、部屋の中に人がいたからだ。場所はアラタに与えられた学園の寮。本来ならアラタ一人の部屋のはずだが、今は四人の男女に占拠されている。

 セリナとレヴィ、リリス先生と俺。

 因みに、セリナとレヴィが取材、リリス先生は監視、俺は研究を始めようとしたタイミングでレヴィによって連れ出された。同伴していたリリス先生にも付いてきてほしいと頼まれたので付いていったら、アラタの部屋の前に到着。レヴィがピッキングでドアを開けて中で待機していたのだ。

 

 

「取材です!!」

 

「取材っス」

 

「わっ……私はこんな時間に女子が男子の部屋にというのが教師として許せなかったので……」

 

「いや……リリスもオレと同い年じゃねーか」

 

「ですが立場は教師ですからっ」

 

「まぁいいか……で?何で悠斗までいるんだよ?」

 

 

 女性三人の用件を聞いたアラタは、窓際に立っていた俺にも理由を聞く。

 

 

「ん……俺自身はお前に用事があるわけじゃねぇよ。レヴィたちに連れてこられたってだけだ。だから一応、お前が変なことしないか見張ってる」

 

「お前はオレのことなんだと思ってんだよ?」

 

「ん~、女を見たら見境なく興奮する変態だな」

 

「ひどくね!?」

 

「だってお前、初日の質問で女子のタイプで巨乳って答えたろ。しかもその後、無くても愛せるとか言ったろ。要するに女ならだれでもいいって感じだろ」

 

「うっ、否定できないのがつれぇ……」

 

「そこは否定しろよ……」

 

「ぐっ……まぁいいか、それで?」

 

「取材です!!」

 

 

 形勢が不利なことを察したようで、アラタは逃げるように俺から目を逸らした。そして、メモとペンを持ってキラッキラした目で自分を見つめるセリナへと目をやる。セリナはアラタの目線が自分に向くと、身を乗り出して情報を手に入れようとする。

 

 

「うむ……好きな食べ物は唐揚げだな」

 

「ですってよ!?リリスセンセッ!!」

 

「どうして私に振るんですか!?」

 

 

 そりゃ先生の反応が面白いからだと思う。セリナやレヴィは完全に先生を弄ることを楽しんでいる節がある。

 

 

「ニンジャ特製唐揚げ食べてみるっスか?惚れ薬入りっスけど」

 

「是非に」

 

「アラター!!」

 

 

 そんな怪しげな薬入ってるのに積極的に口にしようとするのは凄いと思う。

 

 

「でも惚れ薬入りでいいんですか?」

 

「ん?学園長に聞いた話じゃ魔導ってのは常識を覆してナンボだって言ってたぞ。だから、滅多に食えねぇモノを食べてみるのもありだと思ったんだよ」

 

「いや、確かに魔導ってのは常識に捕らわれないことが大切だが、そこまでぶっ飛んだことしなくてもいいと思うんだが」

 

「なんだよ、悠斗は真面目だなぁ。試してみようと思っただけだって。それに、実際そうなったら面白いじゃん」

 

「絶対それが本音だろ……」

 

「では惚れ薬を飲んで野獣化したらまず誰を襲いますか?」

 

「うーんそうだなー」

 

「おいおい、セリナは何聞いてるんだ。取材じゃなかったのか?」

 

「大丈夫です!これも私にとってはれっきとした取材ですから!!」

 

「お、おう……何もそんな力説しなくていいんじゃないか?それに、アラタも何を真面目に考えているんだ?」

 

「胸のデカい順だろうな」

 

 

 うん、知ってた。

 アラタがそう言った瞬間、リリス先生がバッと自身の豊満な胸を隠した。それ逆効果じゃないか?と思ったのは俺だけじゃないと思う。そういう行動するからレヴィたちにからかわれるんだと気づいていないようだが、あえて口にはしない。アラタのように叩かれる趣味は俺には無いからな。

 

 

「アーラータ!!本当にアナタって人はー!!」

 

「まぁまぁ、みんな悪ノリしてるだけじゃねーか。そうだ、部屋に来たついでに魔道について教えてくれよ」

 

「え?あ…はい。それなら……うん」

 

 

 そんな二人のやり取りを見ていると、アラタたちの傍でしゃがみこんでいるレヴィとセリナと目が合った。何を思ったのか、レヴィがちょいちょいと手招きをしたので、窓際を離れて近寄ると、しゃがむように手で示される。

 仕方なしにしゃがみこむとセリナが口を開いた。

 

 

「リリス先生は根っからの教師ですからねー」

 

「ああやって上手く勉強に持ってかれると弱いわけっスね」

 

「いや、それにしてもチョロ過ぎないか?コロッと騙されそうだな……」

 

 ↓↓↓妄想↓↓↓

 

 

「だめよ……こんなのいけないわ……私たち、教師と生徒なのよ?」

 

「オレ……リリスの事、もっと知りたいんだ……!!」

 

「アラタ……」

 

 妄想終了~~~

 

 

「————という夜のレッスンにゆくゆくは……」

 

 

 レヴィが全て吹き替えで妄想を展開した。ふむ……何故か知らないが映像付きで再生されたのだが……レヴィの吹き替えがあまりにもそっくりだったからだろう。軽く引く。

 

 

「なりませんっ!!」

 

「それにしても、リリス先生いじり、可愛いです」

 

「萌えリリスっスね」

 

「あなたたちはっ!悠斗さんも何お二人の会話に混ざってるんですかっ!?」

 

「ほら見ろ、俺にも飛び火した……だから来たくなかったんだ……」

 

「そんなことよりもリリス、コイツはそもそも一体何なんだ?」

 

「…………」

 

「どうしたんだよ、リリス?そんな難しい顔で黙りこくって」

 

 

 どうしたんだ、リリス先生。そんなにあの魔導書の名前を言うのが嫌なのか?

 

 

「悪い、アラタ。ちょっとその魔導書見せてもらってもいいか?」

 

「ああ、別にいいぞ」

 

「サンキュ」

 

 

 アラタから魔導書を受け取って観察する。……は?ちょっと待て。何でこの魔導書をアラタのような普通の生活しか送ってない人間が持っているんだ?

 

 

「……アラタ。お前、この魔導書をどこで手に入れた?」

 

「それか?それは俺の町が崩壊現象だっけ?あれに呑み込まれた時、消えちまった聖————俺の従妹が渡したんだよ」

 

「つまり、この魔導書はその従妹が持ってたものなのか?」

 

「さぁ、その辺はよくわかんねぇ。聖がこんなの持ってたなんてあの時初めて知ったし……」

 

「そうか、悪かったな、つらいこと思い出させて」

 

「いや、気にしてねぇよ」

 

 

 と、ここで俺たちの会話についていけていないレヴィとセリナが割り込んでくる。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってください!悠斗さんはこれが何か分かったんですか?!」

 

「ああ、けど……」

 

 

 俺は未だに黙っているリリス先生にアイコンタクトを送る。正体を言ってもいいのか、と。

 それを間違えずに受け取ったリリス先生は、渋い顔で悩んでいたが、割り切ったのだろう。了承のサインとして、頷いた。

 

 

「リリス先生から許可が下りたから言うが……正直、俺も信じられねぇことなんだ」

 

「もったいぶらずに教えてくれよ。これ、一応魔導書なんだろ?」

 

「ああ、そうだ。しかもそいつ、多分アスティルの写本だ」

 

「「アスティルの写本(っスか)!?」」

 

「?そんなにすごいのか、これ?」

 

「凄いなんてものじゃないですよ!伝説上にしか存在しない魔導書で、異世界の知識が宿ると言われているんですよ!?」

 

 

 セリナとレヴィはこの学園にそれなりに在籍しているだけあって、ビッグネームの登場に驚いていたが、アラタは素人ゆえに何も分かっていなかった。そんな彼にセリナがどれだけこの魔導書が凄いかを説明する。

 さすがのアラタも、これには驚いたようで、まじまじと魔導書を見つめている。

 

 

「でも、本当にアスティルの写本なんスか、リリス先生」

 

「ええ……あくまで学園長が言うにはですよ?」

 

 

 レヴィでさえ、未だに信じられないようだが、あの学園長がそう言っていたのだとしたら、信憑性はある。

 学園長は常にふざけた言動を取るし、人の話は聞かない、肝心なことはわざと伝えないなど、迷惑しかかけないが、魔導士としての実力は世界でも五指に入るほどの人物だ。それでも、魔導学園の長を務めるだけの実力はある。信用できるだろう。

 

 

「その写本については本当に詳しいことはわかっていないんです。何せ存在自体が伝説のようなものでしたから」

 

「じゃあ何で、悠斗はこれがそのすげえ魔導書だって分かったんだ?」

 

「ああ、それはだな————」

 

 

 アラタの質問に答えようとした時だった。

 不自然な魔力の流れを感知したと思った途端、ドッ!?という音とともに、部屋全体が激しく揺れた。

 

 

「うわわわわわわっ、いったい何ですか!?」

 

「地震と停電!?」

 

 

 アラタがそう言ったが、違う。地震の前兆は一切なかったし、魔力が少々この部屋を覆うように展開されたのを感知したからだ。

 

 

「ちょっと!?どこ触ってるんですか!?」

 

「んん……っ。そこは違うっスよ……」

 

『どうやら結界に閉じ込められたみたいだな……チッ、しょうがねえ』

 

 

 アスティルの写本(仮)がそう言うと、室内が明るくなった。魔導書が灯り代わりになってくれるらしい。部屋が明るくなったことで、周りの様子も明らかになる。

 

 

「何してんだ、あんた等」

 

 

 俺は思わずそんなことを呟いていた。

 俺が見る先では、倒れこんだアラタがリリス先生の胸を鷲掴みにしていた。セリナはレヴィとリリス先生、アラタの体重を一人で受け止めていた。簡単に言うと下敷きになっている。

 俺は衝撃に耐えて、一人だけ立っている。

 

 

「……きゃああああああああああああっ!!」

 

 

 当然、リリス先生の悲鳴が響くわけで。同時に、甲高い音が鳴り響く。ここ数日で聞き慣れたものだ。しかし、今回のは偶然起きた事故だ。あそこまで理不尽に殴られるアラタが一言も文句を言わないのが凄いと思う。あと、リリス先生はもうちょい落ち着いてください。

 

 

「ノブすら回らんな」

 

 

 リリス先生に手痛いのを一発貰ったアラタは、部屋の状況を確認する。

 

 

「ああ、窓も確認したが、開く様子はない。完全に結界の中に閉じ込められたな」

 

「ふむ……結界ってのは?」

 

『お前さんが作った異世界の、かなりスモール版さね』

 

「ああ……箱庭づくりみたいなもんか」

 

 

 魔導書の説明をさらりと流すアラタ。

 

 

「ず、随分あっさりと凄いこと言ってますね……」

 

「よくわからん以上、動揺しても仕方がないだろ。なぁ、悠斗?」

 

「だな、不安になる時間が無駄だ。サッサと脱出する方法を見つけないとな」

 

「ホント、動じない人たちっスね……」

 

「結界で空間が断絶されている……などでしょうか。長年この学園に通っていますが、初めてです……」

 

「ま、その辺を考えるのが今回のゲームの目的だろォよ」

 

「ゲーム?もしかして悠斗、お前脱出方法知ってるのか?!」

 

『ちょっと考えればすぐにわかるようなレベルだ。心配はいらないさ』

 

 

 アスティルの写本はそう言うが、アラタたちにとっては高名な魔導書にそう言われても安心はできないらしい。

 

 

『ふあ~……そんなわけだから、クリア出来たら呼んでくれ。お休み……』

 

「まだ寝んのかよ!?」

 

 

 アスティルの写本が眠ってしまうと、明かりが消えていく。アラタは溜息を吐きつつも、アスティルの写本に語り掛けた。

 

 

「オイ魔道書、寝るのは構わないけど、明かりだけはどうにかしてくれよ。

 

『あいよー』

 

 

 すると、室内に明かりが戻った。完全に役に立たなくなった状態の魔道書をベッドの柱に立てかけると、アラタがこちらを向く。

 

 

「俺に何か用か、アラタ?」

 

「いや、悠斗は脱出方法知ってるんだろ?だから教えてもらおうと思ってな」

 

「断る」

 

「はぁ!?何でだよ!?」

 

「いや、だってこの結界が作られた意味を考えてみろよ。結界が張られたのはアラタの部屋だから、狙いは俺じゃない。多分、お前の力を見てみたいとかそういう理由だと思っている。それに、俺もお前がここから如何にして脱出するのか、見てみたいんだ。だから、俺は分かっていても脱出方法を言う気はねぇ。よほど追い込まれない限りは何もしないからな」

 

「ふーん、まあいいか。俺の実力を見られてるんだろ?だったら見せてやるぜ!!」

 

 

 そう言って意気込んだアラタは、傍に置いてあった自分の椅子を掴むと、扉の前に立った。

 

 

「アラタ……?」

 

 

 彼の不可解な行動に戸惑いを隠せないリリス先生たちの前で、アラタは椅子を扉に叩きつけた。力いっぱい叩きつけられた椅子は当然のごとく砕け散った。

 

 

「ふむ……椅子が壊れてしまったが、大した問題じゃないな」

 

「問題ですよ!!いきなり何を!?……あっ、なるほど。常識はずれな行動っていうのを試してみたんですね」

 

「ああ。自身の常識から外れたものを魔道って言うのなら、そういった常識外れな行動がこの部屋から出る方法だと思ったんだが……違ったみたいだな」

 

「おお……なんかカッコいいですね!」

 

「問題は自分の常識から外れたものは証明するのが難しいと言うことだな」

 

「うわぁ……格好悪いですね」

 

「しょうがねぇ……部屋の中の隅々まで探すしかないか」

 

 

 そう言うと、アラタは部屋の中のものをひっくり返しながら、ヒントになりそうなものを探し始める。それを見て、他に方法がないと考えたのか、レヴィたちも捜索を開始した。俺は邪魔にならないように窓際にでも寄っておこう。

 窓により、そこから外を見る。空間が断絶しているわけではないので、外を見ることはできる。向かいの校舎の屋上にたか人影を捕らえた。二人組で、身長が高い方はズボンをはいているが、もう一人の身長が低い方はスカートをはいている。つまり、女子だ。

 結界魔術を使える魔道士は多くいるが、トリニティセブンを二人も閉じ込めることができる強力な結界は同じトリニティセブンでなければ不可能だ。

 となると、犯人は誰か。レヴィとリリス先生にはこんなことをするメリットがないし、外にいる二人組が犯人であることを考えると除外。残りはミラとアキオ、そしてアリン。魔王候補にいい印象のないミラならアラタを閉じ込めそうだが、彼女はそんな手間はかけない。正面から叩き伏せるだろう。アキオは基本的にミラと行動していて、彼女の指示で動く。まぁアイツの魔術特性上、結界を作るのはそこまで得意じゃないから違う。となれば消去法でアリンだが……理由が分からない。

 そうなると、身長の高い奴が何かしら吹き込んだ可能性がある。

 アリンが言うことを聞いて、かつ納得させられるだけの言葉を持つ者……一人だけ思い当たる。いや、でも彼に限って……面白そうという理由だけで動くな。あの学園長しかいねぇな。

 だが、狙いが俺でないのならわざわざ動くこともない。アラタたちが勝手に脱出方法を見つけるのを待つだけだ。

 

 

「しっかし見つからねぇな……いっそのこと諦めて寝るか」

 

 

 脱出の手がかりを探し始めて数分。まったく見つからないために諦めたアラタの口からそんな言葉が出た。

 これに焦ったのは女性陣。

 

 

「いやいや、諦めちゃダメでしょう!?」

 

「そうっスよ、アラタさん。それに、問題が一つあるっス」

 

「?なんだよ」

 

「この部屋にはトイレがないっス」

 

「……大丈夫。いざという時は————黙っておくから」

 

「そういう問題じゃないですよっ!」

 

 

 アラタやセリナたちが騒いでいる横でリリス先生が床に座り込んでいる。その姿は、何かを我慢しているように見える。

 

 

「どうしたんだよ、リリス」

 

 

 先生が一言も発さないことに違和感を覚えたアラタが声を掛ける。リリス先生は何でもないと否定するが、どう見ても何かある。動揺が激しい。え……マジな奴なのか、これ。

 

 

「まさか、トイレに行きたい、とか?」

 

「あ……いえ……あの……その……」

 

 

 誤魔化そうと必死に言葉を紡ごうとするリリス先生だが、唐突に黙った。これに慌てだしたのは同じ女性のレヴィとセリナ。

 

「た、大変ですよ!これは一大事です!」

 

「こうなったら仕方がないっス!悠斗さん、お願いしてもいいっスか!」

 

「別に構わねぇけど……いいのか?俺が結界を破壊しても」

 

「緊急事態っスから、大丈夫だと思うっス」

 

「了解」

 

 

 まぁ声を掛けられるだろうと思い、準備はしていた。

 俺はレヴィに返事を返して、窓際から離れる。その際、外をアラタたちには分からないように盗み見る。俺が動こうとしても何もしてこないと言うことは、破壊してもいいのだろう。

 

 

「うし、じゃあドアの前から離れてくれ」

 

 

 全員がドアから離れる。床に座り込んでいたリリス先生はセリナが回収した。

 

 ドアの前に立ち、首の電極のスイッチを入れる。

 その瞬間、ゴウッ!と風が吹き荒れる。抑えていた魔力を解放したからだ。

 

 

「〝傲慢(スペルビア)〟の〝書庫(アーカイブ)〟に接続、テーマを実行する!」

 

 

 接続を開始すると、吹き荒れていた魔力が落ち着き、静かになる。

 そのまま空いている左手をドア————正確には結界との境界線————に触れ、魔力のベクトルを操作する。魔力を逆流させて、結界の基点を探知。この部屋のベッドの下。

 即座に破壊のプロセスに入る。術式を構築。

 この間わずか0.2秒。

 

 そして、俺自身の魔力が少し揺らいだ瞬間、パキンという音と共に結界が消滅。

 アラタが駆けだし、ドアを蹴り開ける。

 

 

「さあ、おしょん行ってこいっ!!」

 

 

 アラタの声に背中を押されるようにレヴィたちはトイレに向かっていった。

 

 彼女たちが駆けていくのを横目に、電極のスイッチをオフに切り替え、部屋を出る。それなりに結界の中に居たため、そろそろ部屋に戻るとしよう。

 そんな時、アラタに声を掛けられる。

 

 

「なぁなぁ、悠斗のテーマって〝傲慢〟なのか?」

 

 

 さあ、なんと答えるべきだろうか。アラタの問いは半分正解で半分不正解だ。確かに俺は〝傲慢〟の書庫を持っているが、それだけではない。あともう一つ、書庫を持っている。

 同じ魔王候補であるアラタになら教えても構わないだろう。別に隠しているわけじゃないし、知られたところで構わない。何より、学園長が勝手に言いふらす可能性が高い。

 

 

「ああ、確かに俺のテーマは〝傲慢〟だよ。けど、それ以外にも、テーマを持ってる。〝色欲(ルクスリア)〟だな」

 

「やっぱりお前、溜まってたのか……そこまで思い詰めていたなんてな」

 

 

 コイツ、失礼過ぎやしないだろうか。

 

 

 

 

 




 読了ありがとうございます。
 本当にごめんなさい、10000字とかふざけてますね。書きたいこと詰め込んだ結果がこれか……場面変わるところで一回切るべきだったかもしれません。反省ですね。
 それと、書いている途中で、悠斗くんとアラタの一人称がダブっていたので、違いを明確にしておきます。
悠斗→俺
アラタ→オレ
となります。もしかしたら気づいた方がいらっしゃるかもしれませんが。
 感想など、送っていただけると励みになります。それと、「ここはこうしたらいいんじゃないか」、「これは直すべきだ」などの改善点があれば、感想欄で書いていただけると、今後の修正になります、宜しくお願いします。
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