ようやく書きあがったので更新です。
今回8500字と長いですが、最後まで読んでいただけると幸いです。
それでは、本編へどうぞ!
俺たちがアラタの部屋に閉じ込められた翌日。朝教室に行くと、何とも奇妙な光景が目に入ってきた。
アリンがアラタの顔を至近距離から眺めていたのだ。
机に肘をつき、頭を支えた状態で微動だにせず見ている。しかも、瞬き一つしない。目乾かないか、それ。
その異様な光景に、クラスの奴らは遠巻きに二人を眺め、ひそひそと小声で憶測を交わす。アラタがアリンを手籠めにしたとかなんとか言ってる。どうやら、転入してきたときの最初の発言のせいで、女に軽々しく手を出す鬼畜野郎だと思われているらしい。アイツの普段の言動がアレなので、擁護できないが、今回ばかりは違う。
女子が近くにいるとテンションが上がるはずのアラタが珍しく困っており、教壇に立つリリス先生に助けを求めている。しかし、リリス先生もどうしたらいいのか分からないらしく、困り顔だ。
これで何かしら生徒に被害があったらリリス先生もアリンに注意をするだろうが、実害が無いので何も言えないのだろう。
けど、二人の反応を見るに、昨日の結界を張った犯人がアリンだとは気づいていないらしい。まぁ別に教える気もないし、いずれアリンの方から言うだろう。今は放置で構わない。今の俺には、アラタたちよりも優先することがあるからだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ホント、ここに来るのも何度目だ……?」
授業が終わった後、俺は学園長室の前に来ていた。扉を見て、思わずそんなつぶやきがこぼれた。
先日、アラタが転入直後に学園長室に行ったように、俺も入学後すぐに学園長に呼び出されてこの部屋にやって来た。何でも、その年の新入生で魔道に才能のある生徒は学園長が直接激励を送るらしい。当時から先生だったリリス先生が教えてくれた。
ちなみに、今のトリニティセブンのメンバーは全員、俺と同じ理由で学園長に呼ばれ、話をしたらしい。
当時の俺はまだ魔道についての知識がほとんど無かったため、学園長の言っていることは半分以上分からなかったが、自分が注目を集めていることだけは分かった。多分、転生特典とかの副作用だと思われる。
そして、彼との話の中で、俺は学園の生徒で構成されている組織に入るように勧められた。それが、王立図書館検閲官。主な仕事は、〝崩壊現象〟の完全除去。世界のどこかで〝崩壊現象〟が発生、もしくは予想された場合に派遣され、破壊・停止させることが目的だ。本来ならトリニティセブンのメンバーから選ばれるのだが、危険度の高い〝崩壊現象〟が多発していることから、複数人で行動することが決められたらしい。
正直、最初は王立図書館検閲官になることは躊躇われた。いくら俺が転生で一方通行の能力に近いものを持っていても、もとは争いとは無縁の世界に暮らしていたのだから、戦えるわけがない。明言はしなかったものの、魔術の素人が居ても邪魔になるだけだと説明したが、魔術は実戦の中で覚えればいい、優秀な魔導書があるのだから、その力を存分に振るえばいいと学園長に言われ、渋々と引き受けた。
最初は後方から戦いを眺めている方針だったらしいが、俺に興味を持った少女の介入で、彼女の補佐をすることになった。それが、現在は空席となっている王立図書館検閲官次席リーゼロッテ=シャルロックとの出会いだ。
「っと、いけねェ、目的を忘れるところだった」
感傷に浸る前にここに来た目的を思い出し、意識を切り替える。これから相対するのは、学園最強の魔道士。正確な実力は計り知れない。いくら俺が学園の学生最強になったところで太刀打ちできないであろう人物。
故に、油断はできない。すでに何度かあっていても、彼の考えを正確に知ることなどできない。
学園長はそれだけヤバい人物だ。
だが、今回はそうならないだろう。彼は基本、俺たちの前ではふざけた態度を取る。その時は、よほどのことがない限りは彼が本心を見せることはない。
付け入るスキがあるとすれば、目的を達成した直後。いざ、行かん!
意気込んだが、ちゃんとノックをする。
「……?」
しかし、返事が返ってこない。
学園長は基本的に学園長室にいる。気まぐれで校内を徘徊しているときもあるが、昼間は部屋に居たはず。そう思っていたのだが、当てが外れたらしい。
試しにもう一度ノックし、待ってみたが返事はない。
どうやら外出しているらしい。諦めるしかないか。
そう思って教室に戻り始める。
数分ほど歩いたとき、廊下の先から見知った顔が歩いてくる。
「あら、悠斗さんじゃないですか」
リリス先生だった。彼女が歩いてきた方は学園の校舎の外。何か用事があったのだろうか。
「悠斗さんは学園長室に行っていたんですか?」
「そうなんですけど、居なかったんで戻ろうとしてたんですよ」
「そうでしたか……学園長なら、外の焼却炉の中ですよ」
……?
「え?どこですって?」
「外の焼却炉の中です」
聞き間違いではなかった。焼却炉に放り込まれるとか何やったんだ、あの学園長は。
「ほら、今日朝からアリンさんがずっとアラタを見ていたじゃないですか。何でも、アリンさんにいろいろ吹き込んだのが学園長らしいです。アリンさんが魔王候補の番だとかなんとか言ったらしいです。しかも、廊下の窓を壊して飛び込んだそうなので、焼却炉に捨てたんです」
考えが顔に出ていたため、リリス先生が教えてくれた。
やっぱり、アリンに色々言ったのはアイツか……。となると、何かを企んでいるかもしれない。本人に聞くか。焼却炉から出すことを引き換えに教えてもらえればいい。
「分かりました、俺は学園長に用事あるんで焼却炉の方に行きます。リリス先生は?」
「私はアラタとアリンさんを待たせているので、お二人の所に行きます。それと、学園長はちゃんと焼却炉の中に戻してくださいね」
「了解です」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「さて、キリキリ吐いてもらいましょうか」
リリス先生から学園長の居場所を聞いた俺は焼却炉にやって来た。中を見れば、縛られた学園長が転がされており、脱出しようと藻掻いていた。
リリス先生の許可は貰っているので、学園長を引っ張り出し、猿轡だけを外した状態で地面に転がす。それでもまだ動くので、足で踏んで動きを止め、問いただす。
「ちょ、悠斗クン!!助けてもらったのに何で僕踏まれてるの?!しかも縄ほどかれてない!!」
「大丈夫です、ちゃんと縄はほどきますよ。まあ学園長が俺の質問に全て答えてくれたらですが……」
「よし、何でも聞いてくれたまえ!!」
「変わり身早いっすね……」
「それが私の売りだからね。ところで、何を聞きたいんだい?女の子のスリーサイズかな?それだったら正確な数字を教えられるよ」
「やっぱり焼いた方がいいかな」
「ごめんね!真面目な質問なんだね!!」
「はぁ……分かればいいんですよ。俺が聞きたいのは————ッ!!」
唐突に、膨大な魔力を感じた俺は、校舎の方に振り返る。校舎の一か所から、とてつもない量の魔力が溢れ出している。トリニティセブンのメンバーでもここまでの魔力を持っているとは思えない。ということは————
「アラタかッ!!」
さらに、変化はそれだけに留まらない。地面が揺れたかと思うと、ゴォッ!!と音を立てながら校舎が粒子へと変わっていく。
「〝崩壊現象〟ッ!?一体何で?!」
「いやはや……こりゃまた……アリンちゃんも派手にやるよねぇー」
「ッ!アンタ、アリンに何吹き込みやがった!!」
「僕はただ、アラタ君がアリンちゃんの番だと教えただけなんだけどねぇ……」
合点がいった。アリンのテーマは〝
しかし————
「うーん、まさかアラタ君の魔力がここまで膨大だとは……本当に魔王候補には飽きないねぇ」
「余計なことを————」
待てよ?〝崩壊現象〟が起きているということは、
「おい、ミラとアキオはどこまで〝崩壊現象〟を潰しに行った?」
「彼女たちかい?それほど離れていないけど」
「それを早く言えこのクソ眼鏡!!」
言うが早いか、俺は電極のスイッチを入れ、地面をける。その瞬間、足裏に魔力を集め、脚力を強化。一瞬で校舎の中に飛び込む。
場所は保健室。ここから廊下を曲がっていくのは時間の無駄にしかならない。
ミラとアキオは
仮に、〝崩壊現象〟を瞬殺で終わらせた場合、時間的にも学園に戻ってくるころ。そして、学園で〝崩壊現象〟が起きているとなれば、発生源を特定し、叩き潰す。特に、魔王候補のアラタが発生させたものだとしたら、〝
それだけは何としても止めなければならない。リリス先生がアラタを気にかけているのもあるが、何よりも、俺のテーマは彼女の〝
「〝
背中から、黒の竜巻を二つ発生させる。そして、それで廊下を破壊し、保健室へとまっすぐ進む。
そして、万が一に備えて保険を掛けるため、眠る彼女に声を掛ける。
「聞こえるか、ユイ?」
「うん、聞こえるよ、お兄ちゃん」
「頼みがあるんだが、聞いてくれるか?」
「うん、何でも言って!」
「さんきゅ、実は————」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
浅見リリスは焦っていた。自分の知り合いが目の前で魔力を暴走させ、〝崩壊現象〟を引き起こしている。それを止めるために彼に銃口を向けたが、それを阻まれてしまった。
どうしてこうなったのか。リリスは今日一日のできごとを思い返した。
結界に閉じ込められた翌日、自分と同じトリニティセブンの神無月アリンが転校生の春日アラタの後を付け回していた。アラタ本人はどうして付け回されているのか分からないようだった。リリスだって分からない。
確かに、アラタは神崎悠斗に続く2人目の魔王候補だ。興味を持つのは当然のことかもしれないが、何もあそこまで近寄って見つめる必要は無いのではないか。
疑問が解消したのは、授業が終わった後だった。
アリンがアラタの後ろを歩いていたのは、彼を観察していたから。それも、学園長に言われたからだと言う。話を聞いたリリスは、学園長を縛って焼却炉に捨てた。元凶に慈悲はない。
その後、保健室でアリンから話を聞いていた。その時、結界に閉じ込めたのはアリンの仕業だと判明した。学園長の指示だとアリンは言った。これにはさすがにアラタも頭に来たのか、学園長を倒そうとした。
その時だった。アリンがベッドに座るアラタに近づき、彼の右手に触れた。指輪を付けた左手で。
その瞬間、指輪が光り、同時にゴオッと莫大な量の魔力が溢れ出した。
アラタとリリスが驚愕に包まれる中、事態はさらに進む。
「〝
その言葉とともに、アリンの制服が変化し、魔術師のローブのような服に変化する。
メイガスモード————魔道士が魔術を使うのに最も適した服装のことを指し、人によって違う。
「私のテーマは〝
アリンに言われ、アラタを見ると、右手を握りしめていた。そこには、アラタの魔導書であるアスティルの写本がある。
「彼の魔力を抑えている魔導書の制御を崩壊させたわ」
「!!そんなことしたらこの学園が————」
「そう、崩壊現象に包まれる」
アリンの一言がトリガーになったのか、リリスたちの周りに置いてあったものが全て黒い粒子へと変わっていく。
「危険すぎます、アリンさんっ!!」
「そうね。でも、私のテーマ〝
「そうですが……」
危険を感じたリリスはアリンを説得しようとするが、聞く耳を持たない。何より、アリンは魔道士としての研究をしようとしているだけだ。方法が人道的に正しくないとしても、魔道士として間違っていない言葉に、リリスは口を閉ざしてしまう。
しかし、その間にも崩壊現象は進行し、学園とその周辺を粒子へと変えていく。その規模は、今まで見たことのない範囲だ。
焦って対処法を探っているリリスの前で、アラタがさらに暴走を始める。それを見たリリスは、彼を殺して崩壊現象を止めることを決意する。
アリンが自分とアラタの間の射線上に立ったからだ。
リリスは、アラタの暴走を止めなければアリン自身も消滅すると説得するが、アリンは自分の目的のためにも、退くことはできないの一点張り。話は平行線を辿っている。
そんな時だった。
「なーるほど。そいつを止めればいいだけなのか」
緊急事態にも関わらず、緊張感のない声と共に保健室の壁が外側から破壊された。
「……こりゃビックリだな。崩壊現象を止めて帰ってきたらまさか学園でも発生してるとはな」
「そんな……確か検閲任務中のあなた方が何故ここに!?」
「そんなもん瞬殺で帰って来たよ」
リリスがありえない事態に驚きを隠せない中、壁をぶち破って部屋に入ってきたのは二人の女性。
リリスにとって、この場面で一番来てほしくなかった二人だ。特に、ミラとアラタを直接会わせることはしたくなかった。
リリスも悠斗と同じく、ミラがアラタの存在を許すとは思っていなかったからだ。
「崩壊が、停止させられている……」
「私の魔術で同等の崩壊の力をぶつけ中和しています」
「っ!?」
「私の〝
山奈ミラ————〝
「アキオ、そこの男を殺してください。その男が〝崩壊現象〟の基点です」
すなわち、春日アラタの殺害。
「ったく……あっさり言ってくれるぜ」
だが、アキオの中には迷いがあった。
アキオは、正直なところ、ミラの言葉に賛同しかねていた。魔王候補を受け入れられないのは、ミラのテーマ上仕方がないことではある。しかし、その判断は早計なのではないか。既に前例が居るのだから、もう少し様子を見てもいいのではないか。そして何より、この場で春日アラタを処分しようとすれば、確実に彼と敵対することになる。そうなったとき、不利なのはこちらだ。自分とミラのテーマでは、彼のテーマを突破できないからだ。
しかし、既に春日アラタの暴走はほとんど止められないところまで来ている。そうなると、彼を処理するのが最も安全かつ最速だ。眠る彼女の力を借りればその限りではないかもしれないが、あいにくとここにいるメンバーは彼女との対話方法を持たない。
そこまで考え、アキオは自身の魔術————
「いけません!アキオさん!」
「……ッ!体が……動かないわ…!?」
「悪く思わないでくれよ?大将の指示に従って『魔』を討つのが私の役目なんでねっ!」
ミラの魔術によって拘束されたリリスとアリンを尻目に飛び上がったアキオは、動けないアラタに真言術で強化した右足を叩き込もうとした。
しかし、彼女はその行動をキャンセルする。それは、ミラが彼女に声を掛けたからだ。
「っ!アキオ!先輩が来ます!!」
それだけで意味が分かったのか、アキオは体を捻り、壁に向かって回し蹴りを繰り出した。
同時に、壁を外側から破壊して黒の竜巻が入ってくる。それは、アキオの右足とぶつかり、その波動で土ぼこりが巻き起こる。
「チッ!」
舌打ちをしたアキオは、左足も
「先輩……まさか!?」
黒い竜巻によって破壊された壁のほうを見やったリリスが、誰が来たのかに気づく。そして、それを確信づける声も聞こえた。
「『魔』を討つのが
空いた穴から入ってきたのは、アラタと同じ魔王候補の悠斗だった。普段は突いている現代風な杖は持っていない。魔術を行使する際、邪魔になるからだ。
そしてそれが、彼が本気で魔術を振るおうとしている証左だった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
危ないところだった……もう少し来るのが遅かったら今頃アラタはアキオの右足で跡形もなく消し飛ばされるところだったな。
「悠斗……どういうつもりだ?お前なら、アタシが動く理由もわかるだろ?」
「まぁな……けど、言っただろ。友人を守るためだって。それに、アキオもミラも分かっているはずだぞ?俺が〝
「ああ……よくわかってるよ」
俺のテーマ。それは————
「〝
「そ。よくわかってるじゃないか、ミラ」
「当然です。先輩の力は、先輩が王立図書館検閲官だった時に何度も見ていますから」
〝
しかし、これを聞くと〝
最初は〝
〝
ここでいう賢王は、民から頼られる守護の象徴。平和の礎。力なき人々が尊敬の念を向ける対象だ。
だから、〝
「そしてそれはアキオ、お前も同じだもんな」
「……ああ、そうだな」
アキオのテーマは〝
故に、彼女の罪では俺の罪を突破することはできない。
「ま、手を出さないって分かっただけでも十分だよ。あとはこの崩壊現象を止めればいいだけだからな」
「なら邪魔をしないでください。私はそこの不浄な男を消し去るのが一番早いと————」
「はぁ……ミラ、前から言ってるだろ?その極端な考えはやめろって。その考えは最後の最後まで取っておいて、どうしようもなくなった時の方法だと教えただろう?」
「そうですが……」
「それに、今回に限ってはアラタを殺す必要は存在しない」
「っ!それはどういう意味ですか?まさか、先輩はこのまま学園が崩壊現象に呑み込まれてもいいと?」
「違ぇよ。ただ、今回は俺たち
『うん、分かった!』
教室に少女の声が響くのと同時に、アラタの体は跡形もなく消えた。
それを確認した俺は、険しい顔をこちらに向けているミラに向き直る。彼女を説得するために。
読了ありがとうございます。今回もかなり長めになってしまい、申し訳ありません。ちょっと詰め込み過ぎた感はありますね。学園長室の前でのくだり絶対いらないですね。
とにかく、一巻の内容は終わったので、次から二巻に入ります。次の更新も来月になると思いますが、今後もよろしくお願いします。
それと、感想が送られてきまして、私とても嬉しかったです。こんな駄作でも読んでくださる方が居ると知って泣きそうになりました。感想を送ってくださった皆さん、ありがとうございます。
感想見ていて思ったのですが、やはりリーゼの人気は無茶苦茶高いですね。皆さん彼女の登場を待っていらっしゃるようですね。頑張ってそこまで書くので、待たせてしまうかもしれませんが、これからもよろしくお願いします(2回目)。