第1話
「火野が消えたって、一体何があったっていうんですか!?」
後藤慎太郎は、巨大企業鴻上ファウンデーションの会長・鴻上光生からある連絡を受けた。
『我が研究員・火野映司君の消息が途絶えた!』
警察官としての任務中に、かつての雇い主からそう告げられた。
それを聞いた後藤は考えるよりも先に動いていた。そして鴻上ファウンデーションの会長室を蹴飛ばして入室するや否や、全身金色のスーツを纏った恰幅の良い男に向かって言っていた。
「久し振りだねぇ、後藤君!!バースへの復帰を記念して、まずは祝おうじゃないか!!」
「お持ちしましたー。」
慌てる様子の後藤に対し、鴻上はニコニコと笑いながら言った。間もなく、同じくかつての同僚である女性・里中エリカがワゴンに大きな長方形型のケーキを運んで来た。それには、ご丁寧に後藤が変身する仮面ライダー、バースのイラストデコレーションが成されていた。
「ありがとうございま…って、そんな場合じゃないでしょう!!里中も!!」
相変わらずのマイペースである鴻上に飲まれそうになったが、我に返った後藤が怒鳴った。
「火野が消えたとは、どういうことなんですか!?」
まるで親に怒鳴られた子どものように悲しげな表情をした鴻上は、肩をすくめながら口を開いた。
「…再びヤミーが現れた。」
「やはり…。」
後藤は任務に当たっている最中、ヤミーと思われる怪物と戦っていた。しかし、ヤミーは欲望の化身・グリード無くしては存在できなければ、そもそもグリードは数年前にオーズとの激闘の末、全て撃破されている。したがってヤミーが単独で現れることはまずあり得ないのである。しかし、後藤はヤミーと実際に遭遇した上、鴻上の口からも語られたことを踏まえると、ヤミー、ひいてはグリードが存在しているという事実を受け入れざるを得なかった。
「しかし、グリードはオーズ…、火野によって倒されました。ヤミーが現れたと言うことは、新たなグリードが誕生したということなんですか?」
「詳しいことは、残念ながら私にもわからない!しかし、我が研究によれば、かつて火野君が破壊したグリード以外の存在は確認されていないのは確かだ!故に、火野君に新たなグリードの調査を命じたのだ!」
鴻上が言った。
「つまり、その調査の途中で火野さんが消えたってことになりますね。」
里中が言った。
「そういうことだ!」
「状況はわかりました…。しかし、火野の行方を探す、何か手立ては無いんですか?」
後藤が鴻上に聞いた。
「そこでだ!君に紹介したい人物がいる!入りたまえ!」
「どーぞぉ。」
鴻上と里中の合図を受け、研究員と思われる一人の男が入室してきた。
「っ!?お前は!?」
その男は、研究員らしく丈の長い白衣を纏い、黒縁の眼鏡をかけていた。しかし、白衣の下は眼に刺さるような鮮やかなピンク色のシャツと、黒いスラックスを身につけていた。取り分け眼につくのが、首から下げているカメラであった。
その研究員らしからぬ格好の男に、後藤は見覚えがあった。
「何だ、既に知った顔か!彼は我が財閥の研究員・門矢士君だ!」
「また会ったな、お巡りさん。」
門矢士と紹介された男が言った。
「会長、こいつは…!」
「そう!彼もまたオーズだ!」
鴻上が、後藤の言葉に被せるように言った。
「えっ…?」
「ただし!火野君のそれとは異なる、"偽のオーズ"だがな!」
鴻上は言った。
「偽の…?」
「オーズ!?」
里中と後藤が言った。
「偽のオーズではあるが、その力はかつてのオーズと同等のもの!火野君の捜査と共に新たなグリードの調査にも役立てられるだろう!後藤君!君はこの門矢君と共に事態の解明に務めてくれ!!」
「よろしくな。」
士が言った。
「ちょ…、待ってください!第一、何者なのかもわからないこの男と急に組めと言われても!」
後藤は強く反対した。
「俺は大体分かっているがな。」
一方の士は飄々とした態度で言った。
「はっきりと言おう!もし、新たなグリードと遭遇したとして、君一人で対処出来るのかね?」
鴻上が言った。
「…!」
後藤は言葉を詰まらせてしまった。グリードは自身のコアメダルが破壊されない限り倒すことは出来ない。そのコアメダルそのものが恐竜系の力を用いないと破壊出来ない上に、後藤が変身するバースにそのような力は無い。もっとも、火野映司と言えども現時点で恐竜系のコアを所有していないためグリードの撃破は叶わないとも思われるが。しかし、鴻上の言い様。裏を返せば、この門矢士のオーズならそれが可能ということを示していると言えるのだろうか。だとしたら、益々この男が何者なのか引っ掛かってしまう。
「彼は研究員としても優秀だ!それに、彼が何者なのかは問わない!彼にもまた、すばらしい欲望を持っている!それだけで十分だ!!」
鴻上が自信たっぷりに言った。
「そんな滅茶苦茶な…。」
後藤は呆れつつ言った。
鴻上は、人類が抱く欲望を一種の美として捉えている。この欲望こそが、人類の新たな進化に繋がる、と。その欲望の研究の過程で、グリードとオーズの存在を突き止めた。結果、鴻上の欲望で世界は破滅しかけたが、それでもグリード撃破の一役を担ったのも確かだ。
掴み所のない男。喰えない男。だが、この男の近くにいれば、世界を守る力が手にすることができるかもしれない。後藤はそう思ったから、鴻上ファウンデーションのライドベンター部隊の隊長を務め、バースの力を手にした。それ故に、後藤は鴻上の依頼を無碍にするつもりは無かった。
「…わかりました。何とかして、火野を見つけ、グリードの正体を突き止めます。」
「よろしく頼むよ、後藤君!!」
鴻上は満面の笑みで言った。
「おい…、どこへ向かってるんだ。」
すたすたと歩いていく士の後を追うように、後藤が歩きながら言った。
しかし、士は答えることなく、ただ歩いていった。
「大体わかっているって、あれもどういう意味なんだ?」
後藤は再度問いかけた。
「大体は大体だ。」
士は歩みを止めず、一言そう答えた。
「それに!俺たちは、お前のせいで戦隊とかいうよくわからない存在と戦わされて、散々な目に遭わされているんだ。信用なんか出来るか!」
「結果的に世界の平和は守れただろ。」
後藤は、数年前の出来事を思い出しながら言ったが、士は気にせんとばかりに答えた。
しかし、結局どこへ向かってるのか、後藤は皆目見当がつかなかった。
「おい!」
いよいよ苛立ちに耐えられず、後藤は口調を強めて士に言った。
すると、士はふと足を止めた。
そこは何の変哲もない、ただの商社ビルだった。目の前には硝子があり、オフィスのロビーを見ることができる。
「この中だ。」
士が言った。
「は…?」
「火野映司、仮面ライダーオーズは、この中にいる。」
「このビルの中に?」
後藤はビルを見上げて言った。
「違う。」
士が呆れるように言った。
「"この"中だ。」
士は硝子を指でコンコンと叩きながら言った。
「何を言ってるんだ?」
後藤が士に尋ねた。
「火野映司は、現実世界と鏡写しの世界、鏡の世界ミラーワールドに囚われている。」
士が言った。
「ミラー、ワールド?」
聞き慣れない言葉に、後藤は士に尋ねた。
「本来、ミラーワールドはこの世界に存在しない。元々は"龍騎の世界"に存在していた世界だ。」
「りゅう、き?の世界?」
困惑する後藤を余所に、士は言葉を続けた。
「だが、どういう訳かミラーワールドがオーズの世界と繋がった。そもそも、ミラーワールド自体もはや存在してないはずのもの。それが復活したことも気掛かりだな。」
士は、硝子を見つめながら言った。
「その、ミラーワールドの中に火野が囚われているとして、どうやって助け出すんだ?」
後藤が士に尋ねた。
「さあな。」
しかし、士の答えは後藤の期待したものではなかった。
「さあなって、大体わかっているんじゃないのか!?」
後藤が言った。
「状況は大体わかっているだけだ。それ以外のことはまだわからん。」
士はそう言うと、ピンク色をしたバックルを取り出した。
「ミラーワールドに突入するためには、龍騎の世界のライダーの力が必要だ。もっとも、俺ならそんなもの必要ないはずなんだが…。」
士はそう言いながらカードを一枚取り出した。
「変身。」
カメンライド・龍騎!
士は、カードをバックルに装填した。すると鎧の幻影が士の身体に幾重にも重なり合い、赤い身体のライダーに変身した。
「ちょっと見てろ。」
赤いライダーが言うと、硝子の中に吸い込まれるように突入していった。
「なっ!?」
後藤は何が起きたのか理解できなかった。しかし、間もなく硝子から赤いライダーが現れた。というより、硝子から弾き飛ばされたようにも見えた。
「うっ…く。」
赤いライダーは、軽やかに受け身を取って立ち上がると、直ちに変身を解いた。
「今のは?」
後藤が士に尋ねた。
「本来なら、あのままミラーワールドに突入できるはずだ。だが、行けても現実世界とミラーワールドを繋ぐ中継地点までで、そこから先へ行こうとすると今みたいに拒絶される。明らかに、何者かの意思によるものだ。」
ぱんぱんと手を払いながら士は言った。
「火野の居所はわかっても、そこへ行く手段がわからないんじゃ、どうすることも…。」
「そうとも限らないさ。」
諦めかけた後藤に士は言った。
「火野映司を救う手段はまだ残されている。」
そう士が言った時だった。
「映司君に、何かあったんですか?」
二人に声をかける女性の姿があった。
「泉比奈さん!?」
長い黒髪の女性・泉比奈だ。買い物の途中の所、後藤と士のやり取りに気づいたようだ。
「後藤さん、何が起きたんですか?」
「火野映司がこの世界から消えた。それだけの話だ。」
後藤の代わりに士が答えた。
「映司君が…、消えた!?」
士の答えを聞き、比奈は目を見開いた。
「ていうか、あなたもしかして海東さんのお友達の!」
「そんなんじゃない。」
やめろと言わんばかりに、士は言った。
「とにかく、何があったのか教えてください!」
そう言うと比奈は、後藤と士の腕を取って引いて行こうとした。
「ちょ、離せ!お前に関係ないだろ!てか、なんだこのバカ力!?」
「無駄だ。比奈さんの力には抗えない。」
抵抗しようとする士を傍目に、後藤は諦めて言った。
そして、後藤と士は比奈に引き摺られるように連れていかれてしまった。
サイドストーリー編
EPISODE BIRTH KNIGHT第1話、いかがでしたでしょうか。
本編に現れなかったものの、こちらで姿を現した世界の破壊者さん。彼と共に仮面ライダーバースこと後藤慎太郎、そして『オーズ』ヒロインの泉比奈がサイドストーリーの主役キャラとなります。
バックボーンとして、オーズ組と士は『スーパーヒーロー大戦』で既に面識があることになっています。
また、冒頭のやり取りは、筆者の前作『W&ドライブ』のエピローグから繋がっていますが、特別物語に関わることは無いので、そこまで意識していただくことはありません。
また、今後オリキャラも登場していきます。
次回もお楽しみに!