数時間前
士達は、あるビルの前に立っていた。そのビルの表札にはいくつか企業名が連なっていたが、一つだけ空白となっていた。
「ここに何かあるんですか?」
比奈が士に尋ねた。
「…。」
しかし、士は難しい顔をしながら黙っていた。
「聞いているのか?」
後藤が苛立ちながら言った。
「ああ。」
と、士は答えるもそれ以外に言葉を発しなかった。
「あの…。」
士達に声がかけられた。振り向くと、そこにはビジネススーツに身を包んだ女性が立っていた。
「このビルの関係者か?」
士は女性に尋ねた。
「昔はそうでした。でも、今は違います。」
女性が答えた。
「今は?」
後藤が言った。
「はい。…えっと、あなた方こそ、ここの関係者ですか?」
女性が言った。
「いや、違うが。あることを調べていてな。」
士はそう言いながら、懐から名刺を取り出し、女性に渡した。
「申し遅れたな。俺たちは、ATASHIジャーナルの記者だ。俺は門矢士だ。」
「アタシジャーナル…?」
女性が名刺を見ながら言った。
「以前、ここにはOREジャーナルが存在していたな?俺たちは、そこに勤めていた城戸真司について調べているんだが…。」
「城戸真司…!?」
女性は目を丸くしていた。
「何か、ご存知なんですか?」
比奈が女性に尋ねた。
「…場所を変えて話しましょう。」
女性に促され、士達は移動した。
しばらく歩いた後、士達は街中のカフェに案内された。
「それで、あんたは何か知っているのか?城戸真司について。」
士は女性に催促するように言った。
「…えぇ。城戸真司は、元々うちのジャーナリストでしたから。」
「うちの、というのは?」
後藤が言った。
「あ…、ごめんなさいね。まだ私も名前言ってなかったわ。」
そう言いながら、女性も士達に名刺を渡した。
「フリージャーナリスト、桃井令子さん?」
比奈が言った。
「私は元々、OREジャーナルに勤めていたの。あなた方がさっきいたビルの一角にあったのよ。時代の移り変わりに耐えられず倒産しちゃったけどね。」
令子が言った。
「なるほど…。」
後藤が頷いた。
「それで、城戸真司さんは…。」
「…死んだわ。」
「え?」
比奈が言い切る前に令子が言った。
「覚えているでしょ?10年前にあった、化物の襲撃事件。それで真司君は死んだの。」
令子はコーヒーを啜って言った。
「ミラーワールドの崩壊による、ミラーモンスター達の現実世界への進撃、か。」
士が言った。
「そんなことまで、よく知っているわね?」
令子が怪訝そうに言った。
「ま、これがATASHIジャーナルの力ってやつだ。」
士が言った。
「そう…。それで、あなた方はどうして真司君のことを調べているの?」
令子が尋ねた。
「ジャーナリストの先輩として聞きたいことがあったからな。ただ、その事故で死んだのなら、それも叶わなくなってしまったがな。」
士が言った。
「…もう一つ、お伺いしてもよろしいですか?」
今度は後藤が言った。
「何かしら。」
「秋山蓮という男について、何かご存知ではないですか?」
「秋山…。彼、確か俳優よね?」
令子が言った。
「ええ。秋山蓮は、城戸真司とも繋がりがあったと聞いたことがありまして。」
「あ~…、そういえばそうね。」
令子が言った。
「確かに、城戸君、蓮蓮ってうるさかったことあったわね。彼が何か?」
「秋山蓮にも会いたいのですが、有名人ですから、中々簡単にはお会いできないもので。」
後藤が言った時、令子はさらに眉間に皺を寄せた。
「…何か彼の弱味でも掴もうとしているの?」
令子が言った。
「え?いや、そういう訳では…。」
しかし、何かスイッチが入ったのか、令子は口火を切ったかのように言葉を続けた。
「最近、そういうのが流行りなのかしらね。著名人の弱味を掴んでスキャンダルにするの。確かに、人ってそういうスキャンダラスな話は大好きですし、そうすればお金儲けにもなるからね。でも、人を陥れてまで儲けたいのかしら。それとも偽善?」
黙る3人に対し、令子はお構い無く言葉を続けた。
「私たちの仕事って、真実を突き止めて皆に知らせること。大きなことから小さなことまで。いいのよ。どこかの誰かみたいに、金のザリガニを真相を暴くでも。それで誰かが楽しんでもらえればね。それに、この仕事ってある種の人助けにも繋がるわ。悪事を働く人を成敗するという意味でね。でも、最近は儲かればネタは何でもいいって感じがして、自分たちのことしか考えてない、そんなような情報しかないの。」
令子はため息をつきながら言い続けた。
「あなた達もそうなんでしょ?だったら、仮に秋山蓮のことを知っていたとしても、あなた達に話すことはないわ。じゃあ、私はこれで失礼するわね。」
令子は話すだけ話して立ち去ろうとしていた。
「待て。あんたは勘違いしている。」
士は令子を呼び止めた。
「勘違い?」
「俺達は、秋山蓮のプライベートなんてどうでもいい。」
士が言った。
「なら、何で秋山蓮に会おうとしているのかしら?」
令子が言うと、士は懐から再びカードを取り出した。
「これが答えだ。」
そのカードには、龍騎の世界に突入する前に、後藤の前で変身した赤い龍の仮面ライダーの絵柄があった。
「これって…!」
令子は再び目を丸くした。
「見覚えがないか?」
「直接は見たことないわ。でも…、これって城戸君よね?」
令子が言った。
「そうだ。仮面ライダー龍騎。城戸真司が変身し、ミラーワールドで戦っていた姿だ。」
士が言った。
「そして…、そのミラーワールドが再び開かれたかもしれない。」
「え…?」
「10年前の惨劇が、また繰り返される可能性がある。」
士が言った。
「そんな…。」
「だから、城戸真司、そして秋山蓮を探しているんだ。もっとも、城戸真司はもうこの世にいないらしいがな。」
士が言った。
「…。」
令子は暫く黙っていたが、やがて口を開いて言った。
「花鶏。」
「花鶏?」
後藤が聞き返した。
「ごめんなさい。私も、秋山蓮のこと詳しくは知らないの。ただ、真司君はいつもカフェ花鶏に行ってたわ。暫くそこに住み込みでアルバイトしてたことも。もしかしたら、そこに行けば何かわかるかもしれないわ。」
令子が答えた。
「そうか。大体わかった。」
士はそう言うと、席を立った。
「あなたは一体…?」
令子が尋ねた。
「俺は、通りすがりの仮面ライダーだ。じゃあな。」
士はそう言うと、カフェを出ていった。
「あ…、ちょっと。あのこれお代置いときますから!」
比奈もお金を置いて士の後を追った。
「全く…。一応これお貸しします。何かあったら使ってください!失礼します!」
後藤はそう言いながら小さな缶のようなものを令子に渡して、同じく士の後を追った。
「大体わかったって言っているが、結局何がわかったんだ?」
令子の示した場所、カフェ花鶏に着いた士達は、各々紅茶を頼み席についた。そして後藤が士に尋ねた。
「お前達に、龍騎の世界について、詳しく話してなかったな。」
士が言った。
「ライダーバトルの果てに、ライダーがいなくなった世界、でしたっけ。」
比奈が言った。
「手っ取り早く伝える為、そうは言ったが、正確に言えばそれは間違ってはいる。」
士が言った。
「龍騎の世界。それは、ミラーワールドの中で13ものライダー達が、己の願いを賭けて戦っていた世界だ。」
「願いを賭けて?」
後藤が言った。
「ああ。だがその実態は、神崎士郎という男が、不慮の事故で死ぬ運命にあった妹を助けようと、自分で作り上げた最強のライダーに勝たせるという、仕組まれたゲームだったがな。」
士は言葉を続けた。
「だが結局、神崎士郎の思うように戦いは終わらず、その都度ゲームをやり直していたらしい。果てには全ライダーの消滅と、肝心の妹が兄の暴挙を止めようと働きかけた為、ライダーバトルは"最初から無かった"ことになったはずだった。」
そこまで話して、士は再び顔をしかめた。
「無かったことに?でも、あの桃井令子さんは、そのミラーワールドのこと覚えていましたよ?」
比奈が言った。
「それで確信を得た。」
士が言った。
「戦いの末、死んでいったライダー達も、バトルが無かったことになった為一般人として生活しているはずだ。しかし、この世界では龍騎だった城戸真司は死んだことになっている。さらには、存在しないはずの疑似ライダーの存在、死んだはずのライダー秋山蓮、そして、覚えていないはずの桃井令子の記憶…。どうやらこの世界は、"俺の知る"龍騎の世界とは違うようだ。」
「何だと?」
後藤が聞き返した。
「ここはおそらく、秋山蓮が仮面ライダーナイトとして最後に勝ち残った、もう一つの龍騎の世界。言わば"ナイトの世界"と呼べるのかもな。」
士が言った。
「ナイトの世界…。でも、私達は龍騎の世界へ向かったはずです。間違えて来てしまったのなら、早く龍騎の世界へ行かないと!」
比奈が言ったが士は首を横に振った。
「いや…。俺も始めから龍騎の世界を目指していた。だが、ナイトの世界にたどり着き、こうして世界から役割を与えられたのなら、俺達がこの世界へ訪れたのは正解であるはずだ。」
「つまり、俺達の認識がそもそも間違っていたというのか?」
後藤が言った。
「え?」
比奈が後藤に聞き返した。
「俺達は、火野を助ける為の手がかりが龍騎の世界にあると踏んでいた。だが、そうじゃなかった。その手がかりは、このナイトの世界にある。そういうことでいいんだよな、門矢士?」
後藤は士に言った。
「そういうことだ。中々冴えているな。」
ふんと鼻を鳴らして、士が言った。
「そして、ここに秋山蓮が現れるはず。そうすれば、ミラーワールドや火野映司のことも、何か手がかりが掴めるかもしれない。」
「なるほど…。」
比奈が頷いた。
ガチャっ…。
店のドアが開き、黒いロングコートを羽織った男が入ってきた。
「ほら、来たぞ。」
士が男を見て言った。後藤と比奈も男を見た。それは数時間前にヤミーが現れた公園にいた秋山蓮だった。
「珈琲は置いてないのか。」
蓮が店員とやり取りを始めた。
「さて…。おい、先にコンタクトしてこい。」
士が比奈に言った。
「え、私!?」
「まずはあいつが本当に秋山蓮かどうかを確認してこい。確定した時点で俺も動く。」
「で、でも…。」
「ほら、行け。」
比奈が躊躇していると、士は比奈の背中を押した。そして、比奈は転ばんと踏ん張った所、いよいよ蓮の側まで行ってしまった。
「(行けっ)」
士は、顔をくいっと動かし、比奈を促した。
比奈は後藤に視線を送るも、後藤も諦めたかのように首を横に振っていた。
「あのぅ…。」
観念した比奈が蓮に声をかけた。
「何か?」
蓮が言った。
「俳優の、秋山蓮さんですよね?」
比奈が言った。
「そうだが、君は?」
「あ、えと…。私は…。」
ガタッ!
比奈が答えたかけたとき、士がテーブルから立ち上がり、蓮の元へやってきた。
「やはり秋山蓮さんでしたかぁ!失礼、わたくしATASHIジャーナル編集部の、門矢士です。」
士は、蓮に名刺を渡した。
サイドストーリー編
第4話いかがでしたでしょうか。
第3話の裏での出来事でした。
本作本編にて、OREジャーナルの大久保編集長が搭乗しましたので、今回は元OREジャーナルジャーナリスト桃井さんを登場させていただきました。
桃井さんと接触したことで、士達は自分達が目指していた世界が龍騎の世界ではなく、龍騎のパラレルワールドにあたる"ナイトの世界"に訪れていたことを認識しました。
龍騎の設定は、神崎士郎が優衣に新たな命を授ける為、何度も戦いを繰り返したことになっています。この設定を活かし、可能性の一つとしてナイトが勝利した世界を設定しました。こちらは本作本編でも触れています。
そして、いよいよ士達と蓮の対面。
どうなるのか。
次回もお楽しみに!