「貴様ぁ!!」
高見沢は、力任せに北岡の顔を殴りつけた。
高見沢、北岡、そしてガイ=芝浦淳の三人は彼らの拠点である高見沢グループのビルの中にいた。無機質で綺麗に内装された建物だが、もちろん社員など存在しない。
その大会議室の中で、高見沢と北岡は揉めていた。
「ったぁ…。顔は止めろよ顔は!」
北岡は、殴られた所を軽く擦りながら言った。
「ふざけんな!」
高見沢は北岡の胸倉を両手で掴んだ。
「おい、俺の一張羅がシワになるだろ!」
北岡は尚も自身のペースを崩さなかった。
「黙れ!貴様がどこの馬の骨とも知らねぇ奴を相手に手こずってる間に、貴重な戦力を失った!二人もだ!どうしてくれんだよぉ!!」
高見沢は北岡を投げ捨てた。床に叩きつけられた北岡は、それでもやれやれと言わんばかりに口を開いた。
「しょうがないでしょ。あんたも言った通り、どこの馬とも知れないライダーは、明らかに俺達とは根本が違う。それを相手に生きて帰ってきたんだから、良いとこ及第点でしょうが。」
北岡はスーツの皺を伸ばしながら言った。
「もう良いじゃないっすか、高見沢さん。」
芝浦が高見沢を制するように言った。
「何だと?」
「確かに仲間は…、なんて言えるかわかんねぇけど、二人消えたが、榊原陣営の手塚を潰すことはできた。それに高見沢さんだって、香川陣営のオルタナティブっての殺ったじゃないすか。」
芝浦が言った。
それを聞いた高見沢は、やや冷静さを取り戻したが、近くにある椅子にドスンと座り尚も感情的に言った。
「…だが、数でのアドバンテージはなくなった。むしろ榊原陣営はあの得たいの知れないライダーを含めると優位に立った。楽観視などできる訳ねぇだろ!」
「…わかったよ。」
北岡が口を開いた。
「そんなに言うんだったら、俺が責任を取るさ。」
「何…?」
「へえ…。何すんの、北岡さん?」
高見沢と芝浦が興味を示した。
「なぁに。既に種は蒔いてきたさ…。」
一方、香川とタイガ=東條悟は、自分達が籍を置いていた清明院大学の研究室にいた。大学とは名はついているものの、やはり勉学に励む学生や教職員といった人の気配はない。
研究室も、割れた鏡の破片や研究資料と思われる紙が無造作に散らばっており、落ち着ける場所とは、お世辞にも言えない場所だった。
その中で、香川は自身のデスクの椅子に腰掛け、東條も椅子の背もたれに身体を預けるように、深々と座っていた。
「仲村君、非常に残念ですね。…佐野君は、やはり戻って来ませんね…。」
香川が言うと、東條は、ふんと鼻で笑った。
「他のライダーに殺られたか、モンスターに喰われたか…。どっちにしろ、彼は英雄になる資格がなかったんだ。」
そう答える東條に対し、香川は眉間に皺を寄せた。
「いけませんよ、東條君…。彼も、我々が英雄になるために必要な仲間なんですから。」
香川は東條に言った。
「でも…!」
「東條君。」
東條が何か言いかけたが、それを遮るように、香川は教え子の名を呼んだ。
「英雄は、決して一人でなれるものでもありません。そして、"英雄になろう"と思っている内は、"真の英雄"にはなれません。ですが…。」
香川は言葉を続けた。
「我々は、間違いなく英雄になれます。そのためには、民衆の協力が不可欠です。そういった意味でも、佐野君の力は必要なんですよ。わかりますね?」
「…はい。」
表情が曇る東條に、香川はさらに声をかけた。
「少なくとも私は、君が英雄になれることを信じています。それは、佐野君も同じでしょう。」
「ほんとですか?」
東條は、途端に明るい表情を作った。香川は、微笑みながら静かに頷いてみせた。
「ところで、東條君。」
香川は、再び気難しそうな顔になって言った。
「君は、この戦いをどう思う?」
「どう…って。こんなくだらない戦いは直ぐに止めるべき。ですよね?そして、僕らが英雄になる。」
東條は、当たり前のように答えたが、香川は片眉をくいっとあげて言った。
「それだけ、ですか?」
「それ以外、何かありますか?」
東條はきょとんとしていた。
「…いえ、そうですよね。」
香川は、自身が求めていた答えが得られず、肩をすくめた。
「あ~、やっと着いた。良かった、皆さんご無事なようで!」
研究室の戸をくぐり、インペラー=佐野満が戻ってきた。
「佐野君!無事だったんだね!」
東條が佐野に言った。
「今まで、どこで何をしていたんです?」
香川は逆に、佐野を問い詰めた。
「あー…、まぁ、ちょっと野暮用というか…。それより!」
佐野はへらへらしながらも、すっと無表情になった。
「オーディンの場所。わかっちゃったんだなぁ、これが。」
「…榊原さん!」
街から離れた場合にあった、廃虚と化した倉庫の中で、映司は、榊原と秋山を見つけた。
「火野君!無事だったか!」
榊原が安堵の表情で映司に言った。
「はい!皆さんも無事で…。」
そう言いかけた映司は、手塚と霧島がいないことに気づいた。
「手塚さんと霧島さんは…?」
「…。」
榊原が言葉を詰まらせると、秋山が変わって答えた。
「手塚は死んだ。霧島とも途中まで一緒だったが、はぐれてしまった。」
「そんな…!?」
僅かな関わりではあったものの、物腰の柔らかい手塚の喪失に、映司は胸が締め付けられる感覚を覚えた。
そして、その言葉を聞いた映司は街の広場の惨劇を思い出した。
「他に、何人やられたんですか…?」
「手塚を含め4人だ。高見沢のとこのシザースとアビス、香川のとこのオルタナティブだ。これで、残りのライダーは、お前も合わせて13人だ。」
4人も死んだ。自分の願いを叶えたいが為に、同じライダーの、人間の命を奪ったというのか。映司は到底信じられなかった。
「俺のせいだ…。」
榊原が口を開いた。
「俺が、無闇にオーディンを探そうとしたから。」
榊原がそう言ったとたん、秋山が榊原の胸倉を片手で掴んだ。
「ああ、そうだ!」
「秋山さん!?」
映司は動きだそうとしたが、榊原が手を挙げてそれを止めた。
「ライダーを殺すな。無駄に命を奪うな。そうだったな?これがその結果だ!」
秋山が声を荒らげて言った。
「…秋山。」
「このままじゃ、俺達が死ぬことになるぞ!」
秋山はそう言って榊原を突き飛ばした。
「…わかってるさ。だが、それでも殺すな!」
榊原も言葉を強く言った。
「殺したら、もうまともではいられなくなる!只でさえ、狂気に満ちた世界に閉じ込められているのに、これ以上、人でなくなりたいのか!?」
「…ちっ!」
榊原の言葉に秋山は言葉を返せなかった。そして、秋山は無造作に置かれてある木箱に腰を掛けた。
「…けど、人をやめてまで叶えたい願いがあるんですよね…?」
映司は呟くように言った。それを聞いた榊原と秋山が映司を見つめた。
「俺が戦った相手。北岡さんは、病気で死ぬ運命に抗うために、永遠の命を望んでいます。理由は違えど、ライダーは命を擲ってまで自分の願いのために戦っているって…。」
映司は言った。
「…そうだ。」
秋山が言った。
「俺も、恵里の命を救うためにライダーとして戦っていた。」
秋山は言葉を続けた。
「現実世界で恵里はモンスターに襲われ、意識不明のままだ。だから、彼女を救うために、俺は…!」
秋山は拳を握りしめながら言った。
「だったら、何で俺と一緒にいるんだ。」
榊原が秋山に尋ねた。
「…火野の言っていることと、同じことを言っていたヤツがいてな。こんな馬鹿げた戦いをやめろ、と。その言葉が俺の中で響くんだ。ただ、誰がそんなこと言ったのかは覚えてないんだがな。」
秋山は、ため息をつきながら言った。
「そもそも…、何で最後の一人にならないと願いが叶わないんですか?いや、オーディンを倒さないと現実世界に帰れないって、どういうことなんですか?それに、この世界に来るまでの記憶もないとも…。」
映司は、心に引っ掛かっていたことを言った。
「『ネグ』だ。」
榊原が言った。
「ネグ?」
「全身銀色で道化師のような姿をしたヤツだ。鏡の世界の住人、と言っていたが、俺達もヤツの全貌はわからない。ただ、ヤツがオーディンのこと、願いのことを話したんだ。」
秋山が答えた。
「彼も、どこか怪しげな雰囲気を漂わせていたが…。しかし、彼の導きのお陰で、俺達は巡り会えた。敵ではないと信じたい。」
榊原が言った。
「ネグ…。そのネグに会うことはできませんか?」
映司が言ったが、榊原は首を横に振った。
「残念だけど、それは出来ない。こちらからはコンタクトを取ることが出来ないみたいなんだ。」
榊原が言った。
「そうですか…。」
映司は、ネグと呼ばれる存在に何か引っ掛かりを感じていたが、映司自身それが何なのかは分かっていなかった。
ザッ、ザッ、ザッ…。
倉庫の外で足音がした。映司達三人は構えたが、姿を表したのは霧島だった。
「霧島、無事だったか!」
秋山が呼び掛けた。
「…うん、なんとかね。」
そう言う霧島の表情には影がみられた。
「大丈夫、ですか?」
「ええ…。貴方も生きていたのね。」
映司の言葉に対し、霧島は左腕を擦りながら言った。
「美穂、手塚のことは…。」
霧島は、榊原の言葉に首を振って答えた。
「…それよりも、榊原。オーディンの居場所がわかったかもしれないわ。」
「何だって!?」
榊原が驚いて言った。
「…ついてきて。」
霧島の言葉に促され、映司達三人は倉庫を出た。
暫く歩いていくと、森の中に入り、巨大な洞窟のような所に着いた。
「ここに、オーディンが…?」
確かに、いかにもな場所ではあるが、映司は霧島に尋ねた。
「ええ…、おそらくね。」
榊原一行は、洞窟の中を進んだ。
入口が大きい為、外からの光を受け入れ、視界はそこまで悪くなかった。しかし、外界と違い音も無く不気味さを醸し出していた。
「霧島、ここが何故オーディンの居場所だとわかった?」
秋山が霧島に尋ねた。
「それは…。」
霧島が答えかけたときだった。
「キエエエエエ!!!!」
耳をつんざくようなけたたましい鳴き声と共に鳥を人型にしたようなモンスターが数体姿を表し、映司達に襲いかかった。モンスター達の攻撃を避けた映司達は構えた。
「あれらが答えよ!」
霧島がカードデッキを持って言った。
「鳳凰型のモンスター…。間違いない、ヤツがいる!」
榊原も言った。
「行きましょう!」
「「「「変身!!!!」」」」
タ!ト!バ!
タトバ!タ!ト!!バ!!!
映司達はそれぞれライダーになり、鳳凰型モンスターと交戦し始めた。
「ヤアアアアア!!!!」
暫くすると、別のモンスターも乱入してきた。レイヨウ型モンスターだ。
「あっれ~?皆さん奇遇だね。」
インペラーが現れた。
「インペラーだと?何でこんな所に!」
「それはこちらの台詞ですよ。」
ナイトの問いに対し、オルタナティブ・ゼロが武器を手に現れ、言った。その後にタイガも続けて現れると、オルタナティブ・ゼロ達もモンスターの討伐を始めた。
やがて、鳳凰型モンスター達は、ライダー達によって駆逐された。そして、龍騎達とオルタナティブ・ゼロ達は睨み合った。
「お前達も、オーディンが狙いか!」
「愚問ですね。」
龍騎の問いに対し、オルタナティブ・ゼロが答えた。
「あのさ、邪魔しないでくれる?僕達はオーディンを倒して英雄になるんだからさ。」
タイガが言った。
「狙いが同じなら、戦い合う必要なんてないはずです!」
オーズも訴えたが、オルタナティブ・ゼロは首を横に振った。
「残念ながら、それは有り得ませんよ。何故なら…。」
「オーディンを倒すのは、俺だ。」
オルタナティブ・ゼロの言葉に被せて、別の声がした。
声がした方を見ると、そこには高見沢、北岡、芝浦がいた。
「高見沢!」
「それに、お前達にはオーディンは倒せないよ。」
北岡が言った。
「どういう意味です?」
オルタナティブ・ゼロが聞いた。
「ふん、こういうことだ!」
パチンっ
高見沢が指を鳴らした。
「はあああ!!!!」
「はあっ!!」
高見沢の合図を受けたかのように、ファムとインペラーが自分達のいた陣営に牙を剥いた。
第8話、いかがでしたでしょうか。
北岡が仕掛けた何か。
香川の感じている違和感。
オーディンの巣とおぼしき場所。
そこで対峙する三陣営。
しかし、インペラーとファムがそれぞれ自分がいた陣営に牙を剥きました。一体、彼らに何が…。
次回もお楽しみに!