鶴丸という男が寮を尋ねてから一週間後、IDOLiSH7は次のライブに向けて練習を重ねていた。七人は単独で活動もしている。だから七人が揃うということは、ここ最近では珍しくなった。
それでも彼らは“IDOLiSH7”として、仲間達との活動も大事にしていた。全員が仕事の合間を縫って、たとえ仕事で疲れていたとしても可能な限りは、七人揃っての練習の時間を取るのだ。それができるのは、彼らのマネージャーの手腕のおかげでもあるのだが。
ダンスの振り付けを確認して、曲に合わせていく。それを一時間くらい続けた
。
「よっし、そろそろ休憩しようぜ」
汗だくになったメンバーに、同じく汗を流している三月が声をかける。他の六人も同意して、タオルで額を拭ったり、水分補給をしたりする。全員の呼吸が落ち着いた頃、徐に大和がこんな質問をした。
「なあ、お前ら。うちの事務所に、水色の髪をした金色の瞳の男っていたか?」
唐突過ぎる質問に、六人は首を傾げた。
「いいえ、そんな方を見かけたことはないですけど……突然どうしたんですか?」
壮五が大和に尋ねる。壮五の質問に大和はこう答えた。
「この前、八乙女がドラマ撮影の時に訊いてきたんだよ。マネージャーと一緒に歩く男がいたけど、何者なんだって。八乙女曰く、かなりの美男だったらしいぜ」
その時の八乙女楽の慌てようはおもしろかったが、マネージャーと共にいたという男がどうも気にかかったのだと、大和は言う。確かに楽の話は気になる。鶴丸という男のこともあって、七人は心が騒めき出した。
「あの八乙女さんが言うなら、物凄く綺麗な人なんだろうな……」
陸が呟く。自他ともに認める美男子である楽が美しいと褒めた男。一体どのような人物なのだろうかと想像してみる。
「そういえば」
陸が想像している時、今思い出したとばかりに環が言葉を漏らす。
「何かゆきりんが言ってたんだけどさ、マネージャーが眼帯をしたイケメンと歩いていたって。アイドル候補生としてスカウトされた人なのかって、俺達に訊いてた」
「ああ、僕も訊かれました。千さんと百さんに、小鳥遊事務は新たな候補生をスカウトしているのかと。僕も環君も、そんな人に心当たりは無かったので、知らないと答えました」
環の言葉に、自分も以前そのような質問を先輩アイドルにされたことを思い出した壮五が付け足す。
「マネージャーの仕事を考えれば、有望な人材を集めていくのは当然ですが……」
一織は考え過ぎだろうと言う。鶴丸は怪しさしか感じ取れなかったが、TRIGGERやRe:Valeが見たという男達が鶴丸と同じような人間がどうかは分からない。それもそうかもしれないと、他の者達は一先ずそれで納得しようとした。
「皆さん、お疲れ様です」
レッスンルームに女性の高い声が響く。心臓が止まりそうになりながら、彼らはこちらに声をかけた女性を見た。
「……どうかしましたか?」
紡は彼らの間に漂う妙な空気を感じ取ったのか、心配そうにする。先程まで話題にしていた人物が現れるというのは、どうも気まずい。本人に訊いてみれば一番早い解決策なのだが、何となく訊くのは躊躇われる。
「い、いいや! 何でもないぜ! それで、マネージャーはどうしたんだ?」
三月が誤魔化した。誤魔化された紡は一瞬だけ不思議そうにしていたが、すぐに用件を思い出す。今後のスケジュールや、ライブの準備、収録や次の新曲の話題……
「マネージャー、一つよろしいですか?」
一通り話し終えた彼女に、ナギが尋ねる。
「ナギさん、どうしましたか? もしかして、私、説明不足な点が……」
「ノー。マネージャーの説明はとても分かりやすいです。ワタシ達がこうして活躍できるのも、あなたのおかげです」
ナギは王子様のような微笑みを紡に向けた。だが、一呼吸おいてから真剣な顔で、彼女の顔を覗き込む。
「最近、疲れているのではありませんか? 目の下に隈ができていますよ」
覗き込まれた紡は顔を赤くしたが、ナギの指摘を受けて慌てる。
「隈できていましたか……それに、そんなに分かりやすく疲れていたんですね、私」
「大丈夫ですよ、マネージャー。あなたはいつもワタシ達のために頑張ってくださっています。ですが、無理は禁物です」
ナギがウインクをする。紡は少し恥ずかしそうにしながらも、ありがとうございますと言う。
「それでは、私は戻ります。皆さんも、無理のない範囲で練習を続けてください」
そう言って、彼女はレッスンルームから立ち去っていた。
「ナギ、よくマネージャーが疲れているって気付いたね」
陸が感心している様子で言う。他のメンバーも彼女の疲れを察知できなかったため、ナギの観察力に驚いている。
「……ツムギは大分疲れているようです。あの鶴丸という男と会った日の前後から、彼女の疲労が溜まっている気がします。……女性のプライベートを詮索するのは好きではありませんが、ツムギのこと、やはり心配です」
ナギの言葉に、全員が俯いた。何か嫌な予感が背後から忍び寄ってくるような気がした。