乱世を駆ける者 未来を歌う者   作:妄想族

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第3話「襲撃者と守護者」

 その日の夜、レッスンを終えたIDOLiSH7は自分達の寮に帰っていた。いつもは会話が絶えない七人だが、今日は無言だった。紡と、その周囲に現れた自分達も知らない男達。それが何故か彼らの心を不安にさせた。

 

 一織は大したことないだろうと、メンバーには言ったが、内心ではナギの言うことも当たっているのではないかと思っていた。紡のマネージャーとしての手腕は一織も認めていた。だから心配ないだろうと、一織は彼女を信頼するが故にそのように考えた。だが、この一週間で突然見え出した謎の男達の気配について、偶然とは思えなかった。紡の性格上、男遊びなどしないはずだ。だとすれば仕事関係だろうか、だが芸能関係なら自分達も見かけたりするはずだ。

 

 そんなことをモヤモヤと考えていると、寮が見え始めた。三月が鍵穴に鍵を差し込む。そのままドアを開けようとした。

 

「開けてはいけません!」

 

 その時、鋭い叫び声が聞えた。紡だ。三月にそう叫んだ紡は、鶴丸と共に焦った様子で走ってくる。驚いた三月はドアノブから手を離し、一歩後ろに下がった。

 

「お前ら、そこから逃げろ!」

 

 鶴丸の怒声に驚き狼狽えた彼らは、言われるままにドアから距離を取る。

 

 その瞬間、ドアが内側から凄まじい力で破壊された。その音に心臓が飛び出そうになる。だが、ドアを破壊したであろう「それ」を見て、全身が凍り付いた。

 

 「それ」は人のような姿をしていた。闇のように黒い肌に、大柄な身体。その身体を包む頑丈そうな鎧。鬼の角のようなものが生えた兜。赤黒くぎらぎらと光る目。その手に握っているのは、大柄な「それ」と同じくらいに大振りで、不気味な輝きを放つ刀。

 

「あ、あ……」

 

 七人は声を震わせる。全員の本能が訴える。負ける。死ぬ。どう足掻いても勝ち目など無い。逃げなければ。でも身体が動かない。無理だ。あの刀に切り裂かれて、自分達は……

 

「おい、何をしている! 早く逃げるぞ! ついて来い!」

 

 その声で我に返った彼らは、弾かれたかのように走り出した。

 

 

 

 七人が逃げ込んだ先は公園だった。誰もいない静かな夜の公園で、七人の荒い息遣いだけが聞こえる。一織は恐怖で震えながらも、疑問を紡にぶつけようとする。あれは一体何なのか。なぜ自分達の寮にいたのか。どうして彼女達は自分達の危険が分かったのか。鶴丸は何者で、なぜこんな非常事態の時でも一緒にいるのか。

 

「お前達、大丈夫か? 俺達がいなかったら、今頃どうなっていたことやら……」

 

「でも間に合って良かった。……皆さんには怖い思いをさせてしまいました」

 

 鶴丸はスーツのジャケットを整えながら、やれやれと首を振っていた。紡はほっと胸を撫で下ろしている。だが、二人はすぐに真剣な表情を浮かべた。

 

「……まだ向こうは諦めちゃいないみたいだが」

 

 鶴丸の視線の先には寮にいた化け物が、こちらを凝視していた。

 

「う、嘘……」

 

 陸が絶望したような声を漏らす。他の者達も同じ気持ちだった。こんなにも走ったのに、まだ追いかけていた。もう走る体力は無い。今度こそ――

 

「おいおい、今から諦めるなんて早すぎるぜ。何のために俺達が来たと思っているんだ」

 

 鶴丸はそう言うと、紡を見つめた。彼女は頷く。

 

「鶴丸さん、今回は慣れない現代、しかも夜戦……あなたにとっては厳しい環境だということは分かっている。でも本丸からの援軍が来るには、もう少し時間がかかる。……お願い。時間を稼いで」

 

「主、俺を甘くみてもらったら困るぜ。確かに夜戦は短刀に比べたら不得意だが、それは向こうの大太刀も一緒だ。それなら、俺の方が上だ。存分に暴れさせてもらうぜ」

 

 鶴丸は不敵な笑みを浮かべた。七人には分からなかった。あんな化け物と対峙して、どうしてそんな笑みを浮かべられるのか、分からなかった。そして、そんな鶴丸を信頼している様子の紡のことも。アイドル達の戸惑いも恐怖も拭うかのように、自信にと信頼に満ちた声で彼女は鶴丸に言う。

 

「では鶴丸国永。あなたの力、存分に見せて! 彼らを守って……!」

 

 紡がそう言うと、鶴丸は左手を伸ばす。そうすると光が集まって、日本刀が鶴丸の左手に現れた。その刀を右手で抜き放つ。その瞬間、冬にはあり得ないはずの桜の花びらが鶴丸の身体を覆い尽くす。その花びらの中から、白い着物に金の装飾、甲冑を身に着けた男が現れる。その姿は神々しくて、思わず見惚れてしまう。鶴丸の手に握られている刀は、化け物と同じ刀――命を奪うものであるはずなのに、その白銀の輝きは清らかで美しかった。

 

「鶴丸国永、参る――!」

 

 


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