渓谷まではそんなに時間はかからない。人機体の速度で行けば十五分程で到着する。
渓谷までは瓦礫の山が続き、瓦礫群を抜けると一気に渓谷が眼前へと広がる。
瓦礫群のスレスレを飛びながらルフス達はリベリオンが潜んでいると思われる渓谷内部のポイントへと向かっていった。
先にアモンらが先行して急襲をする予定なので、無理に急ぐ必要はない。
「アモンの空爆と同時に渓谷上部に浮上。その後各班に分かれて分断を開始するぞ。」
中東支部支部長のリベイクはいつになくゴツい装備に身を包み、作戦の段階を今一度知らせる。武装は現役時代に使っていた「ドレッドノート」と呼ばれる巨大なナックル型の装備。本来作戦を指揮する者は後方に控え指示をするのが普通だが、リベイクら中東支部はそんな型には囚われず、リーダーであるリベイクが直々に手を下しに行くのが普通だそうだ。
ジグザグの狭い通路を通ってリベリオンに探知されないギリギリの地点まで行き、仲間に戦闘の準備をさせる。
「もうすぐ空爆が開始する。早く準備しろ!」
戦闘に参加しない人機体達はサポート役として弾薬を運んだり通信を仲介したりする。
リベイクは通信係の人機体を呼んで専用の接続器につないで東南支部に通信する。
周波数を合わせ、ノイズ混じりに回線が繋がる。
「ご無沙汰しております。中東支部支部長のリベイクです。水野支部長でございますか?……あ、よかった。急な連絡で申し訳ないのですが…。」
何やら水野支部長に頼み事をしているようだったが、通信係の人機体はその時はあえて聞かないようにした。
その後通信が終わり、接続を解除する。
「何を話していたんですか?」
「んあ?ああ、今回は東南支部から来ているメンバーが居るだろ?普通訪問先で戦闘に参加させる時はいちいち許可なんぞ取らないっていうシステムっつーかルールみたいになってんだが…何かあったらと思ってな。リベリオンの小隊相手ならまだしもモビルアーマーが居るとなっちゃあ話は別だからな。黙ってて帰ってきたのが残骸なんて事になったら大問題だろ?ついでにもしもの時は救難信号を受け取ってもらえるように頼んでもおいたから、何かあれば時間は掛かるがすっ飛んで来てくれるそうだ。」
因みに救難要請の場合支部訪問の様な隠密行動はせず最短最速で駆けつけるのが暗黙の了解となっている。
通信をしている間に戦闘の配置は終了していたようで、アグラヴェインが配置完了の報告に来た。
「戦闘班、サポート班共に準備完了。指示があれば各班すぐにでも配置に付けます。今の所リベリオンにも察知はされていない様です。」
よし、と無線通信でアモンに搭乗しているソラに連絡をしようとした、その瞬間
「こちらソラ!!地上部隊、至急その場から離脱せよ!!繰り返す、至急離脱せよ!!」
先にソラから連絡が入るが、それは空爆開始の知らせではなく、危険を知らせる物だった。
どう言う事だと聞き返す間もなくソラは続ける。
「大至急離脱して下さい!!モビルアーマーらしき奴の砲塔が完全に地上部隊の方向に向いています!!」
「全員散らばれ!!左右に分かれろ!!」
リベイクは咄嗟に叫び、兵をその場から離脱させる。
すると正面の渓谷…いや、蛇行する通路の暗い奥底から真っ白な壁の様な物が甲高い音と共にルフス達目掛けて突っ込んできた。
ワンテンポ回避に遅れた味方機が岩壁を貫通してきた粒子ビームに溶かされていき、完全に焼失した。
モビルアーマーが撃ったと思しき粒子ビームは左右に分断された地上部隊の間に堀を掘る様に軌道を下に下げていく。大規模なエネルギー波と熱線で瓦礫がまるで羽毛の様に軽々と舞い、彼らの視界を奪っていく。
しばし照射が続き、終わった頃には大地に深々と切り込みが入っていた。切り込みの中にはまだ熱を持った地面が赤く火照っている。
撃ってきた方向を見ると、粉塵と煙の先には巨大な影が映っていた。
「あいつがッ…………!!モビルアーマァァァ!!!!」
溶けていった仲間を間近に見ていた人機体達が怒りの形相で武器を構える。
普通なら仲間を目の前で殺されて冷静になれる奴はそうそういない。ましてや中東支部の人機体の事だ。鉄と血によって仲間の仇を討とうとする彼らが黙っていられる筈がなかった。
しかしリベイクはこんな状況でも冷静に判断を下す。
「やめろ!!今ぶつけるべきは怒りではない。銃弾の雨と刃の嵐だ!!残っている奴は近くの仲間と共に渓谷の上部に行け。アモンの空爆とタイミングを合わせるんだ!」
歯軋りでもするようにギギギと鈍い金属音を立てつつも周りの人機体達は上へと向かっていく。リベイクはすぐに上空にいるアモンに空爆を命じる。
「アモン、ソラ、聞こえるか?今地上部隊が予定通り配置につこうとしている。お前らは先に空爆をしてくれ!」
了解、の声と共に爆撃が始まる。益々粉塵が舞い上がるが、上に張らせていたアモンのおかげでリベリオンの人機体の位置は割り出せている。
リベイクもドレッドノートの拳を合わせ、戦う覚悟を決める。
「サポート班!渓谷上部に移動しろ!但し戦闘区域に近づき過ぎるなよ。」
と、リベイクはバックパックにつけていた巨大なハンマーを片手に、モビルアーマーが岩壁に開けた穴へと飛び立って行った。
「あれ程の粒子ビームを発射するんだ。装填にはそれ相応の時間がかかる筈…!」
ルフスはモビルアーマーの接近を避けるため、退路に使用されると思われる渓谷の後方に向かった。そばには何人か中東支部の人機体もいる。
上から進んでいくとリベリオン達の姿が見えた。アモンの空爆と地上部隊の攻撃に晒されているのにも関わらず彼らは上手い具合に銃撃を避けていた。
ルフス達は通りすがりに援護射撃をしつつ退路方面へと向かった。
必死なライフとは対照的にリベリオンの部隊は事前に来たブラックナイトの連絡のお陰でこんな状況でも冷静さを保っていた。敵の動きや配置はブラックナイトがアモンよりも遥か上空で常時教えてくれるので、焦ることはない。
班長のアステロスタは銃弾を防ぎつつ、周りに指示を出す。
「ここまでは予定通りだ!戦闘開始と同時に本部からも増援が向かっている。ライフ共の殲滅も大事だが、オレ達はターゲットの確保が最優先だ…ガヲレンゾ、上の邪魔な奴らを消せ。」
とガヲレンゾのバックパックからシザービットが飛び出し、ライフの人機体目掛けて不規則に移動しながら切り裂いていく。避ける者やられる者はいれど、これで攻撃の手はある程度緩まるはずだ。
アステロスタはメンバーを自分の周りに呼び、円陣を組む様にして反撃する。
シザービットに気を取られているライフの人機体へと続け様に銃撃を仕掛ける。シザービットから生き延びた人機体も次々とやられていく。
「よし、このまま現区域を離脱しつつターゲットを…」
と言った瞬間、
「逃すかあああああァァァ!!!!!」
粉塵と岩壁の穴の奥からリベイクが背中のサブアームに持たせたライフルで牽制しつつ巨大なハンマーを振り上げて突進して来た。銃撃を防いでいるせいで周りのリベリオン兵はその場から動けなくなってしまう。
リベイクが振りかぶった先にはガヲレンゾの頭部。それ目掛けて全力で振り下ろすが、直撃する寸前に散っていたシザービットが集まり、リベイク目掛けて突進をする。一瞬とは言え気を取られたリベイクは的を外してしまい、それと同時にすれ違い様にシザービットに浅く斬られてしまう。
「あぁ?!!ふざけんな畜生!!」
振り下ろされたハンマーは空を切り、乾いた大地に叩き落とされる。
形勢逆転。敵陣のど真ん中へと躍り出たリベイクに無数の銃口が向けられる。
やられる!と思った瞬間、リベイクが通って来た穴から粒子ビームが飛び出し、密集したリベリオン達に突っ込む。前の僚機が壁になっていて見通しが悪かったせいで逃げ遅れた二機が撃ち抜かれ爆散する。
「アグラ!ナイスだ!」
穴の向こう側には対艦ビームランチャーを構えたアグラヴェインの姿。すぐ様ランチャーを収納して専用のダブルサーベルを持ち、リベイクの援護に周る。
アステロスタは今一度部隊にターゲットの確保を優先するよう命令し、自分とガヲレンゾだけでここは食い止める事にした。
上にいた中東支部の人機体は確保に向かわせた仲間を追尾していった様だ。恐らくターゲットの確保が本命とは気付いておらず、ただ単に逃げた様に見えたから追っているだけであろう。
「二対二…フェアな戦い方じゃないか。いつからそんなクリーンに戦おうなんて思ったんだ?いや…それとも、腰でも抜けたかぁ?」
話に聞いていた中東支部もこんなもんかと高笑いのアステロスタにリベイクは返す。
「フフフ……アハハハハハ!!そういうお前たちリベリオンも、いつからオレ達がいい子になったと思ってるんだ?」
その台詞と同時に崖の上からステルスマントに身を包んだゼロとトリニティ、紅血とパープルが一斉に斬りかかる。アステロスタはゼロとトリニティの斬撃をバスターソードでまとめてガードする。ガヲレンゾは攻撃を防ぐ前に紅血とパープルを撃墜しようとシザービットとビームライフルを駆使するが一瞬紅血達の回避の方が早く、砲身を上に向けていたガヲレンゾの下部がガラ空きになる。
上を向いた事により関節部が丸見えとなり、すかさずそこへ二機は攻撃する。丁度膝関節をやられたガヲレンゾは踏ん張ることが出来ず、武装重量と慣性で体制を崩して尻持ちをつく。
アステロスタは援護にまわろうとするもゼロとトリニティに邪魔され、攻撃を避けている内にガヲレンゾから徐々に遠ざかっていってしまう。
「こいつらっ…!なるほど…計算済みだったと言うことか…。」
曲がりなりにではあるが当初リベイクが目論んでいたリベリオンの分断には見事成功している。
「なめるなぁぁぁ!!!」
と、アステロスタの脚部ブースターが出力を上げ、ゼロ達に粉塵の目潰しを繰り出す。直後左腕が変形し、クロー形状となる。加えてシールドに付けられたサブナックルの手も鋭い指を開き、装甲が薄そうなゼロを手始めに切り裂こうとする。
視界を奪われたゼロはなんとか刀で防ぐが、サブナックルに掴まれてしまう。アステロスタは右手のバスターソードのライフルモードでトリニティを牽制しつつ、左腕でゼロを左右に揺さぶり、腹部へとブースターで加速した蹴りをお見舞いする。
機械であるゼロは痛覚はないが、搭乗しているホムラは衝撃をモロに受ける。コクピットの座席から放り出されそうになるがなんとか踏ん張る。日頃のトレーニングがここで生かさせる事になるとは本人も思わなかっただろう。押し付けた身体に衝撃が加わった為あちこちに鈍痛を感じるが、痛がっている暇はない。再びスクリーンに目をやり、トリニティの加勢へと向かう。
膝関節を破壊された事で地の利を失ったガヲレンゾは脚部を飛行形態にして浮遊しつつ戦闘をしていた。シザービットとライフルを巧みに操り紅血のメイスをへし折りパープルの右腕を飛ばす。
攻勢に出られた二機は一旦距離を取るがそれが仇となり、ガヲレンゾの粒子ビームのチャージ時間を一瞬ではあるが稼ぐ事になってしまう。この場合距離と照射時間が減る代わりに速射性は増すのでガヲレンゾにとっては好都合だった。
狭い事が追い討ちをかけ二機は回避しきれず、彼らは更にダメージを負ってしまう。
紅血とパープルはブースターで逃げ切ろうとするが、今度はシザービットが拘束具の様に彼らを岩壁に固定する。そして岩壁に向かって再度粒子ビームを発射しようとチャージをしているその時、
二機に気を取られていたガヲレンゾの背後から飛び込んできたリベイクのハンマーが、ランチャーの砲塔へ物凄い勢いで振り下ろされた。
金属と金属がぶつかった時の鈍い音が響き渡る。
既に粒子ビームは発射状態に入っておりキャンセルは出来なく、見事折れた砲身を通って発射された。
銃の暴発と同じ原理で強大な粒子ビームがガヲレンゾの内部に逆流してくる。大音量の悲鳴を上げながらまるで熱いスープを口に含んだ時の幼児の様にバタバタともがく。
リベイクは今度こそ逃すまいとハンマーの柄に再び力を込める。
そしてハンマーに内蔵されているブースターをフル出力状態にし、遠心力も上乗せして頭部に叩きつけた。
最早金属の悲鳴とも言える鈍く大きい音が辺りに響き渡る。叩きつけた音を聞いたアステロスタは急いで援護に向かおうとする。
しかしアステロスタはガヲレンゾに背を向ける様にして戦っており、振り向き様に鍔迫り合いとなっていたゼロをバスターソードで引き剥がして向かおうとするが、振り返った先には…
「やっぱり助けに行くと思ったよ。まんまと引っかかったなぁ!」
眼前にはトリニティのバスターライフルの銃口が待っていた。
中東支部で改良を施されたバスターライフルはチャージから発射までのタイムラグがかなり減少されていたお陰でアステロスタに回避される事はなく、見事命中させる事が出来た。
顔面に大口径粒子ビームを食らったアステロスタはビームの勢いとエネルギー量であっという間に融解した。
照射を終えたトリニティは吹っ飛ばされて倒れているゼロに手を差し伸べ、引っ張って地面から起こしてあげる。
「大丈夫か?」
「なんとか。装甲や関節の強化に助けられたよ。」
二機は紅血とパープルを貼り付けにしているシザービットを破壊して助け、上にいるサポート係の人機体が持つカーゴへと載せて中東支部へ搬送させた。
そして息つく間もなくリベイクの加勢に向かう。現場に到着すると、モビルアーマーの攻撃を食らったのか左腕が肩からなくなったリベイクと、ハンマーで何回も殴られたのかひしゃげたボディのモビルアーマーが粉塵を巻き上げて戦っているのが目に入った。
戦いながらリベイクはトリニティを渓谷の上に向かわせ、ゼロに加勢するよう指示した。リベイクとゼロが引きつけている間にトリニティのバスターライフルをチャージさせ、隙を見て上から粒子ビームを浴びせる算段だ。
ガヲレンゾはリベイクの大振りな攻撃に慣れきっていたせいかちょこまかと動くゼロに度々翻弄され、攻撃のペースを見失ってしまう。そこへリベイクのハンマーが飛んできたり、ゼロの刀が関節部を切り裂いたりと次々に攻撃を食らわせる。
いよいよ耐久力が限界を尽き、動きが鈍くなったガヲレンゾ。そこにチャージが完了したバスターライフルが再び火を吹く。
首の関節部に向かって粒子ビームは真っ直ぐ進んでいき、見事装甲と関節の隙間に命中する。いかに頑丈な身体を持っていても内蔵は頑丈に出来ないのと同じ様に、ガヲレンゾの関節部は呆気なく粒子ビームに溶かされ頭部ごと消失する。
モビルアーマーは完全に機能停止となり、沈黙。やっとの事で仇をとったリベイクは達成感とダメージからその場に座り込む。
ゼロとトリニティも限界まで戦っていたリベイク並みに疲弊していたが、この場に留まっていてはまだ危険と判断し、サポート係に退路方面へ向かったルフス達の方へカーゴで移動させてもらった。
戦いすぎたリベイクは疲労からカーゴに乗るとすぐにサポート係の修理を受けた。
ゼロとトリニティは現場到着までの数分の中で雑談する。
「なんとか…倒したな。」
「撃ちまくったせいでライフルが熱で物凄く熱い。チャージ時間の短縮を過信しすぎたかも。」
「どれどれ…あっつ!よくオーバーヒートしなかったな………あとさ、よく見ると……残骸、あちこちに散乱してんな…。」
周りにはリベリオンにやられたと思しき人機体の残骸が至る所に散らばっていた。
「…また…弔わないとな。散って行った仲間の分まで、オレ達は生きないとな…。そう言えばルフス達の退路方面はどうなったかな…。」
「特に目立った連絡は来てないが……まだ向こう側では戦闘音がしている。まだ戦っているんじゃ…。」
たしかに退路方面では爆発や衝撃が起こっている。上空には空爆中のアモンが地上からの銃撃をよけつつ華麗に飛んでいるのが見える。
「リベイクさんはカーゴで安静にしていて下さい。僕達は先に向かいます。」
リベイクは反論しようとするが修理真っ只中では勝手に動けず、心持ち燻りながら飛び立つ彼等を見送った。
その頃
激戦地帯の真上からは、オネエのモビルアーマーと無数のワンダが成層圏から降下していた。
こんにちはっ!
忙しすぎて全く投稿出来ていなかったルシェラです。
モビルアーマー戦…始まりました!
次回も戦闘の続きからです。他のキャラクターはそれ以降になってしまうけど…もう少しの辛抱…ごめん!
それではまたー(*´ω`*)
機体、キャラクター投稿希望は不定期ではありますがたまに募集しています。
作品に関する事や関係者の方々への質問は受け付けていないのでよろしくお願いします。