機動戦士ガンダム·プレデターズ   作:ルシェラ

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機動戦士ガンダムプレデターズ 第十六話 虚空が墜ちる

クロナードはアスターのクラウドボックス爆破と作戦失敗をアメノハバキリに報告した。

「……アスターのバックアップは残っているのだろうな?」

念の為確認する。

「勿論です……。しかし、まさかあの状況下で爆破を切り抜けるとは…!」

絶対逃げられない筈なのに、どうやって乗り越えたのか、クロナードは理解が出来なかった。それに対してアメノハバキリは落ち着いた表情で、

「いや、寧ろその方が良かった。」

はっ?と間抜けな声でクロナードは問う。

「貴様………危うくルフスまで殺す所だったんだぞ?」

その瞬間クロナードは色んな意味でフリーズした。ルフスの安否を全く考えておらず、そのまま爆発してしまったらルフスも巻き添えになってしまっていた。リベリオンの最終目標は地球の再構築であり、その中でルフスの存在は欠かせないものであった。

「……フォールン様には黙っておく。」

前回の中東支部の作戦失敗に引き続きこんな出来事を聞かれたら何をされるか想像したくもない。クロナードは深深とアメノハバキリに頭を下げた。

しかし何故アメノハバキリは最初に決行する際に報告した時に止めなかったのか。

まあ、そもそもそこの所を考えずに決行してしまった時点で自分達の落ち度なのだが、決行を報告した時点で止められた筈だ。

問いただそうとしたがスタスタと持ち場に戻るアメノハバキリの背中を見送るだけにした。まあバグでボケてたんだろう。

 

 

クラウドボックスの爆発を見届けたインパチェンスは程なくして支部に帰宅し、片付けの手伝いを他所に再びドッグで他の人機体と共に中断されていた整備を再開された。

ウィリアハートが切り取った床の周りには立ち入り禁止の札と共にバリケードが築かれていた。地下は迂回路が敷かれた為居住者や研究員はめんどくさいが、安全面を考慮する上では仕方がない。

2日程して一通り現場の片付けが終了すると、支部長である水野は「とある作戦」についての協議の為に北東支部に連絡をした。北東支部は比較的冷涼な気候で、収容人員数は他支部に比べてかなり少ないのが特徴である。それに伴って所属する人機体も少数だが、一機一機が超精鋭となっているのもまた、北東支部が小規模なのに今尚現存している理由でもある。

とある作戦とは、何世紀も前に72機のみ製造されたガンダムフレームの内の一機が丁度今の北東支部周辺に残っているらしく、それをリベリオンやオリジン等に利用されるのを防ぐ為、ロストテクノロジーを解析して戦力増強に繋げる為……その他諸々の理由から発掘すると言うものだ。

かつては骨董品とも呼ばれたガンダムフレームを興味本位で掘り起こすだけなら北東支部で勝手にやればいい話ではある。しかし、同じガンダムフレームを操り、阿頼耶識システムのリミッター解除で神経系にダメージを負ったルフスの治療する際に阿頼耶識システム自体のデータがあまりにも少なく、同じガンダムフレームである(と思われる)機体を調査すれば何か掴めるかも知れない、そんな期待と心境から協力要請を受諾したのだ。発掘と言っても捜索から始めなければならないし、10機程しか居ない北東支部のみでは発掘中の支部防衛と効率良い作業の両立が成り立たないため作業を手伝うという意味合いも含んでの事ではあるが。

ちなみに北東支部は険しい山岳と冷涼な気候のせいで一番近い支部まで約1500kmもある文字通り辺境の立地の中にある。加えてその近い支部は現在リベリオンとの戦闘が進行形で行われている。更に、東南支部は他支部に自ら赴ける程の人機体数と総力的余裕があるのも白羽の矢が立つ要因である。

「もしもし、レイフ支部長ですか?私です、水野です。例の作戦の件、是非とも協力させて頂きます。日程や細かなスケジュールは……ハイ、転送で、わかりました。派遣するメンバーが纏まりましたら改めてまたそちらに連絡をさせて頂きます。よろしくお願いします。では。」

レイフ支部長は唯一の女性支部長であり、生真面目な性格と人員の采配の良さが魅力である。厳格とまでは言わないが、任務や支部の運営は全くダルさがないため、敏腕OLのイメージである。

連絡を済ませると水野はインパチェンスとエイミー、リミテッドキャリバーとジン、トリニティと睦月を呼び出した。

「では、担当直入に言う。北東支部へ向かってくれ。作戦内容は各人機体に送信する。まあ、掻い摘んで言えば古代のモビルスーツの発掘作業の手伝いだ。ルフスの治療についても、阿頼耶識システムについても何か分かるかも知れないからな。」

中東支部遠征から間もないが、普段から定期的に各支部と情報交換に赴いている彼女らにとってはさほど労苦ではなかった。

「出発はいつですか?そろそろ季節的に台風がよく通る頃ですが……。」

東南支部は内陸部にあるが、近くには太平洋がある。夏になると台風が大量に東南支部周辺をうろつく為、基本的に支部訪問は2月から7月の初めに終わらす日程なのだ。台風接近が多発する時期の遠征はそうそうない。

「私の予想だが……恐らく台風が東南支部に近づく日だろうな。」

一同はてっきり過ぎ去った頃合を見計らって出ると思っていた為驚きの声を上げた。

「なぜ台風接近中にわざわざ出発すると思うのですか?」

「いや、まああくまで予想だからな。レイフ支部長がどんな判断を下すかはまだ分からない。しかし……気になっている事がある。」

「もったいぶらないで教えてくださいよ〜。」

ジンがんんーーっと背伸びをする。度重なる整備のせいで疲れているのだろう。顔は黒ずんでいる。

「……前回の中東支部訪問、なにかおかしいと思わないか?報告を見る限りリベリオンの人機体の動きが都合良すぎるとしか思えないような場面がいくつもあった。」

多くの被害と犠牲を生んだ先の戦闘。現場で戦闘をしていた為気にする事はあまりなかったが、たしかに不可解な点がある。

「たしかに……最初のリベリオン兵との戦闘はともかくとして、あのモビルアーマーと新型の人機体の群れ…。しかも丁度疲弊したタイミングを狙って襲ってきた。そして、何故かルフスを鹵獲しようとしていたし。」

「クラウドボックスは爆発で失われてしまったから真相は不明だが、何らかの理由でルフスを鹵獲しようとしていた事、襲撃の際はフェンリル一機にモビルアーマーがワンオンワンでわざわざ対峙していた事、しかもその最中は新型の人機体らで他の人機体を破壊ではなく無力化状態においていた事……その他諸々だ。恐らく……何らかの方法でこちらの動きや状況が知られていた可能性がある。」

「それって、裏切り者が居るかもしれないって事ですか?!」

絵に書いたような皆仲良しの、家族同然に過ごして来たこの支部に裏切り者がいる、そう考えただけで恐ろしい。しかし睦月が遮る。

「いや、その可能性は低い。この支部は殆どが一般人だ。しかも所属する人機体は全機ゼロのデータベースに接続して情報の共有や管理をしている。裏切り者の兆候があれば真っ先に気付くはずだ。仮に内部の人間が裏切るとしても、人間を滅ぼさんとするリベリオンに協力した所で後々殺される事は目に見えてるはずだ。支部内の人間も、殆どがリベリオンのせいでかつての日常を奪われたり家族を失ったりしてきた人達だ。とてもそうには思えない……。」

となると考えられるのは、

「衛星ですか……?」

「その通り、とまではいかなくてもそれに近い物ではあるだろう。BeyondHEAVENの本部を占拠しつつ我々ライフよりも遥かに高い技術力と兵力を持っているリベリオンにとっちゃあ衛星類の一つや二つ我々に気付かれずに打ち上げていてもおかしくない。これは今回の件だけで判断したのではない。過去の戦闘の情報を漁ってみても、やはり動きが読まれていたかの様な状況は何度かある。」

モビルアーマーを投入したり新型の人機体を何機も造れるのだ。衛星なんて工作の様なものだろう。

「……となると、台風接近中に出撃するのはその監視の目をすり抜ける為ですか?」

ジンはその場にあった機材の山に腰を掛けながら、今で言う雨雲レーダーの類いをタブレットで見る。この情報はゼロの独自ネットワークとアモンのこれまでの長期偵察データ、ディエスとインパチェンスらの観測データから得られた物である。天候の的中率は七、八割ではあるが。

「レーダーを見ると明日の深夜から明後日未明にかけて東南支部周辺をかなり大型の台風が通過、若しくは接近するみたいですね。中心気圧は950hPaを切りそうですし、暴風域も広いのでかなり大きいです。」

中東支部訪問の際に通過した廃都市も暮らす人や管理する人が居なければこの様な天災であっけなく死に、かつての面影を消していく。都市だけでなく、人間が管理しなくなった事で山林も無秩序に発達しているため土砂崩れが頻繁したり、護岸ブロックや埋め立て地がすでに侵食作用等で崩れ始めている。少し前の地球環境云々が議論されていた時代、あるいは狂信的に自然を信仰する者達の間ならある意味歓迎される終焉かも知れない。『地球が静止する日』だっけか。たしかあの映画も「自然へと還る」べきと謳っていた。

「台風が遮って監視は出来ないかも知れないからな。あのレイフ支部長ならすぐに考えつきそうな案だからとりあえず君たちに伝えといた訳だ。人機体なら暴風の中でもある程度は動けるしな。もしレイフ支部長がその様な判断を下した場合、今回は最短ルートを通るのではなく台風のルートにある程度従って北東支部を目指してもらう。少なくとも東南支部から200kmは離れてもらってそれ以降の地点から最短ルートを辿ってもらいたい。下さなければ台風が過ぎたのち、最短ルートで行ってもらう。この場合はアモンとゼロには協力してリベリオンの人機体の反応をサーチしてもらい、こちらの動きを読んだかの様なルートを取っていれば監視衛星類がある事が確定する。その為の装置やセッティングは……追追してもらう。」

仕事が増えるやぁぁとジンは欠伸しながら同じ整備班のレオディルにこの旨をメッセージで伝える。実は人機体の整備以外にも、色々と武装の開発を進めていたのだ。(例に上げるならインパチェンスのレールガン)それらは後ほど明らかになる。

要件は以上だ、と切り上げて解散する。

帰りがけに療養中のルフスの元を睦月は訪れる。先の騒動でも特に怪我や逃げ遅れたなどと言う事はなかった為引き続き療養してはいるものの、阿頼耶識システムに関するデータが殆どないせいでまだ車椅子から降りる事が出来ない。その代わり、

「ヨ、睦月。コレ便利ダナ。」

「改めて聞くと笑っちゃいそうになるよ…。」

ルフスの背中にはピアスと呼ばれるモビルスーツ=人機体と肉体とをナノマシンを介して接続する為の機器が埋め込まれており、それを一部利用することで機械音声ではあるがルフスが発言しようとした事を脳から読み取ってかわりに発音してくれるシステムをアンビュランスが作成してくれたのだった。懸命な治療と療養期間、万能因子が脳の機能を多少『喋れる』ようにしてくれた要因である。この程度であれば神経系の療養は阻害されない為安全らしい。

「今ハ全ク体ガ動カセナイノガ辛イヨ。コノ前ノ騒動モアッタシ。手伝エナクテゴメン。」

「いいよ、今は安静にしときな。フェンリルも順調に直ってきてるし。」

よかった、とルフスは力なく言う。ここ最近ずっと療養室から出られていないのでフェンリルの様子も確認出来ない。

「なんかリメイクするらしいよ、フェンリル。ボディが青と白になってた。」

「ソウナノカ?写真トカアル?」

「いいや、撮ってないんだ…。今度撮ってくるよ。それで……聞きたい事があるんだ。」

「ナンダ?」

「モビルアーマーとの戦いが終わって私が救出した時の…あの赤いのはなんだい?」

「アレナア…。アンビュランスニモ同ジ事聞カレタケド……多分万能因子ダト思ウ。リミッター解除ノセーフティーニ仕込ンデオイタ万能因子ガ漏レタカ合成炉ノエラーデ急速ニ増殖シタカ…。デモ体調ニ特ニ変化ハナイナ。」

先のモビルアーマーとの戦闘の際、フェンリルに搭載された阿頼耶識システムのリミッター解除を防ぐ為のデバイス内にあった万能因子が、度重なる戦闘と内部機器への深刻なダメージを受けたせいか異常増殖していたらしいが詳しく調査は出来ていない。が、ルフスがこう述べている以上それで納得する他なかった。現に成分を解析した所99.9%万能因子だった事からの結論でも辻褄は一応合う。

「マア、ソレハ何デモイインダケドナ。支部ノ皆ハ大丈夫ナノカ?」

「幸いにも負傷者一人出てないよ。ちょっと施設に穴が空いたくらい……」

「穴……爆発カ何カ?」

「いや、爆発物を支部外に出す時に仕方なく空けたんだ。じゃなきゃ吹っ飛んでた。」

「ナルホドナ。ハァーア……早ク車椅子カラ降リタイヨ。足デ歩ケルッテ事ガコンナニ恋シイトハ思ワナカッタヨ。」

「失って初めて幸せだったって気付く事なんてざらにあるからね。まだ回復の見込みがあるのはさておき。」

「マダマダ働カナイトナ。……ッテ今何時ダ?モウスグ昼ナ気ガスルケド。」

腕時計に目をやる睦月。

「お、たしかに飯時だな。何か持って来ようか?」

「イヤ………、飯ハ……イイカナ。ナンカ腹減ッテナインダヨナ……。」

予想に反した答えに睦月は一瞬戸惑うも、はいよとその場を後にし食堂へと向かった。

 

 

ドックではレオディルがフェンリルの最終調整に入っていた。ただし、搭乗者であるルフスがまだ復活してない事と阿頼耶識システムに関する情報が揃ってない為、出撃する事は出来ない。また、武装の一部には退治したモビルアーマーやリベリオンの人機体のデータやパーツ等が使われる事となった。

「とりあえず外装、フレームや武装類は完成。そして問題の阿頼耶識システム……。コイツをどうするか…。北東支部の遠征で何か掴めれば良いんだが。」

真骨頂である阿頼耶識システムが使えなければ本来のフェンリルの性能、そして人機体としての意義がなくなってしまう。パイロットが不在でも戦えるよう開発されたのが人機体ではあるが、彼ら並に人間と人機体との関係が深くなっては違和感も拭えないだろうし、何より人間と人機体が紡ぐ戦闘力が損なわれる点が問題であった。

レオディルはとりあえず阿頼耶識システムの調整さえ終われば出撃できる状態にして、支部内の人機体の調整をする事にした。一日の終わりにジンと共同でやるものだが、今は新システムの開発で忙しいのでレオディルが一人でやらねばならない為昼頃に早々と始める事にした。

ネット回線で構築された会議室にはアモンとゼロ、開発主任のジンが集まり開発にあたっての話し合いに取り掛かる。

「時間がないから簡潔に。端的に言えばゼロの持つ巨大な独自ネットワーク回線を使ってアモンの索敵、広範囲レーダーシステムと過去の観測データを組み合わせるという事だ。監視の手順としては、

①当日出撃する人機体達のカメラから写す映像をアモンの広範囲レーダーと地形データに落とし込む。

②ゼロのネットワークを使ってその落とし込んだデータと過去の観測データを同期させる。ここで更に使うのが今開発中の『大気流動観測システム』と言う物だ。

 

手順はこんな感じ。そしてさっき言った新システムの説明をするぞ。ちなみにシステム自体は各人機体に組み込むからな。

……まあ端的に言えば「空気の流れを監視するシステム」という所だな。人間にしろ人機体にしろ物体が動く際には必ず大気を動かしている。当たり前だな。皆もご存知の『風』だ。つまり、裏を返せば、自然風から外れて不自然な動きをする風や大気は別の何かの作用が関係していると言うことだ。衛星は確かに便利だが、使い勝手が悪い上に何かあればいちいち宙に登って行かなければならないし、壊れたらそのまま落ちてくるか高度が高ければ燃え尽きるか、どちらにせよその存在を知られる可能性がある。何より昔から人類は宇宙進出に力を注いできたからね。ある意味『旧式』とも呼べる方法かも知れない。

となると…………例えばアモンのように監視や索敵に特化した人機体を大量生産した方が効率的且つ合理的じゃないかと思ってな。一応開発している訳さ。仮に宇宙空間に衛星を放っていたとしても、ゼロが持つBeyondHEAVENやそれ以前の人類の宇宙開発におけるデータベースから衛星を割り出したり今現在機能しているかどうかを確認出来る。まあ懸念としてはゼロがBeyondHEAVENから離反した時点でデータベースの更新が止まっている事だな。それ以降に打ち上げられていれば過去の衛星が機能してなくとも構わないからな。だから遠征メンバーにトリニティと睦月が居る訳だ。GNドライヴから発せられる粒子がレーダー類をジャミングしてくれるからな。旧式はGNドライヴを搭載してない物は無差別にジャミングしちまったが、トリニティのは割と最近の世代だからな。許可してない機器や波長を選んでブロックする事が出来るらしいからな。ただ、散布モードにしてると機体性能は低下しちまうけどそこは睦月になんとかしてもらうしかないけどな。…………説明は以上。」

全然簡潔じゃない説明だったが周りは納得している様子。

「俺は索敵に専念する事になるから、平時にやっている周辺の見回りはまたディエス達に頼もう。」

アモンは通常、支部周辺の見回りをメインとしてるが最近はこう言った大仕事が介入する事が多い為、ディエスや遠征に同行していくインパチェンス、更には自らが率いる索敵班の部下達にも索敵の指導を積極的に行っていた。これが功を奏したのか支部の安全を自分が居なくとも任せられる。

二言三言会話を交わした後会議は終了した。

 

 

台風のルートは大方予想通りの道を通ってくれるらしく、それに合わせてレイフ支部長からも台風に沿って移動するプランが推された事もあって出発は3日後の深夜となった。




こんにちは!
受験期のせいか以前よりも更新のペースが遅くなってしまい申し訳ありません……!
個人的に話数や字数稼ぎでダラダラと日常を書く気にはなれないので忙しない展開ですが、どうか多めに見て下さると嬉しいです。
次回もお楽しみに!

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