数日前、リベリオンは前回の中東支部戦において得られたデータを元にワンダの改良型を大量生産していた。プロトタイプ10機から白兵戦特化型と遠距離特化型のバージョンに枝分かれしてそれぞれ15機ずつの計30機体制となった。
午後の幹部会議では現状報告を終えた後、これからの戦域の展開や兵力の配置について広く議論された。参謀班と殲滅部隊班、観測班の上層部が巨大なスクリーンを挟んで話し合う。
「さて参謀班長、先の中東支部戦では手痛い損失を被ったそうじゃないか。ワンダはともかく、現地の展開部隊やアスターまで危険に晒したのは事実であろう。これはどう責任をとるつもりかな。」
観測班班長であるノートはブラックナイト隊から映し出されていた当時の戦闘の一部始終を見ていた一機で、同時にフェンリルによって部隊が蹂躙される現場も見ていたリアタイ勢でもある。本来観測班などと言う直接戦地に赴かないような奴らに古傷を抉られる筋合いはないが、コテンパンにやられたのもまた事実である為参謀班長であるクロナードは下手に反論しようとはしない。
「その節は各班の方々や現地の同士達、そして何より悲願たる地球機構化計画の進行を妨げてしまった事、ここに深く謝罪させて頂く。」と、クロナードは起立し、隣に居た副班長のバタフライも立たせて頭を垂れた。こう言うのは役柄上慣れてる。着席し、今後について意見を述べる。
「……中東支部戦においてフェンリルとそれを操るルフスは『白』と言う事が判明したのは不幸中の幸いと言いましょうか、曲がりなりにも収穫ではありました。アスターも現在は元のボディにインストールされ、現在持ち場を任せております。彼女が東南支部…これはルフスらが潜伏している支部の事ですが、そこからいくつか情報をコピーする事に成功しております。」
おおっと周りが身を乗り出す。議長であるフォールンが述べよ、と合図するが、
「情報量が大きい為皆様のクラウドボックスに圧縮して転送させて頂きますが、大まかに言えば
①各支部の現状と今後について。
②これまでで分かっている我らリベリオンの戦力について。
③各支部の人機体のスペック。
④ライフがまだ地球機構化計画について知らないと言う事。
特筆するとしたらこんな所でしょうか。より具体的な内容は圧縮ファイルに記載されていますのでそちらを確認して頂ければと思います。」
アスターが持ち出した情報の貴重さはこの所敗北が多かったリベリオンらにとっては『精神的』に助けられた物であった。奴らライフはまだ釈迦の手の上で踊らせているのだから。
戦いで煙に巻いておけばリベリオンの悲願である地球機構化計画に気付かれる事はない。しかも計画という形の存在は彼ら上層部しか知らず、リベリオンの一般の人機体らはフォールンが当初謳ったような『人類にとって変わり地球を管理もとい支配する』思想でいるので撃破して解析しても漏れることは決してない。
しかし上層部はアスターのように、いざとなればに自爆シーケンスでそう言った機密情報の漏洩を防ぐ事も義務付けられている。
議長であるフォールンは
「……中東の話はもういい。今後どう動くべきかを議論しよう。何かある者は?」
とリーダーとして周りを導こうとする。
殲滅部隊班班長のカストルが挙手をする。
当てられ発言。
「殲滅部隊班は目下ワンダの増強に勤めておりますが、やはり決定打の存在が必要であると踏んでいます。試作ながら無限の可能性を秘めているとは言え、ワンダの熟成には時間と戦場が必要です。しかしデータの収集ばかりしていれば、いつライフが盛り返してくるか分かりません。計画完遂を抜きに考えてもやはりモビルアーマーのような確実に仕留められる存在が必要です。……と言ってもメガロバスターは……いえ、言わなくても良いでしょう。もちろん全班員総力を上げて努力してはおりますが、人間は底が知れません。いつ我らを脅かす様な兵器を開発してもおかしくありません。どうか皆様にも案を提供して頂きたいのですが……。」
「……むぅ、たしかに。」
フォールンはリーダーの威厳として口に出さないではいたが、この所負けが多い事を考えるとやはり戦力や技術の差が迫ってきていると自覚せざるを得ない。特にあのルフスとフェンリル。彼らを捕獲しようにもモビルアーマーですら屠られてしまっては、流石にそれどころではなくなってしまう。捕まえる前にこちらが滅ぼされかねない。と言ってもアイデアがそう簡単に出てくる訳もなく、一同は沈黙してしまった。
そこで参謀班副班長のシュピールが提案をする。
「私から提案なのですが、一度大規模な戦力をもって支部を叩いてみてはいかがでしょう。それもあのルフスらが応援に来れない程の遠くの支部ですが。現在も戦闘が続いている支部に追加部隊を送り、改めてリベリオンの強さを示してみると言うのはいかがでしょうか。」
レイフ支部長が居る北東支部周辺に点在している北北東支部もそのひとつではあるが、北東支部の精鋭らを忌避して陥落が進んでいないのも事実ではある。戦力的にも地理的にも殲滅出来る支部は限られている。となると……。
「…南西支部か。」
南西支部は比較的最近に設立された支部であり、所属する人機体も戦闘経験が他支部よりは浅い者達が多めだった。普段は脅威とみなす必要もないとして放っておいたが、簡単に殲滅出来る支部の1つでもあった。
直後シュピールの中東支部戦における采配の悪さを批判する声も上がると思われたが、アイデアが出ない以上シュピールの案を軸に考えるしかあるまいと引き下がった。皮肉かも知れないが、如何に高度な人工知能を持っていても人間の様な思考に近づけば近づく程リスクヘッジを求める思考も現れてくる物だ。将棋やチェスで人工知能が猛威を振るうのはそう言った『恐れ』を抱きにくい点や、すぐに別のルートを提示出来る点があるからだろう。
「現在南西支部は特に大規模な活動はしていないのでブラックナイト隊の監視は外れています。呼び戻しますか?」
ノートは監視カメラの映像を会議室のモニターに写す。戦闘がほぼ行われていないのと南国というのもあって他支部と比べて比較的のほほんとした雰囲気だった。
「……いや、ブラックナイト隊にはルフスとフェンリルを中心に監視を続けさせろ。部隊を出すとして、ここから南西支部までどれくらいかかる?」
すかさずノートが発言。
「ゆっくり行っても2日かからないので1日強という所でしょう。」
南西支部といっても赤道付近にあるが、リベリオンが実際に点在しているのはユーラシア大陸の真ん中ら辺であるため人機体の速度なら時間はかからない。
今度はクロナードが発言。
「殲滅部隊班、南西支部を襲撃するとして何機までワンダは出せそうですか?」
副班長ポルクス応答。
「あーー良くて40って所だな。2タイプだから割る2してそれぞれ20機。」
「十分かと。」
シュピール発言。
「カストルの言っていた決定打はどうしましょう。例の部隊を戻しますか?」
フォールンはノートに現在も戦闘中の北北東支部の状況を改めて調べさせた。
「…約1ヶ月前に戦闘を開始していますが、予想外にライフどもの抵抗が激しく、短期決戦を臨めると見込んでいた襲撃部隊は火力不足でほぼ膠着状態となっています。兵を送ろうにもすぐ近くの北東支部から超精鋭の人機体どもが何機か加勢してますし、いくらリーダーがテザログレイヴァといえ単純な人機体数は敵方の5分の1です。しかしライフ側も人機体や施設、住民などに多大な損害を被っています。当初5分の1だった兵数差も2分の1程に収まっておりますので、充分潮時かと。」
テントを使って移動していたり中東支部の周辺に居た戦闘部隊は必ず班で構成されており、それぞれの部隊班長は上層部の人機体に勝るとも劣らないスペックを誇っている。北北東支部戦と違って今度は攻略も容易だし兵力も違う。すぐに呼び戻して整備改修し向かわせたとしても大丈夫だろうという意見が強まった。
「……クロナードはそれでいいのか?」
副班長の提案に対して班長の賛否を問うフォールン。
「大丈夫です。シュピールと共同で考案した物ですから。」
「……では、」
とフォールンが決を下そうとした刹那、それまで黙っていたアメノハバキリがしかし、と口を挟んだ。フォールンは発言させる。
「この際先に北北東支部を殲滅し、その後に南西支部を叩いた方が効率が良いのでは?先程の報告によれば戦力差は埋まってきているのだろう?ならワンダの一部と周辺の部隊を送り込めば事足りる。南西支部がそこまで脅威でないのに殲滅の為に呼び戻すなぞ、今まで戦ってきたテザログレイヴァらの働きを無駄にする事になる。」
すかさずシュピール反論。
「しかし我々が何故北北東支部に援軍を送る事に渋っているか知っているはずです。北東支部の人機体は一機一機が脅威なのです。恐らくあのフェンリルとルフスよりも…。ワンダを投入するのはまだしも、先程私が申し上げた決定打、つまり部隊班長並の人機体もまだ候補すら上がっていないと言うのに。周辺部隊も集められる限度と言う物もあります。その辺、どう補填するおつもりかお聞かせ願いたい。」
「ならこの私、アメノハバキリが行こう。提案した者として当然の事だ。それでよろしいか?」
予想外の返答に狼狽えるシュピール。秘書が最前線に赴くなど聞いた事がない。
返答に困ったシュピールはアメノハバキリが仕えるフォールンに是非を問うた。
「フォールン様はそれでよろしいのでしょうか……?」
しばし沈黙したが、アメノハバキリが誠意を見せる。
「統帥機(リーダー)、今こそご決断の時です。たしかにルフスを確保して、一刻も早く計画完遂を成し遂げたいお気持ちは分かります。しかし物事には順序という物があります。ゴールに辿り着くまでにはそれまでのチェックポイントを通らなければなりませぬ。」
「………………むう……分かった。では、アメノハバキリの案で行こう。」
リーダーであるフォールンの命令とあれば他も追随するしかない。結局、ワンダ2タイプ×10機とアメノハバキリ、追加でカストル、ポルクスらの部下数機が現地の加勢に行く事となった。その間ワンダの数を増やして南西支部襲撃の際には合計60機を投入する予定も建てられ、諸々の報告や論争をした後会議は終了となった。
解散直後、クロナードはアメノハバキリに話しかける。
「……どういうつもりですか?」
「どういうつもりとは?」
「…いえその、意図と言いますか、秘書の貴方が前線に出向かれることが珍しくて。」
クロナードはある意味でアメノハバキリを疑っていた。先のアスター自爆の件から始まってフォールンに対しての忠誠心まで、何か引っかかってはいた。しかしそれが何なのかまでは人工知能を持ってしても知りえない事が多かったのでこうして直接アメノハバキリの口から聴きたかったのだ。
「私はフォールン様の悲願を叶える為に尽力するまでだ。これもその一つと考えている……なんだ、秘書なんかが前線に行っても役に立たないと?」
華奢かつシンプルな武装に身を包んでいるとはいえ、アメノハバキリはフォールンの側近を任されているのでかなりの手練であった。なんならクロナードでも敵わないかも知れない。
「いえ……貴方の実力は存じておりますのでそう言った思考はないのですが…。」
「なら、問題はないだろう。心配するな。これでも修練は欠かさずこなしている。」
違う、そうじゃない。
呼び止めたかったが、しかし、今のこの焦燥感を言語化する事がクロナードには出来なく、沈黙の中彼の背中を見送った。
寒空の下ガンダムフレーム捜索班は埃と錆だらけのモビルスーツを地下施設から引き上げ、急いで北東支部に向かっていた。
北東支部に留守番をしていたスティンガーから、北北東支部への援護を頼まれたのだ。出力の高いマッドロータスにモビルスーツを背負わせ、その護衛に東南支部のメンバーが就いた。レガーメリアンとクロードで北北東支部の援護に回る。
「俺達の希望になるかも知れない。そいつは必ず北東支部に届けろ。着きさえすれば、あとはどんなに追手が居てもその場でぶっ倒せるからな。」
「クロード、効率を重視したいならその会話は離脱しながらでも出来るぞ。」
効率厨のマッドロータスらしい見送りの台詞だ。
「おめえはそういう所がなぁ!……いや、今はいい。後で締める。ともかく、ソイツを頼んだぞ。」
二手に分かれる。現在地から北北東支部まではそれ程遠くはない。せいぜい20分と言ったところか。
とばすぞ、と出力を最大にする。燃料はまだまだ持ちそうだ。
マッドロータスは特殊モードのスーパーバーニアの高出力モードで北東支部へと急ぐ。護衛役の東南支部の人機体達ですら振り切られる速度だったので、マッドロータスのボディを掴みながら着いて行った。ブースト特有の白煙は上げないがソニックブームが周りを蹴散らしながら衝撃波が飛び散る。
度々その速度と風圧で振り落とされそうになる東南支部メンツ。幸いにもガンダムフレームはワイヤでマッドロータスにしっかりと固定されている為振り落とされはしない。
整備士としてのサガからか、ジンはまるでガレージに何十年も放置された名車状態のハルファスをリミテッドキャリバーの高性能カメラから眺めて外観からではあるが、出来る範囲での分析をする。
分かったのは
①高機動型である、故に武装は少ない事。
②少なくとも機体にダメージの跡はなく、何者かがまるで隠したかのように保管していたと思われる事。
③見た目はガラクタでも内部の配線や機器類はしっかり生きている事。
そして、
『元のフレームは確かにハルファスだが、要所要所に別系統の機体パーツを組み込んで完成させたかも知れない事。』
これはこのハルファスなるガンダムフレームを何者かが自分達と同じ様に調べていて、その過程での修理を施されたのではないかと言う推測が出来る。所々明らかにアフターパーツと言うよりも、無理やり付け足された感のある箇所に違和感を覚えただけの考え過ぎかも知れないが、ジンは何処かしら不安を抱えていた。ハルファスであればそれでいいのだが、どうも腑に落ちなかった。
そうこうしている内に北東支部がもう見えてきた。流石マッドロータスだ。
北東支部の玄関を通り過ぎる勢いで突っ込んだマッドロータスは急にバーニアを自分の前方に向け、急停止した。マッドロータスはジャックナイフ姿勢で止まったが、掴まってたジンらは慣性で投げ出された。即座にワイヤを切り離すとマッドロータスは「投げ出してすまないが5分後に北北東支部へ向かうぞ。」と支部へと去りながら言った。
北東支部の格納庫の最深部へと続く降下式のフロアにハルファスを固定し、保管を見送る。支部内のスティンガーに一通りの状況を聞き、管理を任せて北北東支部へ向かう。あちこち走り回ったジンらは疲れて来ていたがそんな表情一つ見せず援護へと向かった。
道中マッドロータスに睦月が聞く。
「北北東支部ってどんな所なんですか?」
数秒沈黙した後、トリニティに圧縮データが送られた。解凍すると、北北東支部の景観が3D映像で見渡せるファイルが入っていた。コクピットはシート以外ほぼ全てスクリーンなので、ファイルを開くや否や周りが北北東支部の景色に包まれる。夏の景色だったが、鋼鉄のような岩山に囲まれた小さな狭い土地の真ん中にロッジの様な佇まいの北北東支部がそこにはあった。一見すると殺風景の様にも見えるが、その奥に広がる針葉樹林と峰に積もる落ちきってない雪化粧の組み合わせの素晴らしさは言語化するにはあまりに難解である。マッドロータスは効率厨らしいと言えばらしいが、分かりやすく、簡潔に教えてくれた。睦月は暫く視点を変えるなりして風景を堪能した後、ありがとうと言った。
その頃北北東支部ではジンクシズムと残った人機体達が必死の抵抗を続けていた。
「絶対に、これ以上民間人には被害を出させるな!!もうすぐ援護が来る……それまで耐えるんだ!!」
「しかし……ちゃんと来るんですか?!」
「絶対に来る。北東支部からの増援だ。交信暗号を長らく使ってなかったせいか、交信に手間取ってしまってな。だがもう大丈夫だ。」
北東支部からの増援。それだけで周りの人機体達は喜びと希望の歓声を上げた。
喜んだのも束の間、ジンクシズムの隣に居た仲間の頭部が射抜かれた。悲しむ間もなく即座に反撃体制、前方に9機。民間人を避難させているシェルター入口を防衛するジンクシズムらを取り囲むような形で迫る。
前面の敵で手一杯だと言うのに、レーダーが背後にも迫っている事を警告して来る。背面の5機を合わせて恐らくこれが最後のリベリオンの総数だろう。
「これで仕留めるつもりか……持ってくれよジェネレーター。」
度重なる連戦で各所に不調が見えてきた。ここで勝てたとしても数ヶ月はほぼ無力化状態だろう。
そうこうしている内にも仲間達が次第にやられていってしまう。そして後方に控えていた襲撃部隊のアタマらしき人機体(テザログレイヴァ)が遂に前へと歩みだし、周りに攻撃を一旦中止させる。静まった戦場の中拡声スピーカーから言い放つ。
『まだ抵抗を続けるか、それとも今から取引をするか、選べ。そちらのリーダーはどいつだ?』
ジンクシズムは仲間らの静止を振り切り前へと出る。
「私だ。名はジンクシズム。我々は最後まで民間人を守る。いかな取引でも受理するつもりはない。」
『愚かなやつだ。まだ取引の内容すら話していないと言うのに。もしかしたらお前達全員が助かるかも知れないのだぞ?』
そんな調子いい話に乗るか、とも思ったが北東支部の援護到着の時間稼ぎにもなるだろう、とジンクシズムは聞くことにした。
「言ってみろ。その内容とやらを。」
『では簡潔に言おう。君たち全員が犠牲となって人間達を守るか、人間達を差し出し、君達が助かるかだ。』
「どっちも信用出来ないな。仮に我々が犠牲となっても残された人間達はお前達に殺されるし、そうでなかったとしてもこの施設の有様じゃあ民間人は復興出来ない。後者は言うまでもない。」
となれば、とテザログレイヴァは全機攻撃準備の合図を送る。
『交渉決裂だ。死n』
瞬間、宙を漂って喋っていたテザログレイヴァの背後に機影が現れ、それと同時に地面に叩きつけられていた。
周りの人機体は謎の機体に銃を向けようとするが、その前に骸にされる。
「間に合ったか……全機攻撃を再開せよ!」
リベリオンが混乱する中、再び反撃が始まった。
「遅くなりました、ジンクシズムさん。」
金色のメイスを手にレゾーベルが、陽光を背に君臨していた。
こんにちは!
数ヶ月ぶりの更新となってしまいました……。
受験も終わって暫くはゆっくり出来ます。
間を空けすぎたせいでも1回自分で前の話を読むハメになりました
4月から新たな生活が始まりますが、その中でも更新していけるよう頑張って参りますのでよろしくお願いします(^ω^)