レゾーベルが到着してからは早かった。
単騎で戦局を変えるほどの力を持つ彼女は人知を超えた速度と武装、戦術でリベリオンを蹂躙し回った。残骸の再利用も考えてか、はたまた彼女の嗜好なのか、全機思考回路が搭載されている頭部のみを狙って破壊されていた。
遅れて到着した東南支部メンバーは、かつて中東支部戦で目の当たりにしたフェンリルにどこか似た雰囲気をレゾーベルから感じ取っていた。彼の様な野生ではなく、武力の純化を突き詰めたスタイルだった。
レゾーベルのすぐ後に到着したクロードらも、手出しする暇もない状況にお手上げな表情であった。
「終わったようだな姉御。」
「遅かったじゃないかクロード。」
東南支部メンツはジンクシズムらを介抱、安全区域まで案内すると共に、住民の保護を開始した。北東支部に匿う事になり、狭い支部ではあるが空き区間に居住して貰うことになった。
手際よく指示をしていくレゾーベル。
「ゆくゆくは保護した住民を、ここよりもっと快適な支部へと移送したいな。まあ、まずは北東支部までの護送が先だがな。」
最優先事項は住民の護送である。壊滅しかけた支部に残っていた機材搬送用の大型バンが複数台幸いにも生き残っていた事がラッキーだった。残骸の回収は護送後にして、すぐさまその場を後にしようとするレゾーベルら。
しかし、新たな刺客が行く手を阻む。
「12時の方向に敵機反応あり!」
「数は?」
「…23機!」
「多いな………最優先は人命だ。クロードとリミテッドキャリバー、トリニティは別ルートからバンを分けて現区域から至急離脱。インパチェンスと残りの戦闘可能な人機体は、ここで奴らを迎え撃つ。北北東支部の損傷が大きい人機体はバンの護衛にまわれ。」
的確且つ迅速な指示を送るレゾーベル。リベリオン側も量産型であろう兵士達を上手いこと分散させる。残りの分隊長らしき人機体3機の内2機がバンの襲撃の為に分かれた。そして残った一機、アメノハバキリがレゾーベルらと対峙する。
「……久しぶりだな、レゾーベル。その様子だと、まだまだ元気そうじゃないか。」
「お陰さんでね。お前も変わらないなあ。」
『……よく知っているんですか?』
普通に会話する2人に違和感を感じたエイミーがメッセージでレゾーベルに聞く。
「ああ。こいつとはこの戦乱前、同じ部隊に居たんでね。」
さらっと答えたレゾーベルだが、メイスを握る手は緩めない。
「ここは私一人でやれそうだ。君たちはバンの護衛に向かえ。」
数秒沈黙した後、了解と援護に向かう。
ワンオンワンで向き合う2人。レゾーベルは背部のドラグーンを全機射出してバンの方向へと向かわせる。自身の軽量化と味方の援護も兼ねているのだろう。
アメノハバキリはゆっくりと鞘を構え、柄に手を伸ばす。それに対してレゾーベルはメイスを握ったまま、それを構えようとはせず、仁王立ちしたまま。
寒空の荒野で向かい合う二人。暫く見合った後、先に仕掛けたのはアメノハバキリだった。華奢な体躯から繰り出されるハイスピードな居合切りは、加速時に蹴った地面を大きく抉っていた。
スラスターの噴出角度を精密に操作し、アメノハバキリ視点で反時計回りに回転しながら抜刀していく。その切先がレゾーベルに到達する直前、彼女はいきなり仰け反り、そして見事に横一直線の斬撃を腹の上を切り裂かれるギリギリで躱す。同時にメイスを右側、丁度無防備になったアメノハバキリの左脇腹へと思い切り右から叩きつける。
察知したアメノハバキリは左腕で防ぐが、メイスの質量には敵わず、腕ごと腹を叩きつけられた。片手での攻撃であったとは言え十数メートルは吹き飛ばされた。
鈍い音がアメノハバキリの内部に響き渡る。左腕は肘から先が稼働しなくなり、腹部の関節機構も幾分か損傷したようだ。身体を動かすと損傷部から火花が飛び散った。
「……相変わらず、見事なカウンターだ。」
損傷部を刀を握った手で抑えながら言う。
「腕が落ちた……と言うより、お前の思考回路アプデしてるのか?カウンターは古くから私の専売特許だぞ。なんたってそこで張り合おうとする?」
その問いにアメノハバキリは答えようとはせず、再び刀を構える。
「言うまでもないって事か…。確かにお前は命令や忠誠を貫き通す奴だ。だからこそ、リベリオンの為にここで私を倒すし、北北東支部の奴らも殲滅するって訳か。」
「……そうだ。」
微笑気味な声色で答える。
その心意気や良し、とメイスを再び握りしめるレゾーベルだが、一つ疑問が浮かび上がる。
「そう言えば、お前リベリオンではどんな役職についたんだ?アンブレイカブルのメンバーともあれば、相当上の地位な筈だが。」
「ただの秘書さ、あの方のな。」
「なんだって秘書がこんな前線、しかも一騎打ちなんてやってるんだ?普通は主の傍に居る筈だろう?」
「今回の北北東支部への戦力追加は私が提案したものだ。だから全ての責任は私にあるし、ぬくぬくと安全地帯から命令を送る程腐ってもいない。だからここまで来たのさ。それに……」
「それに?」
「我らの、そして、あの方の理想を実現する為だ。人間と違って死んでも、バックアップデータからコンティニュー出来るしな。」
「……なるほどな。となると、今私が成すべきは、そんな大層な覚悟を決めて来たお前をぶちのめす事かな。」
かつての仲間であっても容赦しない。やらなければこちらがやられる。
互いの正義の為、再び衝突する。
先程と違い、今度はレゾーベルが先に仕掛けた。深めに持ったメイスで大振りの薙。まるで砲丸投げの様な姿勢で急接近する。アメノハバキリはすかさず回避。空振って地面にぶつけられたメイスは地面を深く抉り飛ばす。
体制が乱れたレゾーベルに一太刀浴びせようと斬り掛かるアメノハバキリ。メイスでカウンターしたり、防御したりする時間はもう無い。振りかぶったその瞬間、レゾーベルは左足に力を込めると、ガラ空きの腹へ向けて足底で強烈な蹴りをお見舞いする。膝関節に搭載されたスラスターが吠えながら、凄まじい金属音が響いた。先程損傷させた箇所にヒットした為か、内部の機器が潰れたような音もした。
メイスから手を離したレゾーベルは即座に両肘に取り付けられたビームサーベル発振刃を起動。斬り掛かろうとするも、意地を見せたアメノハバキリが頭部を狙った左腕の斬撃を身体を斜めに捻りながら躱しつつ、伸びきった左肩の接合部を切り上げる。サクッと野菜を切った感触で接合部が斬れる。外骨格とは言え、装甲と装甲の隙間の狭い関節部を切り裂くのは並大抵の技術と装備では出来ない。
見事に左腕を肩から落とされたレゾーベルは一旦距離を置き、手放したメイスの位置まで下がる。
「…そう言えばお前の特技は切断だったな。どんな超重装甲に身を包んでいても、外骨格式のモデルなら関節部で何でも切り落としてた。」
カウンターを得意とするレゾーベルに対して、アメノハバキリは敵のボディや関節を切断する事に秀でている。だからこそ、瞬発力に優れた華奢な体躯、弱点補足に向いた刀を装備した侍の様な姿なのだ。火力は低いが、常に繊細且つ必殺級の攻撃を繰り出せるアメノハバキリは、相手がレゾーベルの様な人機体でなければあっという間に勝てていただろう。しかし今回の相手はカウンター使い、しかも火力差がある。
「これで左腕はおあいこだな。」
即座に斬り掛かるアメノハバキリ。しかし先程のようにただ突っ込むだけではない。踏み込みのインパクトをわざと強くしつつつま先を上に向けて踵で踏ん張り土煙をあげる。足底のスラスターをわざと吹かす事によりますます煙くなる。
カウンター相手にはフェイント。ほんの一瞬ではあるが注意を逸らされたレゾーベルの喉元に突きを食らわす。
「しゃらくさいわ!!」
人間で言う頸動脈の箇所を掠めるようにすんでの所で回避したレゾーベルはそのままアメノハバキリに頭突きを食らわそうとするが、それを読んでいたアメノハバキリは後ろに倒れ込むような姿勢を取ると、反った姿勢をとり、左膝でレゾーベルの顎を蹴りあげた。
頭部を引くことで相手に追わせる、必然的に相手の頭突き体制は前のめりになる。
仰け反ったまま耐えることも出来たが、この際その反動を利用しようとバク宙をして距離を空けながら、腰のスラスターを最大まで吹かし、稼働型の背部スラスターを一点に集めてアメノハバキリに突進をする。
「……お前のカウンターは読めている。」
胴体に向かうメイスの切っ先を限界まで引き付け、身体を捻って回避しつつ伸びきったレゾーベルの腹を切り裂く、そのシミュレーションを刹那の刹那で実行したアメノハバキリ。
「私の勝ちd
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「あと数機だ、押し切れ!!!」
ワンダ部隊との戦闘は終盤に入っていた。
レゾーベルのドラグーンにも助けられ、想定よりも早く優位にたてたのが幸いだった。
ワンダは以前中東支部で見かけた時よりも武装は豊富で、しかも動きが賢くなっていた。司令役がいる訳でも、かと言って誰かの操作で全て動かされている訳でもない感じではあったが、やはり確実にバージョンアップされている。
「ジン、後ろ!!」
鍔迫り合いになっていたジンの背後にフリーになったワンダが飛びかかる。
やられる!と思った瞬間、
「そこ!」
そのワンダはトリニティのツインバスターライフルによって灰燼となる。リミテッドキャリバーのバックパックに高熱が伝わる。
「いい、加減っくたばれえええ!!」
目の前の敵に集中出来るようになったリミテッドキャリバーはその体格差を生かして無理やり刃を押し込み、敵の武装ごと胴体を袈裟斬りする。
ワンダのモノアイから光が消え、活動を停止する。
「……どうにかなったな。バンは?」
「全員無事です!!」
「…良かった……本当に。」
安堵する人機体らを他所に、ドラグーンは警戒モードとなって彼らの周囲を見張っている。
「前回、直接戦闘した訳ではありませんが、武装や外見の変更が見られる所から戦局に合わせたカスタムが可能な機体なのでしょう。やはりリベリオンの技術力は侮れなません。それに……」
「うん、あの時のフェンリル……ルフスの動きに似ていた。」
「……となると、やはりジンの見解通りなのかも知れないな。今回の戦闘もシミュレーションのつもりなのか。」
すると、まるで宿題を忘れた学生のようにハッと思い出すクロード。
「…そう言えば、姉御はどうした?!」
「ドラグーンはまだ稼働しているので、まだ戦っているのかも知れません!」
「俺は姉御の所にいく!あんたら東南支部はバンを頼む!」
護衛班と別れ、クロードは残り少ない燃料を惜しまず、レゾーベルの元へ向かう。
「ば……かな…」
人機体に表情は作れないが、レゾーベルはたしかに微笑んでいる。
メイスに内蔵されたパイルバンカーは、まるで焼き鳥の串のようにアメノハバキリの胴体を貫いている。
「知らない事はどうしようもないよなぁ?まさか、こんなはずじゃなかった、そんな気分か?」
勢いよくパイルバンカーを引き抜くと、その場にうつ伏せに倒れ込むアメノハバキリ。
「欲張りだな。私の真似なんぞするからさ。余裕をなくすから不測の事態に対応出来ない。カウンターは力量差があって初めて有効打となる。功を焦ったな。」
しかしその侮蔑にアメノハバキリは悔しさの言葉も吐かず、かと言って反撃の隙を伺う様子もない。
「……おい、悔しいのか?」
無言。
「……チッ」
仰向けにしようとメイスを忍ばせたその瞬間、アメノハバキリは飛び起きレゾーベルに抱きつく。
「んなっ?!貴様!!」
アメノハバキリは何も喋ることなく、しかしこれまでにない力でレゾーベルに抱きついている。
「ったくリベリオンて奴は餓鬼の集まりか?!」
なんとか振りほどこうとするが離れない。これが奴の覚悟なのだろう。背部のスラスターにもアメノハバキリの腕が組み付いている為、上昇して振り落とす事も出来なさそうだ。
頭部から電子音が聞こえて来る。恐らく機体データを本部へ送信しているのだろう。
次第にアメノハバキリのボディが熱を帯びている所からも、やはり自爆シーケンスは進行中らしい。
「流石に……今回はやられるかっ?!」
こうなったら自分も機体データを支部に転送してやろうかと思ったが、野暮な発想だなと諦めた。援護に向かわせたドラグーンを呼び戻そうにも時間がない。
刻一刻とその時は迫っている。
爆発の規模が計り知れないので、せめてバンよりもなるべく遠くに行こうとするレゾーベル。腰部スラスターの角度を調整して飛び立とうとしたその時、
「動くな姉御!!!!!!!」
割と焦っていた為一瞬誰か分からなかったが、「姉御」で思い出す。
「クロード?!バン護衛はどうしたっ?!」
「話は後だ!とりあえず…そいつをっ!!」
ハルバードをアメノハバキリに投げる。空を斬る音と共に刃が丁度脳天に縦一直線、深く食い込む。そしてがら空きの脇腹にマニピュレーターをねじ込む。関節部が悲鳴を上げるがそんな事は気にしていられない。
「くたばれ!!!!!!」
腕部170mm機関砲が火を吹く。人間で言う心臓の方を向いた砲身からフルオートで任意起爆型榴裂甲弾が突撃する。通常時は近接信管に設定しているが、今回は爆破目的ではない為起爆しないようにする。
ガンッガンッガンッガンッと響いた後、アメノハバキリから力が抜け、その場にグチャッと落ちる。
振りほどこうとしていたレゾーベルは後ろに倒れる。
クロードが操るナベリウスはそのひしゃげたマニピュレーターをレゾーベルに差し伸べ、彼女を起こす。
「大丈夫か!」
「あぁ……流石に焦ったわ、助かった。……それで、バンは?」
「全員無事さ。今は支部へ向かわせている。とにかく、こいつから離れよう。」
完全に沈黙したアメノハバキリは爆発しないとも限らない為、速やかに2人はその場を後にする。本当はリベリオンのデータを取る為にも残骸を持ち帰りたい所だが、今は人命が最優先だ。
「アイツの覚悟は大したもんだ。流石は秘書だな。」
「奴と……会話したのか?」
「あぁ、まあな。」
だがアイツらしくなかった。彼は死に急ぐタイプではない。忠義は主を守る事と同義ではある為、自爆する事で『命』と引き換えに主を脅かす因子を排除する事もこじつけらしいと言えばらしいが、どうもしっくり来ない。これもリベリオンにデータバックアップという良さがあるからか……まあ、考えるのは後にしよう。
戦闘が終局したのとほぼ同時刻、支部に格納されたハルファスのメインジェネレーターが、未特定のソースから外部コントロールで起動していた。
お久しぶりですm(*_ _)m
ココ最近新生活が始まった(と言っても実家だけど)事やバイトで書く時間が中々とれず、気がついたら数ヶ月空いてしまいました(><)
いつもご愛読頂いている方々には本当に申し訳ない気持ちです…!
しかも今回は登場機体もほぼ限られた展開で……(;><)
お手柔らかに読んで頂ければ幸いです。
ではまた!