中東支部にはこんなウワサがある。なんでもキャラバン内の人機体や人間はみんな獣の様な奴らであり、自分達が気に入らない奴は真っ先に殺す血も涙もない者たちの集まりであると。
この前の戦闘から三日後、中東支部になんとかたどり着いたルフス達は城壁の正門の前に居た。
暗号回線で門番に連絡をする、が、無線からは怒号が聞こえた。
「何だぁテメェら?!ここを何処だか分かってて喧嘩売りに来てんのかァ?!おーい!お前ら集まれ!」
ルフス達は道中の緊張など吹っ飛ぶくらいの恐怖に駆られた。
いつもは割とオープンな感じなのだが…。
程なくして城壁の天蓋が開き、何機かの人機体が彼らの前に飛び降りて来た。
するとその中の一機が、
「おい、この世で一番大事な物は何だ?」
一行は顔を見合わせると、揃えて
「信よ」
「いらっしゃあぁぁああィ!!!」
言い終わらない内に大盛況と抱きつく人機体によってかき消された。
城壁の門が開き沢山の人機体や人が我先にと外に出てくる。
中東支部の入り口は緊迫した状況からたちまちお祭り騒ぎになった。
ここはあまり人間がいないかわりに多数の荒くれキャラな人機体が多くを占めている。よくアメリカ映画とかで出てくる筋骨隆々な義理に厚い連中と同じイメージだ。
一緒に住んでいるわずかな人間も貧困の中で育ったため雑草魂に溢れており、理屈を並べるよりも腕っ節と絆で解決する人達ばかりだ。
中東支部への訪問が初めての睦月は状況が全く飲み込めていなかったのか、人の波に揉まれながら一機の人機体に向かって
「なにが起こってるんですか?!」
と裏返った声で聞いた。
大声の中で聞き取りにくかったが
「近頃物騒になって来ているからな、こうでもして安全確認しないと支部長に怒られんのさ。」
と答えていたようだ。
「信用が全て」
彼らの口癖であり、中東支部の唯一の掟だ。
貧窮に抗ってきた彼らは金よりも大事な信頼や対人関係を何よりも重んずる。
大歓声の理由もこの一つだ。ルフス達は度々彼らに正確かつ信頼出来る情報を提供してくれる。それによって裏切られ不利益を被ったり、仲間が犠牲になったりした事は一度たりともない。
加えて訪問メンバーが人当たりが良いこともあって、老若男女人機体問わず彼らへの人望は厚い。
とは言うもののここまでアイドル化している様にも見える。
「この雰囲気嫌いじゃないけど疲れるんだよな…。」
ホムラが苦笑いで手を振る。それに合わせて声がますます大きくなる。
また、キャラバンは何処も似たような構造で、東西南北に監視塔を設けつつ天蓋は平面に作ってあり、平面部に対空砲や機銃を備えているタイプが殆どだが中東支部は城壁の上にドーム状に天蓋を設けているだけだ。
そのせいかただでさえ大きい声が広いドームの中に反響してますます音量を増す。
ルフス達はなんとか人混みを分けながら局長室へと向かった。
錆が見られるも、重く堅牢な扉を開き中へと進む。
すると睦月以外のメンバーにとってはお馴染みの台詞と声が聞こえて来た。
「社会を動かしてんのは何だ?機械の歯車じゃねえよ。一人一人の信頼だ。信頼が寄り集まって社会を作り、社会を動かしてんだ。分かるか?」
中東支部局長であるイカついタトゥーと傷跡だらけの人機体、具志堅リベイクは訪れた者に必ずこの言葉を言う。
ルフス達は最初の訪問で既に覚えてしまっていたが、得意げに話すリベイクが面白いのでいつも、
「なるほど…為になりますね!」
「さすがリベイクさん!」
と半分悪戯心も交えて褒め称えている。
彼らは決して蔑んでいる訳ではない事は表立っては言わないがリベイクも知っている。これも信用の一部なのだ。
「おールフス!相変わらずお前さんはたくましい体つきしてんなぁ!今度またウチの連中の相手してやってくれよ。」
ルフスは十七歳とは言え人機体を操縦したり、万が一の事態に備えて身体作りは欠かす事はなかった。体術なども支部にいる師範に直接教えてもらい、若い外見とは裏腹にかなりの実力を身につけた。
そのせいか、中東支部のマッチョな大人達に舐められて喧嘩になった際に相手を投げ飛ばしてしまい、マッチョマン達から尊敬の眼差しを受ける事になった。
ルフスはその時相手に怪我を負わせた事もあって罪悪感を拭い切れていないのだが、逆にその相手は「こいつぁレアな体験したぜ!」と全く気にしてないらしい。
ルフスは微妙な面持ちで「お、おう…。」と拳を突き出した。
因みに中東支部ではこの動作は約束を守る事を表している。
「すごい人ですね…。」
初対面の睦月はリベイクのタトゥーや傷跡に畏怖の念を抱いていた。
「昔はステゴロで負けなしだったらしいよ?例え相手が武器とか持っててもお構いなし。」
ホムラが耳打ちすると睦月の表情は益々青ざめていった。
小耳に挟んだのかリベイクは
「おうとも!昔は喧嘩ばっかりしてたからなぁ、ここら辺で名前知らない奴は居なかったぜ。まあ、やり過ぎたせいであちこちガタが来始めてるけどな。」
一同はしばらく談笑した後、本命である情報交換会が始まった。
リベイクは少し笑顔を緩めてその場に座る。東南支部と違って設備よりも人機体や武器に金をつぎ込むので、人機体用の椅子やスクリーンはない。
「では、僕たちから報告を。」
とソラはアモンの肩に立つ。目線を人機体であるリベイクに合わせて見上げていると首が痛くなるのだろう。
「まず最初に、私達がこの訪問の都度通過している廃都市の超高層ビルですが、複数崩壊しているのを道中確認しました。ご周知の通り、以前は上手く利用して周辺に潜んでいると見られる敵機との接触を避けられていましたが、瓦礫をよけながらの移動や二手に分かれての進行を探知されたのかモビルスーツタイプ六機と交戦。撃破はしましたがこれにより都市部周辺の警戒が強化されら可能性もあります。通過する際には注意して下さい。」
リベイクは頷きながら、話を続けてと促す。
「また、東南支部周辺のテントの数は以前よりも増加傾向にあります。中東支部の周辺もこの後調べてみますが、以前よりも数が多い場合には遠征して各個撃破する事を推奨します。」
話を聞くリベイクからは少なからず焦る心境が伝わって来た。流石に不安なのだろう。
「ソラくん。アンタも知ってる通りウチにはアンタの様な優秀な偵察役がいない。偵察タイプは居てもアンタの様に大空を飛び回って地球を股にかける様な度胸がねえんだ。アンタ達がそんなウチらの為に遥々来てくれる事は本当に嬉しい。キャラバンの皆も来てくれる度に喜んでいる。だが、毎度毎度リスクを負ってまで来てくれるアンタ達に何かあったらと思うと夜も眠れねえんですよ〜。つまり、ウチの偵察メンバーを鍛えて下さいませんか?」
色々ツッコミ所が盛り沢山だったが全員黙った。
中東支部への滞在は一週間だ。少なくとも鍛えるくらいの時間はあるだろう。
ソラは「いいですよ、喜んで。」と答えると、リベイクは「恩に切る。」と深く頭を下げた。
その後ある程度の報告を終えた一行はリベイクの報告を聞く事になった。
「これといった報告はねえんだが…一つ大きな問題を抱えている。ここから東に20Km程の所に巨大な渓谷があるのは知っているだろう。普段はこのボロいキャラバンの錆以上に気にしないんだが……先月からリベリオンの機体をチラチラ見るっつー報告があったんだ。偵察可能な範囲のスレスレに居て、ある意味助かったよ。あと少し離れていたら気付かなかっただろう。問題なのはここからだ。いつものウチらならリベリオンの雑魚どもなんぞこっちからお迎えに行って木っ端微塵にした後残骸を返品してやるんだが…今回はウチらの方が送り返された。」
ルフス達は察した。リベリオンも震え上がる程の力を持つ中東支部の人機体がやられる程の存在と言えば真っ先に思い浮かぶのは…。
モビルアーマー
人機体には二つ機体系統がある。
一つは人の形をしたごく普通の人機体。
そしてもう一つは…完全なる戦闘用人機体[モビルアーマー]。
個体差はあるが、殆どが人間離れした異形の姿である。
前者の人機体は今でこそ武装していたり特殊なシステムを積んだりと対戦闘用になって来てはいるが、それでも設計段階ではあくまでもただの人型ロボットである。改造次第ではあるがそれでも得られる火力には限度がある。
だがモビルアーマーは設計段階で戦闘を想定して作られているため、前者よりも縛られる内容が少なく、加えて本体が通常の人機体よりも必然的に巨大になるのでいかに中東支部の人機体でも少数では太刀打ち出来ないのは火を見るより明らかである。
リベイクは頭部をかきながら怠そうに
「察しの通り、恐らくモビルアーマーだ。現場の無線からじゃ詳しい情報が分からなかったからどの程度の性能かは知らねえが…もしかしたら試験運用とかも兼ねて近くまで来てんのかもしれねえ。悪いことにウチらは昔から派手にドンパチやり過ぎたせいで敵に位置が割れてる。ここに来るのはある意味時間の問題だろう。そこでまた頼みがあるんだが…。」
と、突然リベイクはあぐらを解いて正座になる。
「…要するにウチの連中と一緒にそいつらをぶっ殺して欲しいんだ!礼はいくらでもする!」
と、本体は土下座をしながら背中のサブアームを展開して手を合わせた。
突然過ぎてびっくりした彼らは「顔を上げて下さい!」と言った…が中々上げないのでルフス達のパートナーの人機体達が半ば顔を持ち上げて懇願した。
落ち着いたリベイクは確認したポイントをフェンリル達のデータベースに送る。
「ホントはアンタらも連れてキャラバン総出で今すぐにでも殺しに行きたいんだが…長旅で疲れてるアンタらにそいつァ迷惑極まりねぇ。決行はアンタらの判断に任せるが…少なくとも三日後には討伐に出て欲しい…忙しくて疲れてる中悪いが、こっちにも守るべき物があるんだ…すまねえ……。」
守るべきもの。それは支部長だから守るのではない。今まで共に過ごして来たかけがえのない仲間を守るためだ。
「何言ってるんですかリベイクさん。守りたいものなら、僕たちにもあります。」
ソラは班員に視線を向ける。全員覚悟は決まっているようだった。
「すまねえな…マジに感謝するぜ。」
リベイクは深々と頭を下げた。
その晩は歓迎会と言う名の飲み会となった。
未成年のルフス達はアルコールを取れないので強めの炭酸水を用意され、ビールの一気飲みの様に炭酸水を飲むよう勧められたがみんな三杯と保たなかった。
中東支部は人機体も含めて巨大な一つのテーブルに全員顔を合わせて飯を食べるのが普通で、ルフス達は訪れる度に誕生日席に座るリベイクの近くに座る事になっている。
いつも一人かせいぜい二、三人でしか食事を共にしないルフス達にとっては珍しく、貴重な経験だ。
中東支部初の睦月は周りからの質問の受け答えで飯を食べる所ではなかったが。
「ねえねえお姉さんなんて名前なの〜?」
「今度一緒に遊ぼ〜!」
子供に人気があるのか手足にしがみつかれて身動きが取れないくらい睦月は人気だった。
笑顔で受け答えをしつつ食事を口に運ぼうとするも別の質問が次々に飛んで来ていた。
リベイクは「いつものことだ。初めての奴には徹底的に尋問をする様に教え込んでいる。」
などとジョークを言いながらも集まり過ぎた子供たちを四本の手で追い払った。
中東支部にとっては日常、ルフスにとってはある意味戦闘よりも疲れる事ではあるが決して嫌な思いをした事はなかった。
それは家族との食卓をルフスが知らないからだ。
ルフスは幼い頃事故によって家族と自分の記憶を失っている。
身寄りがない子は普通孤児院に入れられるが彼は偶々現場に居合わせたBEYONDheavenの関係者に引き取られ、フェンリルのテストパイロットとして事業に協力する代わりに生活を保証されたのだった。
テスト以外は常に一人。友達も居なかった彼はテストパートナーであるフェンリルと次第に仲良くはなるものの、キャラバンに入るまでは一人で過ごす事が殆どだった。
だからこそキャラバンのメンバーや中東支部の皆とはずっと一緒に居たいと人一倍思っていた。モビルアーマーからも彼らを守ってみせる、大切なものを、家族を、みんなを。
食事終えると彼らは大浴場で疲れを癒し、明日に備えて用意された個室へと向かった。
見張りは他の人機体がやってくれるそうだ。
後にしたキャラバンの事を心配しつつ、彼らは眠った。
こんにちは(о´∀`о)
最近安定して五千文字くらいかけるようになって来たモチベアップなうのルシェラです。
遂に中東支部に着きましたね!そしていよいよ強大なモビルアーマーとの戦いへ…
あ、因みにリベイクは確信犯です笑
それではまた今度。
機体、キャラクター投稿希望は不定期ではありますがたまに募集しています。
作品に関する事や関係者の方々への質問は受け付けていないのでよろしくお願いします。