拝啓母上様
厳しい暑さが続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか。このような気候ではありますが、私達は元気に過ごしております。
私はこの度、正式に軍人として艦娘を仕切る提督となりました。この日本を護る為に一生懸命戦って参りたいと思います。
艦娘との仲も良好で、喧嘩をする事はあまり無く、共に日本を護る仲間として日々訓練に励んでおります。
しかしながら私としては本当に仲が良いのか些か疑問に思い、ある事を試してみました。
わざと記憶を失ったフリをしたら、艦娘達はどんな反応を見せるのか。単なる出来心でやってみました。一応明石にはこの事を伝え、協力してくれる形で済ましております。
内心はとてもドキドキしていました。艦娘達がどういった反応を見せるのか、興奮が収まりませんでした。
ですが母上様、私は今──、
──修羅場におります。
「提督、大丈夫デスカ?」
「は、はい。大丈夫です」
「何あざとい視線送ってるんですか、張り倒しますよ」
「別にあざとい視線なんて送ってまセーン。ただ提督の手助けをしてるだけデース」
何故だ、何故こうなった。
ただ単に俺は艦娘達の反応を確かめたかっただけなんだ。何故こんなにギスギスしてるんだ。訳が分からん。
「司令、どこまで思い出していますか?」
「分かりません……ここは何処なんでしょうか?」
「そこまでですか……」
一応設定的には俺はこの鎮守府に着任した記憶は無く、それ以前の記憶までしか覚えていないという設定である。なのでここにいる金剛や不知火の事は知らないままで、初めて全員に出会った事になっている。
不知火の事は知らない……あ、はい。
「ご、ごめんなさい。でもここにいるって事は、私は軍人か何かだった……って事でしょうか?」
「そうですよ。相変わらず理解が早くて助かります」
「そうなんですね……全く思い出せない……」
まぁ、嘘なんですけどね。
本当はめちゃくちゃ覚えてるんだぜ。金剛が夜這いして来た事も、卯月が悪戯を仕掛けてきた事も、島風に一方的に追い掛け回された事も、響のスカート覗いたらボコボコにされた事も全部覚えてる。
翔鶴とケッコンカッコカリした事もね。どうやら翔鶴は今俺の代わりに書類を片付けてくれてるみたいだけど。
申し訳ないっす。翔鶴さん。
後で間宮パフェ奢るんで許してつかぁさい。
「因みに貴方は艦娘とケッコンもされていますよ」
「え……本当ですか? 誰でしょうか?」
「私ネ!!」
はいストップ。
何ちゃっかり嘘ついてるのかな金剛さん。
「そ、そうなのか……?」
「ハイそうデスよ!! 私と提督は一生の愛を誓ったおしどり夫婦として有名だったんデスカラ~!!」
……。
色々言いたい事はあるけど、バレちゃまずいし黙っていよう。
「違います、金剛さん。勝手に記憶を捻じ曲げないでください」
お、流石は不知火。落ち度が全く無いな。
「司令とケッコンしたのは……私です」
いやお前もかぁぁ!!
「違いマス!! 私ネ!!」
「いいえ私です」
修羅場ってこういう事を言うんだろうか……。
二人して新しい記憶を無理矢理、ねじ込もうとしてる。
俺が記憶を失った事を機に、自分がケッコンしたという記憶を塗り替えるつもりだ。
いやね? 好きになってくれるのはめちゃくちゃありがたいよ?
それこそハーレムみたいな環境で、一日中女性と接してるようじゃ、脳と下半身がパンクしてもおかしくない訳で。
理性を保ちながら猛攻し続ける艦娘達のアピールに耐えてきて、必死に抑えてきたんだぞ。
下半身を。
いやだって仕方ないじゃん! エロいんだもん!!
何だよ金剛の巫女服なんてさ、肩出してるし、太もも凄いしさ。
島風なんて際どい制服着ちゃってさ、下着なんて紐に近いし、隙さえあれば見えるし、見せてくるし、てか何回か見たし。
あれで興奮しないなんて男としておかしいからな!?
祥鳳なんてサラシで上半身裸だぞ!? あんなの痴女じゃん!!
戦艦や空母の胸部装甲なんて尋常じゃないし……。
とにかくヤバいんだって。死ぬ、俺の理性が死ねる。
「とりあえず記憶を戻す為にも、一度同じ生活をしてみた方が良いと思います」
「そうネ!」
という訳で始まりました記憶を失ったフリをする現実世界生活。
さて、俺の演技はいつまで続くでしょうか。
そしてどうなるんでしょうか。全く想像出来ません。
「大丈夫ですか? 司令官」
「えーっと……この娘は……」
「吹雪さん、司令は今まで貴方達との記憶を失っており、名前も顔も覚えておりません。辛い状況ではありますが、もう一度自己紹介を」
本当にごめんね吹雪。
ていうか俺も良心が痛い。最初の秘書艦は吹雪だもんね。一番俺との記憶を共有してると言っても過言じゃないしさ。最古参の艦娘だし、ショック受けちゃうのも当然だよね。
だけど俺は記憶喪失のフリをやめないぞ。
「私は吹雪型駆逐艦一番艦の吹雪です! よろしくお願いしますね! 司令官!」
いやーこの笑顔最高。
この邪悪のオーラが全く無いような健気な笑顔って本当に癒される。最初の秘書艦の時は癒されてたなぁ。
「よ、よろしくお願いします。吹雪さん」
「司令、貴方は私達の上官です。敬語で話す必要はありませんよ……でも……」
「でも……」
「本当に覚えてないんですね……」
「ごめんね……」
「あの時……私とシていただいた事を……」
「えぁ!!?」
初耳なんですけど!!!
俺本当に覚えてないよそんな事!! 思わず素で驚いちゃったよ!!!
え? マジで?
やっちゃった? ハメちゃった? 酒に酔った勢いでそのままお持ち帰り艦娘GOしちゃった?
やばい、心当たりがありすぎてどれだか分からない!!
いやでもそれはそれで(殴
「貴方もですか……司令、今のも嘘ですよ。気にしないでください」
「あ、そそそうなんですね。驚きました」
「全く……何でこうも記憶を捻じ曲げようと……」
さっき貴方もしてたよね不知火さん。他人の事言えないよ?
「そ、それじゃあ……んじゃよろしく……ね?」
「はい! よろしくお願いします!」
いや本当に焦った。マジで焦った。バイ〇ハザードRE2のワニ追っ掛けてくるぐらい焦った。
この様子だと他の艦娘達もやってくるかもしれないな。注意しないと……。
「司令官! 執務室はこっちですよ!」
「う、うん。ありがとね」
「いえ! これも艦娘の務めです!」
健気過ぎて泣きそう。
「ここが執務室です!」
「ここが……」
もう親の顔より見たようなドアっすね。何年も出入りしてる訳だし。
さーて中に──、
「提督ゥ!!」
「うわッ!!」
いきなり金剛が飛びかかってきたから思わず反射神経で避けちゃったよ。
「だ、大丈夫かい? 金剛?」
「大丈夫デース!」
「流石は司令、頭では覚えてなくても身体が覚えているようです」
いやまぁ金剛が飛びかかって来るのは知ってたけどね。
二日に一回のレベルでロケットみたいに飛んでくるし。もう避けるのも慣れたもんよ。
「提督! ご無事でしたか!?」
「え、えーっと……この娘は……?」
「翔鶴さんです。貴方の秘書艦ですよ」
「話は既にお伺いしています。とても悲しいですが……受け入れなければなりませんね」
「ごめんなさい……」
「いえいえ! 謝る必要は無いんです! これからまた思い出を作っていきましょ?」
あれ? 凄く心が痛い。
やばい。涙出てきた。
どうしよう、嘘だって言ったら一生口を聞いてくれないかもしれない事案が発生するかもしれない。
本当は嘘でしたって言うつもりなんだけど……
「いえこれから提督は私と仕事です!」
「いえ司令官にこの鎮守府を覚えてもらう為に連れていかせます!!」
両方に腕引っ張られて痛い!! 助けて死ぬ!!
あ、でもじかに胸当たってるし、
腕スベスベだし、
この状況めちゃくちゃいいからもう少し黙っていよう。
「はぁ……仕方ありません。確かに提督にはこの鎮守府の事を知ってもらう必要がありますしね……」
珍しく翔鶴さんが譲ってる……まぁ確かに鎮守府の責任者が覚えてないんです、じゃ話にならないもんね。
まぁ覚えてるんですけど。
「……よしッ!!」
俺の背中に隠れて喜んでるのバレバレだよ不知火さん。
ガッツポーズするほど嬉しかったのね。てか金剛さんや吹雪がいつの間にかいないんだけど。
何で?
「では司令、こちらに」
「う、うん……」
「お気をつけて提督、不知火」
何か胸騒ぎがするなぁ。不吉な予感、というか……一波乱起きそうな気がしてならない。
「司令! 聞こえてますか?」
「あ! ごめん、考え事をしてたんだ」
「全く……そういう所も同じですね……」
不知火さーん! 目の前に壁ー! 壁があるよー! 前を見て喋ってー!!
「不知火! 前! 前ー!」
「え?」
あ、これ勢いよくぶつかったな……大丈夫かな……。
「不知火? 大丈夫か?」
「どうしたの? 不知火!?」
「陽炎か!? あっ」
「いえ大丈夫ですよ、陽炎姉さん。ぶつかっただけで……ん?」
「……あれ……確か司令官って記憶失ってるんじゃ……」
「今先程……陽炎って……」
「……あっ」
「「……」」
P.S.母上様。
記憶喪失のフリですが、始めて一時間でバレました。
助けてください。
大体思いついたネタをほとんど使っていくスタイル。
不定期更新です、いつ投稿するか分かりません。だけど続かせる予定です。