今話は箸休め回。
「提督……大丈夫ですか……?」
「う、うん。大丈夫だよ」
色々頭がおかしくなりそうな事ばかりでパンクしそうになった……。
流石につっこむのも疲れてきたよ……。
まさかここまで異常だとは思わなかった。
何かと不満が溜まってたんだろう。
色々と考えなきゃね。
「案内続けますか? それともお休みになられますか?」
「いやいや大丈夫だよ。また、案内お願いできるかな?」
「そうですか……分かりました。次の寮へご案内致しますね」
さて次に向かうは駆逐艦寮。
小さな子から大きい子まで多種多様な駆逐艦や海防艦達が住んでいるんだ。この鎮守府じゃ一番人数が多いから寮内はかなり広く、そして戦術を学ぶ教室が多い。
だから見た目じゃ幼稚園だとか小学校とかに間違えられてもおかしくないんだよね。
因みに教えている先生は重巡洋艦達でローテーションで決めてるよ。
「ここが駆逐艦寮です。この鎮守府では一番人数が多いので少し騒がしいかもしれません」
「そうだね。でもこういう騒がしいのは悪くないかな」
「そう言っていただけると嬉しいです。騒がしい分、中身はいい子達ばかりなので一度触れ合っては如何ですか?」
触れ合う、かぁ……。
いや何もやましい事は考えてないよ?
寧ろ考えたら犯罪じゃない?
俺は変態じゃないから分からないなぁ。
「司令官だ!」
「司令官!?」
「えっ!? 司令官ですか!?」
「司令官か……」
俺に気付いてくれたのは元気いっぱいな皐月、ほんわかしてる文月、きちんとしてる三日月、落ち着きのある菊月だ。
睦月型駆逐艦の娘達はどの娘も背が小さく、そして可愛い。
正直なところ、海防艦と朝潮型と睦月型は異性対象とは思えず、父性が出てしまう。一生愛でて可愛がってあげたいのが素直な気持ち。
現に俺は囲まれてて幸せでございます。
え? 前の朝潮達の件はって?
あれは例外。
「ボクは皐月だよ! よろしくね!」
「あたしは文月だよ~よろしくぅ~」
「三日月です! これからまたよろしくお願いします!」
「菊月だ……よろしく、頼む……」
あっ、そういえば記憶喪失の設定だから、皆自己紹介してるのか……。
本当にごめんよ。
「あはは……こんなに人気だったのかな……? 前の僕は……」
「それは勿論! 提督は駆逐艦達からかなりの人気を得ていますよ」
なるべく平等に仲良く接していたけど、この娘達は大丈夫みたいだ。
不知火とか朝潮達がちょっと心配ではあるんだけど。
「すいません提督、少しトイレに行かせていただきますね。皆さん、借りてもいいですか?」
「うん! 大丈夫だよー!」
「それにしても……髪の色が違うから分かりやすいな」
「……しかし、本当に記憶喪失だとはな……」
「本当に何も覚えていないだもんねぇ~」
「それでも私は司令官の後を追います!」
「まっ今の司令官もかわいいけどね!」
皐月の方が数十倍も可愛いよ。
「司令官、貴方は本当に記憶喪失なのか?」
ギクッ
「ほ、本当らしいけど……」
「誰から聞いたのだ?」
「不知火? と金剛? から……?」
「そうか……」
もしかして菊月が気付いちゃったパターンか!?
いやいや待て、まだ怪しんでるだけだ。確信には至ってないはず。
「ならば今なら司令官を自由に出来る、という事か」
ん?
「そうみたいだね! どうしようかなぁー?」
んん??
「面白い事思いついちゃった……!」
んんん???
「駄目ですよ、ちゃんと考えなければ」
んんんん????
ごめん、さっきから嫌な予感しかしないんだけど。
自由に出来る? 何を? 俺が? 何するの? 何されるの?
「ごめん……どういう事かな……?」
「どういう事って……秘密に決まっているだろう」
何故秘密なんですか!!!
「司令官、ちょっとこっちに来て来て~」
言われるがままついていくしか方法は無かった訳ですが、ここは……睦月達の部屋か。
合計十人いるから部屋もかなり広い。部屋を囲うように二段ベッドが五つある。
「ここが私達のお部屋~」
「睦月ちゃん達は遠征でいないけどね!!」
そうなのか。だから今残ってるのは皐月達だけらしい。
こりゃまた個性の強い娘ばかり集まったもんだな。
あ、霧島さん置いて行っちゃった。
後で合流しないと。
「あれ? み、三日月と菊月は?」
「え? あれ本当だ、どこに行っちゃったんだろ……」
あれ? 文月達でも分からないのか?
確かに後ろにいたはずだけど……。
「それよりも司令官! 実は伝えなきゃいけない事があるんだけど……」
「な、何かな?」
「私達とー……一緒にお昼寝してくれない、かな……?」
ふっ……もう俺は成長したんだ。
この事の意味ぐらいちゃんと分かってるぜ、ソウルブラザー。
「お昼寝……?」
「うん……実は司令官が記憶喪失する前は私達とお昼寝するっていう決まり事があってね」
いや何ですかその決まり事。
初耳なんだけど。こりゃまた捻じ曲げて来たな?
「ダメ……かな……?」
「お願い……」
ああああああああぁぁぁ!!!
そんな綺麗な眼差しで俺を見ないで!! 何でも承諾しちゃうじゃんか!!
「う、うん……いいよ。一緒に寝ようか」
「本当? やったー!」
「流石司令官!」
まぁこの娘達と一緒にお昼寝するぐらいなら何も問題は無いでしょ。
睦月型の娘達とお昼寝する決まり事がある記憶を捏造してきたのは……まぁ、とりあえず気にしない事にしよう。
「司令官の身体、暖かぁい……」
「やっぱり司令官だと安心するなぁ……」
【えーこちら司令官、こちら司令官】
【こちら脳内司令塔】
【こちら司令官。只今、二人の女神に挟まれ身動きが取れない。このまま潜伏を続行する】
【こちら脳内司令塔。了解、くれぐれも悩殺攻撃には気を付けろ】
さて……どうしたものか……。
小さな二段ベッドの下のベッドで寝てしまった訳だが。
しかも両腕に皐月と文月が抱き締めてきて身動きは不可能。
挙句の果てには両足は皐月と文月の足ホールドによって施錠済み。
……詰んだなコレ。
ダメだわ。
理性うんぬん寸前に無理ゲーと化してる。
正直な話、このまま寝るのも悪くはないな。
「うぅ……」
「むにゃむにゃ……」
ちょっとお二人さん、流石に股を人の太腿に擦り付けて来るのはヤバい。
これ足動かしたらどう反応するか……──、
「あっ……」
「んっ……」
はいアウトー。
どうやってもR-18展開ですね分かります。
睡姦とか俺は趣味じゃないんで。子供襲うとか大人としてどうかと思うわ。
因みに俺はどちらかと言うと寝てる間に襲われた(殴
って言うのはとりあえず置いといて……あのー……。
トイレ行きたい。
いや寝る前は別に尿意は無かったんだけどさ、寝た途端に急に出てきたヤツ?
例えば朝、通勤したら家の中では便意は平気だったのに電車の中となれば急に腹痛が来て便意ヤバすぎワロタってなるパターン、みたいな。
まさに今そんな感じ。
かといってこの状況で動けば恐らく面倒な状況になるだろうなぁ。
寝るか。
いっその事寝て、忘れようか──、
「寝たか……?」
「寝ましたね……多分」
おや? この声は三日月と菊月……?
何しに来たんだ?
「さて……どうする? どう司令官と
ちょっと待て菊月ィィィィ!!!??
お前からそんな言葉聞いたの初めてだぞ!!
よくそんな言葉平気で言えたな!!
だが待て。
三日月はこの事をちゃんと理解してるのか?
三日月って朝潮と同じで素がとても真面目だから、結構性知識が甘いところがあるし……意味理解していない可能性が……。
「菊月姉さんが先でも構いません、しかし私も観察させていただきます」
もうお前真面目なのか変態なのか分かんねぇな!!!
つか俺はトイレに行きたいんだよ!
この女神の拘束を外してくれ!!
「しかし行為の最中を見られるのは如何せん恥ずかしいぞ」
「その分菊月姉さんも見ていただければ問題ありません」
いや問題だらけだよ!! 何二人お互い見た事で恥ずかしさを打ち消しにしてんだ!!
「記憶を失う前は貴方が好きだと言う事を伝えられなかったからな……」
菊月……。
そうなのか……ごめんな……。
お前の気持ちに気付いてやれなくて……。
「だから……私の心埋めと同時に行為を激しくさせ、刺激を与える事で思い出させるしかない」
思い出させる方法がえげつな過ぎるだろ!!!
どこから教わったそんな方法!!!
「同じくです……あの司令官が戻るまでは私達が覚悟しなければ」
もっと他に思い出させる方法はあるでしょ!!
やめて!! 自分の身体は綺麗なままにしてぇ!!! お願いだからぁ!!
あああああもうトイレ行きてぇよおおお!!!
かくなる上は……話しかけるしかない……!!
「な、何を考えてるのかな……菊月、三日月」
「司令官……!? 起きてたのか……」
「寝ていたとばかり……」
「今の話は少しだけ聞いたよ……ごめんね、記憶を失ってしまって……僕が不甲斐ないばかりに……」
「そ、そんな事は無いぞ司令官!」
「そうです!! ただ私達は……!」
「やめて」
「っ……!!」
「やめて。そんな方法で僕は記憶を思い出したくない、君達が無理して傷ついてまでやる事じゃないんだよ」
さっきまで寝てる間に襲われたいとか思ってた奴の言葉じゃねぇよなコレ。
「君達の想いは充分に理解した。ありがとうね、こんな僕を好きになってくれて。前の僕は相当愛されてたんだね……」
「それは勿論……!」
「みんな司令官の事を大好きですよ!」
何かシリアスみたいな状況だけど、今の俺は皐月と文月のホールドで拘束されてる且つ、寝ながら喋ってるからね。
傍から見たらシュール過ぎるよ。
「そうか……それが聞けてよかった。んじゃそんな事はもうしない?」
「しないと誓おう」
「しません!」
「なら良かった、いい子達だね。菊月、もしかして寂しかったりした?」
「……恥ずかしいが……少し、寂しかった」
「三日月は?」
「同じ気持ちです……私も……寂しかったです」
「そっか。んじゃ今度からは暇な時に僕の事を直接呼んで? 二人だけで色々しよう、そしたら寂しさも無くなるでしょ?」
恐らく菊月と三日月はあまり俺と話す機会が無かった、いや最低限の会話だけ交わして自分に素直になれなかったんだろうと思う。
その素直になれない気持ちが溜まっていく中で、俺が記憶喪失になってしまった。
その溜まった気持ちが暴発して、このような結果になったんだろう。
「分かった……これからはそうする……」
「本当に……ありがとうございます……!」
もう一度言うけどさっきまで寝る間に襲われたいとか思ってたヤツの発言だからね? コレ。
しかも今の状況、皐月と文月に寝たまま拘束されて動けないからね?
こんな状況で何カッコつけてんだよ、俺の方が恥ずかしいわ。
しかもそれより……、
「よし! んじゃこの話は終わり! それに二人、ごめんなんだけど……」
「何だ?」
「何でしょうか」
「今すぐトイレに行きたいんです……この二人を外してください……」
もう膀胱が破裂しそうなんですよ。
泣きたい。
ちょっとワンパターン化しつつあるんで趣向を変えてみます。