前回のあらすじ
駆逐艦は、いいぞ。
私は加賀と言います。
日本の鎮守府のどこにでもいる航空母艦です。
かつては赤城さんと共に一航戦と呼ばれ、それなりに戦果を収めてきました。そして人の姿となり、今こうやって深海棲艦とかいう訳の分からない超生物と戦う羽目になっています。
って言うか深海棲艦って何? 何で人類の敵とか言われてるの? 何がしたいわけ? あんなの魚介類と一緒じゃないかしら。捕まえれば大体大人しくなるでしょう……、
〇されてもマグロ(殴
それは置いといて、正規空母の中では性能はとても素晴らしく、神の如き力と評価されてまして。各鎮守府では何故か最強の正規空母と勝手に呼ばれ、どこの鎮守府も重宝されている訳ですが。
いや実際最強ですし、四スロット積めれるし、元はと言えば戦艦ですし。
まぁ何も文句の言いどころなんて無いと思いますが、一つだけ言っていいとしたら……、
『あ、加賀さん。今度教えたいラーメ──』『死んでください提督』
『……ねぇ何か酷い事したかな? 俺……』
全く素直になれない事です!!!
いくら提督と話しても逆の事言ってしまうんですよ!!
本当は色々とお話したいのに、恥ずかしくて罵倒しか言えません。
だから感情とか表に出せなくて、周りからはクールな所がいいだとか少し見せるデレがギャップ萌えだとか言われて世間から凄い人気を得てしまいました。
いや人気なのは当たり前でありがたいんですが、キャラが完成された所為でこのキャラを突き通す方法しか無かったんです。
でも私も感情を表に出したい!!!
思い切り笑いたいです! 盛大に喜びたいです! 普通の女子高生みたいに楽しくお喋りしたい!!
赤城さんや皆さんに隠れて表情を出す練習を重ねましたが、いざ実戦となると成果は確認出来ず……挙句の果てには提督からはたまに避けられてしまう事があり……まぁ私の自業自得ではあるんですが。
何度かイメージアップを図って試しましたが全てがダメでした……。
もう関係は戻らないんじゃないかと赤城さんに慰められる日々が続く中、ある一筋の光が私を差したのです。
提督が記憶喪失になった件について。
私は考えました。
提督が記憶喪失になった→艦娘全員が初対面→前の過去や印象は全て消えた→つまり初対面から好印象ならば……!
楽しくお話出来る! そう思った訳です。
なので今度こそ私は本来の私をさらけ出し、提督と良い関係を保てる様にする!!
その為にはまず第一印象が大事!
身だしなみ完了!
サイドテール完了!
くせっ毛手直し完了!
──加賀、出撃します。
「あーさっきは危ない目にあったなぁー……やっと二人から離れる事が出来たけど、そのまま寝ちゃったし」
菊月と三日月が手伝ってくれたおかげで何とかなったけど、皐月と文月は菊月達の企みを知らずにただ単に俺とお昼寝したかっただけらしい。
そこにちょうどよく俺が拘束されてる且つ寝てるから襲おうと考えていたとか。
まぁ駆逐艦ながら凄い事考えるなぁ。
「って言うか霧島はトイレに行ったきり戻ってこないな……てかここはどこだ? ん?」
おっ、加賀さんだ。珍しいな一人でいるなんて。
いつもは赤城さんと一緒の事が殆どなんだけど。
ん? 加賀さんがここにいるという事は……ここは空母寮か。
加賀さんか……うーん何故か加賀さんには鬼の如く嫌われてるんだよなぁ……何回も仲の良い関係にしようと話し掛けてるけど酷い事言われてそのまま去って行っちゃうし……。
赤城さんからは極度の照れ屋さんだから落ち込まなくていいって言われたけど……話し掛ける度に死んでくださいとか言われたら俺ショックだよ。
で、でも! と、とりあえず反応を確かめよう。
「あ、あの!」
「っ!?」
(声を掛けてもらった……! 嬉しいわ……第一印象は大切よ加賀、可愛らしい笑顔でちゃんとした言葉使いを……!)
「お、おはようございます提督! もうお身体はまだ死んで大丈夫ないんですか?」
「え??????」
(え??????)
(何やってるの私!! 罵倒と気遣いが混ざって日本語じゃない何かになってるじゃない!!!)
(ここはちゃんと訂正しなければ……!)
「ごごごごごめんなさい提督! 今のはその……一航戦ジョークです」
「そ、そう……面白いですね、一航戦ジョーク……」
いや一航戦ジョークって何!!?
初めて聞いたよそんなジョーク!!
ビスマルクでもそんな事言わねぇぞ!!
(ダメよ加賀、落ち着きを取り戻して! そうよまずは簡単な自己紹介から、自分をアピールするのよ)
「あ、あ! すすすいません! 申し遅れました! 私、航空母艦の加賀です! これからよろしくお願いしますね!!」
(よっしゃあああああああ!!!! 上手く言えたわ!!!)
「う、うん。よろしくお願いします、加賀さん」
あれ? 加賀さんにしてはめちゃくちゃ優しくない?
見た事も無いくらいの凄い笑顔だし、声がめちゃくちゃ元気だし……、
え……? まさか……加賀さん……。
仲良くなったと見せかけて俺を殺すつもりなのか!!!? 【※違います】
(最初は少し手こずったけど、自己紹介は完璧だわ! でも何故かしら……遠く見られているような……)
(まさか……提督……!)
(私の素行が悪過ぎたから、解体宣告しに来たの!!!?)【※違います】
「加賀さんは……その……とても元気なんですね」
わざと仲良くなって注意散漫な所を殺すつもりだ。
記憶喪失だとはいえいつも嫌われてるのにこの状況でこんな笑顔なのは逆に怪しい。
「そうですね! 元はこんな性格なんですよ」
(解体されたくない! もっとアピールしないと!!)
「実は私はとても強いんですよ。色々と……えーっと、こんな事とかあんな事とかー……」
くっ! 確かに加賀はとても力強い!
いざ抵抗しようものなら片腕なんて一捻りだ。
(あーもうこんな時に語彙力下がるんだから!! もっと言うべき事があるでしょう!!)
「あっ、戦闘面ではとてもお役に立てますよ!! 一人で何十人も倒した事があります! あと……躊躇いもなく殺す事が出来ます!!」
一人で何十人も!!!?
しかも躊躇いもなく!!!?
そこまで俺が嫌いだって言うのか!!?
俺何か酷い事したの!?
酷い事したなら謝るからさぁ!!
「そ、そうですか……それは凄い……」
(え!? あれ!? 反応が薄い!? 今のではアピールにならなかったのかしら……もっとアピールしないと!)
「じ……実際にやって見せましょうか? 良ければ……ですが……」
突然の殺害予告宣言んんんんん!!!!!
マジで殺す気じゃねーか!!
ちょっとは考え過ぎかなって希望的観測持ってたけど、もうその希望すら打ち砕かれたよ!!
【じ……実際にやって見せましょうか? 良ければ……ですが……】
とか言われたけど、本当は、
【今ここで殺してあげましょうか? 死に方やタイミングは貴方の自由ですよフッフッフッ……!】
って隠して言ってるに違いない!!
「い、いや……せめて全員の艦娘達と出会った後で……」
「はい! 分かりました! いつでも待ってますね!」
【いつでも殺せるんですからね……フッフッフッ……!】
としか聞こえようが無ぇぇぇ!!!
(やった! 約束出来たわ! 後は私の実力を見せれば結果オーライね! でも……もう少しお話したいのだけれど……)
くそっ……!
加賀さんがそこまで俺に嫌悪感を抱いていたとは……!
俺の所為だ、俺に原因があるんだ、俺自身が何とかする他ない!
とりあえず記憶喪失前のイメージを聞いてみよう。どこがダメだったか聞いて分かるはずだ。
「あ、あのー……加賀さんから見て記憶を失う前の僕ってどんな人、だったんですか?」
(提督から!? 話し掛けてくれたわ……嬉しい! え? 記憶を失う前の提督? うーん……)
「そうですね……」
(作戦指揮が素晴らしい事とか、仲間思いな所とか、一人一人ちゃんと接してくれる所とか、あーもう多過ぎてどれを言えばいいのか分からないわ!)
「おーい……加賀さーん……」
(でも待って、色々と思い付いたけどこれって褒め言葉では? 実質、愛の告白になってしまうのでは? ゆくゆくケッコンしてしまうのでは? そして繋がってしまうのでは?)
「加賀さーん……大丈夫ですかー?」
(いやいや考え過ぎよ加賀。もう少し自分を見直しなさい。確かに私はとても綺麗でモデル顔負けの身体を持っていますが、提督の前では違うわ。提督はどの娘に対しても平等に接し、良い関係を保っているわ。その中でも翔鶴との仲が良くなり、挙句の果てにはケッコンしましたし。正直な所、悔しかった覚えはありますが)
「加賀さん!」
「はっ! すすすすすいません……考え過ぎました……」
えっ、考え過ぎたって何?
そこまで俺悪い所あったの?
「記憶喪失前の提督でしたね……正直な所、色々と恥ずかしくて言えません……」
「え……何故ですか……?」
「その……」
(言うのよ加賀! 提督の事をちゃんと褒めるのよ! 罵倒は絶対に言っちゃダメ! 落ち着いて……言う……!)
「その……言う私が恥ずかしくて……一回死んでください……」
一回死んでください!!!?
とうとう包み隠さず言い出したよこの娘!!
どんだけ嫌われてたの俺!!
凄いショックなんだけど!!
(ああああああああ!!!! 思わず気が抜けて言っちゃたあああああああ!!! 早く訂正しないと!!)
「すすすすすいません提督! 今のは……その……一航戦ジョークです」
また一航戦ジョーク!!?
そのジョーク、ツイッターだったら即凍結だぞ!!
殺意高過ぎだろ!!
「ま、まぁとりあえず……些細な事でもいいんです。知りたいんですよ記憶を失う前の僕の事」
「些細な事、ですか……」
「そうそう、悪い所とかありましたか?」
「そうですね……仲良く接し過ぎな所とか、ですかね……」
うーん何かちょっとリアルな所突いてきた~!
仲良く接し過ぎかぁ……皆とはちゃんと平等に接してきたつもりだったけど、扶桑や山城みたいに足りなかった一方で足り過ぎた艦娘もいたのか……。
難しいなぁ、艦娘とのコミュニケーション。
「あと何回か赤城さんにセクハラを仕掛けた事ですね」
それについては本当に申し訳ございませんでした。
ほんの出来心だったんです。許してください。
「えっ、本当ですか……ごめんなさい……」
「今の提督に問い詰めても仕方ないので今だけは気にしません。だから元気出してください!」
(よし! これだけ言えば好印象なはずよ! よくやったわ私!)
今思えばこれが嫌われてる原因だよな。
そりゃ殺意も抱くわけだ。うん……、
……いや納得してないでさっさと対策考えろよ。
「あ、ありがとうございます加賀さん」
「いえいえ大丈夫です……あらこれは……」
(これは……包丁? 何故こんな所に?)
「加賀さん、どうしまし……た……」
ちょっと待って。
何で廊下に包丁落ちてんだよ。
おかしいだろ、人だかりに落ちた財布じゃねぇんだよ!
人殺せる刃物だよ!!
「いえ包丁が落ちていたもので……誰のものかと」
【こんな所にちょうどよく包丁が落ちてるなんてラッキーだわぁ……フッフッフッ……ペロリ】
殺す気だァァァ!!!!
絶対に殺す気の目だアレ!!
今包丁舐めてたもん!! 蔑む目で見てたもん!!
(全くこんな危ない物を落とすなんて……誰かしら全く……あ)
「提督、お怪我は──」「ギャアアアアアア!!!!」
「ええェ!? 何かいきなり叫んだァァ!!!?」【※加賀さんの台詞】
(どうして!? 声を掛けた途端騒ぎ始めたわ……この包丁がそんなに怖かったのかしら……)
「ギャアアアア!!! ギャア!! ギャアアアアアア!!!! ギャアアアアアアアアア!!!!!」
「どうしたんですか提督!!?」
(赤城さんだわ!!)
「とりあえず落ち着いて提督! どうしたのかしら……提督! 怖い物なんてありませんよ!!」
(サッと包丁を背中に隠したのは秘密)
「提督!!」
「ギャアアアアアア!!!!」
「……あああもううるさいな落ち着け!!!」
「グフェ!!!」
(手刀で黙らせたーーッ!!!)
──五分後。
「あ、あ……貴方は……!」
「赤城です。初めましてですね、起き上がれますか?」
「は、はい……」
とりあえず騒いで何とか殺されずに済んだけど……まさか赤城さんが来てくれるとは思わなかった……。
加賀さん……さすがに包丁持ちながらこっちに振り向くのは怖いよ……。
(提督は大丈夫なのかしら……私が包丁持ってたからかしら……謝りたいわ……)
「全く……いきなり騒ぐから驚いて来ちゃいましたよ。大丈夫ですか?」
「と、とりあえずは……」
「それなら良かったです。あ、加賀さん、提督が何故騒いだか分かったりします?」
(そ、それは……)
「実は……廊下に包丁が落ちていて……念の為に提督の身を案じたら……」
「ふーむなるほど……包丁を持ったまま振り向いてしまったと。こればかりは仕方ありませんね、不慮の事故です」
赤城さんのリーダーシップと言うべきか、人徳が凄いと言うか……何か惚れる人いるだろうなぁって思った。
「でもこの包丁……誰が落としたのか……」
「あ、それ私です」
お前のかよ!!!
(お前のかよ!!!)
「いやー無くしたと思ってたんですよね。拾ってくれてありがとうございます加賀さん♪」
いやいや何で落とした財布感覚で包丁落としてるの?
何で? 何の為に? 用途が分からないんだけど?
(思わず赤城さんにお前とか言っちゃったわ……気が動転し過ぎね。一回落ち着きましょうか)
「え、えーっと赤城さん……何故包丁を……?」
「決まってるじゃないですか~……殺る為ですよ……フッフッフッ」
こいつも殺る気だーーッ!!!
「へ、へぇー……何を殺るのですか?」
「何も怯えなくても深海棲艦ですよ。これをこんな風に持ってヒョイっと」
そんなデカい包丁を投げナイフ的な感覚で投げるなよ!!!
「赤城さん……それって役に立つんですか?」
「いえ全く」
使えねぇのかよ!!!
ただの無駄遣いじゃねーか!!
「赤城さん、包丁を持ち歩くのは流石に危ないかと……」
「加賀さん、やっぱりそう思います? 念の為に持ってたんですけど、百本ぐらい」
包丁どんだけ持ってんだーーッッ!!!
(包丁どれだけ持ってんだーーッッ!!!)
足元が埋まる程持ってるってお前の身体の中は一体どうなってんだよ!! どこぞの四次元ポケットか!!
(流石の私も知らなかったわ……! こんなに包丁を持ち歩いていたなんて!! 歩く殺戮マシーンよこんなの!!)
「いつ戦闘が来るか分からないので常備してました。あ、お二方、一本欲しいですか?」
いらないよ!!
(いらないですよ!!)
「やだなぁ提督ぅ……そんな顔しないで下さいよ~。ジョークですよジョーク、一航戦ジョークです」
また一航戦ジョーク!!?
それでお前ら騙せると思ってない!?
「あ、コレ取っちゃダメですよ」
取らねぇよそんな殺意高いジョーク!!!
「赤城さんって面白い人ですね……」
「えぇ……まぁそうですね」
「いやぁつい四時間前から記憶を失っていて、私にセクハラした事を忘れている様な人に言われたくありませんねー!! あーはっはっはっはっ!!!!」
盛大に笑って煽るの本当に好きだなこの人ォォ……!!!
「これで本当は記憶戻ってましたーとかだったら一発ぶん殴ってましたね!!」
「えっ!?」
ヒエッ……恐ろしや赤城さん……。
「あ、これも一航戦ジョークです」
ふざけんなァ!!!
「そういえば不知火さんがいませんね? 確か提督の案内係を務めていたようでしたが」
「不知火は遠征らしくて代わりに霧島さんが来てくれたんですけど、その霧島さんもどこかに行っちゃって……」
「あららそうですか。では加賀さんがご案内の続きをしますね。私はこれから行かなければいけない事があるので。加賀さん、大丈夫ですか?」
(赤城さん……! まさか私の気持ち……!)
「はい……大丈夫ですよ」
「では私はこれにて」
「赤城さん包丁片付けて!!」
加賀さんの苦悩は続く。