「君、やり過ぎ!」
あの二人を保健室まで連れていって戻ってきた瞬間にオールマイトから言われたのはこの言葉だった。
やり過ぎって……元々、ヴィラン組だったから普通に考えて外道のような行動が好ましいと思っただけなんだが。
「まず、壁を破壊して峰田少年を落としたところだ!いきなり攻撃なのは酷すぎると思うのだがね!」
「いや、これは実際を想定した実践的な訓練だった筈。なら、ヴィランがするような外道な方法で潰した方が楽なのでは?」
「まぁ、それはそうだが……。これを除けば特に言えることはないかな。けど、実際に自分にそれは返ってくるかもしれないから注意しておくように。」
「へいへい。」
オールマイトの話を適当に受け流した後、全体的な講評を聞いて教室に戻る。
返ってくると言われても……俺、基本的に死なないし……死んでも多分だけどアベルの特性で一定時間後復活すると思うけどな……。
「ねぇねぇ!今日の反省会しない!?」
「えっと……確か、芦戸か。俺はパスする。あいつと一緒に帰らないと。」
「あいつ?」
「……詳しく話すと復活した変態ぶどうが暴走するから言わないでおく。聞くんなら百に聞け。俺はあいつの家に居候しているから。」
「なんつー羨ましいことをしてんだよ藤多ああああああああああああごふっ!?」
芦戸と話しているとき、涙を流しながら峰田が俺の胸ぐらを掴んでこようとしてきたからそのまま一本背負いで投げる。
体がちっさいから殺さないように手加減しないといけないのは面倒だ。
「じゃあ、帰る
「お兄ちゃん遅い!」
「「「「「お、お兄ちゃん!?」」」」」
さっさと荷物を入れて帰ろうとした緋鳥が扉を開けて入ってきて、言った言葉にみんな騒然とする。
……お兄ちゃん、とは緋鳥は言っているけど緋鳥と俺は同年代なんだが。まぁ、俺の方が産まれたのは早かったけど。
「葉秋くん、妹がいたのか!?」
「義理のだがな。」
「もっと羨ましいじゃねぇかこのやろおおおおおおおおおおおおおおお!」
芦戸は興奮するし峰田は暴走するし、本当に大騒ぎになりはじめた。
全く……こういう事が起きるのを予測していたからさっさと帰ろうとしたのだが……。
「あ、お兄ちゃん。このニュースを見た?」
「ん?……『タルタロスから、五名の犯罪者が集団脱獄』……?」
「え、タルタロスから!?」
ちょうど包帯を巻いて戻ってきた緑谷が驚いた声をあげる。
知っているのか。この、タルタロスって言う場所を。
「緑谷、なにか知ってるのか?」
「タルタロスは、日本で最も難攻不落の刑務所と言われている場所なんだよ。そこから脱獄するなんて……一体、どんな個性を使ったんだろう……。」
「えっと……『振り子時計のような音がしたと思ったら眠っていた』らしいよ?」
「睡眠、ねぇ……。」
振り子時計に睡眠となると、『安眠時計』ぐらいしか、思い浮かばないけど……。けど、『安眠時計』自体はそこまで強くない筈だ。聞かなければ問題ない訳だし。
「あと、『上告します』と血で書かれていた部屋があって、そこの部屋にいた人たちは……体の一部分が抜き取られていたらしいよ?」
…………まさか、俺や緋鳥と同じような、二つ持ちか?しかも、『上告します』……『生存権』か。
ここで大声で叫びたいのはやまやまだけど……抑えないと。もし、大声で叫んだら根掘り葉掘り聞かれるのがオチだ。それは避けないと。
それと、緑谷はどっかに行ってしまった。どこに行ったんだろうか。
「それと、耳を取られた人もいたらしいよ?」
「アウトおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
耳を取るやつなんてあのキチグマしか思い浮かばないのだが!?あいつが収容違反なんてしたらマジでヤバい!
「ど、どうかしたの?」
「い、いや、何でもない。他には?」
「えっと……突然暴走した犯罪者がプロヒーローを殺したり突然血だけを残して人が消えたりしたらしいよ?」
あれ?何だろう。凄い嫌な予感がする。
「と、取り敢えずさっさと帰ろうか、緋鳥。」
「う、うん。」
話を無理やり中断して俺と緋鳥は教室から出ていった。
確か、あいつに話せば調べてくれそうだし、依頼するか。それと、もしものために元財団中学、知っている限りの在校生、卒業生に連絡しないと。
『もしもの時は、全員で対処する』。それが財団中学の伝統であり、俺たちをしっかりと繋いでいるものだからだ。