「……やあ。」
「……貴方、誰?」
俺は疲れたのか座り込んでいる『認識の鳥』に話しかける。
『認識の鳥』……これは本名が分からないからつけている名前だ。
「藤多 葉秋。……一応ヒーロー志望。」
「ヒー、ロー……?なら、私から、離れて……!私の力は、人を殺してしまう……!」
「いや、俺死なないし。だって、既にお前の個性の射程範囲内に入っているし。」
「えっ……?」
こいつ、まさか個性の特性を理解していなかったのか?
……いや、この状況から見ても暴走していると見ていいから、恐らくは個性を把握できる精神状態ではないと見て構わない、か……。
「あんたの個性は『認識の鳥』。正確に言えばお前の回りを飛んでいる文字の羅列だな。そして、お前の体の方は『翼人、またはつばさびと』。これに関しては特に言うことはないか。」
「………………。」
「『認識の鳥』の発動条件は現時点では『文字を読む』と言う行動をトリガーだ。……個性、戻せるか?」
「む、無理……!やろうとしても、力が溢れてくる……!」
これは、厄介だぞ……。
相手の個性はかなりの特殊型、しかも見た感じ発動型。こんな時にアングラ系のプロヒーロー『イレイザーヘッド』がいれば凄く助かるけど……無い物ねだりはダメだな。
「焦らないで。ゆっくり、深呼吸。慎重に、慎重に……。」
「すぅー……はぁー……。」
『認識の鳥』が冷静になってきたからか、文字の羅列が少なくなってきている。
よし、これで……っ!
「危ない!」
「えっ!?」
全身のバネと反射神経を最大限に使って『認識の鳥』の前に立って攻撃を防ぐ。
くそっ……!今度は一体なんなんだ!?
「まさか、僕の殺気を読まれるとは……君、凄いね。」
「ちっ……。なんつー殺気だよ、おっさん。……そこら辺のヒーローよりも強烈だぞ。」
ビルの上からの攻撃を何とか耐えきって上を見る。
攻撃してきたのは黒いスーツを着た二十代後半から三十代前半くらいの若い男。だが、この世界は見た目で年齢を判断出来ない。となると、実年齢はそれ以上と見て構わないだろう。
「おっさん、何者だよ。気配、重圧感、殺気、攻撃の威力……どれも、規格外だ。普通のヴィランでは、ない。」
「強個性に高度な状況判断能力……彼で脳無を作ってみても面白そうだね。君、その子と一緒に来ないかい?」
「生憎、実験台になる趣味はないからパスだ。」
「なら……死ね。」
指から伸びる黒く赤い線の入った触手を『認識の鳥』を抱いて守る。
ぐっ……!痛い、けど!
「あんたの個性は……効かない。」
「おや……心臓を潰した筈だけど……なるほど、再生能力もかなりのもののようだね。」
「個性を鎮めたか……?」
「うん……。」
「なら……掴まってて。」
「う、うん……。」
俺は『認識の鳥』を抱えたまま全速力で走り始めた。
今の状態でぶつかり合うのは下策。取りあえず『認識の鳥』を保護してもらうしかない!
「逃がすと思って……!」
「逃がさないぞ、オール・フォー・ワン!」
「君は……!」
前方から飛び出してきたオールマイトが黒スーツを止める。
た、助かった……!少しは時間を稼いでくれよ……!