あと、アドオン・アルファとの再会。
ソレがなぜ、王の輪と呼ばれているのかは分からない。
なぜかそう名付けられていたのだ。
亡霊という不可解な存在の襲撃のあとに、泣き面に蜂で、巷を騒がせている盗賊に侵入をされてしまい宝を奪われたトリステイン魔法学院は、すぐに教師達を招集して緊急会議を行った。
そしてこの場には、バッターもいた。
なぜかというと、宝物庫近くで亡霊を浄化したのだが、その際に宝物庫の扉を一部バットで破壊してしまったらしく、そこから錬金の魔法で腐食させられて扉を破壊されたということが分かったからだ。
ならバッターのせいじゃないかと一部の教師が声を上げたが、亡霊に手も足も出なかったお前達が学院を亡霊から救ってくれたバッターを責めるのはお門違いだとオスマンが怒った。
バッターは、そんなことより、気になっていた。
「王の輪とはなんだ?」
「バッター殿…、今はそれどころでは…。」
「大きな円のような形をしているのならば、俺の知っている物かもしれない。教えろ。」
「……そうじゃ。王の輪とは、黒く染まった円のような物体じゃ。どういう物なのか、そもそもなぜそんなものが宝物庫に納められていたのかはわしにも分からぬ。じゃが、主、何か知っておるのか?」
「黒い? ……戦闘不能状態か。」
「知っておるのか。」
「俺の推測が間違っていなければな。それが盗まれたのならば、取り返す。」
「お主が行くと?」
「アレが、もしそうならば…、アレは俺のモノだ…。返して貰う。」
「そうか…。ならば、頼めるかのう。報酬として、ソレをお主に与える。」
「オールド・オスマン! ですが…。このような輩に…。」
「ならば、お前達が行くか?」
「そ、それは…。」
「まったく、王宮に知れたらどんな顔をされるか! この腰抜け共め。」
オスマンの呆れた声に、教師達は俯き、何も言えなくなった。
バッターは、立ち上がり、学院長室から出て行こうとしたので、オスマンが、フーケの居場所を突き止めたらしい秘書のロングビルを連れて行けと言った。
***
ガタゴトと揺れる馬車の中。
バッターは、土くれのフーケが潜伏していると思われる場所に到着するのを待った。
そして、馬車は止まり、ポツンとある、使い古されうち捨てられた小屋が見える箇所に案内された。
「あそこですわ。」
ロングビルがそう言った。
バッターは、その言葉を聞くやいなや、草木をかき分け、周りなど気にせず小屋の中に入っていった。
バッターは、暗闇の中で、四つの目を細めた。
そこに立て掛けられているのは……。
「こんなところにいたのか…、アルファ。」
そこにあったのは、人間一人ほども大きい黒い輪っかがあった。
アドオン。
それは、バッターがかつて浄化した世界において、世界の創造主クラスのトップだけが持っていたモノ。
バッターは、クイーンと呼ばれていた創造主と対であった。つまり、王に相当する存在と言えたかも知れない。
バッターとクイーン。この二人を父と母をモデルに創造した存在がいた。そして、クイーンは、さらにガーディアンと呼ばれる3人のの世界の管理者を創りだし、そして……、バッターは、それを全て破壊した。自身の創造主である幼子すらも。
それが、役目だったから。
それに尽きる。
その時、地響きがきた。
バッターは、アルファを掴み、外へ出ると、そこには、巨大な土のゴーレムがいた。
「再会して早々だが…、起きろ。」
バッターは、自らのアビリティである、本塁保守を使った。
途端、アルファが白い光に包まれ、アルファの円の身体が黒から白へと変化し浮き上がった。
「浄化…、進行。」
バッターは、振り上げられた土のゴーレムの拳をバットで殴り破壊した。
そして、言葉にせず、アルファに指示を出す。
長鎖
大きなな威力を持つ、アルファだけが持つ特殊攻撃だ。
見えぬ力が放たれ、土のゴーレムの上半身が大きく抉れて崩れた。
しかし、土のゴーレムは再生した。
「……目的はなんだ?」
「その王の輪の使い方を教えな。」
バッターは、土のゴーレムを見上げたまま、後ろでナイフを背中に突きつけているロングビル……、否、土くれのフーケに聞いた。
「王の輪か……。その名は違う。コレは、アドオンという。名前は、アルファだ。」
「あどおん? あるふぁ? へえ、そうなのかい。じゃあ、どうやって動かしてるんだい? 見たところ魔力で動かしているようには見えないけど。」
「コイツは、俺のモノだ。」
「へえ? じゃあ、寄越す気はさらさらないってか?」
「お前達には使えない。」
バッターがそういうと、フーケがバッターの背中にナイフを突き刺した。
だがバッターは、まるで痛みを感じていないように振り向き、バットを振った。
フーケは飛び退き、たらりと汗をかいた。
「あんた…痛覚がないのかい?」
「痛いことは痛いが…、それだけだ。」
バッターは、背中のナイフを筋肉に力を入れて押し出し、地面に落とした。
「なるほど、さすが、化け物ね。」
「お前達には、俺はそう見えているらしいな。」
ルイズにだけは、なぜか人間に近い姿で見えている。
それが不思議ではあったが、そんなことはどうでもいい。
今やるべき事を成すだけだ。
「潰されちまいな!」
「……邪魔くさいな。」
「なっ!?」
次の瞬間、足を上げてバッターを踏み潰そうとした土のゴーレムが、バッターが振ったバットの一振りで木っ端微塵になった。
マジック・ホームラン
特大威力のバッターのアビリティである。
ゴーレムを倒したバッターが、フーケの方を見る。
フーケは、思わずビクッとなり、杖を構えたままジリジリと後退した。
「バッターーーー!」
その時、空からルイズの声が聞こえ、バッターの注意がそちらに向いた。
フーケは、今だ!と思い、魔法でスピードを強化して一目散に逃げていった。
バッターは、いなくなったフーケの後ろ姿を見送り、それから風竜に乗ってきたルイズの方を見た。
「あんた、なに勝手してんのよ! ご主人様の許可も無く!」
「いちいち言うことか?」
「当たり前じゃない! あんたは、私の使い魔なのよ! ところで、土くれのフーケは?」
「さっき逃げた。」
「はあ? 逃がしたわけ!?」
「違う。俺がお前の声に注意を引かれて、その隙に逃げられた。」
「私のせいだって言うの!?」
「そうだな。」
バッターの淡々とした言葉に、ルイズは、顔を赤くしてブルブルと怒りに震えた。
きゅいきゅいー!っと、風竜が暴れている。それを水色の髪の少女がなだめている。
「ああ、もう、ほら、ルイズ。バッターも無事だったんだし、帰りましょ。タバサー、バッターを乗せられそう?」
「…何もしないって約束するなら。」
「ところで、その輪っかみたいなの、何?」
「アドオン・アルファだ。俺の力のひとつだ。」
「えっ? 宝じゃないの?」
「なぜか、宝物庫にいた。」
「それをフーケが盗んだわけ?」
「そうだ。」
「あーもう、眠いからさっさと帰りましょうよ。」
「ほら、バッター、行きましょう。あーもう、土くれのフーケを捕まえる絶好の機会だったのに…。」
「お前が来なければ始末できた。」
「私のせいだって言うの!?」
ルイズは、ガーっと怒った。
バッターは、怒られてもまったく表情を動かさず平然としていた。
その後、学院でロングビルが土くれのフーケだったことを報告し、約束通りアドオン・アルファを返して貰ったバッター。
バッターは、ルイズにガミガミ怒られながら、残りのアドオンがどこにいるのだろうかと考えた。
アドオンが目的であり、土くれのフーケには、興味が無かったバッター。
そのため、深追いをしなかった。