この世の全てを美少女に!   作:縛炎

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13 負傷兵ダスト

 

 若くなり活力が溢れると行動的になる。若さゆえの過ちもあるだろう。

 

「さて、美少女は世界の至宝じゃ。妾の真なる可憐な姿を、潤いが不足しておる民草に見せつけ、癒やしを与えてやるかのう?」

 

「はっ。お館様、良きアイデアに御座います。」

 

 奇跡の若返りを果たしたロリババアであるリリィは若さを得て、調子に乗り、イケオジ執事などの取り巻きを引き連れて、街を震撼させるべく出撃した。

 

 

 それとは対照的に、舘に残された負傷兵ダストは、冷たい石の上に横たわっていた。

 

 

 密会の後、暫くの間、ダストは館に逗留する事が決まった。異存はない。寧ろ、館の飯は美味いし、部屋は綺麗だし、ロリババア可愛いし、愛すべき小石ちゃんの事も大事にしてくれるので、このまま末永く依存したいぐらいだ。

 前職の経歴を活かして、この館で、プロニートを極めたいまである。こんな環境なら、心が荒むなんて事は全く無い。くそぅ、ニートにも格差が存在していたとは。

 

 異能暴走の心配が無くなったため、館の中なら自由にして良いとのお許しが出たが、与えられた部屋から出る気になれない。だってさ、

 

「いてて、遅れてきた筋肉痛がたまらなく痛い。異世界の宿屋で寝たら、翌朝には、全回復するのがお約束じゃねーのかよ。」

 

 

 昨日は動き過ぎた。命がけだったので仕方ないとはいえ、その代償は大きい。

 

 満足に動く事もままならない悲しき負傷兵ダストは、冷たい石の上に横たわる。

 

 ぼやかした表現をあえて取り除くなら、膝枕をしてくれた小石ちゃんの健康的な太腿の感触を堪能しながら、横になり、筋肉痛という傷を癒やしていた。

 

「あぁ、癒やされるよぉぉ。そこ、そこを撫で撫でしてくれ。ところで、小石ちゃん、痺れてない?大丈夫?」

 

「無いかな、石族だし。むしろ頼ってくれて嬉しいよ。もしかしたら、1年くらい連続でやれば、痺れるかも。あっ!やってみる?」

 

「嬉しい提案だけど、無いかな?」

 

「そう?ちょっと痺れてみたかった。」

 

 残念そうな顔をする小石ちゃんも可愛い。だけど、1年は無理かなぁ。そう考えると、日本昔ばなしの3年寝太郎は凄い。そんなには寝れねーよ。

 他愛もない事を考えているダストだが、3年寝太郎が聞いたら「10年もプロニートやってねえだよ。」怒りだすかもしれない。

 

「1年は無理だけど、今日1日なら。」

 

 そんな答えに、満足したかのように微笑む灰色の髪の少女を見ながら、幸せを噛み締めた。

 

 ここは、俺専用の居場所だ。

 やむおえず、トイレに行った後は、手を洗い速攻で、誰にも奪われないように定位置に戻る。約束を守る男、ダスト。というか、一時も離れたくない。

 

 夕食の時間、

 これは、さすがに予想外だった。

 行き過ぎているというか。

 

 晩飯が、部屋に運ばれてくると、膝枕したまま、小石ちゃんがフォークで食事を口元に運んでくれたのだ。断わるのも変なので、そのまま、一口目の『あーん』を頂戴し、自堕落極まる流れとなった。

 

 膝元で口を動かす豚に餌付けして楽しむ小石嬢が、楽しそうに微笑む。ぱくぱくと、長い時間をかけて、食事の時間を楽しむ。

 小石ちゃんも楽しんでいた。少しだけ、遠い場所に料理を持っていくと、一生懸命に食らいつくダストの姿が可愛いと。

 

 スローフードとは、これの事かと、お大尽遊びに没頭し、異世界の夜は優雅にふける。

 

 もしかしたら、食事を食べたがらない小石ちゃんと、この豚であるダストという歪な関係の2人にとっては、他人の理解は得られないが、食事の最適解なのかもしれない。

 

 


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